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第六話 陛下、沖縄をお救い遊ばされる

いよいよ蹂躙スタート♪

■昭和二十年(1945年)5月25日

 皇居 御文庫附属庫


 陛下はスクリーンに沖縄の地図を映した。その横には実際の映像もウィンドウで表示されている。


「赤が敵、青が皇軍です」


 おおっと会議室がどよめいた。ここまで正確でリアルタイムに戦況を把握でき、それを精緻に映し出す装置など誰も見た事がない。それをいとも簡単に生み出し扱うご様子に、皆は心の中で陛下を敬い怖れ、あらためて忠誠を誓っていた。


「悲しいことに朕の赤子らは沖縄の南端に押し込められ、いまや全滅の危機に瀕しています」


 陛下が悲しげに語る。


 沖縄全土に赤い点が広がり、かつて司令部のあった首里付近も赤い点が溢れていた。青い点は南の糸満や南城付近にしか存在していない。画面の端には両軍の数を示すカウンターも表示されていたが、その数字には10倍ほどの差があった。その青の数も刻々とその数を減らしている。


 現地の日本軍が風前の灯である事は、もう誰の目にも明らかだった。


「こたびの窮状をまねいた責任はすべて臣らにございます。しかし恥ずかしながら我らにはもう沖縄を救う術がございません。どうか陛下の尋常ならざるお力をもって沖縄を、我が国をお救いください」


 鈴木首相が平身低頭して陛下に願った。


「安心なさい。もとよりそのつもりです」


 そう言って陛下はスクリーン前の床に召喚リングを設置した。そして陸軍曹長(ゴブリンナイト)を一体召喚した。このあたりのレベルになると、そこそこちゃんとした外見と知性を備えていることも事前にクロと確認済みである。


「皆に敬礼なさい」


 陛下の命令で、陸軍曹長もどきはピシッと敬礼をした。からだもユラユラと揺れておらず涎も垂らしていない。これならばしっかりした皇軍兵士に見えなくもない。


「このように朕は兵士や兵器を自由に生み出すことができます」


「マスターはダンジョンの中ならどこでも好きな場所にユニットを出せるニャ」


 クロが誇らしげに陛下の能力を自慢した。


 陛下は召喚した陸軍曹長もどきを消去すると、梅津陸軍参謀総長と豊田海軍軍令部総長に目を向けた。


「これから朕は沖縄に兵と兵器を送り込みます。軍は現地が驚き慌てないようにすぐに伝えなさい。そして軍の目で見てどこに兵を送り込めばよいか朕に教えなさい。この部屋はいくらでも拡げることができます。軍が必要とおもう人材をここに呼び寄せなさい」


「「はっ!!」」


「午後には攻撃を開始したいと思います。疾く準備ねがいます」


「「はっ!!ただちに整えいたします」」


 梅津と豊田は弾かれたように部屋を飛び出して行った。


 そして2時間後、部屋は倍以上に拡大されスクリーンも複数設置されていた。集められた陸海軍の実力のある佐官級によりスクリーンの情報をもとに攻撃拠点と方法も検討されている。作戦の検討にあたり陛下は佐官らにも直答を許されていた。


「さて、準備が出来たようですので、反撃を開始しましょう」


 こうして陛下の無慈悲な蹂躙がはじまった。




■昭和二十年(1945年)5月25日

 沖縄 摩文仁(まぶに)

 日本陸軍 第三二軍 司令部壕


「参謀本部からの情報によると、そろそろ攻撃が始まるはずだが……何か変化はあったか?」


「今の所なにも報告は上がってきておりません。一応本部からの指示どおり、こちらからの積極的な攻撃は控える様にしておりますが……」


 司令の牛島満中将の問いに高級参謀の八原博通大佐が力なく首を振る。


「どうせまた特攻だろう。敵戦闘機に阻まれてここまで辿り着けまい。期待するだけ無駄だ」


 参謀長の長勇中将が吐き捨てるように言った。先月、自らが主導した総攻撃が惨憺たる結果に終わって以来、彼は半ば捨て鉢になっていた。


「まあ、とにかく攻撃開始の1200を待とう。小禄の海軍部隊にも同じ指令が来ているそうじゃないか。本土の方で何か敵の裏をかく新しい手を思いついたのかもしれない」


 牛島司令が壁の時計を見る。もうじき参謀本部が伝えてきた反撃開始時刻の12時になろうとしていた。


 それから数秒後、部屋に伝令が飛び込んできた。


「前線および敵陣後方に多数の白い光を確認、そこから友軍が続々と現れて敵を攻撃しています!」


「「「なんだと!!」」」


 続けて通信室からも伝令が飛び込んでくる。


「一二〇〇、発、参謀本部。宛て、第三二軍司令部。本文、第三二軍は現在の攻勢に加わる要なし、別命あるまで現位置を維持せよ。以上、であります」


 その内容に牛島司令以下、司令部の面々顔を見合せた。敵が混乱しているなら、戦果を拡大するなら、こちらからも打って出るのが定石でないかと疑問に思う。それでとにかく直接目で見てみようと部屋を出て観測壕に向かう事にした。




 ■アメリカ陸軍 第24軍団 司令部


 日本軍が首里の司令部から島の南部に撤退して以来、攻撃はスムーズに進んでいた。いまや敵部隊は明らかに寄せ集めだった。装備も訓練も行き届いていない。指揮系統も破綻しており、これまでの様な組織的で粘り強い防御姿勢も見えなくなっていた。


 海軍の方はいまだに連日のカミカゼ攻撃(スーサイドアタック)に苦しんでいるようだが、陸軍の方は既にルーチンワークに近い。ゆっくりじっくり島の南端まで敵を追い詰めていくだけの段階になっている。


 そんな状況のため、この日も第24軍団司令のジョン・リード・ホッジ少将はリラックスした気持ちでランチを取ろうとしていた。


 その静かな時間は慌ただしく飛び込んできた伝令によって破られてしまった。


「前線の全域で敵が攻勢に出ています!前線後方にも敵が現れたとの報告もあります!」


「馬鹿な!」


 ホッジ少将はランチを取りやめ、すぐに状況を把握しようとした。その結果わかった事は、現状は混沌の極みということだった。


 敵が全域で攻勢に出た事は間違いない。だが報告で上がってくる内容がまったく意味不明だった。突然、白いリングが現れ、そこから無数の日本兵が湧き出しているというのだ。


 現れた数万もの日本兵は手にした小銃を撃とうともせず棍棒のように殴り掛かり、爪でひっかき、喉笛に咬みつくという原始人さながらの攻撃をしてくるという。


 なかには10フィート(約3メートル)を超える巨人のような日本兵もいて、それも手にした巨大な小銃で薙ぎ払うように攻撃してくるらしい。


挿絵(By みてみん)


 更にこれまで姿を現さなかった戦車もいるという。だがその報告も変だった。なぜか戦車は砲弾ではなく炎を吹き出して攻撃してくるというのだ。たぶん米軍の火炎放射戦車を真似たのだろう。


 ホッジ少将は、とりあえず戦線の後退を指示すると、直接見てみるしかないと天幕を出ようとした。その時、外が騒がしくなった。


「光?なんだこのリングは!?」


「に、日本兵だ!?」


「て、敵襲!敵襲!なんでこんな所に日本兵が……ぐあっ!」


 周囲に多数の銃声と悲鳴が響き渡る。そして荒々しく天幕がめくられ、一人の日本兵が飛び込んできた。


「グゲ、グゲゲゲッ」


 その姿は異様だった。猫背で、目が濁り、口から涎をたらし、意味不明の言葉を叫んでいる。そしてホッジ少将らに気付くと手にした小銃を振りかざして殴り掛かってきた。


 すかさずホッジ少将は腰の拳銃を抜いて発砲した。司令部要員らも同様に拳銃で反撃する。


 多数の弾丸を受けた日本兵はあっけなく倒れた。そして不思議な事に白い光となって消えていった。あとには死体もなにも残らない。


「なんだ、いまの敵兵は?死体はどこにいった?」


 しかしホッとしたのも束の間、司令部に次々と日本兵がなだれ込んできた。


 それにホッジ少将らは再び拳銃で反撃した。一人一人の日本兵は簡単に倒れるが、敵は無限にいるかのように次々とやってくる。


 拳銃の弾丸も尽いていき、ついに一人の司令部要員が小銃で殴り倒された。


「ギャー!!!」


 倒れた司令部要員にわっと日本兵が群がり喉を食い破られる。


「ひっ!ま、待て!降伏する……ぐわっ!」


 慌てて拳銃を投げ捨て両手を上げ、降伏の意思を示した者も関係なく日本兵の餌食になっていく。そしてついに司令部の生き残りはホッジ少将だけになってしまった。


「クソっ」


 こんなのは名誉ある戦死では絶対にない。あんな惨い死に様はご免被る。ホッジ少将は最後に一発だけ弾丸の残った拳銃をこめかみに当てると、ためらいなく引き金を引いた。




■昭和二十年(1945年)5月25日

 皇居 御文庫附属庫


「敵前線司令部の撃破を確認。敵は混乱したまま後退しています」


「この調子なら夕刻までに首里も奪還できそうですな」


「はっはっはっ!圧倒的じゃないか、我が軍は! 」


 次々と入る吉報に、梅津参謀総長は米粒を飛ばしながら高らかに笑った。


「油断は禁物です。それに我が軍の成果ではありませんよ。すべては陛下のお力によるものです」


 そう窘める豊田軍令部総長もおにぎりを頬張っている。


 攻撃が始まってしばらくすると、室内には安堵の空気が流れていた。昼食代わりに簡単な食事も配られ、皆がおにぎりと沢庵を手にスクリーンを眺めている。




 勝利に湧きたつ臣下の様子を眺める陛下の心も同様に躍っていた。


 しかし逆に陛下の中の冷静な部分が疑問を覚えていた。以前の自分は果たしてここまで苛烈なほどに敵の殲滅を望んだろうか?虐殺にも等しい残虐な行為を笑って眺めるような心を持っていただろか?


 その様子を陛下の肩でじっと見ていたクロの目が赤く光る。


 陛下は僅かな頭痛を覚え目を顰めた。すぐにその頭痛は消え去り、つい先ほどまで感じていた疑問も綺麗さっぱり忘れさっていた。


「陛下、お疲れでしょうか?」


 部屋の中で唯一、陛下の変化に気付いた侍従長が声を掛けた。


「いえ、なんでもありません。どうやらもう沖縄は大丈夫そうですね。これも皆の協力の賜物です」


「滅相もございません!すべては陛下の御業のお陰でございます」


 部屋のいた全員が一斉に陛下に頭を下げた。


「フン、当然にゃ」


 それにクロがまるで我がことのように胸を張った。




 反攻作戦を進めながら、陛下とクロから皆にダンジョンマスターについての説明がなされていた。今ではこの部屋の人間は大まかではあるが新たな世界のルールを理解している。その上で、中国戦線についてはデイリーポイントを活かすためにしばらくは放置することが決定されていた。


「しかし恐れながら、海上には未だに敵の大艦隊が居座っております。こちらをどうにかしないと真に沖縄を奪還した事にはなりません」


 豊田軍令部総長が神妙な顔で意見を具申した。陸の戦いは数の暴力で逆転に成功しているが、海の戦いはこれからである。


 一応は作戦に使用するユニットや戦術について軍令部や連合艦隊司令部と協議し決定されている。だが効果的かどうかはやってみるまで分からない。何しろ前例のない事をやろうとしているのだ。


「それは朕も承知しております。それではそろそろ敵艦隊の撃滅を始めましょう。引き続き海軍の助力を期待します」


 こうして沖縄沖を遊弋するアメリカ海軍第5艦隊を地獄に突き落とす作戦が開始された。

挿絵のイラストはChatGPTで作成しています。


戦闘シーンのイメージはこんな感じです(UEBS2)

https://youtu.be/HcvTYTri1lA?si=jIWf7QJ1QQ_UfVus

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― 新着の感想 ―
クロきさまぁぁぁ、不敬であるぞ!!!!!
2025/07/06 20:29 名無しの臣下
米国兵器のジョーク「必要なのはわかるが、そこまで沢山作る理由がわからない」が通じない、圧倒的な物量作戦。その光景を見てしまったら誰もが例のミーム画像で呟くだろう。 陛下神兵のジョーク「何がしたかったの…
海兵隊将校「お、落ち着けっ! 日本軍はエンペラーの魔法が掛けられたモンスターなんかじゃな……」 海兵隊一般兵「360度どっから見てもモンスターじゃねえか!」 クロも某魔法少女の白いナマモノの親戚だっ…
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