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- 1 - 山陽電鉄 舞子公園駅~山陽姫路駅

1日目

高速神戸>>山陽明石>>明石港>>岩屋港>>淡路IC>>洲本IC>>洲本>>志筑>>竹谷>>伊弉諾神宮前>>高速舞子【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

神姫バスの高速舞子バス停に降り立った女子高校生の四人―有馬桜(ありまさくら)真砂楓花(まさごふうか)葺合(ふきあい)カメリア、御影塚(みかげづか)ひまわりは、肩にかけた荷物を揺らしながら歩き出した。振り返れば、今まさに渡りきったばかりの明石海峡大橋が見える。


早朝、神戸を出発し、明石海峡を船で渡り、淡路島の洲本と伊弉諾(いざなぎ)神宮を訪れた。そして再び、橋を渡って本州に戻ってきたのである。

そして姫路へと向かうのだが、楓花の立てた計画どおり、JRの舞子駅の乗り換えではなく、山陽電鉄の舞子公園駅から乗り込むことにした。


舞子公園駅は、明石海峡大橋の付け根にある駅。徒歩圏内には、橋の科学館や"移情閣"こと孫文記念館があるが、5分ほどの乗り換え待ちの時間では、そこに行って帰るだけで終わってしまう。

そもそも神戸住まいの彼女たちにとって、わざわざこのタイミングで訪れる理由もない。

駅へ向かうまでの、間近に見える明石海峡大橋を見て楽しむだけにした。


「橋を間近から見上げると、また迫力が違うな」

楓花が感心したように呟く。眼鏡をかけた理知的な彼女が、橋の精緻かつ力強い構造に目を奪われるその瞬間は、少しだけ少女らしい好奇心を覗かせていた。


「そろそろ雨が降りそうやね。雨空と暗い海をキャンバスにした白いつり橋……被写体としては悪くないや」

桜が肩から提げたカメラを静かに持ち上げた。彼女の愛機は、35mm単焦点レンズを備えたフルサイズセンサーのコンパクトデジカメ。ズームは効かないが、画角の広がりと描写力に信頼を置く桜にとって、これ以上ない相棒だった。


ファインダー越しに橋を捉えると、曇り空の柔らかい光が放射状のケーブルを濡れた鋼材の質感まで際立たせるようだ。重厚な構造美が、しっとりと情感を帯びて浮かび上がった。


「さて、次は電車の旅。姫路に向かうね」

楓花の声に促され、3人も続いて、山陽電鉄の舞子公園駅の改札を抜け、12時18分発の山陽姫路行き直通特急に乗り込んだ。


昼下がりの車内は穏やかで、海側の座席を無事に確保できる。電車が滑り出すと、左手には穏やかな瀬戸内海が広がった。光の反射を受けた波面が鈍い光を揺らめかせ、いくつかの白い漁船がゆったりと進む。


「わあ、電車のすぐ横がもう海やん! 行きも通ったけど、何度見ても海の景色は最高やな!」

ひまわりが声を弾ませ、窓際で身を乗り出す。茶色のポニーテールが揺れ、黄色みがかった瞳が海面のきらめきを映し出す。


「でも、天気が悪くなってきた……対岸の淡路島も、ほとんど形しか見えない」

カメリアは淡々と窓の外を見つめ、落ち着いた声でつぶやく。学者肌の彼女にとって、景色はただの光景ではなく、地理や歴史の情報の集積でもある。


やがて列車は山陽明石駅に差し掛かる。

「朝はここで降りたな」

ひまわりが車内アナウンスに耳を傾けつつ、つぶやいた。

四人は今朝、船で明石海峡を越え、淡路島に渡ったばかりだったのだ。


明石の街並みは港町らしい落ち着いた表情を見せる。細かい雨粒がガラスに落ち、通りの屋根や舗道に小さな水の輪を描く。行き交う人々は傘を差し、車のライトは濡れた路面に淡い光の帯を落とす。


車窓からでも、JRの線路越しに明石城が見える。

「ここは西国諸藩に対する要塞でもあった。これから向かう方角に睨みを効かせていたんやね」

歴史好きの桜は、目を輝かせ、城の佇まいを追う。今朝に訪れたばかりの明石城ではあるが、何度見てもその佇まいに飽きることはない。


山陽明石駅を出発し、列車は加速を増し、東二見駅、別所駅と停車しながら、西へと走る。左手の住宅地の合間に海が顔をのぞかせ、やがて大きな川を渡る。


「これは加古川」

カメリアは窓に額を寄せ、流れる川面を目で追いながら、静かに言った。

「古くから水運の要で、この川が町の発展に大きく寄与してきたのね」


次に通過する高砂駅付近で、ひまわりは首をかしげる。

「このへん、町がぎゅっとしてる感じやな」


「高砂って、加古川の舟運と瀬戸内航路をつなぐ港町やね。江戸時代には相当栄えとったんよ」

桜が指をさし、少し得意げに言う。

「工楽松右衛門の商家も残っとって、知る人ぞ知る歴史の町やね」


「くらくまつえもん? 聞いたことないけど、お金持ちやったんやな」

ひまわりが感想を漏らす。


「地形と川の流れから町の成り立ちを読み取れるのね」

カメリアは淡々と窓の外を見つめ、静かに付け加えた。


列車はさらに西へ進み、飾磨駅付近で進行方向を北に変える。海沿いから徐々に内陸へと入っていく。


「飾磨駅で網干線が分かれるから、ここから北へ向かうんやな」

楓花が窓を覗き込み、にやりと笑った。


「飾磨港があり、家島への連絡口としても重要な場所やね」

桜が少し楽しげに補足する。

「景色だけでなく、こういう歴史を知ると旅がさらに面白くなるんよ」


「みんな、くわしいな」

ひまわりが目を輝かせる。


「学校で習わんかった? 同じ兵庫県内やで」

桜が軽く笑って返した。


遠くに白い天守の姿が小さく見えた。

「わっ、見えた! あれ姫路城やろ!」

ひまわりが身を乗り出す。


「あんな遠くからでも目立つね」

楓花も感心したように呟く。


「遠景から建物や地形を読み取れるのも、地理好きとしては楽しいわ」

カメリアも静かに微笑む。


市街地の間から、古びたコンクリートの支柱が見える。

「あれ、見える? 楓花さんは知ってるでしょ」

桜が指をさしながら楓花を呼ぶ。


楓花は視線を送って頷いた。

「1974年まで走っていた姫路モノレールの跡ね。姫路駅と手柄山の博覧会会場を結んでいたんだけど、博覧会が終わると閑古鳥。わずか二キロの短い路線で、もっと延伸させる計画もあったようだけど、結局、幻の路線になったんだ」


「へえ、そんな鉄道があったんや……」

ひまわりが目を丸くする。


「廃線跡は、ただの遺物ではなく町の歴史を刻む証やね」

カメリアがしみじみと告げた。


13時01分、直通特急は静かに山陽姫路駅のホームへ滑り込む。海と川、城、そして町の歴史と地理的関係が織りなす濃密な時間を胸に、四人はホームに降り立った。

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