01a
「やってられるかってんだ糞ッ!」
その大声に驚き、くわえていた煙草を落としてしまう。
素晴らしく綺麗な言葉遣いで入ってきたのは、ギターのアミ。
私が居たのには気付かなかったようで、少しばつの悪そうな顔をしていた。
ボブカットっぽい黒髪で、顔立ちは整っており、いつもは優等生然としている彼女も何やら色々抱えているらしい。
私が何事も無かったかのように装って煙草を拾って吸い始めると、鼻を鳴らして部屋の隅に座った。
人の事情には突っ込まない。
それが私の処世術。
いつもは不干渉を通すこの部活に珍しく彼女はちらちらと此方を伺っていた。
だからだろう。
気紛れを起こしたのは。
「何?」
尋ねるとアミは明らかに狼狽えた。
私は顔にかかる前髪をかきあげる。
「いや、何も聞かないんだな、って」
アミが意外そうに言う。
「人の事情には突っ込まないのが私の流儀でね」
代わりに自分の事も話さない。
人には探られたく無い事の一つや二つはあるものだろう?
「ふーん」
物珍しげにあるいは感心するようにアミが言う。
彼女は何か思い出したかのように鞄を漁る。
目当てのものが無かったらしく少し唇を尖らした。
「エリ……だっけ?何吸ってんの?」
「マルボロ、赤」
箱を出して見せる。
「私と同じだ」
にっこりと笑うアミ。
とても悪態ついて入ってきたのとは同一人物とは思えない。
「一本分けてよ」
切らしちゃってさ。
そう言う彼女に一本煙草を渡すと、彼女は横に座る。
「ん」
とくわえた煙草を突き出してくるので何かと思ったが、火、と言うことらしい。
ライターで火を点けてやる。
「ありがと」
それっきりはいつもどうり。
ただほんの少しアミが近づいてきただけで、何事もなく終わった。