02e
エリのベースが高らかに歌う。
私はそれにぶつからないようにカッティングでリズムを取る。
なんとなく、お互いに何処でどう動くかは分かっていた。
次のライヴに向けた練習。
私の考えたギターリフを展開させた新曲の練習だ。
私はエリのベースが好きだ。
気まぐれな猫のように、ドラムと戯れてビートを刻んだと思えば、ギターのリフに寄り添い、ボーカルと共にメロディを歌い上げたと思えば、一人で駆け上がる。
テクニカルな事はしないけれど、確かな技術に裏打ちされた、不安定で安定したベースライン。
心地よく歪んだ甘やかなトーン。
聞き入ってしまうとギターのリズムが崩れてしまうような、魔性の音。
バンドでリズムを保つにはドラムを聞くのも良いが、それよりも私は自分の中のメトロノームを信じる事にしている。
しばしば叩きすぎの感のあるドラムだけれど、確実に私たち弦楽隊に合わせて来るのが解っているから。
有る意味、これも信頼だ。
言葉や、理性を超えた、音楽を通じた肉体的な本能。
指が勝手に動くような、真っ黒な。
エリの顔をちらりと見る。
私の、初めての友達、なのだろうか。
初めて、好きだと思えた人。
でも彼女にとっては私は何だろう?
気付けば曲は終わり、皆片付けに入っている。
皆が部屋から出ていく。
私は、エリを引き留めた。
「今の曲、どうだったかな?」
そう尋ねるとエリは少しだけ、驚いた顔をする。
本人は気づいてないようだけど、結構顔で喋るタイプなのだ、最近気付いた。
「良いと思うよ」
荒削りだけれど、私はアミの音のセレクト好きだな。
さらっと好き、という言葉が出てきて私はそれだけで不思議に喜んでしまう。
今までの心配が吹き飛ぶような、そんな言葉だった。