家づくり⑥
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夜が明けて、次の日。
ゼオン達は三人揃って、コジロウ宅の近くに敷いた魔法陣へと転移してきた。
「一週間振りだね。あの子は元気かな」
「きっともう名前も決まってるんじゃない?」
――だがすぐに異変に気付く。一番に気付いたのはアリスだった。
「ゼオン様」
「うん?どうしたのアリス……、……!?」
「あっ、扉が開きっぱなしだよ!?戦闘の跡まで……!」
広い範囲に掛けて未だ残る戦塵は、この場にて起こったであろう戦闘からそれ程、時間が経過していない事を意味していた。
「っ……!!探知、最大展開!」
瞬時に、ゼオンが探知魔法を全力で張る。それと同時にアリスも。
しかし――
「コジロウの魔力を感じない……!くそっ、既に範囲外にまで行ってしまったのか!?」
「私も同様です。……これでは追跡さえ……!」
「何か手がかりは!?」
「……申し訳ございません。しかし相手は恐らく……」
「…………裏ギルド」
「はい。……私のほうからギルドに情報提供を頼んでみます。それで何か分かれば……良いのですが」
「うん、頼むよアリス。……コジロウ、リコ……どうか無事でいて」
「血の……跡」
ゼオンとアリスから少し離れた場所で、地面に染み込む血を見ていたササラ。
通常なら、それが誰の血かなど分かる訳も無いが……何故か、ササラにはハッキリと感じられた。
「――っ、あの子の……!」
「……ササラ?」
「ゼオン君……!あの子のっ、痛みが……熱が!!」
明らかに尋常ではない様子のササラ。
「分かるの!……どうして!?痛みと悲しみがウチに流れ込んでくるの!やだ……やだよ……!」
「……!?落ち着きなさい、ササラ。何があったの?」
「分かんない……!でも、此処に残るあの子の魔力が訴えかけてくるんです!この場で起きた事を、その悲しさを!」
「どうしてこんな事が出来るの!?ひどい、ひどいよ……っ」
真紅の髪が逆立っていく。比例して、その紅の魔力も増大していった。
「許せない……許さないっ!!」
何かを決意したササラから、放射状に魔力が広がっていく。
それが通常の感知魔法でないことは一目瞭然だ。
世界中でササラだけが持つ、彼女の【固有魔法】。その本格的な……強い悲しみからの、目覚めだった。
――――【????】――――
獣人大陸の何処かにいくつも存在する、裏ギルドの拠点。
その中の一つ、その地下。
薄暗い一室……拷問の為に造られた部屋にて、残虐な行為が今まさに行われていた。
「回復魔法」
尊大な、しかし酷く冷淡な態度で、恐らく部下であろう人物に指示を出す男。
度重なる拷問で息も絶え絶えのコジロウに、回復魔法を掛けるのはこれで五度目であった。
「う……っ……ぁ……」
「再度、塞。加えて刺」
コジロウの顔には様々な拷問の跡が残っている。顔だけでなく、身体中に。
口の周りの跡にぴったりと一致するように、猿轡を巻かれ……その身体には、細い針の様なモノが何十本も突き立てられる。
「っ!!……!」
「止め。次、虫。加えて水」
…………
――コジロウがその様な拷問を受け続けている時、リコは別室に監禁されていた。
「アンタ達、コジロウをどうしたの!?リカは……!」
「おーおー。本当に喋ってやがる」
「報告の通りでやすね」
「あたしの家族に何したの!!答えなさいよ!!」
リコは声の限りに叫ぶが、牢の前に立つ男達は意にも介さない。
まるで動物か何かを見るような目で、リコを一瞥するのみだ。
「あの……なんだった?例の実を食ったって訳だ」
「そうでやす。これで買い戻しの額も爆上がりでやすね」
「だはは!ラッキーなこったな」
「……あたしはっ!そんな事の為にあの実をコジロウから貰った訳じゃない!」
「元の飼い主にゃ連絡済みか?」
「そろそろ到着する頃と思いやすよ」
「――――っ!!」
「おん?……なんだ、いちおう躾は出来てんのな」
「結構な事でやすね。こっちとしても楽が出来るでやす」
「だはは。これ以上騒がれたらうっかり殺しちまうかも知れねぇからな」
「駄目でやすよ。【商品】なんでやすから」
「おう、そうだ。もう1匹はどうなんだ?」
「買い手を探してる最中でやす。ま、あれだけの珍品なら直ぐでやすよ」
「だっはっは!良いねぇ!こりゃあ臨時ボーナスにも期待しちまうな!」
「そうでやすねぇ」
「……コジロウ……リカ……!」
家族の身を案じるリコの身体は、ガタガタと大きく震えていた。
――――獣人大陸・中央部――――
「ササラ!ちょっと待って!」
髪がその怒りに同調した様に逆立つまま、ササラは地を走る。
平時の彼女からはとても考えられぬ程の速度で、木を躱し、草を跳び越え……躱せぬ邪魔なモノを魔法で燃やしながら。
「一体、何が起きてるんだろう……?」
「分かりません。分かりませんが、でも……」
ゼオンとアリスは、そんなササラを追って空中を飛ぶ。
「でも?」
「最近……とても似たような事がありました」
アリスの脳裏に浮かぶのは【日没戦争】末期、王城付近での事。
あの時、怒りのままに魔力を放出したゼオンはアリスの知らない速度で、城に向かって飛んだ。
「最近?……いつ、どこでだろう。もしかしたら、僕の知らない話かな」
「そう、かも……知れません」
アリスは、その時の事を深く思い出さないように……あまり考えないようにしていた。
それを考え出すと、何故かどうしようもない不安に駆られていたのだ。
「……?……まぁ、今はどうでも良いか。それよりもササラが心配だ」
「えぇ。魔力を放出し過ぎています。あれではいずれ……」
「うん。倒れてしまうだろう」
膨大な魔力量を誇る二人から見ても、ササラの魔力量は相当なもの。
しかしそれでも、今彼女が放出し続けている魔力の量は無謀に見えた。
「【熱感知魔法】……僕は彼女の固有魔法を、そう捉えていたんだ」
「はい。私もです」
「だけど……どうやら違うみたいだね。それだけでは今の状況をとても説明出来ない」
「ギルドの者に聞いた事があります。ササラの兄『カイル・アースランド』が持つ固有魔法は【炎喰らい】であると。ギルドの情報に依れば、その能力は名前の通り……炎を食べて我が物に出来る力だと」
「……なんだって?それは――」
「はい。いくらなんでも特異が過ぎます。ですから……」
「同じ血を持つササラも……?」
「……全く同じ能力、という訳ではないでしょうが」
ササラの冒険者ランクはCランク。中堅と呼ばれる者達が多いランク帯だ。
Cランク冒険者は受注出来るクエストの種類こそ多いが、大抵は安全なクエストをこなす。
しかし、当然……向上心や野心を持つ者達も存在する。その多くはパーティを組み、何人かで高難度の上級モンスター討伐クエスト等に挑む。そこでは当然、死者も出る。
ササラが独りで行動していたのは別の理由からであるが、単独で動く彼女は危険の伴う討伐クエスト等には積極的に参加しなかった。
その為に、仲間を失う機会や激しい悲しみと怒りを覚える事はこれまで無かった。
それは決して悪い事では無い。……どころか、寧ろ幸運な事ではあるものの。
「つまり……さっき、ササラが何を視たのかは分からないけれど、それは単に切っ掛けなだけだ。……そういうこと?」
「……はい。感情の振れ幅により、その魔力量を増減させる者は少なくありませんから。……ただ……」
「うん。ササラのあれは明らかに常軌を逸している。……感情で出せる『力』の範囲を大きく超えている」
「リコ達も心配なのは勿論です。勿論ですが、今はそれよりもササラを止めたほうが良いかも知れません」
「僕も同じ気持ちさ。……なんとか追いつければね」
障害物など何も無い空中を真っ直ぐ追いかける二人よりも、ササラの森を突き進む速度のほうが上回っている。
どちらにしても魔法を使用している為に単純な比較は難しいが、歳を考えれば有り得ない。
見た目は幼く見えるが、ゼオンは十八。アリスは見た目相応の十九歳である。
対してササラは十二歳。
身体もまだ出来上がっておらず、今この瞬間も未だ成長の途中だ。
齢十二にしてこれ程の出力を持つ者は、世界に目を向けてもそうは居ない。
――それだけで驚嘆に値する事だが、ゼオン達が何よりも驚いているのは持続時間のほうだった。
「もう、大陸の半ば程には来たよね?」
「その筈です」
「倒れる気配は……」
「全く見えません。可視化される程に濃密な魔力は、更にその濃さを増しているように思えます……」
「結論を言えば、今のササラの力は瞬間的なモノじゃない……そういう事だよね。あれは――」
「はい。あれが、ササラの元々持つ実力なのは紛れも無い事実です」
「……僕は彼女の実力を包括的に見て、冒険者ランクに例えればAくらいかと考えていたけれど」
「Sランクに及ぶかまではなんとも言えませんが、出力のみを考えればA以上は固いでしょう」
「だよね。加えて、あの感知能力だ」
「…………ゼオン様は、このような物言いをお嫌いになるかも知れませんが……」
「うん?」
「私達があの国で得られたものは、想像以上だったようです」
「……うん」
――――獣人大陸・中央部【裏ギルド支部】――――
見渡す限りの密林の中。
獣人大陸・中央部にそれは在る。
世界に暗躍する裏ギルド、その支部。
一説には世界中に拠点を持ち、実際に獣人大陸内にもいくつかの拠点を構える彼等の、この大陸における最大の拠点である。
一見するだけでは、その場所に何かが在るとはとても気付かないだろう。
それもその筈。この拠点は……地下に存在するのだ。
――――――――
「くあ〜〜……っ!……っとぉ。……あー、暇だ」
地下に続く階段の前で、下っ端らしき男は欠伸をする。
専ら見張り役の彼は、毎日をこのように暇そうに過ごしていた。
「おい、酒はもう無いのか」
「飲みてぇならテメェで買ってこい。俺の分まで飲みやがって……」
相棒の男と共に、任務中でも酒を飲むのは彼等にとっての日常。
こんな密林の中に在る犯罪集団のアジトに乗り込んでくる者など、そうそう居る筈も無いのである。
必然的に、今日も二人は暇を持て余していた。
「あーあ、ちくしょう!!なんかおもしれぇ事でも起きろっつーの!」
「うるせーよ馬鹿。……お。そういやよ、今日ゲンスの兄貴達が連れてきた女がいたよな」
「くぁ〜〜……。……あぁ、元奴隷かなんかの女だろ?猫獣人と一緒に捕まったっつう。奴隷にしちゃあ妙に身綺麗だったな」
「そうそう。……その女よ、こっそりと遊べるんじゃねーか?誰かに頼んで見張り替わって貰えりゃよ」
「止めとけ。ありゃ例の金持ち……ゴランだったか?の持ちモンだろ。獣人のよ」
「だ〜い丈夫。聞いたんだよ」
「何をよ」
「確かにあの野郎はこの後来るらしいけどよ、あの女……元々はあんなに身綺麗じゃなかったらしいぜ?」
「……ほう。……ンなら」
「そういうことよ!少しばっか汚れてもバレりゃしねーって」
「牢の前に兄貴達が居なきゃいけるか?」
「そこは行ってみてのお楽しみよ!2つの意味でよ、ギャハハッ」
「つまんねーこと言うなよ……。けどまぁ確かに楽しめるか」
「おう!そうと決まりゃあ行動だ!まずは替わってくれる奴を……」
「――待った。今、何か聞こえなかったか?」
「あん?別に……?」
「……いや!確かに聞こえる!……つーか見ろ、あっち!アレだ!」
男が指差した先。
そこに見えるのは果てしない密林……だがその先、木々の間をこちらへ突き進んで来る紅い塊が見える。
塊は轟音を上げて、高速にその距離を縮めている。
「……なんだ、ありゃあ!?こっちに来てねぇか!?」
「ンなバカな!!こんな白昼堂々、俺達を襲うつもりか!?そんな訳が……」
だが。
紅い塊……ササラは、真っ直ぐに裏ギルドのアジトへ突っ込んでいく。
「いや、間違いねぇ!!急いで連絡を――」
男達は、まだ少しそれと距離が有ると思っていた。――いや、実際にかなりの距離が有った。
だが、想像もつかない速度でそれは一気に距離を詰めていった。
男達ごと、辺り一帯を吹き飛ばす勢いで。
「――は!?おい待て待て!テメェ!ここが何処だか理解って……ぐオぁ!!?」
「ッ、ぐあァァァ!!!!……熱ぃ!!ちくしょう、身体が焼ける……!!」
まるで兄カイルの如く、周囲を火の海にし……その中心に立つササラ。
全身から魔力を立ち昇らせ、怒りのままに敵を蹂躙する。
「此処にあの子が……!コジロウさん達が!」
右の掌に魔力を集中し、魔力弾として階段の下に有る入り口の扉に撃ち込んだ。
厚みのある鉄製の扉はいとも簡単に溶けて無くなる。
「許さないんだから……絶対に……!!」
開けた道から、ササラは更に突き進む。
――――――――
「アレだ!アリス、急ごう」
「お待ち下さいゼオン様……!私が先を!」
ササラに遅れる事五分、ゼオン達も裏ギルドのアジトへと到着する。
燃える木々の中心に空いた空間に降り立つと、そこには地下へ続く階段。……そして酷い火傷を負って気絶している男と、ふらつきながら何処かへと逃げ出そうとしている男が居た。
ふらつく男はゼオン達に気付くと、震えながらも声を張る。
「くっ……!て、テメェらも侵入者か!?」
「……君は?裏ギルドってやつだよね」
「だったら、どうだってんだ……!!テメェら、何者だ!?こんな事して、どうなるか理解ってんだろうな……!」
「虚勢を張ったところでどうにもならないわよ?」
「あぁ!?女ぁ!!テメェ後でどうなるか……本当に理解してんだろうな!?」
アリスは溜息を吐く。
「私達は冒険者よ」
「それがどうした!?冒険者だろうが後ろにギルドが居ようが関係無ぇぞ!!テメェらは必ずぐちゃぐちゃにしてやる!!そこの小せぇのは殺す!拷問した後でなぁ……!」
「僕?」
「決まってんだろうが!バカかテメェ!?……そんでさっきのガキとそこの女、テメェらには生き地獄を味あわせてやるから楽しみにしとけよ……!!」
「……んー……。裏ギルドっていうのは、話に聞いた通りの無法者たちなんだね。生かしておいても害しかない」
「あぁ!?」
「もう良いや、早くササラを追いたいし。ササラには悪いけれど……――アリス」
「はい」
「やれるモンならやってみやがれ!!仲間達が黙っちゃ…………待て。……アリス?アリスだと?」
無慈悲な銀の光線が二本、奔る。
「さようなら」
「テメェ、まさか!【銀……――――!!」
二人の男は何も言わぬ氷柱に変わった。
「無駄な時間を食った……行こうかアリス、ササラのところへ」
「はい、ゼオン様」
――――――――
ゼオン達が入り口に辿り着いた頃。
ササラもまた、一つの目的地へ辿り着いていた。
其処は、拷問器具が並ぶ一角以外は何も無い、窓すら一枚も無い倉庫の様な広い部屋。
一つだけ設置された出入り口の正面に、何か祭壇らしきものが有り、そこには武器を持った二人の人物と、囚われたコジロウが居る。
「ふー……っ、フー……ッ!」
「お前が侵入者か」
「……離しなさいよ……!」
「?」
「コジロウさんを、離しなさいよ!!」
「こいつが目的なのか」
「――うゥッ!ぐァ……」
ササラの出現にも、眉一つ動かさずコジロウへの拷問を続ける男。
身震いする程に冷徹なこの男は、名を『セーレ』という。
この一大拠点を任される、裏ギルドの幹部だ。
「やめて!!」
「何故だ」
「……!?何故って……!あなた達はどうしてこんな酷い事が出来るの!?コジロウさんが何したっていうの!!」
既にコジロウの身体に突き刺さる刃物を更に深く刺し込みながら、男は当然という様に話す。
「この獣人から我等が被った被害は甚大だ」
「……っ!それが本当でも嘘でも、そこまでされなきゃならないの!?」
「裏切りだ。最も重い」
凄惨な光景を前に、しかしササラは動けない。
コジロウの命はセーレの胸三寸でどうにでもなってしまうと、分かっているからだ。
「だとしてもやり過ぎだよ!もう十分報いは受けた筈!解放してあげて……!」
「無理な相談だな」
コジロウの身体に、新たな刃が突き刺さる。
「ぅが……!」
「コジロウさん!!」
「これは罰だ。裏ギルドに楯突く者への」
セーレは剣を取り、それをグルンと回し剣先をササラに向ける。
「お前も同様だ。小娘」
「此処に至るまでにお前が出した損害は許し難い。駒も施設も無料では無いぞ」
「刃をウチに向けるならそれで構わない……来てみなさいよ!」
セーレの矛先が自分へと向けば、コジロウを助ける機会が有るとササラは考えた。
しかし――
「ゲンス。ランドール」
ズゥン……!と土煙を上げて現れた巨漢。
その肩には細身の男が座っている。
「だっはァ!!呼んだかぁ、セーレの旦那!!」
「呼ばれて来たでやす。見張りは良いでやすか?」
「構わない」
「新手……!」
「おん!?なんだ、侵入者ってのはこんなチビなのかよ!なにやってんだ他の雑魚どもはよ!」
「ゲンスの兄ぃ、油断は禁物でやすよ。この娘、魔力量が桁違いでやす」
「そりゃ見れば分かるけどよ。いくらなんだって俺達が負ける訳がねぇだろ」
「それはまぁそうでやすが」
「――っ!?ぐっ……あ!!」
突然、ササラの小さな身体が後方に吹き飛ぶ。
入れ替わりに、ゲンスと呼ばれた巨漢が拳を突き出す格好で其処に立っている。
「ケホッ、ゴホッ……!な……なに、が……!?」
「だはは。何されたか分かんねぇって顔だな、嬢ちゃん」
ササラからすれば、二人の男がまるで瞬間移動でもしたかの様な感覚だった。
「分かんねぇまま……沈んじまいなぁッ!!」
またも瞬時にササラの背後へと移動したゲンスは脳天目掛けて拳を振り下ろす。
「――……っ!!」
それを皮膚に掠る程ギリギリで、勘で回避するササラ。
「……おぉ!?おいおい、2撃目で躱すかよ!?」
「ダメでやすよ兄ぃ。潰しちゃ売れなくなるでやす」
「お?……だはは!悪い悪い、うっかりしてたぜ」
「折角の上玉、なるべく外傷は少なめに。中はどうなろうが構わないでやすが」
「分かった分かった!!」
「……ーっ、あなた達はっ!!こんな事ばかりをしてきたの!?」
「おん?」
「人を貶めて……!弱い人達を食い物にして!!こんな事が……っ」
「おいおい。何言ってるか分かんねぇぞ……戦うんじゃねぇのか?」
「どうしてそんな簡単に人を傷つけられるの!?終いには命さえ奪うなんて、あなた達は化物よっ!!」
「――何をしょうもない事を言ってるでやす?」
「しょうも……ない……!!?」
「生きる為に決まってるでやす、金が欲しいからに決まってるでやすよ。弱い奴が強い奴に喰われる事なんて古からの世界の理でやす。それをやめろと言うのなら嬢ちゃんが金をくれるんでやすか?そうするなら考えてやっても良いでやす」
「な……」
「人に何かを提示するなら代案を用意するのは常識でやす。それとも……自分が嫌だからという理由だけでそんな馬鹿な事を主張してるんでやすか」
「そんな……!だってあなた達がやっているのはそもそも犯罪――」
「犯罪を犯す事でしか生きられない奴等もいるって事でやすよ。嬢ちゃんはそんな奴等は生きる価値も無いって言うでやすね?誰かが決めた枠組みの中で『犯罪』だと決められてしまった事でしか生きられないなんて落ちこぼれは」
「違う!……ウチは……」
「違う?何が?虐げられた者達が少しばかりやり返す事すら許されないこの世界で、何が違うでやす?見て見ぬ振りの者達ばかりの腐った世界で」
「う……うぅ……っ」
「嬢ちゃんがそこの獣人を助けたいのも、たまたま偶然に知り合いだったから……だけの理由でやしょう?日々の暮らしの中で、こんなのは世界中何処でも毎時毎分毎秒起こっている日常なのに」
「…………っ!!!」
「そんなつまらない偽善で邪魔をするのはやめていただきたいでやすねぇ。世の中の事など何も知らない小娘が」
「――詭弁もそこまでいけばいっそ清々しいね」
「誰だッ!!?」
ササラに向けていた意識を、突如現れた気配に瞬時に向けるゲンスと、細身の男……ランドール。
「そうやって丸め込んできたのかい?なにもかもを」
そこにいたのは黒髪黒目の少年。
その身に黒い服を纏い、その上から漆黒の魔力を纏わせた異形。
「人を傷つけ貶めて……他の人生を糧にして。それでしか生きられない、だって?――笑わせるなよ」
「ッ!!??」
「仮に、そうする事でしか生きられないとしても。そうだよ……くたばれよ人でなし共。お前等に生かす価値なんて欠片も無い」
「なんだ?お前……!」
「それか……そうだな、お前等自身が奴隷になってみたらどうだ?そうすれば少しは理解出来るだろうさ。人の痛みって奴をよ」
「ゼオン君…………ウチ……っ!」
男達を射抜き留めていた禍々しい視線は、それまでとは真逆の優しいものに変わる。
「ササラ、此処を見つけてくれてありがとう。だけど一人じゃ危ないよ?」
「ごめん。……ごめんね……だけどウチ、みんなが心配で……!」
「良いんだ。分かってる、全部分かってるから」
「おい小僧ぉ!!随分とかましてくれたなぁッ!!!」
瞬時に移動し、ゼオンの背後から強烈な振り下ろしを繰り出すゲンス。
――だが、ゼオンはそれを片手で悠々と受け止めた。
「――ぬゥッ!?小僧……!!」
「ササラ、ここは僕に任せて君はリコさんのところへ。場所は……分かるよね?」
「で、でも。ゼオン君……」
「僕なら大丈夫。良いんだ、君の優しさはこいつらなんかには要らない。仲間として……僕に任せてくれ」
「……分かった。ね、ゼオン君……コジロウさんをお願いね」
「勿論」
ササラはリコが囚われている牢へ急ぐ。
……が、それを阻む為、セーレが緑色の魔力弾を放った。
「小娘が。――黙って行かせるか」
ササラ……というよりも、部屋の出入り口目掛けて放たれた魔力弾は、地面から垂直に平たく伸びた影に止められる。
「行かせるさ」
「ちっ。……ゲンス、ランドール……さっさとそいつを片付けろ」
「おう!おい小僧、お前が誰かは知らねぇが目的はあの嬢ちゃんと同じだろ?」
「でやす。良いでやすか、坊っちゃん?あんたが反撃すればあの獣人の命は無いでやす。こちらに対して攻撃をしても防御をしても回避をしても殺すでやすからね」
「随分と酷い話だね」
「人質なんざぁ使ってナンボだろ?それを知った上で攻め込んで来たお前等が間抜けなんだよ。だっはっは!!」
「でも……うん。確かに、君達がもう少し利口なら手間取るところだったよ。僕よりも間抜けでどうもありがとう」
「あァ!?あんまり舐めた口利くなよガキ!!人質がどうなっても……」
「ゲンスの兄ぃ!セーレの兄ぃが!!」
「なんだよランドール!?…………なに!?おいどうした旦那!?」
セーレは右腕を押さえてその場にしゃがみ込んでいる。
「――ッ、馬鹿共!!そいつから目を離すなッ!!」
「あ……!?」
ゲンスがセーレに目線を移し、その叱責に急いで目線を戻すと……
「がッ…………ふ!」
「ランドールッ!!?」
……己の肩に乗っていた筈のランドールが宙に舞っていた。
その腹に深々と刺さるのは地面から突き出る影の刃。
「間抜けが……!!……ぐっ!」
コジロウを責めていたセーレの右腕は、黒く焦げている。同時に、部下らしき人物の全身も。
――雷が奔ったが如く。
「女……!!ッ、貴様ァ!!」
「大丈夫……じゃ、ないわよね。ごめんなさい、暫くの間我慢して」
アリスはコジロウを縛り付ける縄を解き、魔力で浮かせて運び出す。
「では、ゼオン様。打ち合わせ通りに此処はお任せします……ですが、決して御無理をなさらぬように」
「うん。ササラをお願い」
「はい」
「――待てッ!!貴様……【銀氷】だな!?Sランク冒険者『アリス』……!そうだろう!?」
「私の名前を気安く呼ばないで。だったらなんなのかしら」
「くっ……くっくっ!俺は……知っているぞ!!お前の捜し物を……!!貴様が求め続けたモノ!その情報をなァ!!」
「…………なんですって?」
「ははは……ッ!!故に俺を見逃せ!此処から、お前がだ!!されば情報をくれてやる!後悔するような展開にもならんかもな……!!」
「おい旦那!俺達ゃあどうなるんだ!?戦わずに逃げるって正気かよ!?こんなガキと女くらいで!Sランク冒険者がなんだってんだ、やっちまえば良いだろう!?」
「黙れ……!!何も分からぬ間抜けの無能が!!貴様等がどうなろうが知った事ではない!重要なのは幹部たる俺の……」
「……醜いね」
「…………」
「でもアリス、探し物って何の事?」
「……ゼオン様。私が心から焦がれ、捜し求めたものは私の生涯で2人のみです。その内、1人はゼオン様です。そして……」
「……リオン?」
「はい」
「そうだ!!『リオン・ティア・トルナロード』!亡国の王女……いや!【偽りの魔王】の行方を俺は知っている!」
――魔人の怒気は魔力を孕み、放射状に広がる。その怒りを以て、敵対する者の全てを凍らせんとする。
「……何を根拠に薄汚い者の言葉を信用しろと?謀るつもりなら失敗だったわね。私の前で軽々しくリオン様の御名を出すなど……!!!」
「ぐ……!……良いのか!?俺を始末すれば奴の!!」
「黙りなさい……!!」
「――待った、アリス。やっぱり、此処は僕に任せて欲しい」
「ゼオン様……!でもっ」
「心配は要らないよ。悪いようにもしないから。ね?」
アリスは言いたい事を呑み込み、頷く。
「分かり……ました。よろしくお願いします、ゼオン様」
「うん。……さ、早く行ってあげて」
「……はい」
アリスはコジロウを連れて部屋を出る。
場に残ったのはゼオンと、裏ギルド構成員の三人のみ。
「さてと。君達、覚悟は良いかな」
「小僧!貴様の事も知っているぞ……いや、思い出したと言うべきか!ゼオン・マーレ・トルナロード……亡国の王子!」
「さっきから思ってたけれど……魔国はまだ滅んじゃいないよ」
「そう考えているのは貴様だけだ!王と王妃は死に、王女は行方知れず……!残る王族はこんな所で何をしている!?国は放っておいていいのか?おい」
「あぁ、そうだね。リオンの事も聞いておかないと」
「……なんだその余裕は!?気に食わん……理解っているのか!?あの獣人を解放しようが、人質は居るんだぞ?更に価値が高い、なぁ!!」
「そんなに息巻いたところで俺はお前等を許さないから安心しろよ。……ササラを泣かし、アリスを哀しませ……仲間を傷つけたお前等は俺が此処で断罪してやる」
「断罪だと!?……いったい何様のつもりで……!」
「俺が何者か?」
漆黒の魔力が足元に渦を巻く。
水色と黒が螺旋を描き、身体に纏わりついてゆく。
やがて魔力は形を取り、魔の王たる存在……竜人が顕現した。
「――魔王様だよ」
家づくり⑦へ続きます




