家づくり②
――――教国・ある街の宝石店――――
用事が有るから仕方が無いとはいえ、そう何度も来たい国では無いわね……やっぱり。
以前にゼオン様をお助けに来た時にはダンジョンにしか入らなかったから問題無かったけど……
街に一歩入れば、見たくもない現実が目に入ってくる。
「早く運べ、下獣!少しでも遅れれば今日の餌は無いぞ!」
教国に住む、裕福寄りの人間の殆どが所有している奴隷が。
所謂、亜人……獣人に始まる、ヒューマンでは無い種族。
教国ではその全てが奴隷の対象になっている。彼等に言わせれば、人間族以外は人ですらないそうだ。
人で無いのなら、どう扱おうが何の問題も無い、と。
宝石店の店先で、鞭で叩かれながらも必死に貨物を運ぶ豚獣人から少し目線を移せば……そこにはまた、虐げられる亜人が居る。
街の至る所に、人間から酷使されている人達が居る。
1つの落ち度も理由も無く、殴られ蹴られる人達が。
「……本当……腐っているわ」
奴隷達が犯罪者の類ならばまだ、分からない事もない。もしくは、元々敵同士で恨みを買っていたのなら。
しかし彼等は元居た住処から強引に連れ出され、拐われ……その日を境に、不当な扱いを受けている。
弱肉強食が世界の理とはいえ……流石に同情を禁じ得ないわね。
単純に、見ていて気持ちの良いモノでも無い。
それに……恐らくは、この中にも居るのだろう。
祖国から連れ出された、同郷の者達が。
「いらっしゃいませお嬢様。本日はどの様なご用向きで?」
妙に気持ちの悪い笑顔で、店主であろう男が話しかけてきた。
随分と目聡い事。
「生活関係の魔石を探してるの。店に有る物を全部見せて頂戴」
「承知致しました。少々、お待ち下さい」
厭らしい笑顔を貼り付けたまま、店の奥へと引っ込んでいった。
生活関係……暮らしに関わる魔石は大抵が高価だ。一般人ではおいそれと手が出せないくらいには。しかしそれが有れば、確実に暮らしは豊かになる。
だからでしょうね、店の奥がにわかに騒ぎ出したのは。
上客か……カモが来た、と。
名のある冒険者か、若しくは金持ちの箱入りか。測りかねているのだろう。
……あまりの生理的嫌悪感の仕業なのか少しだけ、悪戯心が湧いた。
今、耳を隠しているこのフードを取ったら一体どうなるのかしらね。
私が犯罪者として指名手配されているのは王国と帝国。
……まぁ……王国は今では問題じゃないけれど、帝国では変わらず第一級の犯罪者扱いだろう。
ただ、亜人である私はこの国では犯罪者よりも酷い扱いを受けるかも知れない。ギルドの影響力を以てしても。
「――ふぅ」
やっぱり、やめておきましょうか。
下卑た目を向けられるのも勘弁だしね。
そんな……詮無き事を考えていたら、見知った顔が通りの向こうから近付いて来た。
「アリス先輩!お久しぶりッス!」
「……ゼンフィス」
……また厄介なのに捕まったわね。
Aランク冒険者『ゼンフィス』。
年上の癖に私を先輩呼びしてくる、口調が喧しい男。
何年も前に偶然、クエスト上で同行してからというもの、なにか変に懐かれてしまったのよね……。
街行く女性達がゼンフィスを見ながらきゃあきゃあ騒いでいるけれど、どこが良いのかしら……こんなの。
「いやいや、ゼンフィで良いですって!いやぁ自分ラッキーッス!まさかこんな所で先輩にお会い出来るなんて!」
「……ゼンフィス、私は今忙し――」
「やっぱこれって運命ッスかね!?自分、お嬢に言われてたまたまこの国に買い物に来てたんッスよ!そしたらなんと先輩が居るじゃないッスか!?もうテンション爆上がりで!!あ、すんません自分ばっか喋っちゃって!先輩はなんでここに居るんス!?忙しいって言ってましたけど、この宝石店でお買い物ッスか!?」
…………なにか……いつも以上に鬱陶しいわね。
テンションが爆上がり?……上がってるのは結構な事だけど、こっちは下がりっぱなしよ。
「えぇ。私も買い出しに――」
「やっば、マジですか!?うわぁ目的も一緒なんてマジやべぇ!!あ、自分この街に部屋取ってるんスけど!先輩は!?」
頗るイラッとした。
「用事が済めば直ぐに帰るわ。こんな所……いつまでも居たくはないし」
「いやぁ、やっぱそうッスよね〜!自分もこんな地味な場所、先輩には似合わないと思うッス!!あ、先輩お腹空いてないッスか!?自分、旨い店知ってるんス!これから一緒にどうスか!?」
「丁重にお断りするわ。未来永劫、永久に。永久に。永久に」
「うわぁ厳しー!!そんなとこもやっぱ素敵ッス!!流石ッス!」
あぁ……ゼオン様にお逢いしたい。今直ぐに。
「ゼンフィス貴方、油を売っていて良いの?リーダーの所へさっさと戻ったほうが良いんじゃないかしら」
「いやぁ、それが今、うちのお嬢はクエストで超忙しくて!あ、全然ピンチとかじゃ無いんスけど!ただ予想よりもめっちゃ長引いてるんで、自分が色々と買い物に来たんスよ!泊まり込みで!」
「……貴方一応、あの子の護衛なのよね?」
「いーやいや、先輩も知ってるでしょ!お嬢に護衛なんて必要無いですって!自分なんかより1万倍強いッスから!」
……まぁ、それはそうね。
でも、王国との戦の間も少し気になっていたけれど……
「あの子がそれ程に苦戦しているクエストって一体……?」
「あっダメッス!いくら先輩でもそればかりは話せないッスよ!すんません!!」
「あの、お客様?準備が整いましたのでこちらへどうぞ」
……あら。
もう少し時間が掛かると思っていたのだけど。
店主を見れば、張り付いた笑顔は若干ではあるが剥がれかけていた。
喧しいゼンフィスも偶には役に立つのね。
アレでも一応、名の通った冒険者という事かしら。
「じゃあお別れね。もし何処かで機会がもし有ればまたそのうちいつかまた遠い未来でさようなら」
「いやー……!!名残惜しいけど仕方無いッス!!失礼します、先輩!!くあぁ……!!」
去り際も煩いわね、全く。
店の奥に入ると、整列する何人かの店員の前に、大きな机の上に所狭しと敷き詰められた大小様々な魔石があった。
「お待たせ致しまして申し訳ございません、お客様……こちら、この店で扱っております生活関係の魔石全てでございます」
「ありがとう。見せてもらうわね」
こっちの大きいのは……灯火系の石か。リビング用に使えるわね。
次は……加熱系。これも必須。
冷却系、風力系、湧水系、分解系、切断系。数はまぁ、大丈夫そうかしら。
あとは……そうだ。
「ねぇ、断熱系は無いの?」
「申し訳ございません、そちらは当店では取扱がありませんので……」
「……そう」
うーん。
魔石でなく、混ぜ込んだ資材で間に合わせようかしら……?
……うぅん、ダメね。アレは少し無骨が過ぎるわ。
私だけならともかく、ゼオン様が暮らすのだからもっと拘っていかなくちゃ……
…………あっ。
今さらながらその事実に気が付いて、思わず赤面したのが自分でも分かる。
ゼオン様と暮らす……!!
……1つ屋根の下で!?
朝も昼も夜も……共にする……!!
「そんな……いやでも……ふふっ……!」
「あ、あのぅ……お客様……?」
あんな事やこんな事が有り得るかも知れないと言うの……!?
ずっと……ずっと、夢見ていた事が!?
…………でもダメ!ダメよアリス!
そんな、不埒な妄想をしてはダメ!
ゼオン様に申し訳が立たないわ……!!
「ふふ……!……あはっ!ふふふふ……!!」
「お客様……」
――――はっ。
気付けば店員達の生温い視線が突き刺さっていた。
「……っ、コホン!……中々の物ね!これ、全部頂くわ」
「は……はい?全て、でございますか?」
「えぇそうよ。包んで頂戴」
「お客様……大変失礼で恐縮ですが、ご予算はいかほどでございましょう?こちら全てとなるとかなりの……」
ローブの下から金貨の入った袋を取り出し、店主に渡す。
「足りない?足りないならまだ用意するけれど」
袋の中身を見た店主は目を剥き、興奮した様子で叫ぶ。
「と……とんでもございません!えぇもう十分に!……ええい、お前達!!何を突っ立っている!?お客様をお待たせするな!!早く!!早くしろっ!!」
……醜いわね。
それにしても……
リオン様が居なくなってしまった後……。
ゼオン様の居場所がほぼ分かった後。
金なんてもう要らないと思っていたけれど、そんな事は無かったわね。
冒険者としての報酬は、まだまだ御二人のお役に立てる。
持っておいて、良かった。
現在が有ったのだから……自暴自棄にならなくて、良かった。
「お客様、こちら御所望の品全てでございます!大変にお待たせ致しました!」
魔石が入った箱がぎっしりと詰め込まれた大袋を受け取る。
「お買い上げありがとうございました!またのご来店、心よりお待ち申し上げます!」
丁寧に、角度も速度も揃った店員達の礼を見て心から思う。
2度と来たくない、と。
「さてと……」
どうしようかしら。
断熱系の魔石は絶対に欲しいけど……心当たりは……と。
「……そうだわ」
そう。
売っていないのなら、譲ってもらえば良いのよ。
転移魔法を起動し、この国のギルド支部へと跳ぶ。
――――教国二大都市の二・【テスタ】――――
教国には二大都市と呼ばれる二つの主要都市がある。
一つは皇都。
そしてもう一つが此処【テスタ】の街だ。
教国では、王国などに見られる貴族制度とはまた違った身分制度が敷かれている。
大きく分けて二分される身分の内、下位に位置する身分の者達が集まるテスタは人口一千万人を超える、超が付く程の人口密集地帯となっている。
この人口には当然、亜人奴隷等は含まれない。
テスタには冒険者ギルドの支部も在り、教国における、冒険者達の拠点にもなっている街だ。
――――――――
「支部長!起きて下さいってば!支部長!!」
「…………んあ?……ふあぁ〜〜……っ!……あんだよダン坊。せっかく人が気持ちよく寝てたっつーのによぅ」
冒険者ギルド・テスタ支部長『ゲリアス』。三十六歳。
毛髪一本も無いつるりとした頭の、大柄の男。
「すいません……って、今そんなのどうでもいいので早く!大変な事になってますよ、下!」
「あぁ??」
ゲリアスは座り心地の良いソファから重い腰を上げ、一階に続く階段を下りる。
一階に着くと、そこには……
「死ぬぅ゙……死んじゃう……!誰か助けて……!」
首を片手で掴み上げられ、今にも気を失いそうになっている女性冒険者が居た。
「……いや、こりゃあ何の騒ぎだよ!?取り敢えずそいつを離してやってくれ!頼む!」
その冒険者を見たゲリアスの意識は瞬時に覚醒し、場を収めようと頭を下げる。
「あら、ゲリアス。……カダンは何処かしら?私、あの子に用があるの」
「いや待て待て!その前に離してやってくれよ銀氷!もう大分ヤバいぞそいつ……!!」
女性冒険者の顔は青紫色になっていた。
「最初から殺す気なんて無いわ。少し思い知らせただけよ」
アリスがパッと手を離すと、女性冒険者はその場に崩れ落ちる。どうやら、既に気を失っている様だ。
「いや、殺し合いが御法度ったって殺さなきゃ何しても良い訳じゃないだろが!?一体どうしてこんな事になったんだ!?」
気を失った女性冒険者の下に数人が駆け寄る。恐らくは仲間の者達だろう。
「私はただ、こいつらのお目当ての居場所を知らないか聞いただけよ」
「嘘つけ!」
「それが……一応事実らしいんです、支部長」
「おぉ、ダン坊!もう事態を把握したのか!流石だぜ、助かる……!」
「なんとか。お久しぶりです、銀氷さん」
「ご機嫌よう、カダン。貴方なら私が聞きたい事が分かるわね」
『カダン』……通称ダン坊(ゲリアス限定)。十三歳。
一見、少女の様にも見える黒い長髪の少年。
テスタ支部長ゲリアスの右腕と呼ばれ、実際にも副支部長という役職に就く若きエリート。
「えっと……たぶん、グウェインさんの居場所……ですよね?」
「そう。今、何処に居るかしら?クエスト中で無いのはそこの女から聞いたわ」
「いえ、あの……ごめんなさい。たぶん普通に家に居ると思います」
カダンは何故か怯えながら、アリスに一枚の紙を渡す。
そこに書かれていたのはグウェインの住所だった。
「一々謝るその癖、まだ直っていないのね」
アリスは紙を受け取るとそれを一瞥し、すぐに紙を魔力で粉々にした。
「おいダン坊!今のまさか……」
「いえその、ごめんなさい!でもたぶんこれが1番手っ取り早いので!」
「っ…………お前はほんとに……」
ゲリアスは空いた口が塞がらない。
カダンがやった事は、ギルドの規則にぎりぎり抵触していたからだ。
「良いのよゲリアス。どうせ誰も気付かないわ」
「そういう事じゃねーだろ!?……ったく!そんでさっきの騒ぎは結局、なんなんだ?……おい待て銀氷、しれっと転移しようとするな」
「忙しいのだけれど?」
「騒ぎを起こしといて、そりゃねーだろ……せめて状況確認が終わるまでは居てくれ。頼む」
「仕方無いわね……」
「……で?一体何があったんだ、カダン」
「あ、はい!さっきも言った通り、グウェインさんのファンである彼女達に銀氷さんはグウェインさんの事を聞こうと話しかけました。ほぼ毎日この支部でグウェインさんを待つ彼女達は結構、有名ですから……」
「まぁ……そうだな。異名まで有るしな」
「それで、話しかけられた彼女は二言三言、会話を交わした後、何事かをアリスさんに言い放ちました。……そこまでは分かっているんですけど、ごめんなさい」
「こんだけ場が荒れてちゃ仕方ねぇか。そこら辺は本人に聞くしかねぇが……お前達」
ここで初めて話を振られた女性冒険者達は身をビクッと竦ませる。
「銀氷に何を言ったんだ?」
「わ、私は別におかしな事は言っていません!ただ…………ヒッ!?」
「……おい銀氷、魔力を収めてくれ」
「…………ふぅ……そこの女はあろう事か、私の一番大切な御方に下劣な興味を持ったわ」
「……んん?……興味?馬鹿にした、とかじゃなくてか?いや、それくらいだったら別に良いじゃ――」
「仮にそうだとしたらその女はもうこの世に居ないわ」
「……っ!!お、おう!分かったから落ち着いてくれ!!俺が悪かったから!この通りだ!!」
ゲリアスは堪らず土下座した。……彼自身は特に悪い事はしていないのだが。
「全く……。ギルドに登録する事の弊害の1つがこんなに早く出るなんてね」
「あー……つう事はアレか。お前さんがパーティ組んだってアレ。登録したてでパーティリーダーって……」
「登録写真を見ただけでそんな……!……私は節操が無い女は嫌いよ。それだけ」
「……事情は分かった。つまり、やっぱお前さんが悪いじゃねーか」
「は?……何がかしら」
「いや誰がどう見ても10:0だっつうの!!……あ、オイ待て銀氷!逃げんな!」
アリスは逃げるように転移していった。
「ったく、あの女……!!いつもいつも!……ん?ダン坊、どうした?」
「……あっ、えっ!?な、何がですか支部長?僕は何も……」
「ふーん……?ま、良いか。俺は寝直すからなぁ……後の事は任せた……」
――――――――
「――此処ね」
ギルドの外に転移したアリスが飛んできたのは、テスタの街の一角。
お世辞にも綺麗とは言えない街並みに、その家は建っている。
家の前に降り立ったアリスはゴンゴン、と扉を叩く。
数瞬の後、家主が扉を開く。
「我が家へようこそ……銀氷殿。どうか穏便に事が済むのを願っているよ」
【神旋風】『グウェイン』。
Sランク冒険者であり、序列は八位。
「その口振りだと、私が来るのは分かっていたみたいね」
「残念ながら、自分は君の様に圧倒的ではないのだ。自発的かつ積極的に情報の収集くらいはしないと生き残れないからな」
グウェインは立ち話もなんだから、とアリスを家の中へと招き入れる。
しかし、アリスは首を横に振った。
「折角のお誘いだけれど、ここで良いわ」
「そうか。……それで、自分に用とは?」
「グウェイン、貴方確か魔石収集の趣味が有ったわよね」
グウェインの額に、たらりと汗が流れる。
「まぁ……多少は。……まさか」
「譲って欲しい魔石が有るの。断熱系を探しているのだけど、質の良いのを持っていないかしら?」
「やはり……。あぁ、所有はしている。……試しに幾つ欲しいのか言ってもらえるか」
「幾つ持っているの?」
「――は……」
「いくつ、もって、いるの?」
ニッコリと笑って言われ、グウェインは思わず項垂れる。
全く以て……相も変わらず傍若無人の魔人だ、と。
だが彼は断れない。冒険者として、アリスには多大な恩と借りが有るからだ。
「これで全てだ。どうだろうか。……どの程度……必要だろうか」
グウェインが家から引っ張り出して来た断熱系の魔石は大小、三十個程。
「あら、思ってたより多いわね。こんなに有るの?禄に使用もしてないみたいだし勿体ないわよね?なら全部……」
「ま、待て!待ってくれ!!譲る!譲るから、慈悲をくれ!せめて半分に……!」
「――冗談よ。対価は相場の3倍、個数はそっちに任せるから譲ってもらえる?」
「は……あ、え?今なんと……」
「2度は言わないわ」
グウェインはある種の戦慄を抱いた。
彼が知っているアリス・フラワーガーデンからは、とても信じられない台詞が飛び出したからだ。
「何かの陰謀か……!?いや、それとも偽者!?いやしかし……」
「なにかとても馬鹿にされている気がするのだけど」
「あ……あぁ、いや……済まない。君からまさか譲歩等というものが提案されるとは思ってもみなかったもので」
散々な言われようだ。
だが、これがアリスを知っている冒険者達の共通認識である事もまた事実。
ゼオンが知らない期間の彼女は、ゼオンが想像も出来ない程に荒んでいた。
ゼオンの妹……リオンの前では努めて平常を保ってはいたものの。それ以外の時間は名実ともに『魔人』であった。
「いいわよ?お望みなら全て貰って……」
「いや!いや済まない!直ぐに準備をしてこよう!あぁそうだ、それが良い!」
グウェインはそそくさと家の中に引っ込んでいく。
「…………なんだか納得いかないわ」
再会を果たした事で、様々な面で救われたのはゼオンだけでは無い。
アリスもまた――
「さぁ、これだ!選りすぐりの10個を用意させてもらった!」
「あら。異名の通り、速かったわね」
「当然だ、機を逸しては……いやいや!なんでも無い」
「……。……それで?どのくらい払えば良いかしら」
「ん?いや対価は要らないが」
「えっ?」
「む?」
グウェイン宅の軒先の下、二人のSランク冒険者は数秒の間固まる。
「……言っておくけどさっきのは本当に冗談よ?ちゃんと相場の3倍は――」
「あぁいや、そうではない。言葉通りこれは君に譲ろう。必要としている知人に物を譲る……何の事も無い」
「…………本当に良いのかしら?後から言っても……」
「心配せずとも何の裏も無いから安心して欲しい。どうしても理由が必要なら、先行投資だとでも思ってくれ」
「……成程?……なら有り難く頂いていくわ。どうもありがとう」
「気にしないでくれ」
「……少し……少しだけ、分かった気がするわね」
「?何がだ」
「別に。……貴方に熱狂的なファンが居る理由かしら」
「……ははっ。君に言われると照れるな、どうも……」
「…………あっ。だからといってそういう意味では無いわ!微塵も!可能性は0よ、勘違いはしないでね!」
「いや全くこれっぽっちも考えすらしていないから安心してくれ、というかその魔力を抑えてもらえると嬉しい」
「もう行くわ!魔石、ありがとう!それじゃ!」
そう言い残し、アリスは転移する。
一人残ったグウェインは、空を見上げて零す。
「皆が君に何度も助けられているのは事実だ。君に助ける気が……もし、無かったのだとしても。これくらいで返せるとは思ってもいないが」
頬を掻く。
「それに、君に憧れる者など星の数ほどにいるだろう。決して触れぬ光に手を伸ばすだけの、叶わぬ者達……自分はその中の1人で十分だ」
――――獣人大陸・南方――――
「ひとまずは心配要らないかな。目立った傷も無いみたいだ」
「良かったぁ……怪我とかじゃなくって」
開拓の途中、気を失った子猫を保護したゼオンとササラ。
彼等は今、湖のそばで子猫の容体を確認していた。
生後間もないだろうその小さな身体は、琥珀色……アンバー色の体毛に包まれている。
ふわふわとした体毛は、不思議と見る者の心を惹きつける。
「それにしても可愛い〜……!でも……やっぱり親猫のところへ帰してあげないといけないよね?心配してるだろうし」
「そうだね……開拓は一時中断してそうしようか」
「じゃあ、この子が目を覚ましたら行ってみよ!」
と、そこにアリスが戻って来る。
「只今戻りました、ゼオン様。……あら?どうかしました、か…………」
「アリスさん!この子、親から逸れちゃったみたいで……」
「うん。一匹で森の中を彷徨っていたみたいなんだ。で、今から親猫を探しに行こうと思うんだけど――」
「ね、こ」
「……アリスさん?」
「…………ねこ…………!!」
アリスは子猫を前に、プルプルと震えている。
撫でようとしているのか、手を伸ばし……だが引っ込める。それを何度も繰り返す。
「ゼオン君……」
「そういえば忘れてた。アリスってば、猫が大好きなんだよ」
「意外……」
「かわっ……かわいい……!小さい……ふわふわ……」
「ま、暫く放っといてあげようか」
「……そうだね」
――――――――
「コホン!……ゼオン様、そういう事ならアリスもお供します!森は危険がいっぱいですから!」
小一時間程経った頃、アリスは我を取り戻した。
「もういいみたい」
「うん。結構待ったね」
アリスの顔は真っ赤だ。
「満足したのかい?僕等はまだ待てるよ」
「な、何がでしょう!?」
「誤魔化すの下手ですね、アリスさん」
「何も誤魔化してなんていないけれど!?」
わたわたと慌てるアリスの後ろで、子猫が目を覚ます。
ぐ〜〜っ……と伸びをし、ガラス玉の様な目をアリスに向ける。
「あ。子猫が起きた」
「えっ……あ、あぁぁ……!!」
子猫はアリスの足に擦り寄ってきた。
優しく抱き上げたアリスの表情は、蕩けていた。
「…………っ!!んにゃあ……!」
「ね、ゼオン君。いつ頃出掛けられると思う?」
「ん、うーん……どうだろうね……あはは」
家づくり③へ続きます




