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陛下は無慈悲なダンジョンマスター  作者: もろこし


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13/20

第十三話 大統領、日本への核攻撃を決断する

 日本が核実験に成功したというニュースはアメリカ中を震撼させた。


 タス通信をはじめロイター通信やAFPなどの国際通信社が一斉にニュースを伝えたため、戦時情報局(O.W.I.)が情報封鎖をする間もなく市井に知れ渡ってしまった。


 都市を一発で消し飛ばすような爆弾を日本がアメリカに落とすかもしれない。そんな恐怖心から特に西海岸を中心にパニックも発生していた。


 国民を落ち着かせるため、アメリカ政府は仕方なく既に自国も核爆弾を保有していることを公表した。


 さらに日本に先立つこと二年前に実験も成功し量産もしており、今では多数保有していることも公表してパニックを鎮静化する羽目になっていた。


 このような状況から、日本への対応を検討する緊急会議がホワイトハウスで開催された。




■昭和二十二年(1947年)8月9日

 アメリカ ホワイトハウス

 オーバルルーム


「それで、日本が核爆弾の実験に成功したというのは本当なのかね?」


 質問を発したトルーマン大統領は不機嫌さを隠しもしていない。


「はい、大統領。ソ連からの資料を精査しましたが矛盾点は見つかりませんでした。実験時刻に核実験に特有の特徴的な地震波と放射線も検出しております。大規模な核分裂反応が発生したことは間違いないと思われます」


 急遽呼び出されたロバート・オッペンハイマー博士が答える。


「どのくらいの威力かは分かるかね?」


「地上起爆ですので、地震波から推定しておそらくTNT10キロトンから30キロトン程度、つまり我が国のマーク3(ファットマン)相当の威力を持つものと思われます」


「Oh my God……」


「だから、こうなる前にさっさと使うべきだと言ったんだ!」


「やはり停戦を受け入れるべきだ。イギリスも抜けた今、我々だけが戦争を続ける意味などない!」


 オッペンハイマーの言葉で会議室は騒然となった。


「静かにしろ!我が国の方針はすでに決定している」


 トルーマンは騒ぐ出席者らを一喝した。


 沖縄以降の敗北で当初は国内に厭戦気分が広がることを懸念していた。だが現実は逆の結果となっている。


 あまりに人的損害が大きいためだった。それに加えまだアメリカ本土に直接の攻撃がないため多くの国民は停戦より日本に対する徹底的な報復を望んでいた。この点については民主党・共和党ともに方針が一致しておりアメリカは1947年の時点でも日本の停戦提案を受け入れず戦争を継続していた。




「……それで、我が国の核爆弾の生産状況はどうなっている?」


 その質問には、オッペンハイマーに代わってアメリカ原子力委員会(A.E.C.)会長のデビッド・リリエンソールが答えた。


「現在もハンフォードおよびオークリッジで増産を続けています。本日時点でマーク3は弾頭部を含めて50発が完成しており年末までに60発が完成予定です。生産能力も現時点で年産30発、年内には年産50発まで能力を増強する予定です」


 沖縄での敗退以後、アメリカは核兵器の研究と生産に莫大な予算を投入していた。特に生産設備が集中するハンフォードは拡張が重ねられ、今では10基を超える原子炉をはじめ、ウラン濃縮施設、プルトニウム精製施設が立ち並ぶ核爆弾の一大生産拠点となっている。




「……まあよいだろう。軍の準備はどうなっている?」


「それは作戦を主導する海軍から報告させてもらおう。おい中佐、説明しろ」


 海軍作戦本部長キングの指示で作戦本部の中佐が説明に立った。ちなみにキングは沖縄での敗北により元帥昇進を見送られ階級は大将のままだった。後任と目されていたニミッツを責任をとらせる形で更迭したため、未だにキングが作戦本部長の座に居座っている。


「まずは日本の迎撃範囲についてです。こちらは完全に把握しております」


 スクリーンに太平洋のマップが投影される。


「日本は、本土列島や勢力圏の島嶼から200海里に近づくと例のリングを出現させて積極的な攻撃をしかけてきます。それより遠い場所では通常兵器による哨戒活動があるのみで、リングの出現は観測されておりません」


 マップに日本の迎撃エリアと哨戒エリアが重ねられた。島が存在しない日本列島の東側は迎撃エリアが大きく日本側に向けて凹んでいることが見て取れた。


「つまり、このマリアナ北部のエリアから東京を直接狙えば、発射プラットフォームの安全を確保でき攻撃に成功する可能性が高いと考えます」


 日本が公表している情報、ラジオ放送の傍受、暗号通信の解読から、日本の変化はすべてエンペラーたった一人が神から授けられた能力によるものと分かっていた。


 非科学的で、キリスト教圏の白人にとっては冒涜的ですらあることだが、実際に連合国が壊滅的な打撃を受けたことは事実として受け入れるしかない。


 逆に言えば、エンペラー一人を排除しさえすれば日本を下せるという事になる。このためアメリカは何度も斬首作戦を実施してきたが、200海里圏内への潜入作戦はすべて失敗していた。


 そこでアメリカは圏外から確実にエンペラーを仕留めるため核爆弾による飽和攻撃を企図していた。




「核爆弾の投入手段は陸海軍それぞれで開発したものを使用します」


 スクリーンに2種類の兵器が表示された。それはどちらも航空機のような形状をしていた。


「海軍はレギュラスミサイルを使用します。潜水艦から発射するタイプで射程は1000キロありますので日本の迎撃圏外から十分攻撃可能です。いかなる航空機よりも高速のため敵のモンスターによる迎撃も確実に突破可能とみております」


 レギュラスミサイルはドイツのV1飛行爆弾を祖にもつ巡行ミサイルだった。最初から弾頭にマーク3核爆弾を装備できよう設計されており、音速を超える速度を発揮できるためリングから現れる怪鳥のような日本の戦闘機など置き去りにできると見られていた。


「作戦にあたっては、このミサイルを装備した潜水艦を東京から1000キロの地点まで進出させ、そこからミサイルを発射する計画です」


 海軍はこのミサイルを運用するため専用のテンチ級潜水艦を新たに開発し配備を進めていた。この潜水艦は元となったパラオ級より航続力と静粛性が大幅に強化されており、このような任務に最適であった。


「次いで陸軍はマタドールミサイルを使用します。こちらは本来は地上から発射するものですが、作戦では改装した航空母艦から発射する予定です」


 マタドールミサイルもレギュラスミサイルと同様にV1から発展した巡行ミサイルであった。レギュラスより速度は若干遅く音速突破はできないが、代わりに射程が若干長くなっている。




「潜水艦や艦隊の安全は大丈夫なのか?」


「はい、まず艦隊についてはマタドールミサイル搭載艦を除いても空母10隻以上を投入可能です。艦載機もすべて最新型となっておりますので、敵が通常戦力でくる限り問題はありません」


 中佐は胸を張った。実は日本軍の通常兵器も急速に進化してきており、昨年からはジェット戦闘機も姿を現していた。アメリカ海軍も同様にジェット艦載機を配備しはじめており能力は拮抗している。


 しかもレーダーや対空火器も進化しているため、艦隊の防衛について海軍はかなりの自信をもっていた。


「潜水艦についても最新型は静粛性が向上しているため、敵に発見される可能性は非常に小さくなっております」


 レギュラスミサイルを運用するテンチ級は、従来のガトー級やパラオ級と外見こそ似ているものの中身は一新されていた。特に機関の見直しにより静粛性が大幅に向上しており、今回の作戦においてもより安全に日本に近づけるものと期待されていた。




「潜水艦と艦隊は、ミサイル発射後すぐに反転、本土に帰投させます」


「ならば戦果の確認はどうするつもりだ?今は偵察機も日本領土に近づけないだろう?」


「はい、高度6万フィート(約18000メートル)でもリングが現れるため航空偵察は一度も成功しておりません。したがって核実験の検知と同じく地震波と放射線により起爆の確認を行う予定です」


「大統領、その点については国務省で別の手段も検討しております。ご安心を」


 オッペンハイマーの答えに被せる様にバーンズ国務長官が明るく答えた。まるで夕食のメニューを伝えるかのように軽く答える彼の様子に、どうせまた、ろくでもない手を考えているのだろうとトルーマンは内心でため息ついた。




「ところで、日本はどのくらいの核爆弾を保有している考えられるかね?」


「まだ最初の実験を行ったばかりですので、年内に日本が保有できる核爆弾はせいぜい数発程度と考えられます」


 オッペンハイマーが答える。つまりそれは、仮に米国の攻撃が成功したとしても日本から報復攻撃を受ける可能性は十二分にあることを意味していた。


「なるほど。ならば我が国の被害はせいぜい数都市が壊滅する程度で済みますな」


 バーンズ国務長官が良かった良かったと笑顔で言った。


「おい!その報復攻撃で何万人が犠牲になるか分かっているのか!」


 これには流石にトルーマンも怒りをあらわにする。


「はい大統領、大変よく承知しております。しかし最悪を想定しそれに備えるのが為政者の務めでしょう。それに我々の攻撃が遅れればそれだけ敵に核爆弾を製造する猶予を与え、我が国の被害が増大することを意味します。どうかその点をお忘れなきよう」


「……作戦は必ず年内に実施しろ。それまでに可能な限り核爆弾を製造し作戦の成功確率をあげろ。それと日本の報復攻撃に備えて西海岸の防衛と疎開計画も進めるように。以上だ」




 この後、詳細な調整と検討が行われた結果、核爆弾の製造、空母の改装や訓練期間を考慮して作戦決行は12月8日に決定した。もちろんこの日付は真珠湾攻撃に対する意趣返し(報復)の意味も多分に含まれていた。


 そして本作戦の秘匿名は『ネプチューン・スピア(海神の槍)作戦 : Operation 'Neptune Spear』とされた。海神の振う三叉槍は大地を引き裂き万物を木端微塵に打ち砕くという。それの如く本作戦で諸悪の根源であるエンペラーを日本の中心ごと消し飛ばすことを期待していた。

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― 新着の感想 ―
ついに、ついに核が使われてしまうのですね。 もし使われたら米国本土が陛下に蹂躙されてしまう!! 本土作戦待ったなしですね。 引き続き楽しみにしております。
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