第玖話『沈みかけた祭壇』
ーーその日の夜ーー
夢の中に、あの母子が現れた。
少女は水の中でじっとこちらを見つめていた。
その隣で、母親の霊が静かに言った。
――“まだ、終わっていないの”
――“陽蔵おじいちゃんが……あの場所に、全部かくしたの”
――“沈みかけた祭壇。その奥に、わたしたちの村の“ほんとう”があるの”
ーー“根源はすでにここにはいません、すでに解き放たれました……ですが、あの人は、また呼び出そうとしています……悪意の根源を……”
悪意の根源……それは、一体……!?
夢の中なのに、何か悍ましいものにこちらを覗き見られる感覚……見られている……!!
ーー知らない方がいいです、あれは人が関わってはいけないものーー
◆
――目覚めた時、修は息を荒げていた。
夢なのに、胸が痛むほど“現実味”があった。
そして、異常な寒気も……
そして今
彼らはその夢に導かれるように村の奥――
地図にも載らぬ旧参道の奥へと向かっていた。
「……雨城君。どうしてこの道を?」
結が不安げに尋ねる。
「昨夜、夢を見ました。少女と、その母親が出てきたんです。 “陽蔵おじいちゃんが、全部かくした”って。
“沈みかけた祭壇”って、そして陽蔵が、あの少女を贄として捧げてまで、呼び出そうとした悪意の根源とやらの事も……はっきり言ってました」
「夢で……?」
「ただの夢じゃないと思います。あれは、あの親子が“伝えようとしてきた”もので“それはとても重要な事である”と……俺には、そう感じました」
その真剣な口調に、結は黙ってうなずいた。
◆
やがて彼らは、朽ちた鳥居の前へと辿り着く。
その先には、苔と湿気に包まれた石段が続いていた。
降り立った地下空間は、ぬめるような湿気と濁った水に満たされている。
足首まで浸かる水が、ひやりと冷たい。
「これが……祭壇……?」
中央には、黒ずんだ石の台座。
焼け焦げの跡。縄で縛ったような痕。
そこだけ、空間の空気がよどんでいた。
「……誰かを“捧げた”痕跡だ」
修の声に、愛菜が思わず身をすくめる。
ノクスが低く「にゃ……」と唸った。
その目は、水面の一点をじっと見ていた。
「空気の流れが変だ」
先生が天井を仰ぎながらつぶやく。
「音が……吸い込まれてるみたい」
結が肩をすぼめるように言った。
その瞬間、修がアプリを構えた。
波紋は赤く脈打ち、中心に黒い渦が現れていた。
「……まだ、いる」
バシャリッ!
水面が揺れ、修の目の前に“それ”が現れた。
視えるのは、修だけ。
濡れた髪。
顔のない影。
石の台座の裏から、ゆっくりと這い出してくる。
「動くな……囲まれてる」
「え……何? ボクには……」
愛菜がきょろきょろと視線を泳がせるが、何も見えていない。
ノクスが「シャッ!」と短く鳴いた。
と同時に、来た道で――
ドゴゴッ! ガラガラガラッ!
崩れるような音が響いた。
振り返れば、通ってきた石段が瓦礫で塞がれていた。
「……閉じ込められた?」
先生の声が、わずかに低くなった。
修はゆっくりと石の祭壇の奥に歩を進める。
石壁に刻まれた模様。焼け落ちかけた“印”。
そこに、何かを封じた痕跡。
「少女が……言ってた。“陽蔵おじいちゃんが、ぜんぶかくした”って」
波紋がさらに激しく揺れた。
「もしかして、それって……」
そして水面に、泡が浮かび、やがて――
“顔”が浮かび上がる。
それは、夢で見たのと同じ。
羽生陽蔵の顔。
目だけが笑っていない、唇の端だけが歪んだ、静かな嘲笑。
そして無数の霊達。
「ーーここに、隠していたんだなーー」
次回予告
第拾話『見えすぎた代償』
かつて捧げられた“贄”。
少女が信じていた“おじいちゃん”が隠したものとは。
視える者だけが知る呪いが、今、動き出す。
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