- 13 - 神姫バス 伊弉諾神宮前~高速舞子
1日目
高速神戸>>山陽明石>>明石港>>岩屋港>>淡路IC>>洲本IC>>洲本>>志筑>>竹谷>>【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】
11時28分、四人は伊弉諾神宮前バス停から神姫バスに乗り込む。神戸空港行きのバスだ。定刻よりわずかに二分遅れていたが、気になるほどではない。
車内は静かで、ほとんどの座席が埋まっていた。窓際に座ったひまわりは、明るい茶色のポニーテールを揺らしながら、ゆっくりと息を吐き、外の景色に目を向ける。黄色みがかった黒い瞳に、すぐに輝きが宿った。淡路島の北端へ向かう路線は、しばらく地道を北上していく。
「わあ、ここ、めっちゃ景色いいやん……海も山も両方見えるし、何よりロケーション最高やねん!」
楓花はくすりと笑い、さりげなく突っ込む。
「今回は降りるのは無理だ」
ひまわりは肩をすくめ、健康的な体つきを揺らす。
「まあ、でも見てるだけでも幸せやなあ」
カメリアも静かに窓の外を眺め、つぶやく。
「海岸線すぐ後ろに山が迫っているわ。陸が海に押し出されてきたみたいな景色なの」
間もなく、「次は、幸せのパンケーキ前」とアナウンスが流れる。
ひまわりはさらに目を輝かせ、手を叩いた。
「え、ここもおしゃれなカフェやん! フルーツたっぷりのパンケーキとか、想像しただけでお腹空くやろ!」
「ここも降りられない」
間髪入れず楓花が制する。ひまわりは少し残念そうに目を伏せたが、すぐに笑顔を戻して窓の外に目を向けた。
バスは淡路島の地道を進み、やがて室津の町並みを通過する。古い家並みと港町の景色が一度に視界に入ると、楓花は窓越しに息を吐き、静かに感想を漏らした。
「こうして車窓から眺めると、町も海も山も、一度に目に入って得した気分だね」
桜はにっこりと微笑み、少しからかうように言った。
「へえ、得した気分って……いつも計算ばっかりしてる楓花らしくないやん」
ひまわりは窓際で目を輝かせ、笑顔をこぼす。茶色のポニーテールが揺れ、瞳が景色を捕らえていた。
カメリアはそんな二人のやり取りを横で聞きながら、静かに少し真面目に語る。
「漁港の町って、たいてい海と山の境目にへばりつくようにあるの。こういう入り江や急傾斜の地形だからこそ、魚も人も集まるのかしら」
やがてバスは北淡インターチェンジへ近づき、高速道路へと進入した。ここからは神戸淡路鳴門自動車道。本州に向けて北へ、そして山間へと入っていく。その山間を抜け、島の先端部へ近づくと、段々と地面が下がり、視界が開け、青い海が広がり始めた。
ひまわりは息をのむように感嘆する。
「わあ、海が一気に視界に飛び込んできた……!」
桜が付け加える。
「これから明石海峡大橋やな。橋の迫力はまだだけど、高速から見る景色の変化もまた面白いわ」
明石海峡大橋がかかる明石海峡は、大阪湾と播磨灘の間に位置する。船で西から大和を目指してくると入り口に当たることから、古くは明石大門と呼ばれていた。
カメリアは海と山の切れ目を静かに眺め、ぽつりとつぶやく。
「淡路島の南北の海峡は、どちらも複雑な波があるわ。とはいえ、南側は鳴門の渦潮が圧巻で、まるで天然の壁が敵の進路を遮っているの。だから北側をどう守るかが、大和にとって重要な防衛のポイントだったのかしら」
バスは淡路インターチェンジを越え、いよいよ白く巨大な吊り橋――明石海峡大橋が視界に入る。
桜は小さく息をつき、感嘆した。
「おお……やっぱり迫力あるな」
橋の下を流れる海面が午後の光でキラキラと輝き、ひまわりも小さく声を上げる。
「朝、船で下から見たときとは全然違うやろ!」
吊り橋の主塔と放射状のケーブル、遠くに広がる神戸の街並みや淡路島北端の山々が、一度に目に入る。桜はカメラを取り出し、静かに橋の主塔とケーブルをファインダーに収める。
「こうして見ると、やっぱり構造が美しいなあ」
楓花は窓際に身を寄せる。
「行きは船で橋の下を渡り、帰りはバスで橋の上を渡る。往復で違う海峡の景色を楽しめたね」
桜はそのつぶやきを聞き逃さず、からかうように笑った。
「さすが生ける時刻表やな」
バスは明石海峡大橋を渡りきり、高速舞子バス停に近づく。定刻どおりの12時11分、四人は到着を告げるアナウンスに身を乗り出す。
ひまわりはぱっと表情を明るくし、
「着いたやん!」
桜も軽く笑みを返す。
楓花とカメリアも窓から見える橋の風景を最後に目に焼き付け、短いながらも贅沢な車窓の時間を満喫した。
こうして、淡路島を後にした四人は、次なる目的地、播磨の伊和神社を目指すことになる。




