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第十四話 陛下、アメリカの核攻撃に大層ご立腹し遊ばれる

■昭和二十二年(1947年)12月8日 早朝

 太平洋海上 東京東方1000キロ地点

 アメリカ海軍 第3艦隊 旗艦

 空母ミッドウェー


 2年前に第3艦隊/第5艦隊が壊滅した後、アメリカはその膨大な国力でもってこれに匹敵する新たな渡洋艦隊の再建を果たしていた。


 艦とともに艦隊上層部もまとめて失われ、太平洋艦隊司令部もニミッツをはじめほとんどのスタッフが更迭されてしまったため、艦隊の再建は本来であれば大西洋を担当する第4艦隊を元にして行われた。


 その艦隊は新型空母ミッドウェー、10隻のエセックス級空母、2隻のアイオワ級戦艦を基幹とし、これに大西洋や本土に残っていた戦艦も加えたことで、再建された第3艦隊は過去最大の規模となっている。


 この大艦隊でもって、アメリカは日本に鉄槌を下すべく『ネプチューン・スピア作戦』を発動していた。




「敵偵察機の撃墜を確認しました」


「早期警戒機と上空直掩を絶やすな。敵の偵察機は見つけ次第撃墜しろ」


 作戦開始地点に到達し敵の触接も増えたことで、この最強最大の艦隊を率いるチャールズ・M・クック・Jr中将が矢継ぎ早に指示をだす。


 元はキングの下で作戦参謀を務め、その後は主に大西洋でノルマンディー上陸作戦支援などで活躍していた彼だが、高級将官の人材が不足気味のなか、太平洋艦隊に関わりがなかったことから白羽の矢が刺さり、現場に復帰する羽目となっていた。


 敵の偵察機は四発の大型飛行艇だが新型機らしく恐ろしく足が速い。もしこちらの艦載機が以前のようなF6FやF4Uだったならば、おそらく撃墜は困難だっただろう。


挿絵(By みてみん)


 だがこの2年間でアメリカ艦隊も一新されていた。


 まず搭載機のほとんどがジェット化されていた。特に今回の任務では艦隊攻撃を想定していないため搭載機のほとんどがF9FやF2Hといった最新のジェット戦闘機で占められている。


 各個艦のレーダーや対空火器も最新であり、さらにレシプロではあるが早期警戒機AD-3Wも常時飛ばしているため、経空攻撃に対しては鉄壁と言える防御となっていた。


「敵が通常戦力であれば問題ない。こちらは絶対にDラインを越えないように注意しろ」


 アメリカ海軍は多数の潜水艦や偵察機の犠牲的活躍により、日本がリングを出せる範囲をほぼ正確に把握していた。それは日本の領土や勢力圏の島から200海里(370キロ)までの範囲であった。


 彼らがDラインと呼ぶラインその外側ならば、日本軍は通常戦力しか出してこない。それが相手ならばアメリカ海軍も十分以上に対応可能だった。




 すでに艦隊は昨晩から日本の警戒網に引っ掛かっていた。おかげで次々と敵の偵察機が飛来してくる。敵の艦隊は遅くとも昼までには姿を現すだろうと思われた。通常戦力の敵に後れを取るとは思えないが、本作戦はやり直しができない。さっさと終わらせるに越したことはない。


「発射準備の状況は?」


「予定通り進捗しています。問題ありません」


 艦隊のエセックス級空母のうち3隻は改造されて、それぞれ10発のマタドールミサイルを搭載していた。飛行甲板上にはミサイル発射のためのカタパルトが据え付けられている。


 マタドールミサイル自体も今回は撃ちっ放しとなるため無線誘導ではなく慣性誘導方式となっている。命中精度は悪くなるが核爆弾の危害半径が大きく数も多いため問題は無いと考えられた。


 今頃はレギュラスミサイルを搭載した30隻の潜水艦もDライン周辺に散開して発射準備を進めているはずである。アメリカは生産が間に合った60発のマーク3核弾頭を同時に東京へ撃ち込むつもりだった。


 60発もの21キロトン核爆弾に狙われれば、いかにエンペラーが地下深くに潜ろうとも蒸発させることが出来るはず。不思議な能力をもつエンペラーさえいなくなれば日本を降すことなど容易い。アメリカはそのように考えていた。


「発射時刻まであと30秒、29、28……1……発射、ナウ!」


 それと同時に改装されたエセックス級の甲板から次々とマタドールミサイルが一定の安全距離を保ちつつ発射されていった。


 ミサイルの両脇に設置されたRATOから炎と白煙が伸びミサイル本体を加速させる。発射から2.5秒後にRATOが切り離された時には時速は400キロに達し、本体のジェットエンジンがさらに加速を続けさせた。最終的にミサイルの速度は時速965キロに達し、東京を目指して一直線に進んでいった。


「全弾発射完了。すべて問題なく目標に向かっています」


「よし、艦隊反転。本土に帰還する」


 ジェット戦闘機と大差ない速度のミサイルであるから、もしかしたら何発かは撃墜されるかもしれない。だが自国のジェット戦闘機でも撃墜は困難であるしリングから現れるモンスターどもは速度が遅いことが分かっている。


 きっと何発かは必ず東京にたどり着けるだろう。そしてエンペラーを吹き飛ばせばこの戦争は文字通りチェックメイトだ。


 帰途についたクック中将は作戦の成功を確信していた。




■昭和二十二年(1947年)12月8日 午前7時

 皇居 御文庫附属庫 作戦指令室


 久方ぶりの敵の大規模な攻撃に、室内は騒然となっていた。


「横浜空より、敵艦隊より発艦した敵機30、東京に向かう。敵は高速のため追随できずとのこと!」


「くそっ米国め!特使を送り込んできながら騙し討ちのような真似を!」


「第一機動艦隊より入電、予定海域に敵艦隊を発見できず」


「大湊警備府より入電、哨戒特務艇が気仙沼東方300海里付近で、東北から南西に高速で向かう航空機を目撃したとのこと!」


「陸軍飛行第1戦隊、第244戦隊、迎撃にあがります」


「海軍横須賀航空隊、迎撃にあがります」


「高射第一師団、迎撃準備よろし」


「敵機、勢力圏に入りました!画面に出ます!」


 スクリーンに関東地方の地図が表示された。多数の赤い点が東京めがけて進んでいるのがわかる。ここで初めて陛下を含めた日本側は敵の攻撃の全貌を把握していた。


「敵機の総数は60です。このまとまっている30機はおそらく敵の機動部隊から発艦したものと思われます。それ以外のバラバラに接近している30機は単独行動の艦か潜水艦から発射されたのでしょう」


 陸軍の当直参謀が説明する。この指令室が出来てから2年経ち運用面や人材面でも色々と整えられていた。


「迎撃は可能ですか?」


「勢力圏内なので召喚が可能です。ご安心下さい。問題ございません」


 陛下のご質問に参謀は胸を張って答えた。これほど大規模な攻撃は初めてだが、これまでも何度も敵機の侵入を防いできている。60機程度の迎撃も問題ないはずだった。


「敵機進路前方に召喚陣を設置、迎撃機の召喚を開始します」


 サブマスターの権限で敵機進路の前方に召喚陣が設置された。つづけてそこから多数の飛行ユニットが召喚され敵機の迎撃に向かっていく。


 これで問題ない、誰もがそう思ったがそう簡単には終わらなかった。


「敵機はロケット推進のため速度が速すぎます!召喚ユニットが追いつけません!」


「更に前方に召喚陣を置け!待ち伏せで一撃で決めろ!」


 だが迎撃は成功しない。ここで中身がモンスターに過ぎない飛行ユニットの遅さが露呈していた。これまで時速600キロくらいの敵機にはなんとか対応できていたが、今回の敵機は時速1000キロほどの速度がある。このため前方に布陣させても全く対応できなかった。


「まもなく海軍横須賀航空隊が戦闘に入ります!」


「陸軍第244戦隊、接敵します!」


 こうなると頼みの綱となるのは陸海軍の迎撃機しかなかった。どちらも最新のジェット機を装備しており敵機より優速である。レーダーによる誘導もあるため十分に迎撃可能と思われた。事実、横須賀航空隊が最初の撃墜に成功する。


 だがそこで事態は一変した。


「撃墜した敵機が爆発しました!爆発に巻き込まれた中隊が全滅しました!」


「なんだと!」


「敵は強力な特殊爆弾を抱えていると思われます!」




■昭和二十二年(1947年)12月7日 午後6時40分

 (日本時間 12月8日 午前7時40分)

 アメリカ ホワイトハウス オーバルルーム


「たった今、核爆発と思われる放射線および電磁波を検知しました」


 入室してきた海軍士官が大統領に報告した。大統領はバーンズ国務長官とともにこの部屋でネプチューン・スピア作戦の成功報告を待っていた。


「予定時刻より少々早いようだが?」


 弾着予定時刻は午後7時50分のはずである。これはパールハーバーが卑怯な奇襲を受けたのと同じ日時であり、もちろん日本に対する意趣返しと復讐に燃える国民へのアピールを兼ねていた。


「はい大統領。検知した波の強さとピークから爆発したのは一発だけと見られます。おそらく東京の手前で撃墜されたものが爆発したと思われます」


 海軍士官が答えた。今回の作戦においてマーク3核弾頭にはこれといった安全装置が付けれていない。このため墜落した衝撃でも起爆するようになっていた。


「では残り59発は無事にエンペラーの元へ向かっているのだな?」


「はい、ミサイルからの電波は継続して受信しています。目標に向けて飛行を続けております」


「ならばよい。成功を祈っている」


「はい、神のご加護は我らに有ります。10分後にはエンペラーごと東京を地上から消し去ってお見せします」


 海軍士官が退出すると、悪魔的な笑みとともにバーンズ国務長官がトルーマン大統領の前に黒電話を置いた。


「それでは、そろそろ現地からその様子を直接報告してもらいましょう」




■昭和二十二年(1947年)12月8日 午前7時40分

 皇居 御文庫附属庫 作戦指令室


 その後、陸軍航空隊も1機の撃墜に成功していたが、海軍と同様に爆発に巻き込まれ大きな損害を受けていた。そして残り58発の核弾頭が東京に向けて突き進んでいた。


「おそらく目標はここ東京です。およそ10分後に敵機は到達します」


「攻撃目標は東京というより陛下御自身と思われます。ダンジョンマスターの御力を持つ陛下さえ亡き者にすれば、戦争に勝てると米国は考えているのでしょう」


「それは正しい判断でしょう。敵とはいえ感心しますね」


 騒然とする指令室の中で、陛下ただお一人だけが冷静に事態を見つめていた。非常に危険な状況にもかかわらず自分が酷く冷静であることに内心で驚いていたが、これは陛下の元々の御性格だけでなく、ダンジョンマスターになった事で感情が抑制され処理能力が大幅に強化された結果だった。


「陛下!どうか安全な場所にご避難ください!」


 侍従長や大臣らが口々に陛下に避難を勧めた。だが陛下は動かれない。ダンジョンマスターの能力を使えば地下深くの場所に部屋を作って転移すれば済むが、それでは自分だけは助かっても東京が壊滅してしまう。


 ならばどうすれば良いか。陛下は黙したまま脳内で素早く計算を進めていた。




■昭和二十二年(1947年)12月8日 午前7時45分

 東京 帝国ホテル スイートルーム


 2年前に受けた空襲の被害も既に修復され、帝国ホテルは往時の姿を取り戻していた。


 その一室に、かつてルーズベルト政権で副大統領を務めたヘンリー・A・ウォレスが停戦交渉の特使として極秘に来日し宿泊していた。


 ソ連容認派であり対日戦の即時停戦も主張する彼は、現在は同じ民主党ながらトルーマンとは袂を分かち、来年の大統領選に立候補して選挙準備を進めていた。


 そこへ突然、日本へ特使として行って欲しいと頼まれたのだ。停戦派である事に加え、現政権よりは戦争を始めた前政権の人間の方が良いだろう、特使の人選理由についてバーンズ国務長官はそのように説明していた。


 ウォレスは部屋でちょうど朝食をとろうとしていた所だったが、それは突然鳴り響いた空襲警報で中断されてしまった。


 仕方なく窓の外を眺めているとドアがノックされた。


「お客様、ジュネーブから国際電話が入っております。お繋ぎいたしますか?」


「ジュネーブからだと?相手は?」


「ジェームズ・バーンズ氏と名乗られております」


「バーンズだと?わかった。繋いでくれ」


 かつて日本は戦前の段階で国際電信33回線、国際電話13回線、電送写真4回線という世界有数の通信回線を持つ国家だった。だが戦争でそれらはほとんどが切断され、現在残っているのはジュネーブやストックホルムといった中立国とのわずかな回線に過ぎない。米国との直通回線は無いはずだった。


 しばらくして部屋の黒電話が鳴りウォレスは受話器をとった。


「ウォレスだ。バーンズか?」


「やあウォレス君、東京観光はどうかね?」


 受話器の向こうから、やけに陽気なバーンズの声が聞こえた。


「御託はいい。一体なんの用だ?なぜジュネーブからお前が電話をしてきている?」


「なに簡単なことさ。ジュネーブで中継してもらってワシントンと結んでいるんだ」


 ウォレスは大事な選挙期間中に自分を敵国に送り込んだ張本人に不満を隠そうともしない。一方のバーンズもウォレスの機嫌など気にもしていない様子だった。


「ところで東京の様子はどうだい?」


「空襲サイレンが煩くて朝食もとれやしない。だいだい君らは私が停戦交渉で東京にいると分かっていながら攻撃してきたのか。これでは交渉どころかアポイントすら怪しくなったぞ!」


「ほうほう、今、東京では空襲警報が鳴っていると。きっと君の極秘任務を知らずに海軍が勝手に攻撃したんだと思うよ。いやー連絡が行き届かず申し訳ないね」


 空襲警報が鳴っていると聞いてバーンズの声に喜色が混じった。


「ところで君の部屋から外は見えるかい?ちょっと窓際に移動してもらえないかい?エンペラーの城を見て欲しいんだ」


「エンペラーの城をだと?ああこの部屋の窓からよく見えているよ」


「ではウォレス君、そのまましばらく外を見ていてもらえないかい?」


「一体何を……」


 次の瞬間、ウォレスの視界は漆黒の闇で塗りつぶされた。




■昭和二十二年(1947年)12月7日 午後6時50分

 (日本時間 12月8日 午前7時50分)

 米国 ホワイトハウス オーバルルーム


 キーンという甲高い音と共にウォレスとの通話が途切れた。バーンズは受話器を電話機にもどすと大統領に笑顔を向けた。


「通話が突然途切れました。残念ながらウォレス氏は不幸な事故にでも巻き込まれた様です。どうやら彼とは連絡の行き違いが有ったようですね」


 トルーマンは黙って黒電話を見つめている。


「いやーいくら選挙の点数稼ぎといっても、敵国へ勝手に停戦交渉にいかれるのは困りものですな。こちらの極秘作戦も知らずに行けば攻撃に巻き込まれるのも仕方ありません」


「……本当に悪趣味だな、君は」


 ウォレスが日本へ停戦交渉を名目に行っていた事は極秘とされていたため、ごく限られた人間しか知らなかった。ウォレス自身も親族や親しい人間には欧州へ行くとしか告げていない。このため彼は欧州で行方不明になったものとして処理されることとなる。


「とにかく、東京で通信が突然切れる事態が発生した事は間違いありません」


 しばらくして先ほどの海軍士官が再び入室し、少なくとも50発以上の核爆発を検知したことを報告した。


「大統領、おめでとうございます!作戦の成功は間違いないでしょう。早速、声明と記者会見の準備をしましょう。これで戦争も来年の選挙も盤石ですな」


 バーンズはスキップするほど楽し気な様子で退室していった。トルーマンはそれを黙って見送ると、東京で何も知らずに死んだであろう政敵に祈りをささげた。




■昭和二十二年(1947年)12月8日 午前7時48分

 皇居 御文庫附属庫 作戦指令室

 核ミサイル着弾 二分前


「……という案ですが、クロさん、上手くいくと思いますか?」


「上手くいくと思うニャ!ポイントを一杯つかうけど足りるはずニャ!」


「では早速始めましょう。皆さん、朕はこれから日本を救うためにダンジョンを操作します。一時的に真っ暗になると思いますが、問題ないのでので安心してください」


 陛下はまず本州全土を空や地下を含めて壁で覆った。本州全土が灰色の壁に覆われ、中は闇に閉ざされた。


 東京を防衛するだけならそこだけを壁で覆う手もあるが、境目にもし人がいれば間違って殺してしまう可能性もあるため陛下は本州全土を覆うことにした。国民を思う陛下のやさしさの結果だった。


 ついで陛下は本州の地下深くに同じ大きさの部屋を用意した。部屋と言っても富士山も含めるため高さもあり、その容積は尋常でないものとなる。物理強度的にありえない空間であるがダンジョン機能により問題なく維持されていた。


 あれほど大量にあったポイントが物凄い勢いで減っていく。


「ああ……ポイントがどんどん減っていくニャ……攻撃を防ぐだけなら壁を立てるだけで良かったのに~」


「クロさん、ポイントを溜めるだけじゃ意味がありません。今が使いどころですよ。それに東京湾に壁はつくれませんからね」


 ちなみにダンジョンの壁自体は破壊可能オブジェクトのため核攻撃には耐えられない。それでもぶつかった敵機を爆発させることは出来るので、東京のずっと手前に壁を設置できれば今回の様な攻撃は防御できたと思われた。その方が使用ポイントも遥かに安上がりであったが、残念ながら海上に壁は作れない。


「ではいきますよ」


 ここまで準備して、陛下は地上と地下の部屋を入れ替えた。


 見た目は分からないが地上には壁で覆われた中身が空っぽの巨大な部屋が出現し、地下に本州すべてを収めた部屋が転移する。


 そして地上の部屋の壁に敵機が次々と衝突し巨大な火球を発生させた。


 その様子は指令室のスクリーンに克明に映し出されていた。敵機を示す赤い点がすべて消え、敵の攻撃が全て終わったことが分かる。部屋の中には安堵と驚きの声がわいた。


「た、助かったのか……」


「なんという威力だ……」


「もし命中していたら東京どころか関東が消えていたかもしれん……」


 そんな様子の指令室に冷静な陛下の声が響いた。


「それでは本州を元に戻します」


 陛下は地上と地下の部屋を入れ替えた。本州を囲う壁も取り除かれ空には光が戻ってきた。


 今回のダンジョン操作において、陛下は可能な限り犠牲を少なくする気配りをしていたが、やはり空中にいた戦闘機部隊や海上に居た船舶の一部がダンジョン操作に巻き込まれて消息を絶っている。突然の暗闇により日本各所で事故も発生していた。


 それも陛下の御心を痛めていたが、それよりも核爆弾で国民が大量虐殺されかけたという事実に陛下は激しい怒りを覚えていた。


「米国は許されない事をしました。二度とこのような暴挙を起こさせないため、朕は米国なる国家を地上から抹消することを宣言します」


 丁寧な言葉ではあったが、その声は酷く冷たかった。怒りとともにわずかに威圧スキルも放たれ、指令室に居たものたちは陛下の怒りの激しさに震え上がった。


 その様子をクロだけが赤い目を細めて楽し気に眺めていた。




■昭和二十二年(1947年)12月9日 正午

 米国解体ノ詔書(玉音放送)


『朕深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑み、非常の措置をもって時局を収拾せんと欲しここに忠良なる汝臣民に告ぐ。


 朕は帝国政府をして、米国に対しその国家を解体する旨通告せしめたり。


 そもそも帝国臣民の康寧をはかり万邦共栄の楽しみを共にするは、皇祖皇宗の遺範にして 朕の拳々措かざる所。さきに米英二国に宣戦せる所以もまた、実に帝国の自存と東亜の安定とを庶幾するに出でて他国の主権を排し領土を侵すが如きはもとより朕が志にあらず。


 然るに交戦既に六歳を閲し、朕が陸海将兵の勇戦、朕が百僚有司の励精、朕が一億衆庶の奉公、各々最善を尽くせるにより、戦局も好転し世界の大勢も康寧を希求するも、米国一国のみ未だ朕の声に応じずなお交戦継続の意思堅固なり。


 しかのみならず米国は本日新たに残虐なる爆弾を使用するにいたり、遂に我が民族の滅亡を招来するのみならず、ひいて人類の文明をも破却すべし。かくの如くは朕何をもってか億兆の赤子を保し、皇祖皇宗の神霊に謝せんや。是れ朕が帝国政府をして米国解体に命じせしむるに至れる所以なり。


 思うに今後米国国民の受くべき苦難はもとより尋常にあらず。汝臣民の米国民への哀悼も朕よく是れを知る。然れども朕は時運の赴く所、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、もって万世の為に太平を開かんと欲す。


 朕はここに忠良なる汝臣民の赤誠に信倚し、常に汝臣民と共に在り。宜しく挙国一家 子孫相伝え、かたく神州の不滅を信じ、道義を篤くし、志操を堅くし、誓って国体の精華を発揚し世界の安寧を希求されんことを期すべし。


 汝臣民それ克く朕が意を体せよ』




 日本がアメリカから50発以上の核攻撃を受けた翌日、陛下の強いご希望により、ご自身の映像と肉声による『米国解体ノ詔書』がダンジョンマスターの能力で日本勢力圏の主要都市に立体映像で伝えられた。


 陛下のご尊影を始めて目にする者も多い上に、突然現れた巨大な立体映像と怒りに満ちた声に国民は皆一様に地にひれ伏し、改めて陛下に対する畏怖の念を強くした。


 また同時に肉声がラジオでも放送され、その後、翻訳版もあらゆる周波数で世界に対して発信された。


 この放送に先立ち、アメリカは東京に対する核攻撃の成功とエンペラーの殺害を国内外に誇らしげに発表していた。


 だがそれも陛下の玉音放送により誤報と判明してしまい、アメリカは世界中に赤っ恥を晒すことになる。バーンズ国務長官は慌てて東京のウォレスに連絡をとったが、彼の無事を確認できたどころか逆に自分を抹殺しようとした事を激しく非難されただけだった。


 さらに日本がアメリカの解体を宣言したことにより、アメリカ国内には再びパニックが発生していた。

挿絵のイラストはChatGPTで作成しています。


RSBCは未だに大好きです。次巻の発売を心待ちにしています。もう何年も……

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― 新着の感想 ―
RSBCはもう何年も前に作者お亡くなりになってしまいました。好きな作品の続きが読めないのは寂しいですよね。
玉音放送のアレンジにグッときました! 脳内で陛下の声が再生されましたw ただ、陛下の怒りの声は妄想できませんでした…。
陛下の大御稜威のもとでの世界平和も近づいて何よりです それにしても遥かなる⭐︎続編が遅い……
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