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黒の創世  作者: uyu
五章 家づくり

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23/24

家づくり④

――――――――



 「えーっ、じゃあこの世界の人達ってどうしてるんですか?入れるのってお金持ちの人だけ?」

 アリスとササラ、そしてリコは今、一糸纏わぬ姿で身体を洗っている。


 彼女達が居るのはコジロウ夫妻宅の風呂場。

 巨石に空いた深い横穴式の住居の奥、奴隷から解放された当時のリコの強い希望により、コジロウの手で造られた。

 中には同時に三人が入ってもまだ余裕の有る広い空間と大きな湯船。

 断熱系、風力系、湧水系、加熱系の各種魔石を各所に組み込んで造られた浴室は、この世界に於いては貴族もしくは金持ちの邸宅、又は高級宿泊施設のそれに等しい。


 「基本的には、そうね。勿論、個人の好みによるけれど、シャワー……もしくは洗浄魔法で済ます事が殆どかしら。それに、これは少し高度な魔法だけど修復魔法を組み合わせて使うの。服も髪も……後は食器や道具の洗浄や軽い損傷を直すのも全てこれらで賄えるわ。身体の損傷は無理だけれどね」

 「……魔法便利過ぎない?」

 「みんな1番最初に覚える魔法は洗浄魔法だ、って言われてるくらいですから。ウチもたぶんそうでした」

 「ふふ……そうね。特に女の子は。お手伝いにも必須だものね」

 「羨ましいかも……!あたし的にはやっぱりお風呂だけは入りたいけど」


 身体を洗い終わった三人は、次に髪を洗い始める。


 「それにしても、2人とも凄い髪色だよね」

 「そうかしら?色合いでいうと特に珍しくもないと思うけれど」

 「いやいや、銀と真紅ですよ!?目も、ササラちゃんの茶色は分かるけど……青紫色なんてカッコいい!」

 「貴女の世界には居なかったの?」

 「うーん……居ない事は無いですけど。でもかなり珍しいですよ。だって2人のそれは地毛でしょ?」

 「地毛ってなんですかー?」

 「へ?あれ?ほら、髪とか染めてないって……」

 「?……髪を……?」

 「うん、あたしの世界じゃ一般的だったよ。髪を別の色に染めるの」

 「へぇ、良いわね。それが出来たら戦略の幅が広がるかもしれないわ」

 「え?もしかして出来ないんです?」

 「聞いた事も無いわね。例えば色素が極めて強い果汁とかが髪に付いたとして、短時間であっても色は定着しないの。逆も然りで、魔法か何かを使って色素を抜こうとしても無理。昔に何処かで見た話曰く、髪の内側から魔力が弾いてしまう……らしいわね」

 「魔力おもしろ!」

 「じゃあ、リコさんも染めてるんですか?その……黒に」

 「あたしも地毛だよー」

 「……良いなー」

 「へっ?……そう?」

 「えぇ。羨ましいわ」


 髪を洗い終わった三人は湯船に浸かる。

 トリートメントのようなものを髪に馴染ませて。

 何種類か有る中で、アリスは薔薇の香りのものを。ササラは幾つかの香りが混ざった甘い香りのものを選んだ。


 因みに他、ボディソープやシャンプー、保湿の為の化粧水や乳液、ボディクリームやハンドクリームの類、香油や香水の類、その他の化粧品等は、この世界に於いても普及している。


 「いい気持ちー……」

 「んー……っ!!……はぁっ。だよねー、うんうん」

 「私も久しぶりに入ったけれど、やっぱり良いものね」


 パチャパチャとお湯を掬い、とても珍しいその香りを嗅ぐササラ。

 花の様であり、しかし記憶には無い香りだった。


 「これ……何かの花のエキスが入ってるんですか?とっても良い香り」

 「あー、これ。サクラって花だよ」

 「聞いた事無いかもです。へー、サクラっていうんだ」

 「うん。エキスを集めて加工された、瓶入りのやつをコジロウが街で買ってきてくれたの。この香り、お気に入りなんだー。あたしにとってすっごく身近な香りだったから最初はびっくりしたけど。だって名前も一緒だったからね」

 「元の世界に似たようなモノが有ったの?」

 「うーん……この世界の実物を見た事無いんでなんとも?……でも香りはそっくりですね」

 「どんな花だったんですか?」

 「木に咲く花で、ピンク色の可愛い花なんだー。元々、あたしの好きな花なの」

 「…………それ、見た事有るかも知れないわ」

 「えっ、本当ですかアリスさん?どこでどこで!?あたし、1回見てみたいんです!この世界のサクラ」


 「……さぁ……()()()()()かしら。ごめんなさい、忘れてしまったかも」

 「そっかー、残念……でも仕方ないか」


 「…………」

 「アリスさん……?」

 「……なんでもないのよ、ササラ。大丈夫」


 表情を曇らせ、胸元に手を置くアリス。

 だがそれも一瞬の間だけで、すぐに元の様子に戻る。


 「ところでー……」


 「?何かしら」

 「何回見てもアリスさんて信じられないくらい綺麗ですよね。髪もお肌もプロポーションも……なんか特別な事でもやってます?」

 「気にした事も無いわね」

 「てことは生まれつき……!ナチュラルボーン!うおぉ……世の中は不公平だぁ……」

 「リコさんも可愛いですよ?」

 「ササラちゃんは優しいねー。……お礼にこうしてあげよう!うりゃー」

 「あはっ……あはははっ!ダメっ、駄目ですよ!くすぐらないでー!」


 バシャバシャとはしゃぐ二人を傍目に肩までお湯に浸かったアリスが、ボソッと呟く。


 「そう、世の中は不公平よね。私だって……」


 「アリスさん、なんか言いました?」

 「……いいえ。ただ……私にだって羨ましい存在は居るってだけよ」

 「またまたー。アリスさんが羨ましくなるって……それもう神話ですよ。それこそ天使とか精霊とか、そんなんでしょ?」

 「……世界は想像するよりもずっと広いって事かもね」



――――王国改め【女王国】・王都サンクチュアリ――――



 「くちゅん」



 「()()()()、風邪ですか?」

 「……?……うぅん。……なんだろうね」

 「ねーリエット。やっぱりそれ継続なの?」

 「なにが?」

 「騎士団長って。今まで通り、団長じゃ駄目?」

 「……わたしはどっちでも良いとおもうよ?……第1軍団長でもあるんだし」

 「そうだそうだぁ」

 「いいえ、公の場では騎士団長と呼ばないと。それ以外なら……まぁ」

 「……エルネア?」

 「私もリエットと同じ考えですよ」

 「……そう」

 「そうです。それよりも、今日は1番遠いシュウインですから準備はお早くお願いします」

 「……わたしがみんなを運べばすぐ」

 「だから、それはいけません。以前ならともかく、今はお立場を考えていただかないと」

 「…………はやくぜんぶ終わらせて……お話したいともだちもいるのに」

 「当分は諦めて下さい」

 「……むぅ」



――――獣人大陸・南方――――



 「あがったよー!」

 「待ってササラ、髪を乾かさないと……そのままでは傷んじゃうわよ」

 「あ、はーい」

 「温風機はこっちだよ」


 「お前は入らないのか?」

 「僕は良いよ。お風呂って少し苦手なんだ……シャワーくらいならまだ大丈夫だけど、今は洗浄魔法で済ませる事にする」

 「そうか。まぁ気持ちは分からんでもない」

 

 ゼオンとコジロウは女性陣が風呂に行っている間に、1番広い部屋で酒を酌み交わしながら色々と情報交換をしていた。

 コジロウが提供した情報は主に三つ。

 周辺一帯の様子、コジロウの身の上話。そして、獣人国の情勢についてだ。

 対してゼオンが提供したのはたった一つ。

 冒険者ギルドについての事だった。


 「で、さっきの続きだが。本当に、ギルドには誰でも入れるのか?」

 「基本はそうだって聞いたよ。一応、最低ランクのクエストを一人でもこなせるかの試験はあるそうだけど……僕は試験を受けていないから分からないんだ。ただ、冒険者になろうって人は最低限の自衛くらいできるだろうから、試験なんてただのランク測定みたいなものだってアリスは言ってた。どちらにしても、大抵の場合……最終的にはギルド上層部が多角的に見て判断するそうだけど」

 「その判断材料ってのは具体的になんだ?」

 「()()()()じゃないかな。ギルドの情報収集能力は凄まじいからね。実績、実力、生まれ、犯罪歴の有無とか。それら全ての情報を統合して……ギルドにその人物が所属する事で、例え損があったとしても益のほうが上回るのか。そうやって判断を下すんだと思うよ。多分だけど」

 「随分と曖昧だな……」

 「ごめんね。僕、新米冒険者なんだ」

 「いや、悪い。そういう意味じゃない」

 「分かってるさ。……でも、なんだったらアリスにも詳しい事を聞いてみる?僕よりもずっと事情に精通していると思うよ」

 「…………今はまだ止めておく。あの女には、俺の獣としての本能が()()()()()

 「そっか。じゃあ今のところはギルドに紹介してもらう……そのくらいに留めておこうか」

 「あぁ。感謝する」



 「なんの話ー?」

 「他愛もない話だよ。あれ、ササラ?なんだか随分と良い香りがしているね」

 「ホント!?ね、ゼオン君はこういう匂い好き?」

 「うん。花の香りは好きだよ」

 「良かったぁ」

 「うん?」


 「……あの、ゼオン様」

 すすっ……とアリスも近くに寄ってくる。

 「アリスは薔薇だね。とても君に合っている」

 「あっ……ありがとう、ございます……」


 「ねぇゼオン君、髪も触ってみて!すっごくさらふわなんだよ!」

 「良いのかい?」

 「うん!」

 ゼオンは優しく、ササラの髪に触れる。

 ササラの髪は直毛だが少し癖がかかった、いわゆる猫っ毛だ。

 だが全体的なボリュームはある。元々、毛量が多いのだろう。

 「本当だ。ずっと触っていたいくらい」

 「えへへ」


 「ゼ――ゼオン様っ」

 「アリスの髪も触らせてもらえるかい?」

 「は……はいっ、勿論です!ど、どうぞ……!」

 妙に気合の入ったアリスの髪にも触れる。

 アリスの髪は少しの癖もない直毛。

 梳くように触れれば、指の間を髪がするすると流れていく。それがとても気持ちが良い。

 「うん、昔と変わらない。アリスの髪は相変わらず綺麗だね」

 「恐縮です……!」


 「ありがとう、二人とも。こんなに美しい髪を触らせてもらえて凄く嬉しいよ」

 「大げさだよー。でも、いつでも触らせてあげるよ?……えへへ」

 「私もっ、こんなものでよろしければいくらでも……!」



 「なにかとてつもないモノを見せつけられているよ!?……コジロウ!あたし達も何かする!?」

 「いや、いい」

 「なんでさ!?」



――――――――



 「――珍しい服だよね。これも?」

 「うん!あたしの世界のやつに似たのを探したんだー。コジロウが」

 「便利屋さんかな?」

 「俺は元々、密偵や身辺警護を生業としてた。だからまぁ……伝手は色々と有るんだ」

 「建築関係の仕事もしていたのかい?」

 「ん?……あぁ、この家の事か。そうだな、大部分は俺が造った。建築の仕事をした事は無いが情報は持っていたからな」

 「あのお風呂場も?けっこう凄かったよー」

 「アレは違う。魔石が関わる機構だったりの専門的な知識が必要なところは知り合いに頼んだ。流石に、素人には無理な事も多いしな」

 「へぇ……獣人国の一般市民にあれ程の技師が?それは知らなかったわ」

 「いや、そいつは獣人国出身の者じゃない。獣人ではあるが……他の国から来たと言ってたな。たまたま知り合った時に話をして、造るのを手伝ってもらったんだ。今は何処に居るかも分からないが」

 「ふぅん……」



 「……で、コジロウ。さっきの続きだけど」

 「そうだな。俺は冒険者ギルドに入りたい」

 「らしいんだ。アリス」

 「承知致しました。……私がギルドへと紹介する事は可能だけど、100%の確率で入れるとは限らない。それでも良い?」

 「あぁ、それは分かってる。扉へと導いてくれるだけで、俺には助けになる」

 「そう。一応聞いておくけれど、()()()()()()()()()ギルド支部への紹介で良いのよね?」

 「そうして欲しい」

 「分かったわ。いつが良いかしら」

 「早ければ早い程」

 「なら今日の内に連絡しておくわ。後の日程はギルドからの連絡待ちね」

 「分かった。ありがとう」

 「話が纏まって良かったね、コジロウ。……ところで、アリス?」

 「はい、なんでしょう」


 「せめて話してる時だけはコジロウの方を向いてあげたほうが良いと思うよ」

 コジロウと話している間、アリスは真逆の方向を向いていた。

 その視線はゼオンの膝上。

 小さく丸まって寝ている、子猫に注がれ続けていた。

 「無理です……!!」

 「はは……ごめんねコジロウ」

 「気にしてないぞ」


 「うちの子可愛いから仕方無いね!」

 「やっぱり、リコさんがあの子の実のお母さんなんですか?」

 「うん、そうだよ!……あ、そういえばその事にまだお礼してなかったよ!?」

 座っていたリコはささっと姿勢を正し、深く頭を下げる。

 「娘を救っていただいて、ありがとうございます。1人で森を彷徨っていれば、命を落とす可能性は十分考えられました。貴方がたに心からの感謝を申し上げます」

 リコの礼に内心驚いたゼオン達だったが、すぐに返す。

 「子供を助けるのは人として当たり前の事です。頭を上げて下さい」


 ゼオンの言葉を聞いて、リコはバッと頭を上げる。

 「――いやー、ホントに助かりました!このやんちゃ娘、目を離すとすーぐどっか行っちゃうから!1人でとことことこーって」

 「子供だからね。仕方無いさ」

 「今日も一緒に寝てたはずがいつの間にか居ないんだもん。コジロウに探しに行ってもらって……で、待ちきれなくてあたしも外に出たらあの化物が」

 「外は危ないから待ってろって言っただろう」

 「流石にあんなのが居るなんて思わないじゃんか!?それに聞いたからね、コジロウだって早とちりしてゼオンさん達を誘拐犯だと間違えたって」

 「ぐっ……」


 「――サイクロプスね」

 「ウチ初めてあんな近くで見ました!想像よりもおっきかったです」

 「さっき、ギルドからその件の報告が有ったわ。確定情報では無いけれど……凡そ9割の確率で、この近くに新たなダンジョンが生まれたのだろう……って」

 「新たな?」

 「えぇ。ダンジョンは時折、新しく生成されるの。場所・条件は未だ解明されていないけれど。そこから何らかの理由で這い出てきたモンスターではないか。……というのがギルドの見解のようね」

 「アリスの考えは?」

 「私もそう考えていました。周囲の魔力痕跡などと照らし合わせても、この結論が正しく思えます」

 「成程。それで、ギルドから何かクエストは依頼されたのかい?」

 「はい。『獣人大陸南方に生成されたと思われるダンジョンの発見・それに伴う調査』というクエストが黒の創世宛に」

 「()()()()()()()()?」

 「はい」

 「そっか。……そろそろ聞こうと思っていたから丁度良いかもね。――この大陸のギルド支部の事を」


 「コジロウが、わざわざ他の大陸の支部に紹介を頼んだ理由。……そこには、何が隠れているのかな」

 「……ゼオン様、実は」

 「いや、俺から話そう。それが義理だ」



 「先に言っておくが勿論、この大陸にもギルド支部は存在する。……だが、()()()()()()俺はギルドに入るのを躊躇っていた。ギルドに入る事での様々なメリットよりも、デメリットのほうが大きいのでは無いかという理由からだ」

 「うん」

 「しかし、この話をする前に情報の整理をしておこう。お前にはさっき話したが、この国には深い闇がある」

 「()()()()って奴かな」

 「あぁ。この、裏ギルドってのが厄介でな。俺の持っている情報の中には、こいつらが国の中枢にまで入り込んでる……なんてのも有る」

 「そもそも、どういう連中なんだい?」

 「儲けの為なら犯罪紛い……どころか、犯罪そのものすら厭わない奴等だ。正規の冒険者ギルドでは扱わない依頼……盗みだったり、殺しのな。それらを請け負う集団だ」

 「だから、裏なんだね」

 「そうだ。冒険者とは似ても似つかない奴等が集まってる」

 「そいつ等は世界中に拠点を持つのかい?」

 「……と、言われてはいるが……何しろ厄介な、得体の知れない連中でな。中々、冒険者ギルドにすらその尻尾すら掴ませないと聞く。……だが、その影響力が世界中に及んでいる事は確かだ」

 「ふうん……裏ギルドは、冒険者ギルドとは敵対関係にあるの?」

 「不倶戴天のな。自由を標榜する冒険者ギルドとは真逆の存在だ」

 「彼等は一般にもその存在を知られているの?」

 「まぁ……()()()()。別に、お前の事情を聞くつもりは無いから安心しろ」

 「助かるよ」

 「この裏ギルドって奴の本拠地が、此処……この大陸の何処かにあるってのはほぼ()()()()()()()()

 「それはコジロウ独自の情報源から?それとも周知の事実なのかな」

 「どっちも有るが……正直、そうとしか思えない程に、この大陸には多いんだ。裏ギルドによると思われる犯罪の数が」

 「……ちなみに内容は?」

 「その多くは人身売買、その為の誘拐・殺人……規模が大きい時には()()()()でな」

 「…………」

 「別にこの大陸に限った話じゃないが、他の大陸に比べても圧倒的に被害者の数は多い。だから、本拠地でなくとも……大きな拠点を、この大陸に奴等が持っているのは必然だろう?」

 「そうだね」

 「その為に、この大陸では冒険者ギルドと裏ギルドの対立が特に激しい。冒険者ギルド側も、総力を挙げて奴等を潰そうとしてはいるが……何しろ手段を選ばない連中だ。中々、難航しているそうだ」

 「……成程」

 「――で、ここからが本題だ」


 「実は、俺は……以前、この裏ギルドと関係が有った」

 「それはつまり……」

 「いや、そうじゃない。裏ギルドに入っていた訳じゃないんだ。ただ……当時の俺の雇い主『ゴラン』は裏ギルドと深い繋がりが有った」


 「知らず知らずの内に、俺は奴等の犯罪の片棒を担いでいた。……責任逃れをするつもりは無いが、本当に知らなかったんだ」


 「俺は奴に情報を運び続けた。その情報の中には……色々な集落の場所も有った。言い訳をするなら、俺にとっては生きる為だった」

 「…………」

 「情報を受け取った奴は、それを裏ギルドに売った。莫大な金貨と引き換えに」

 

 「そうして更に私腹を肥やしたゴランは、奴主導の新たな商売を裏ギルドと共に始めた。……その商売とは、獣人国における奴隷の売買だ」

 「対象は……」

 「当然、()()()()()


 「お前達には悪いが……獣人国じゃあ人間族の奴隷は昔から存在する。当時の事を思い出すと比較的……気は楽だったかもな。何しろ、人間族は基本的に亜人を迫害する。やられた事をやり返しているだけだと、思っていた」


 「それに元々、獣人国は【亜人絶対主義】を掲げている。この森や都市部以外に住む獣人はそこまでの考えを持っちゃいないが……少なくとも、都市部ではこの考えは蔓延っている。そう教育されるんだ」

 「コジロウも?」

 「以前までは……そうだった。考えを改めたのはリコに会ってからだ」


 「ゴランに囚われていた彼女を救おうと、この身が自然と動いた。理由は自分でもはっきりと分からなかったが、多分……出逢ったその時から彼女に惹かれていたんだろう。だからただ、彼女をあの地獄から救いたかった。利己的だと言われようと仕方無いが後悔はしてない」

 リコは己の体をぎゅっと抱きしめる。

 その手は微かに、震えていた。

 「リコが()()()を食べてから、その気持ちは更に膨らんでいった。……人間族であろうとも、彼女に何の罪も無い事は明白だった。この世界の何もかもが、彼女には関係無いのだから。その事が分かってからの流れは早く、気付けば俺はリコを連れてこの森へと逃げてきていた」

 「気持ちは分かるよ。……うん、何を敵にしてでも護りたいものは僕にも有る。今だから、尚更ね」

 「あぁ。……だがやはり問題は山の様に残った。住居や食料の事もそうだったが……1番の問題は、差し向けられる追手の事だった」

 「さっき少しだけ僕等と手合わせした時に感じたけれど、コジロウの体技やあの変身はかなりのモノだったと思う。少数の追手くらいなら追い払えたんじゃないかな?」

 「その通りだ。獣人が相手なら、正直なところ問題は無かった。追手が獣人()()なら」

 「そうか。そこに繋がってくるんだね」

 「あぁ、ゴランは裏ギルドに俺の始末と、リコを連れ戻す事を依頼した。裏ギルドには当然、獣人以外も数多く存在する。奴等は俺が見た事も無い魔法を使った……俺は、到底敵わないと思ってしまった」


 「だが、さっき話した知り合いが手伝ってくれたおかげで、追手との戦闘ではそれほど苦労する事は無かった。追手を全て片付けた後、そいつと一緒に俺達は南へ、南へと逃げて……この場所へと辿り着いた。以来、裏ギルドからの刺客は現れていない。……諦めたのかは分からないが」

 「追手は何人くらいだったの?」

 「5人だったな」

 「凄いね。恐らくは手練れの五人組を、その人が一人で?」

 「そうだ。俺は戦力にならなかった」

 「コジロウ、それはあたしが足手まといだったから……!」

 「いや、良いんだリコ。これは紛れも無い事実だ」

 「その人の名前は?もしかして、冒険者なのかな」

 「冒険者かどうかは聞いていないが……名前は『ゼンフィ』と名乗っていたな」


 「……ぅん?」

 「どうしたの、アリス?」

 「いえ……なんでもないです。多分人違いでしょう」

 「?」

 「ゼンフィはその腕っぷしもさることながら、知識も凄かった。この家の設備もあいつのおかげだ」

 「すごいすごーい!何処の誰なんだろその人!?ねっ、アリスさん」

 「え……えぇ、そうね」

 「以前からギルドの話を聞いていた俺は、ゼンフィにどうにかギルドに入れないかと頼んだ。だが対立が激しいこの地では、俺がギルドに所属する事でかえって危険が増えるかも知れないとあいつは言った。安全を考えれば、時期を待つべきだ、と。勿論、他の大陸に行けないかとも頼んだが……あいつは事情が有ってそれは暫くは無理だと言っていた。他の冒険者に頼もうにも、心から信頼出来る者にしか預けられないから、と」

 

 「その代わりに、自分が必ず迎えに来るから出来ればそれまで待っていて欲しい、と。この家は誰にも侵入出来ぬ程、強固に造るから……と言っていた」


 「家を造っている途中、あいつは急に真面目な顔をしてこう言った。……だけど、決して自分に恩を感じないで欲しい。この家にも愛着を持つな。()()()()時には全てを捨てて逃げろ。お前にとっての大切なもの以外の全てをな。……とても先を見据えた言葉だった」


 「家が完成した後、返しきれない程の恩を得た俺達は出来る限りの礼をあいつに尽くそうと思った。だがあいつは「男として当然の事をしただけだろ!水クセェな、元気でな!」……とだけ言って、何処かへと去っていってしまったんだ」

 「コジロウはその人にもう一度会いたいんだね」

 「あぁ。会って、礼をしたい。1番の、友に。……冒険者になれば、それが叶うと考えたんだ。勿論、理由はそれだけじゃないが……1番の理由だ」

 「他の理由を聞いても良いかい?」

 「特に隠す事でも無いし、問題無い。……結局のところ、安心が欲しいんだ。ギルドの後ろ盾が欲しい。約束したゼンフィにはとても申し訳ないが、裏ギルドに怯えて暮らすのはもう限界が近いんだ。それに出来れば、リコとこの子の為に街で暮らしたい。獣人が()()()暮らせるって聞く、王国や……今はもう無い、魔国のような国で」

 「成程。単純明快な答えだ」


 「なら君達は運が良かった」

 「なに?」

 「僕等は王国……いや、今は女王国か。あの国に友が居る。あの国のギルド支部にも顔が利くから」

 「……本当か!?」

 「勿論。そういう事なら、信頼出来る人間に紹介出来るよ。ゼンフィって人にもその内に逢えるかも知れないね」

 「良かった……!本当に……」


 「ただ、あの国は今ゴタゴタしていてね。コジロウ達を連れて行くのには少しだけ時間が掛かっちゃうかも知れない。具体的には一週間位かな……それでも良いかい?」

 「そのくらい気にもならない!怯えて眠る夜を考えれば、そのくらいなんでも無いぞ!」

 「そっか、良かった。なら話は決まりだ、ギルドや王国の人には僕等のほうで話を通しておくよ」

 「感謝する……本当に!」

 コジロウの隣に座るリコの目からも、涙が流れる。

 「ありがとう、ございます……っ!」

 「気にしないで。()()()()当然の事をするだけだよ」



家づくり⑤へ続きます

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