断罪イベント365 ― 第9回「観衆の大合唱」
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
壇上の王子が胸を張り、声を張り上げた。
「本日この場をもって――彼女を断罪する!」
その瞬間、空気を切り裂くように、会場全体から声が上がった。
「断罪〜〜っ!!」
王子は思わずのけぞる。
「……な、なんだ今のは。と、とにかく――」
「断罪〜〜っ!」
観衆の合唱は止まらない。
誰かが空気読まずにまた叫んだのかと思いきや、
完全に一致団結している。
袖に立つ黒幕令嬢が焦って王子のマントを引っ張った。
「殿下、進行ができませんわ!早く次に!」
王子は仕切り直して叫ぶ。
「罪状は、浮気――」
「断罪〜〜っ!!」
タイミングぴったりの合いの手。
まるで練習済みかのようだ。
「まだ証拠を出してないのに!!」
「断罪〜〜っ!!」
ざわ……と空気が揺れ、次の瞬間、誰かが手拍子を始めた。
「だんざい! だんざい!」
すると会場全体が乗ってくる。
「だんざい! だんざい!」
手拍子に合わせて声を揃え、軽快なビートでコールが鳴り響く。
シャンデリアが揺れるほどの盛り上がり。
「アンコール!」「もう一回!」の声まで飛び交い、
もはやここは断罪イベントではなく、王子主演のライブ会場。
黒幕令嬢は顔を真っ赤にして、涙目で叫んだ。
「みなさんっ! 茶番に参加してないで黙りなさい!」
「断罪〜〜っ!!」
何を言っても、返ってくるのは完璧なレスポンス。
その様子を見ていた元婚約者の令嬢は、涼しい顔で一礼した。
「殿下、どうぞ最後まで歌わせて差し上げて」
王子は頭を抱えた。
「違う! これは真面目な断罪イベントなんだ!」
「断罪〜〜っ!!」
誰かがペンライトを振り始めた。
列席していた貴族の一人が便乗し、
客席のあちこちでカラフルな光が揺れる。
「推しは王子!」「やっぱ生断罪はアツい!」と声援が飛ぶ。
――その声にかき消され、王子の断罪は二度と進行しなかった。
彼の声が届くことは、もう永遠にない。
その日以降、断罪イベントは
“最初で最後のフェス”として市民の間で語り継がれることになる。
王子、主役を観衆に奪われ
進行不可能となる。