02a
「痛っ」
いつもの部室でそんな声を上げたのはアミ。
何かと思って見れば、左手の中指の皮がめくれてる。
さっきからゴッドセイヴザクイーンをやっていたからスライドの時にやったのだろう。
ギターやベースの弦は、例外もあるけれど、金属でざらざらしているので、余り触ってないと結構怪我をする。
まあ、通過儀礼のようなものだ。
「大丈夫?」
つい、聞いてしまったのは共感したからだろうか。
「うん」
恥ずかしそうにアミが頷く。
「これ見たらまたお父様から文句言われるな」
暗い顔をして言うアミ。
だから、つい口を出してしまう。
「そんな時はファックって言う所だろう?」
うちはパンクバンドなのだ。
後のことなど考えない。
楽しければいい。
元の反社会的なそれとは違うけど、そんなもの、ファックオフだ。
アミは少し驚いた顔になってそれから笑った。
「そうだね……そんなのファックオフだ」
私の横に座り込むアミ。
「ギター練習はここまで」
そう言って笑う。
純白のテレキャスターを抱えて。
「偶には、話聞いてもらえる?」
いつもなら、こんな事にならないようにしている筈なのに、何故か私は頷いていた。
「実はさ……」
そう言ってアミは話し出す。
後から聞けば、彼女には親しい友達というものが居なかったそうだ。
皆、他人行儀な人ばかり。
せめてもの反抗が、このバンドだったのだろう……