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第十六話 第32軍、アラスカ州を解放する

 アダック島を攻略し、アメリカがようやく再建した艦隊を再び殲滅した攻略部隊は、アリューシャン列島伝いにアラスカに迫っていった。


 攻略が済んだ島に兵士は残していない。代わりに召喚ユニットを置いて『制圧』状態とし、さっさと次の島へと移っていく。そして24時間後には陛下が制圧を宣言しダンジョン化=領土化していく。


 こうして2月の末頃にはついにアラスカ州西部のユーコン川河口付近に日本軍が上陸を果たした。この付近にはイヌイットなどの少数民族しか住んでおらず人口希薄地帯であるため事前に領土化がなされている。


 北米大陸の先住民族については、陛下のご意向により敵対さえしなければ殲滅対象とはしないこととされていた。ちなみにアリューシャン列島に住んでいた先住民族は数年前にアメリカが全員を本土に強制移住させていたため殲滅から免れている。


 日本はすでに現地の先住民族に接触を果たし協力を取り付けていた。アラスカ解放後は、資源の採掘権をいくらかもらう代わりにアラスカの地を先住民族に返す約束をしている。もちろん返還は表面上のことで領土化は解除しないが、解放後も日本はアラスカの防衛に協力はするものの、かの地の運営に一切関わらないつもりだった。


 日本はこれと同じ手法でアメリカ本土でも先住民族に土地を返還していく計画である。つまりこれが陛下が詔書で語った『米国解体』の正体であった。


 先住民に土地を返還し運営を任せてしまえば、アラスカやアメリカ本土の地からは遠からず高度文明は姿を消し、有史以前の状態に戻っていくだろう。だが陛下はそんな事など気にもしていなかった。アメリカという国家を地球上から抹消する。それだけが陛下の御意思だった。




■昭和二十三年(1948年)2月

 アラスカ州 ユーコン川 河口付近

 陸軍 北米攻略部隊 司令部


 橋頭保には真新しい司令部が設置されていた。周辺には多数の兵舎や倉庫も整然と並んでいる。湿地帯にもかかわらず、しっかりした道路もつくられ、少し離れたところには滑走路も建設されている。


 これは全て部隊に配されたサブマスターが作ったものだった。上陸後わずか1時間で作ったので建物はいわゆる『豆腐建築』であり、水道も電気もないが、しっかりした建屋があるだけで将兵は極寒の気候を十分に凌ぐことができた。


 橋頭保周辺には移動式の電探や対空砲・対空誘導弾も設置されていた。滑走路には既に航空部隊も進出している。機体は海軍と共通のA-4スカイホークを範にしたジェット戦闘機であるが、防空任務が主となるためAIM-7スパローを参考にした対空誘導弾を装備している。




「南国の沖縄から今度は極寒のアラスカか。まったく軍人稼業も大変だな。しかもわずか5万の兵で米国を征服しろとは参謀本部も無茶を言う」


 司令部建屋の中央におかれた達磨ストーブで暖をとりながら、攻略部隊司令の牛島満大将が愚痴をこぼした。壁が厚目に設計されているため室内は十分に暖かい。


 壁面には皇居の御文庫と同じ様にスクリーンが設置され周囲の状況が表示されている。上陸に際して何度か敵の空襲もあったが、すべて上陸船団の誘導弾や戦闘機、そして召喚ユニットで撃退され損害は出ていない。


「まあ沖縄の時とは違いますからね。たった5万でも今回は勝算どころか随分と楽が出来そうなので自分は悪くないと思いますよ」


 同じく暖ととりながら参謀長の八原博通少将が茶をすする。


 本作戦では沖縄防衛で戦った第32軍が任命されていた。牛島司令をはじめ司令部要員も全員が1階級ずつ昇進もされている。ただし沖縄戦で反攻作戦を主張し防衛計画を破綻させた長勇中将だけは配されていなかった。


「楽をし過ぎで自分が本当に今戦争をしているのか分からなくなるくらいだよ」


 牛島司令は笑って八原参謀長に同意した。


 たしかに沖縄戦と比べるとアラスカ攻略は天国の様な環境だった。地下壕などより遥かに快適な兵舎も一瞬で用意され、橋頭保の防衛も完璧。物資も安全なアリューシャン列島沿いに潤沢に届けられる。


 食料についても地下に牧場かつくられ新鮮な肉や野菜の供給がはじまっている。目の前のストーブの石炭も近場に設置された鉱山からいくらでも取れる。作戦中に限ってだが酒場や娼館の設置も許可され兵の慰安にも配慮されている。


 牛島司令らも試しに酒場を利用してみたが、料理は美味いし酒は飲めるし、給仕の女性は皆白人系だが若くて美人でスタイル抜群で愛想も良くて最高だった。


挿絵(By みてみん)


 娼館の方はまだ使っていないが、そちらも色んなタイプの美人揃いでサービスも素晴らしいという。特に「さきゅばす」を指名すると翌日は立ち上がれない程の天国を味わえるのだとか。


 酒場と娼館の利用料金は自らの俸給から専用通貨のゴールドを事前に購入する必要があり、早くも多くの者が身を持ち崩すという頭の痛い問題も発生していた。


 サブマスターによれば代金はポイントに変換されるらしい。また娼館の方は代金以外に()()()()()もポイントに変換されているとか。


「まあ世間話はともかく、アラスカ北部および西部の制圧は事前に完了しておりますので、兵士の休養も十分でしょうから、計画通り明日から我が軍は南部に向けて進撃を開始可能です」


 八原参謀長がスクリーンに向かって作戦を説明する。


 アラスカ北部や西部は村落が点在しているだけであり、その全てが先住民族の村だった。このため戦闘を行うことなく制圧と領土化が完了している。


「住民は中南部海岸沿いのアンカレッジからジュノーにかけて集中しています。事前情報では人口は10万人ほど居るはずでしたが、今は多くが本土に疎開し残っているは5万人ほどの模様です。市内にも先住民族が暮らしていますので注意が必要となります」


「都市に侵攻した際に先住民族と米国人の区別はつくのか?」


「召喚ユニットは敵意に反応して攻撃しますので、敵意を示さなければ攻撃されないと各部族長を通して周知しております。もちろん完全ではありませんので、ある程度の犠牲は避けられないでしょう」


「敵の配置と増援はどうなっている?」


「敵の兵数は1万ほどで、アンカレッジ周辺にいくつか陣地を作っております。海は完全に固めておりますし、カナダ政府がアラスカ・ハイウェイの通行とカナダ上空の通過を米国に認めていないので、敵は増援も撤退もできない状況となっております」


 すでに日本と停戦しているカナダは、日本の北米侵攻作戦が始まると、領土の通過はもちろんのこと、アラスカ・ハイウェイやカナダ側の五大湖水路をアメリカが使用することをも禁じていた。中立の立場であるためアメリカに利する行動は出来ないというのがその理由だった。


 アメリカは核爆弾の使用までちらつかせて軍事的圧力を加えたが、辣腕で知られるウィリアム・ライアン・『マッケンジー・キング』首相は頑として通行を認めなかった。


 この裏には日本がカナダの安全保障だけでなく、アメリカの禁輸措置に対しても鉱山や牧場を提供することで日本が支援するという密約があった。カナダ政府は知らないが既にカナダのほぼ全土が密かに領土化されていたため、このような措置が可能だった。


「ではさっさとアラスカを制圧してしまおう。これはただの前哨戦、訓練のようなものだ。計画通り二日間でアラスカを落とす。今晩から酒場と娼館の利用を禁止すると兵らに通達しろ」


「兵らに恨まれますよ」


「なに、アラスカを落としたら費用は司令部持ちで三日三晩開放してやるさ。その方が兵らもやる気が出るだろう」


 牛島司令と八原参謀長は笑いあうと、他の参謀らと明日の作戦の詳細を確認していった。




 翌日未明、作戦は事前に定められた計画に則って、召喚陣の設置とユニットの召喚が始められた。


 これまでの戦訓から、召喚陣の破壊を防ぎユニットを集積するため、日本軍は敵から少し離れた直接攻撃を受けない地点に召喚陣を設置するよになっていた。


 そこから今回の作戦に使用するユニットが次々と召喚されていく。今のアラスカは厳冬期のためユニットは雪原に適応したホワイトウルフ(陸軍 小銃兵 二等兵 :冬季仕様)やホワイトベア(陸軍 九五式軽戦車:冬季迷彩)が選択されていた。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 また少数の人語を解する各ユニットの上位個体も召喚されていた。ホワイトウルフリーダー(陸軍 小銃兵 曹長 :冬季仕様)やホワイトホーンベア(陸軍 五式軽戦車:冬季迷彩)などである。


 今回の作戦では召喚ユニットに本物の日本軍部隊が随伴することになっている。これら上位個体を通して下位種族に命令を伝達し統率してもらうことで、ポイントの節約と作戦の効率化が図られていた。




 サブマスターが手慣れた様子で操作し、あっという間に10万を超えるユニットが召喚された。下位ユニットを上位ユニットが掌握し、それとペアを組む本物の士官が細かな命令を伝達していく。


 そして夜明けとともに市街部への攻撃が開始された。


 沖縄戦の時のような物量に任せた平押しでなく、巧みに迂回や陽動そして包囲と、召喚ユニットの大部隊はまるでよく訓練された軍隊のように有機的に連携しながら敵陣を翻弄した。


 白い外套を被り小銃を背負った兵が雪原を疾走し敵兵の喉を食い破る。冬季迷彩が施された軽戦車が太い二本足で立ち上がり鋭い鉤爪のついた腕で敵兵を薙ぎ払う。


 強固なトーチカや戦車が居れば、本物の陸軍戦車が対応して速やかに撃破した。史実のM60戦車を範に開発された新型戦車はいかなる対戦車砲も寄せ付けなかった。重砲陣地には飛行ユニットとジェット機部隊が対応する。


 こうして攻略部隊は召喚ユニットの損害を抑えながら敵の防衛部隊を簡単に撃破していった。




 そしてそのまま部隊は市内に突入した。


 召喚ユニットは敵意があるものを自動的に攻撃する特性が有る。アメリカが隅々まで反日教育を行き渡らせていたこともあり、アメリカ人は老若男女を問わず物心がつく年齢以上であれば強い反日感情を持っていた。特に女性は日本兵に犯されるというデマが広まっていたため敵意が強かった。


 つまり召喚ユニットから見れば、市民はすべて殲滅すべき敵性NPCだった。


 その結果、市内はあっという間に阿鼻叫喚に包まれた。戦う術などない市民は逃げまどうが市は完全に包囲され逃げ場もない。市民らは片っ端から撲殺され食い殺されていく。隠れてやり過ごそうとしてもサブマスターがマップで見つけ出して虱潰しに殲滅していく。


 市内の戦闘は1時間足らずであっけなく終了した。生き残ったのは事前に知らされていた先住民族と、物心のついていない子供だけだった。その子供らは哀れに思った先住民族に引き取られていった。


 このような凄惨な事態になることを牛島司令ら第32軍の将兵は端から承知していた。しかし彼らはなんの痛痒も呵責も感じていなかった。沖縄で日本人がどうされたかを良く知っていたからである。彼らにはアメリカ人にかける情けなど欠片もなかった。


 もしかしたら、彼らは既に人として壊れてしまっていたのかもしれない。またそれが第32軍に米本土攻略の任務が与えられた理由かもしれない。


 そして攻略部隊はそのまま海沿いに南下し、計画どおり翌日にはアラスカ全土の制圧が完了した。

挿絵のイラストはChatGPTで作成しています。

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― 新着の感想 ―
ホワイトベアに食われるってのは怖いなぁ。 まぁ、アメリカは滅ぼさなきゃダメだけど。
人を呪わば穴二つか。
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