第二話 陛下、サポートキャラに名を下賜遊ばされる
気が付くと陛下は御文庫の寝所にもどっていた。
床についた時と変わらずベッドに寝ている。隣を見ると同衾している皇后の良宮がスヤスヤと静かに寝息を立てていた。
やはり夢だったかとホッとして部屋を見回すと、寝る前には部屋に無かったものが目に入った。
それは台座に据えられた巨大な玉だった。
(これは……ダンジョンコア!)
石造りの古風なデザインの台座に据えられたその玉は、暗い寝所の中でぼんやりと光っていた。脳内の知識によれば、その玉は間違いなくダンジョンコアだった。
陛下は良宮を起こさない様にそっとベッドから降りるとダンジョンコアの前に立った。恐る恐るダンジョンコアに触れてみる。すると間違いなくこのコアのマスターに自分が設定されている事が自然と理解できた。
(やはり夢では無かったという事ですか……)
男の言っていた通り、ダンジョンマスターの知識はしっかりと陛下の中にあった。この能力が本物なら、この能力を使えば、滅びかけたこの国をきっと救えるだろう。
だが脳内に知識はあっても切欠や意識しないと思い出せないようだった。どんな設定や能力があるのか、能力をどう使えば良いかのノウハウもない。つまりマニュアルだけをポンと渡された状態に等しい。
そういえば、あの男が「細かい事はサポートキャラに聞くと良い」と言い残して消えた事を思いだした。
そこで陛下は初めて足元に居る黒猫に気づいた。
陛下はしゃがみ込むと黒猫の赤い目を覗き込んだ。その背後で二股の尻尾がゆらゆらと揺れている。そもそも御文庫に猫はいない。どうみても普通の猫ではないことは明らかだった。
「もしかして君がサポートキャラという者ですか?」
陛下は恐る恐る声をかけた。
「その通りニャ!やっと気づいてもらえたニャ!」
黒猫は嬉しそうに答えた。当然の様に流暢に人語を話している。言葉遣いはちょっと変わっているが、どうやらこの黒猫がやはりサポートキャラらしい。不思議と陛下もそれを疑問に感じなかった。
「これからマスターをしっかりサポートするニャ!よろしくニャ!」
「こちらこそ宜しくお願いします」
陛下は丁寧に言葉を返す。
そこで陛下はここが寝室であることを思い出した。ちらとベッドを見ると幸い良宮は目を覚ましていない。陛下は口に指をあてると黒猫に目配せした。
「妻が寝ております。起こさない様に気を付けてください」
黒猫はハッとしてベッドを見た。
(あっ……気が利かなくてごめんニャ……それじゃ今からテレパシーで会話するニャ)
脳内に黒猫の言葉が聞こえた。なるほどこれがテレパシーなのかと陛下は理解する。
(そうですね。幸い妻はぐっすり寝ている様です)
(良かったニャ……ところで最初にお願いがあるニャ!わたしに名前を付けて欲しいニャ)
(名前ですか?)
(マスターがわたしを呼ぶ時に名前が無いと、きっと困ると思うニャ~)
(なるほど、その通りですね……)
同意はしたが残念ながら陛下はペットの知識が乏しい。そもそも陛下は犬派である。そのため黒猫には申し訳ないが、実に平凡な名前しか思いつけなかった。
(……クロ、でどうでしょうか?)
(クロ!素晴らしい名前ニャ!ありがとニャ!これからクロはマスターを誠心誠意サポートするニャ!)
そう言ってクロは嬉しそうに陛下の肩に飛び乗った。
(それでは早速、現在の知識の確認からはじめるニャ)
そう言ってクロはマスターが基本的に知っておくべき事を一つ一つ確認していった。
全て陛下の脳内にある情報だが、今は単にルールブックが頭の中に入っているだけの状態である。意識すれば思い浮かべる事はできるが陛下の知識血肉とはなっていない。
クロの指導で知識を思い出しながら、陛下は基本的なことを学んでいった。
(……以上がマスターが出来ることの概要ニャ)
それからクロは操作方法やダンジョンの知識についてざっと説明してくれた。記憶を呼び起こすだけの作業なので、クロから触りを聞くだけで陛下はその項目の細部まで理解することができた。
(つまり、これからマスターがダンジョンで何か出したり作ったりする時には全てポイントを使うことになるニャ!今マスターが持っているポイントは10億ポイントだから……え?じ、10億ポイントおおお!?)
フシャーとクロが毛を逆立てて叫び声をあげた。そういえば白い空間で男が初期ポイントをサービスしておくと言っていた事を陛下は思い出した。
(10億ポイント……それは多いのですか?)
(多いなんてレベルじゃないニャーー!ふつう初期ポイントは10000ポイントくらいニャーー!10億なんて100年くらいマスターやってるベテランでも到達できるか分からないレベルニャーー!)
クロによれば、このゲームはマスターキットなので、チートプレイも楽しめる様にポイントやユニットの性能を自由に設定できるという。これだけの初期ポイントが有れば、難攻不落のダンジョンを作ることも世界征服を目指すことも、大体なんでも出来るそうだ。
それを聞いた陛下は、世界征服はともかく、とりあえず我が国を現状から救える可能性が高まった事を知り安堵した。
(それではクロさん、まずは何から手をつければ良いでしょうか?)
ダンジョンマスターの能力も把握し、ダンジョンポイントが当面は十分なことは分かった。だが陛下には何から手を付ければ良いか皆目見当がつかない。
脳内に表示されているマップでは、この寝所だけが赤く表示されている。どうやら現状ではこの部屋一室だけがダンジョンに設定されているらしい。コアのあるこの部屋が現在のマスタールームという事になる。
(まずは急いでダンジョンコアの安全を確保する必要があるニャ。こんな所に剥き出しでコアを放っておいて、万が一コアが破壊されたらマスターも消えてしまうのニャ)
確かにこの部屋には妻や臣下とはいえ誰でも自由に入ることができてしまう。ここに自分を害する人間がいるとは思えないが、ダンジョンコアを剥き出しで放置しておくのは確かに良いとは思えない。
そこで脳内メニューを操作して地下3階層のダンジョンを作成した。そしてダンジョンコアを最下層の部屋に移動する。各階層は一部屋しか無いが扉は隠しドアの設定にしたので、そこにドアがあると知っていなければ簡単には開けられることは無い。
ごくごく小規模なダンジョンで罠もモンスターも配置していないので、使用したポイントはわずかなものだった。部屋の増設で振動や音が発生することもなく、御文庫附属庫の中で変化に気づいたものは誰もいなかった。
挿絵のイラストはChatGPTで作成しています。