家づくり③
「ミィ」
「ほら、あの子も呼んでますし暗くなる前に行きましょう?ねっ?アリスさん」
「あんな醜態をゼオン様に……」
「僕はなんとも思ってないから大丈夫だってば。元々、アリスが猫好きなのは知ってたし」
「!?……い、いつから……!?」
「え?子供の頃から」
「そんな前からなのですか!?」
「だってアリス、城や城下町に住み着いてた猫とよく遊んでたじゃないか。リオンと一緒に……え?もしかして隠してたの?」
「だ……だって!……ゼオン様の侍従であり護衛の私がそんなの、恥ずかしいじゃないですか……」
「猫が好きだとダメなんですか?」
「ダメに決まってるでしょう……!次代の魔王様の侍従なのよ!?今では正真正銘、ゼオン様は魔王様!そんなゼオン様に付き従う私が可愛い物好きなんて――」
「そんな事、全く気にしないから。というか、人の趣味嗜好を馬鹿にする奴なんて僕の方から願い下げだ。なんなら嫌いまである。それに、僕は猫が好きなアリスのほうが良いな」
「……だ、そうですよ?」
「ぅ……で、でもゼオン様?私が侮られる事で、ゼオン様まで影響が及ぶかも知れないんです。そんな事がもし有れば……」
「それこそ気にしないよ」
「そうなんだ?アリスさんがどうこうじゃなくって……ウチ、王様ってみんな威厳みたいなのを大事にしてるものだと思ってた」
「勿論大切な事だとは思うよ。国の為には……でも、威厳と虚栄は違うんだ」
「……難しい話?」
「うぅん。ただの面倒な話さ……説明の意義すら無い。だからそろそろ行こうよ。さ、アリスも。道中、その子を抱いていてあげてね」
「あっ……は、はい」
「やっぱり難しい話だった……。もー、ゼオン君てば偶に分かんない事言うよね」
――――――――
「そういえばー……」
鬱蒼とした森の中、巨大な木々に絡まるこれまた巨大な蔓をそれぞれが魔法で切ったり、除去しながら進む。
親猫を探す為の感知魔法も個々で張ってはいるものの、猫の様な比較的、小さな生物を感知魔法のみで探すのは難しい。なので目視、聴力を含めた捜索方法を試しながら。
ゆっくりと進む道すがら、ササラはゼオンに気になっていた事を尋ねてみた。
「獣人達を見た時、結構物珍しそうにしてたじゃない?ウチ、魔国って色んな種族が暮らしてたって聞いた事あるんだけど……実はそうでもなかったりするの?」
しきりに絡み付こうとしてくる、鋭い棘が生えた蔓状の植物を黒の魔力で枯らしながら、ゼオンが答える。
「決してそういう訳でも無いよ。ただ……魔国に暮らしていた獣人は肉食系や雑食系が多かったかな。割合的に言えば」
「そうですね。その中でも虎獣人や狼獣人が多く居ました」
「へー……。ねっ、魔国にはどんな種族が住んでたの?」
「うーんと……取り敢えず人間族は多くなかったかな」
「そうなんだ?魔国っていうくらいだから、魔法が得意な種族が多いのかと思ってた」
「魔国の『魔』は、魔法や魔力とは関係無かったりするんだ。実は」
「そうなの!?じゃあ、何の魔なの?」
「本当は駄目なんだけど……ササラになら良いか」
ゼオンがアリスに目配せをすると、アリスは小さく頷いた。
「【魔国】の呼び名の由来は僕の遠い先祖……二千五百年前に実在した初代の魔王『ウォック・プライモーディア・トルナロード』に起因するって聞いてるんだ」
「最初の……魔王様?」
「うん。ウォックの欲……全てを欲したその強欲が災いして、魔なるモノ達の国を統べる王……魔王、と人々に呼ばれる様になった。つまり、魔国の始まりだね」
「へぇ〜……!ウチてっきり、アリスさんみたいな魔人族とか悪魔族が関係してると思ってたよ!」
「まぁ……それも、あながち間違っていないよ。僕が生まれた頃にはもう、片方は魔国に居なかったけれど。……少なくとも僕が知る限りね。ね、アリス」
子猫の喉を撫でながら、アリスが続ける。
「はい、私もそう記憶しています。――他、魔国に暮らしていたのは主に海人族、エルフ族、妖精族、鬼人族……等よ」
「それって、それぞれの種族が集落みたいな所に住んでたんですか?」
「いいえ、ごちゃまぜよ。国中の街や村で、様々な種族が共に暮らしていたわ」
「へぇ……!……あれ?でもそれって大丈夫なんですか?」
「?何がかしら?」
「食べ物とか、住居とか……種族によって文化も違うし……」
「あぁ……成程、当然の疑問ではあるわね。でも答えは簡単よ。種族が違おうと彼等は【魔国の民】であり、世代を重ねて魔国の文化に長年慣れ親しんだ……つまり彼等は『魔国出身』という事。それに、他の小さな問題は魔国の発達した技術が解決していたの。だから、種族の差があれど皆が共に暮らしていた……とても、とても平和に……幸せにね」
「魔国の技術は世界の国々と比べても突出していたんだ。今では世界中に散らばってしまったけれど。例えば帝国の機械技術、教国の魔石精錬技術……とかね。アレらも元を辿れば魔国発の技術さ」
どうも、藪蛇になるかも知れないと感じたササラは少々強引に話題を変える。
「あー、えーっとぉ……そうだ!2人の好きな食べ物ってなに!?」
大分、苦しいが。
「食べ物か……アリスはあれだよね、果物。特にベリー系全般」
「覚えていてくれたのですね……!はいっ、アリスは特にブラックベリーとラズベリーが大好きです!」
「それって、アリスさんにエルフの血が入ってるからって事?」
「いいえ?単に私の好みよ。……どうして?」
「イメージだけであれですけど、エルフ族の人達って果実とか好きそうだなって」
「一般的に知られているイメージでは確かにそうかも知れないわね。でも、彼等も普通に肉も魚も食べるわよ?好き嫌いも人それぞれね」
「そうなんだぁ。ね、ゼオン君は?」
「僕は……基本、何でも好きだよ。特に、って事なら……なんだろ。強いて言えば、生で丸ごと食べられる不味くないものかな」
「ほぅほぅ。……ん?ゼオン君て毒とか効かないんだよね?それは勿論、食中毒とかも……」
「なった事も無いね」
「え。じゃあ……」
「うん。やっぱり、何でもかな」
「ある意味凄いね……」
「ササラは?」
「ウチは普通だよー、でも甘い物が好きかなぁ」
「甘い物か。なら、後で何処かの街に行ったら買っていこうか。それともお店で食べる?」
「ホント!?」
「勿論。ずっと開拓してたら疲れちゃうからね、ちゃんとした拠点が完成するまでは街で宿を取ろう」
「じゃあウチ、お店で食べてから買って帰る!」
「ふふ。良いと思うよ」
「アリスさんも一緒に食べましょうね!」
「そうね……ベリー系のものが有れば良いわね」
――――――――
「――見つけました、ゼオン様」
「ウチも見つけたかも!」
アリスとササラがほぼ同時に声を上げる。
「この子と似たような気配と、それの小ささ。恐らく親猫でしょう」
「うん!そのくらいの熱も感じたよ!」
「あっち?……良し、行ってみよう」
「はい」
「あ……2人とも、待って!その近くに何かが……!」
「えっ?」
「――ゼオン様っ!!」
ゼオンが一歩を踏み出した時、樹上から影を纏った爪が襲い掛かる。
ゼオンよりも先に気付いたアリスが、それを障壁で弾き返した。
「ゼオン様、お怪我はありませんか!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
地上に降り立った影はユラユラと揺らめき、その輪郭はハッキリとしない。
其処に居る様な、しかし気配は極めて薄い……様な。まるで蜃気楼の如き存在が、三人に話しかける。
「お前達だな!?やっと見つけたぞ、誘拐犯!」
「……ほぇ?誘拐犯?」
「そうだ!うちの家族を返せ!」
影は徐々に人の形に定まる。
やがてハッキリと人の形を取った時、そこに現れたのは猫の獣人。
王国……いや、女王国騎士『エルネア』の様な見た目が人間寄りの半獣人ではなく、純血の猫獣人だ。
身体の作りは人間に近いが、顔に至るまで全身が体毛に覆われている。
その体毛は子猫と同じ、アンバー色。
「家族って、もしかしてこの子猫?」
「当たり前だろ!この前生まれたばかりの子だ!」
「落ち着いて。別に僕等はこの子を拐った訳じゃない。むしろ……」
「うるさい!!返さないなら……!!」
猫獣人の爪がギラりと光る。
「後悔させてやる!!」
またも気配を薄くした猫獣人。
獲物を狙う狩人の様に、静かに。爪先がアリスの喉元を襲う。
しかし……無情にも、爪はあっさりと障壁に弾かれた。
「なっ……なんだ!?視えない壁が!?」
「最初から私を狙えば助かったのにね」
アリスの周囲が凍っていく。
地面、木、草……空気すらも。
「なんだ、お前!?氷の化身なのか!?」
「待ってアリス。僕なら大丈夫だから落ち着いて」
「ゼオン様……でも」
「アリスさん、ほら!その子も怯えてますから!」
アリスの腕の中、子猫はブルブルと震えている。
「え――あ」
アリスは急いで魔力を収める。
「ふー……。……ねぇ、君。少しお話しないかい?僕等は君に危害なんて加えたりしないよ。この子もちゃんと返すから。ね?」
「…………っ!!わ……分かった」
「はい、じゃあまずはこの子を返すね。さ、アリス。……アリス?」
「……あっ、はい、ゼオン様……どうぞ」
言葉とは裏腹に、子猫を離そうとしないアリス。
とても名残惜しそうに子猫を撫でる。
「アリスさん、残念なのは分かりますけど仕方ないですよ。元々、あの人の家族らしいので帰してあげましょう?」
「ぅ……。じゃあ……はい」
「あぁ、確かに。……疑って悪かったな、ありがとう」
猫獣人は子猫を抱きながら、頭を下げる。
「気にしないで良いよ。僕等は気を失ってたその子を助けただけだ」
「……それで、お前達は何者なんだ?獣人……じゃ、ないよな」
「僕はまぁ獣人みたいなものだけど、彼女達はそうだね」
「ウチ、ササラ!よろしくね!」
「僕はゼオン」
「あ、あぁ。……アンタは?」
「……アリスよ」
「僕等は海を越えて、この地に新たな住処を作りに来たんだ」
「は?この森にか……なんでまた」
「簡単に言えば家を失くしたんだ。だから新しい住処を探してたのさ」
「ふーん……ま、名乗られたから一応俺も名乗っとく。『コジロウ』だ」
「コジロウもこの近くに住んでいるのかい?」
「…………まぁな」
「ならご近所さんになるね。これからよろしく」
ゼオンが手を差し出すも、猫獣人は取り合わない。
「こいつを助けてくれた事には感謝してる。でもまだアンタらを信用した訳じゃない」
「貴方ね――」
「アリス。……まぁ当然だし、君が正しいよね。人なんてそう簡単に信じるべきじゃない」
「…………」
「ところで、その子の親はどこだい?さっきまで気配はあったけど……?」
「あぁ。それは多分俺だ」
「……うん?」
ポン、と煙を立てて猫獣人が猫になった。
子猫がその背にすとんと乗る。
「えっ!?ど……どういうコト!?」
「まさか君が……」
「俺の一族だけが持つ能力だ」
「猫が喋ってる!!」
「かわいい……!!」
「へぇ、面白い!初めて見るよ」
「こいつを上手く使って、俺達はこの森を生き抜いてきたんだ」
クシクシと、前脚で顔を洗う。
「魔力を殆ど感じなかった、つまり魔法じゃない……スキルの一種、って事かな?なんにしても興味深い」
「じゃあその子……?」
「正真正銘、俺の子だ。うちの家族だって言っただろ」
「お父さんだった!」
「おやこねこ……」
「いや子猫の親だ」
「へぇ……。なら、その子も変身?で良いのかな。するのかい?」
「厳密に言うと変身とは少し違うがそうだ、俺の子だからな。当然する……今はまだ出来ないだろうけどな」
「ニィ、ニィ」
「変身なんてしなくてもこのままで良いのに……!」
「生き抜く術だって言ってるだろ」
「君達はずっとこの森に?」
「…………いや、そうじゃない。俺達は――」
「――キャアァァァァ!」
「悲鳴!?」
「あっちの方から聞こえたよ!!」
「リコ……!?くそっ!!」
ポン、と獣人の姿に戻ったコジロウは子猫を抱いたまま素早く樹上に跳び乗り、木々を伝って悲鳴が聞こえた方向へと走り去る。
「ゼオン君!」
「行こう。放ってはおけない」
「私が先導します、ゼオン様とササラは後ろへ」
――――――――
アリスが魔法で木々をなぎ倒しながら進んだ先、少し開けた場所で三人は異様な光景を目にした。
先ず目に飛び込んだのは巨大な人影。
超級モンスター……【サイクロプス】。
人間の十倍程もある体躯、単眼の恐ろしい顔面。人間を好んで喰らうモンスターだ。
右手には自身の背丈と同じくらいに大きい金棒を持っている。
そして……左手には、本来此処に居る筈の無い人間族の女性が握られている。
小さなうめき声を上げる女性は、まだ辛うじて息はある様だ。
サイクロプスの足元には、振り下ろされる金棒を必死に避けながら、どうにか女性を助けようと必死に戦うコジロウが居た。
「リコを放せ!この化け物!!」
サイクロプスは、足元を駆け回るコジロウを叩き潰そうと金棒を何度も振り下ろす。
先に女性を腹に収めないのは、恐らくゆっくりと静かに食事をしたい為。
そして女性にとどめを刺していないのは……生きたまま食べたいからだろう。
「ミィ……ミィ」
鳴き声に目を遣ると、巨石に空いた穴の中で震える子猫が居た。
恐らくは此処が、親子の巣穴であろう。
「アレって、サイクロプス!?どうしてこんな場所に……!?」
「考えている暇は無いわ。――ゼオン様」
「うん、アリスはモンスターを」
「はい」
サイクロプスに向かって走り出したゼオンが狙ったのは左手……女性を掴んでいるほうの手だ。
水色魔力で身体を強化し、振り下ろされる金棒を身を捻って回避。
そのまま地面を蹴って跳び上がり、両腕で捕らえたのは親指部分。
両の腕でしっかりと固定したまま、関節とは逆方向に体重を掛ける。
掛けながら、左回転……外側に勢いをつける。
「グオォォォォ…………」
そうしながらも足で親指の付け根部分を圧迫し続ける。すると重なる痛みにより、遂にサイクロプスは女性を手放した。
空中に放り出された女性。身動き一つしない所を見るに、どうやら痛みと恐怖で気絶している様だ。
「わ、わ……とと!」
待機していたササラが、地面へと激突する前に女性を空中で抱きとめる。
「良し。……コジロウ、下がって!アリスの魔法が来るよ!」
呆気に取られていたコジロウ。しかし、ゼオンの言葉に素早く反応する。
「あ……あぁ、分かった!」
態勢を崩すサイクロプス。
遂には大きな振動を立てて、地面に倒れ込む。
「グオォ…………」
ただしダメージは無いに等しい。ゼオンはあくまでも、女性を無事に救出する事のみに注力したからだ。
「存在するだけで人に害を及ぼすモノ。哀しきモノよ。……私が滅してあげる」
四つん這いのサイクロプスを見下ろす魔人から、放射状に魔力が広がる。
真上から見ればまるで五芒星の様に展開した銀の魔力は、五つの先端を更に尖らせる。
先端は次第に一斉に右方向へ高速回転を始め……最終的に、魔人を中心に円の形を取った。
銀と青紫色に輝く円の模様は、正にバラ窓……ステンドグラスの様に美しい。
「咎人に断罪を。――<蝕む棘>」
サイクロプスの周囲から銀の薔薇が何本も生える。
薔薇は、棘の無い茎をうねらせ次々とサイクロプスに絡み付いていく。
「グオォォォォー……!」
絡む蔓を力任せに引き千切ろうともがくも、びくともしない。
全ての薔薇がサイクロプスを覆うように絡み付いた後、花弁が一斉に光る。
それを合図として、茎からニョキ!!と何百もの大きな棘が生え、サイクロプスの全身を貫いた。
「ー…………!!」
銀の薔薇は更に輝きを増し、次第にその魔力がサイクロプスの身体を内外から侵食する。
凍った様に……しかし凍ったというよりは真っ白に枯れた様にしてその動きを完全に停止したサイクロプス。
薔薇が棘を引っ込めて、ゆっくりと地面へ戻っていくのと同じ時間を掛けてサイクロプスの身体は灰の様に空気中へ崩れ、霧散していった。
「――ふぅ。モンスター相手は気が楽で良いわね」
「お疲れ様。アリス」
「ありがとうございます。ですがこれしきの相手、何でもございません」
「やっぱりアリスさんて凄い……!これがSランク2位の力なんですね!」
『二位』に反応したアリスがササラの頬を両手でムギュッと包む。
「良い?ササラ……数字は言わなくて大丈夫よ」
「ふぁい」
「あ、アンタ達……一体なんなんだ」
「僕達は冒険者なんだ。そんなに構えなくても君達に何もしないよ」
「冒険者……?」
「それより、今は彼女を」
「そうだ、リコ!」
ササラの腕の中、未だ気を失っている女性にコジロウは急いで駆け寄り声を掛ける。
「おい……リコ!目を覚ませよ……!」
「ん、うぅ……ん」
「リコ!!」
「う……」
「――うるさーいっ!!」
「いだッ!!??」
女性から繰り出された拳。
コジロウはまさかの不意打ちを鼻先に喰らって地面に転がった。
アリスとササラは目を点にし、ゼオンは感心したように頷く。
「あの体勢からあの威力……!良いパンチだ!」
「いや、あの……」
ガバッと飛び起きたコジロウは、思わず大声を出す。
「リコてめぇ!!何しやがる!?」
「コジロウってば、うるさいんだもの!いつも言ってるでしょ、朝は優しく起こしてって――」
そこで女性は気付く。
自分が見知らぬ少女に抱えられている事と……見た事が無い人達に囲まれている事態に。
「あ……ありゃ?えっと……何?」
――――――――
「――ほんっとーにありがとうございました!!」
「いえ……無事で良かった」
サイクロプスに襲われていた女性『リコ』は、コジロウから諸々の事情を聞き、ゼオン達に深く感謝した。
現在は巨石の穴……コジロウ達の家で腰を下ろし、全員で休んでいる。
「あの怪物がこの家を覗き込んできたとこまでは覚えてるんですけど、どーやらそのまま気絶しちゃってたみたいで!いやー、本当にあなた達は命の恩人です!」
「気にしないで」
ゼオンの手を握り、上下にぶんぶんと振る。
「なんかお礼しなきゃですね!ねー、コジロウ!」
「そうだな」
「リコ、だったかしら。取り敢えずそろそろその手を離してもらえる?」
「へ?……あ、確かに!ごめんなさい!」
「全く……」
「本当に助かりました!改めて……あたしはリコ!なんか知らない内に別の世界から来た人間です!」
「別の……世界?」
「どういうコト?」
「この星に名前があるのか分かんないんですけど、あたしが居た星は【地球】って星で……ここは明らかにあたしの住んでた世界とは違うんですよねー」
「え?……えっ?ウチが馬鹿だからかな、全然分からない……」
「大丈夫だよ、ササラ。僕も全然理解出来てない」
「その話が本当だとして……貴女はどうやってこの世界に来たのかしら?」
「いやー、それがあたしにもさっぱり!街の中を歩いてたら警報が鳴り響いて、なんだか良く分かんなくて……周りがざわついているのをぼーっと見てたら急に空がピカッて光って」
「警報?貴女の国は戦争でもしていたの?攻撃か何かを受けたんじゃ……」
「全然!めっちゃ平和な国でしたよ!……で、パッと目の前を見たら空中にぼやぼやってした黒い穴が開いてたんです。なんだろ、って思ってたら人の波に押されて……穴に飛び込んじゃって。気付いたらこの世界に」
「転移魔法の一種?……いえ、違うわね」
最初は流石に信じられなかったゼオン達も、感知魔法を通じて次第に気付く。
リコという女性から、一切の魔力を感じない事に。
「気付いた?アリス」
「はい。正直、驚いてます。……魔力が一切無い人間なんて……」
「本当なんだね、リコさんが別の世界から来たって」
「最初、この大陸のクルスコって街に居たんです。もー、びっくりですよ!みんな動物みたいな人ばっかだし、何喋ってるか分かんないし!」
「別の世界から来たのなら、それはそうだろうね」
「なんか石とか投げられるし、持ち物は全部取られちゃうし……終いには首輪ですよ、首輪!ヤバいとこに来ちゃったなーって思いましたね!夢なら早く覚めてー、って毎日考えてました」
「奴隷に……されていたんだね」
「ずっと身体中が痛くて痛くて毎日死にそうだった時、このコジロウに助けられたんです。まだ言葉も通じない頃から仲良くしてくれてた恩人で……今ではあたしの大切な夫です!」
「へーそうなんだ、コジロウさんかっこいい!」
「リコは、とある金持ちの奴隷だった。俺はそこの……まぁ、小間使いみたいな事をやっててな。隙をついて連れ出したんだ」
「へぇ……それから、二人はこの森に?」
「そうだ。だけど今日初めて知った。この辺りにあんな化物が居るなんて……」
「それなのだけど。あのモンスター……サイクロプスは本来、こんな場所に居る筈が無いの」
「……どういう事だ?だって実際に……」
「サイクロプスは通常、ダンジョンと呼ばれる場所にしか生息していないの。しかも、何箇所かに限定される。それ以外の場所での目撃情報は歴史上1つも無いのよ」
「それに、サイクロプスが居るダンジョンってこの大陸には無いんです。ウチが知ってる限りは」
「じゃあ、一体どこから……?」
「まだ推測の域を出ないから何とも言えないわね。ギルドには報告を入れたけれど……まずはそれ待ちかしら」
「モンスターとか魔法とか、凄い世界だなぁ。やっぱ」
「リコさんの世界にはモンスター居なかったんですか?」
「居ないね!猛獣とかは居たけど、それくらいかな」
「そうなんだ……じゃあ、冒険者も居ないんですか?」
「どうだろ……?意味合いは少し違うかもだけど、居たのかな……特に昔は。新しい大陸を探したりね!」
「……ですよね!やっぱり世界が違っても冒険は有るんだ……!」
「……それよりも、今あたし的にすっごく気になってる事……聞きたいんだけど、良いかな」
「?……はい、どうぞ?」
「あたし、この世界の……人間族って言うんだっけ。奴隷以外の人間、初めて見たんだけど……みんな、こんなに可愛いの?」
「ほぇ?」
「いや、だって2人とも可愛いもん!しかもすっっっっごく!!ちょっと有り得ないんですけど!!アリスさんにいたっては何!?女神!?」
「――は?」
「えっ、アリスさんは分かるんですけど……ウチも?」
「当たり前なんですけど!?ササラちゃんがもし並だとしたらあたしは何!?ミジンコ!?」
「なんか例えがおかしいような……」
「どうなの!?みんな可愛いの!?」
「えーっと……自分じゃ分からないからなんとも」
「私はその手の話に興味無いから」
「なんでー!?……はっ。そうだ、ゼオン君!?ゼオンさん、かな!?どうなの!?」
「呼び方はなんでも良いよ。二人が可愛いかって言われたら勿論。他の人と比べても仕方無いけれど……それも、勿論さ。……この世界の人達みんなが同じくらいかと言うと……答えはノー、かな。少なくとも僕にとってはね」
「なんか予想外な惚気が来た!……でもそっか、流石にね?うんうん、少し安心したー」
「そんなに気になるのかい?」
「だってこーんなに可愛い人達ばっかだったら居場所無いって……。今もほら、ヤバいよ。赤くなってる2人」
「「……………………」」
「合ってたでしょ?」
「あー……うん。確信犯なのね」
「見てくれがそんなに重要か?……俺にはさっぱりだ。なぁ」
「ミィ」
家づくり④へ続きます




