01b
「そういえばさ、九条さんってあの九条電子の社長がお父さんなんだってさ」
九条というのはアミの本名。
九条彩美と言うらしい。
そんな話をしてるのは中川七海。
寮の同室で幼なじみの腐れ縁。
私が今の人に干渉しないスタンスになる前からの知り合いだから何となく弱味を握られている気分。
フリルの付いた可愛らしいパジャマで、柔らかそうな栗色の髪は左右で結ばれ、さながら兎の耳のよう。
というか、前髪も後ろの髪もそのままでサイドの髪の一部だけ結んで何か意味が有るのだろうか?
「モノホンのお嬢様だね、絵梨ちゃん」
にぱ、と笑う彼女。
頭の動きに連動してぴょこり、と動く髪に悪戯心をくすぐられる。
「ので、引っ張ってみた」
「いたたた、何が“ので”なのか分からないよ」
涙を浮かべながらこっちに倒れ込んでくる七海。
パジャマと私のTシャツを挟んで伝わる体温。
「私が人に干渉しないのも、その理由も知っているだろう?」
そう言うと、七海の顔に真剣味が浮かぶ。
「私、も?」
「いや、私達はそんな間柄じゃないしな、これでも私は七海に感謝しているんだよ?」
色々世話になった。
本当に。
七海は満面の笑みを浮かべながら、私の体に手を回す。
「ふふー、ありがと、絵梨ちゃん」
「何故、七海が礼を言うんだね?」
「さぁね」
七海の笑顔にまぁ、良いかと思う。
その後、私達がベッドの上で何をしたのかは詳しく語らない。
ただ恒例となった行為で、私が心の隙間を埋めようとしていなかったか、と問われれば、そうだとしか言えない。
私も、七海も、何かに恐れていたのだ。
何かに。