第八話 陛下、本土爆撃を阻止遊ばされる
陸、海ときたら、次は空ですよね。
■昭和二十年(1945年)5月27日
皇居 御文庫附属庫
24時間不眠不休で食事もとらず動ける陛下と違い、一般的な人間は睡眠と休息をとる必要がある。
このため御前会議は一旦解散となり、翌日午後に再度招集されていた。名前も国土防衛会議に改められている。今後はメンバーも陛下をのぞいて交代制となり24時間体制で運営されることになった。
ちなみに陛下も一応は休息を取られることになっている。理由は周囲の者が、特に侍従長や皇后の良宮が陛下の御身を大層心配するからだった。このため緊急時を除けば食事や就寝(良宮が寝付くまで)についてはこれまで通りとしている。
沖縄を解放し、敵艦隊を撃滅した陛下の次の目標は、日本本土に対する敵の爆撃を止める事だった。
「現在、我が国本土へ爆撃を行っているB-29は中国、グアム、サイパン、テニアンから発進しているものと見られます。また、先日陥落した硫黄島を中継地と護衛戦闘機の基地として利用しております」
「このほかに敵機動部隊の艦載機による空襲もありますが、こちらは先の敵艦隊撃滅によりほぼ解決したと考えられます」
陸軍と海軍の佐官らにより陛下に対して状況が説明された。陛下が直答を許されていることで最初の頃は緊張しっぱなしだった彼らだったが、今では随分と慣れ臆することなく普通に話せるようになっていた。
「なるほど。ではそれらの拠点を解放すれば敵の本土爆撃はなくなるという事ですね」
状況を理解した陛下は直ちに硫黄島とグアム・サイパン・テニアンを含むマリアナ諸島の解放作戦を開始した。
これらの島々はアメリカ軍に占領されていようとゲームシステム上では日本の領土のままとなっている。このため沖縄と同様に自由に召喚リングを設置できた。そうなれば後はやる事は沖縄と同じである。陛下の昼夜を問わない攻撃により、わずか二日間で硫黄島とマリアナ諸島のアメリカ軍はあっけあく一掃された。
残念ながら中国の成都については日本の領土ではないため直接の攻略はできなかった。だが実は1月にアメリカ軍は成都から撤収しており今年に入って中国方面からB-29が飛来することはなくなっていたため、当面は放置する方針がとされた。
これらの作戦により、日本はついに爆撃の恐怖から解放されたのであった。
一方でアメリカ軍も手をこまねいていた訳では無かった。突然、異常としか思えない攻撃力をもった日本に対し、なんとか情報を得ようと様々な手段で偵察を試みていた。
海軍は潜水艦による偵察を試みたが全て未帰還となりなんら情報を得ることができなかった。業を煮やしたチェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令は、ウルシーに戻っていたハルゼー大将に命じ残存艦艇を率いて沖縄付近の偵察に向かわせる。
スプルーアンスの遺言もあり、ニミッツも危険を感じたらすぐに引き返すよう指示していたものの、やはり戦艦ミズーリ以下全艦がハルゼー大将ともども行方不明となってしまった。
B-29を擁する第21爆撃集団は虎の子のB-29をその基地ごと失っていた。怒り狂った司令のカーチス・ルメイ少将は、中国の成都に再度進出し、そこから日本本土の爆撃を再開しようと考えていた。
■昭和二十年(1945年)6月3日
皇居 御文庫附属庫
すでにこの部屋は日本本土防衛の管制塔ともいえる存在となっていた。部屋は更に拡張、増設され、複数のスクリーンに様々な情報が表示されている。それにあわせて軍や政府からの参加者も数倍となっていた。
そのようないくつかあるスクリーンの一つ、台湾から朝鮮半島の地図を映したスクリーンに新たに赤い点が表示された。
「陛下、中国方面より敵機と思われるものの反応が現れました」
「敵なんてひさしぶりニャ~」
暇すぎて陛下の足元で昼寝をしていたクロが伸びをすると前脚で顔を洗った。
すでに国内を除いて見える範囲の敵は一掃されていたため、クロの言う通り敵の出現は数日ぶりだった。ちなみに国内の赤い点については、内務省を通じて駆除処理が進められている。
「直接映像で見てみましょう」
ダンジョンマスターはその能力でダンジョン内のあらゆる場所の映像を見ることが出来る。陛下はすぐにその赤い点の実際の映像をスクリーンに映した。
「これは……どうやら偵察型のB-29のようです。おそらく中国成都の基地から飛び立ったものでしょう」
「以前に陸軍で成都の攻略を検討した事がありますが実施されませんでした」
成都は日本の領土に含まれていないため、これまでにような地上からの基地破壊手段を取ることが出来ない。
「ならば空中ユニットで直接攻撃すれば良いニャ」
「クロの言う通りですね。では以前に確認した通り空中たユニットを使った迎撃作戦を実行しましょう」
すでに陛下は関係する将官や佐官らとともに屋外で様々な空中ユニットを召喚して、その能力の検証を済ませていた。そしてそれを生かした敵機の迎撃戦術も立案済みであった。
■済州島 上空
第21爆撃団所属 F-13A偵察機
42-24621「Yokohama-YoYo」
「まもなく済州島上空です」
副機長のアンソニー・F・イオヴィーノ中尉が告げた。
「撮影班は念のため写真を撮っておけ。それと全員ここからは見張りを厳重にしろ。今の日本上空では何がおこっても不思議でない。異常があればすぐに報告するんだ」
機長で偵察隊長のパット・マッカーシー中佐は、搭乗員らに注意するともに自らも目を皿のようにして周囲を警戒する。
テニアンが日本軍の不思議な攻撃で陥落した際、たまたま空中にいたため難を逃れた本機は、一旦オーストラリアに逃れたのちルメイ少将の命令で中国成都基地に再進出していた。
B-29を改造した偵察機であるF-13Aは、爆弾を搭載しない代わりに大量の燃料を搭載することで高速性能を維持しながらB-29を遥かに超える航続距離を実現している。このためB-29では成都基地から九州までが爆撃の限界であったが、F-13Aで有れば関東地方まで偵察を行うことが出来た。
今回の任務でも偵察目標は東京となってはいたが、何でも良いから情報を持ち帰ることが優先とされ、危険は冒さず異常があればすぐに引き返すことになっていた。
「……まぁ、ジャップがこの機体を迎撃できるとは思えんがな」
部下に注意はしたものの、マッカーシー中佐はそれほど危険を感じていなかった。こちらは高度30000フィート(約9000メートル)を偏西風に乗って対地速度600キロ以上で飛行している。これまでF-13Aが日本軍に撃墜された例はない。
いくら地上や海で日本軍が異常な攻撃をしているとは言っても、これまで新たな航空戦力が現れたという報告はない。これまで通り、無事に帰還できるだろう。そう楽観していたマッカーシー中佐の目に、前方になにか光るものが映った。
「前方に光が複数見えます!なっ?突然敵機が現れました!」
イオヴィーノ中尉も同時に発見したらしい。そして光から次々と敵機が現れはじめた。
「よし、反転し帰還する。撮影班、いまのは撮ったか?」
マッカーシー中佐は即座に撤退を決断した。光から敵が現れるというのは地上戦で報告された現象と一致する。どうやら日本軍の新たな戦術は陸海空を問わないらしい。
F-13A偵察機はゆっくりと反転し機首を成都に向けた。反転と偏西風に逆らうことで速度が大幅に落ちる。このため光から現れた敵機は一気に距離を詰めてきていた。
「敵は20機ほどです。機種は……九七式戦闘機?のようですが……」
現れた敵機は最新の疾風や紫電改ではなく、古色蒼然とした固定脚の戦闘機だった。
だが何かがおかしい。そもそもネートがこんな高空でまともに飛べるはずがない。それに極めつけは敵機が羽ばたいているように見えることだった。
「あの妙な敵機も忘れずに撮っておけ。機銃は自由に撃て」
敵機が防御機銃の射程に入ると各部の12.7ミリ機銃が射撃を開始した。偵察型のF-13AはB-29より少ないものの機銃を備えている。早速その火線に絡めとられた敵機が光とともに消滅した。
「やはり他のジャップの戦闘機と同じように脆いですね。しかし火も煙もださず光と共に消えるなんて聞いた事ありません」
「それも地上戦の報告と一致するな」
敵機に追いつかれそうだが、なぜか敵機は発砲してくる様子がない。この調子なら逃げ切れるだろう。そうマッカーシー中佐が安堵した所で機体が揺れた。
「どうした!何があった!」
「敵機がなにか不思議な攻撃をしています!風のようなものを放ってきているようですが……機体に損傷は有りません」
上部機銃座からの報告にマッカーシー中佐は安堵した。実は九七式戦闘機の正体はハーピィで放っていたのは音波の魔法であったのだが、人や動物と違って巨大な金属の機体に対しては効果が薄かった。
魔法が効かないことで業を煮やしたのか、敵機はハヤブサのように翼を胴体に沿って折り畳むと弾丸のように突っ込んできた。
「敵機が体当たりしてきます!」
「クソっ!クレージーどもめ!」
本土爆撃で日本軍機がB-29に対して体当たり攻撃をしてくる事はすでに知られていた。マッカーシー中佐はなんとか回避しようとするが敵機は器用に小回りして食らいついてくる。
ついにぶつかるかと思った瞬間、敵機は両翼を拡げて急減速し右の主翼に着地した。ほぼ同時に左の主翼や胴体にも敵機が着地する。敵機は脚から生えた爪のようなものを機体に食い込ませた。
「クケケェェェーーー」
そしてあろうことかプロペラスピナーをくちばしのように上下にパックリと開くと、奇妙な雄叫びをあげながらF-13Aの機体を齧り始めた。
「ひっ!?モンスター!」
「なんだこいつらは!?グレムリンか!?」
マッカーシー中佐とイオヴィーノ中尉は窓越しに自機の外板や部品が引き剥がされていく様子を目撃してしまった。
部品を毟られたエンジンが火を吹く。主翼は外板どころか補助翼ももぎ取られてしまった。推力と揚力にくわえてコントロールも失った機体は錐揉み状態に陥る。こうなっては脱出もままならない。
それでも彼らは最後まで任務を果たそうと努力した。
「最後まで諦めるな!見える限りの情報を報告しろ!撮影班はフィルムを防水バッグに入れろ!もしかしたら誰かが拾ってくれるかもしれん。機銃班はとにかく一匹でも撃ち殺せ!」
彼らの努力は機体が海面に激突する瞬間まで続けられた。
■皇居 御文庫附属庫
スクリーンには敵偵察機が海面に大きな水柱をたてて墜落する様子が映し出されていた。同時にマップの済州島付近にあった赤い光点も消える。
「敵機の撃墜を確認しました」
「これで本土防空の方も大丈夫なようですね」
陛下の言葉とともに、部屋のあちこちから歓声があがった。
B-29やその偵察型については今のような攻撃で対処すれば良いだろう。九七式戦闘機であれば比較的安価であるため、大量に召喚しても問題ない。艦載機についてはその母艦を叩けばよい。
こうして日本本土の防衛については目途がたち、状況は次のステージに移っていくこととなる。
挿絵のイラストはChatGPTで作成しています。




