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黒の創世  作者: uyu
五章 家づくり

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20/24

家づくり①

 「おきたね」

 「起きた」

 「りゅうがめをさましたよ」


 「長い年月を掛けてこの世へと帰ってきた」


 「おぼえてるのかな」

 「きっと覚えてるよ」

 「かぞくのことはわすれないさ」


 「でも直ぐに飛んでいっちゃったね」

 「それこそおぼえているあかしだよ」

 「うん」

 「すごくおこってた」


 「助けに行ったんだ」

 「どっちかな」

 「多分」

 「ひめのほうだね」


 「戻ると良いね」

 「だれが?」

 「それは勿論みんなさ」


 「きっとだいじょうぶだよね」

 「うん」

 「きっとね」


――――西方大陸・通称【獣人大陸】――――



 ――西方大陸。


 この世界に於いて、最も巨大な大陸だ。

 獣人国が在り、住んでいる種族もその殆どを獣人族が占める事から通称、獣人大陸と呼ばれている。

 海沿いの北東地帯に獣人国が在るが、まともに開拓されている地域はその周辺のみ。

 それ以外の陸地は、手つかずの森林地帯が殆どである。

 森林地帯には様々な部族がそれぞれの文化で、太古からの生活を営んでいる。


 獣人国の王は『リック・ジルバニア』。

 王都の名は『クルスコ』。

 王都の人口は八十万人、獣人国の総人口は約一千万人。これには、未開の部族等も含まれる。

 この殆どは獣人族で構成されるが、一割に満たない割合で人間族も存在する。



――――――――



 冒険者ギルドと王国との間に突如勃発した戦争が終結して、一週間が経った。

 その極めて短い戦争期間と、王国の落日、そして王国の短慮無謀を揶揄し、他国からは【日没戦争】と呼ばれている。


 ドルバード王が元王国騎士エリザによって殺害された翌日、ギルド主導の講和会議がケイブの街にて行われた。

 そこでギルド側が要求したのは戦費の補填と恒久的な不可侵条約。

 その代わりにギルドから提案されたのは、今まで通りに王国側に求められたクエスト形式の問題であればギルド側で引き受ける……等の、いくつかの内容が盛り込まれた案。

 双方の代表が短い期間ではあるが協議をし、最終的な決定としてこれらを纏め、ギルドが提出した文書にドルバード()()()の女王に即位したミーティア・マルタ・ドルバードは調印した。

 これによって、王国・ギルド間の戦は終結。


 ――つまり、この戦争は()()()()()()()、冒険者ギルド側の圧勝に終わった。



――――――――



 そして、現在。

 この一週間でパーティ申請や旅支度をしっかり済ませ、アリスの祖父より譲り受けた魔導船ごと獣人大陸の南方へと転移して来た【黒の創世】一行。

 かねてよりの目標であった拠点構築の為にこの地へと臨んだ一行は今……現地の部族に囲まれていた。



 「アリスさん!?ちょっと話が違くないですか!この辺りじゃ獣人に遭遇するのも珍しいって……!」

 「あら。私は()と言ったわ」

 「それって何が違うんですかぁー!」

 「何を言っているの。そんなの当然、ゼオン様の御身の安全に決まってるでしょう」

 「ウチは!?」

 「もう……。危険はいっぱいだって言ったでしょう?安心なさい、ゼオン様と私が居るわ」


 「ねぇ見てよ二人とも!凄いね、獣人族ってこんなに種族差が有るんだね!兎人、鹿人……あっ、アレはもしかして鳥人!?」

 「はいっ、ゼオン様!どうやらこの集落には()()()が殆どみたいですが、獣人族は他にも種族が数多く居ますよ!」

 「なんで囲まれてるのに二人とも楽しそうなのかな!?」


 囲んでいる獣人達。

 その中で最も年上だろう、豊かな髭を貯えた鹿獣人の男性が歩み出て、ゼオン達に何やら話しかける。

 しかし……


 「########?」


 「?なんて言ってるのかな。アリス分かる?」

 「いえ……恐らくは独自に発達した特殊言語なのでしょう。読解魔法、翻訳魔法……どちらの辞典情報にも該当するものは有りません」

 「そっか。ササラはどう?」

 「え、えーっと。……ゴメンね、ウチも同じかも」

 「いや、仕方無いさ。うーん……。どうしようか?別に放って置いても問題は無さそうだけど…………ん?」


 鹿獣人が取り出したのは虹色に光る何かの実。

 それを三つ、ゼオン達へと差し出してきた。


 「えっと……?」

 「食べろって事じゃない?」

 「成程。じゃあ一つ……」

 「いけません!そんな、知らない人に渡された、何か分からないモノを食べるだなんて!」

 「じゃ、ウチが食べてみるね」


 「「あっ」」


 一つをひょいと摘み上げ、そのまま口へと運ぶササラ。

 「ちょっと!?ぺっ、てしなさい!ぺっ、て!」

 実をゆっくりと咀嚼していたササラの顔色は、だんだんと悪くなっていった。

 「…………ゔ」

 そして膝から崩れ落ちる。

 「ササラ!?大丈夫かい!?」

 「ゼオン様、お水です!これをササラに……!」

 「うん!ほら、ササラ!」


 「貴方達……!まさか毒を……」

 怒るアリス。

 膨大な魔力を隠しもせず、獣人達へと殺意を向ける。

 「#####!?########!」

 慌てふためく獣人達は、どうやら自分達の予想とは違う展開に狼狽えているようだ。

 「何を言っているか分からないけれど、私の仲間に害をなすならば容赦はしない……!」

 と、ここでササラが()()()()復活した。


 「まっ…………ずーい!!!!……何コレ!?めちゃくちゃ不味い!!凄く辛苦い!でも変に甘い!!」

 「……ササラ!?貴女、大丈夫なの!?体は……」

 「あっ、はい!大丈夫みたいです!」

 「###?……#####、######」

 「不味いなんてもんじゃ無かったんですけど!?死ぬかと……!……あれっ?」


 「ササラ、もしかして言葉……通じてる?」

 「う、うん。普通に」

 「まさかあの実を食べたから?……どういう仕組みなんだろ」


 「#####」

 「なんて言ってるの?」

 「貴方がたもどうぞって」

 「駄目ですよゼオン様!?そんな、危ない……!」

 「……ウチがもう食べたし大丈夫だと思いますよ?たぶん」

 「……あっ、()()()()意味じゃないのよ!?ただ、何が起きるか分からないし……!」

 「なら……アリスも。はい」

 実を受け取り、一つをアリスへと手渡すゼオン。

 「えっ。あ、あの?ゼオン様……?」

 「同時に食べよう。一緒なら問題無いでしょ?」

 「はぅ……!?」

 「ねっ?……良し、じゃあせーのでいくよ。せーの……っ」

 「あっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!」


 「もぐ」

 「……もうっ!はむっ……」



――――――――



 ()()()()食べた2人の顔色がどんどんと変わっていくのを見た。


 ……確かに酷い味だったもんね。

 辛くて、苦くて、酸っぱくて……更に甘さとしょっぱさ、あとなんか訳分かんない味がいっぺんにした。

 しかも、それひとつひとつが極限に感じた。

 極甘とか極辛とか、そんな感じ。

 ていうかまだ舌がピリピリ……ジンジンかな?してるんだけど。何アレ。化学兵器かなにかかな。

 一応、魔力とかに問題は無いみたいだから良かったけど。


 ――あ、ゼオン君がすっごい顔でゆっくりしゃがみ込んだ。うん、立ってられないよね。分かる。

 アリスさんは……あれ?

 顔色こそ青いけど、割と真顔……。

 ……あぁ、違うや。

 立ったまま……気絶してる。


 ……うん。

 ウチ何も出来ないけど、頑張れ2人とも。心から応援してるよ。



――――――――



 アリスが悪夢の様な何かから目覚めた時、見えたのは知らない天井だった。

 周りには木で出来た壁と、何人かの獣人が見える。

 心配そうに覗き込むその瞳は、恐らく心配してのモノだろう。


 「ぅ……ん」

 「あっ。アリスさん大丈夫?どこか具合の悪いとことか無い?」

 「サ、サラ……?ここは……」

 「獣人さん達のお家!休むのに使って良いって、貸して貰ったの」

 「そう……。……!ゼオン様は……!?」

 「ほぇ?居るじゃないですか。ほら」

 ササラが指差す先は、アリスから見て右上。

 「え……?」

 アリスがわけも分からぬままに少し首を動かすと、すぐ近くに見慣れた魔王の鎧があった。

 目線を徐々に上へとずらすと、そこにはやはりゼオンの顔が見えた。

 「や、アリス。身体は大丈夫かい?」


 状況を把握したのか、アリスの顔はみるみる赤くなっていく。

 そう、アリスはゼオンの膝を枕にしていた。


 「…………!?!?あっ、あのっ!!ゼオン様!?」

 「?……どうしたの?まだ休んでいて大丈夫だよ」

 「はっ、ひゃいっ!?い、いえ!!起きます……起きますから問題ございません!!身体も!」

 「……『も』???」

 「なんでもっ、にゃんでも無いですから!……っ、とにかくもうアリスは大丈夫ですっ!!」

 「……そう?」

 素早く飛び起きたアリスは、()()()距離を保ちながらゼオンの隣に座り直す。



 「そちらの娘さんも無事、目覚めて良かったですじゃ。改めて謝罪を……」

 そう言って頭を下げるのは、先程の鹿獣人。

 それに対して首を振り、頭を上げさせるゼオン。

 「いえ、もう十分に受け取りました。それにメリットのほうが遥かに大きかったのは間違いないのですから……むしろこちらが感謝します」

 「そう言って頂けて助かりますですじゃ。何しろ儂等にとっても不測の事態でしたのじゃ」

 「えっと……?」

 「アリスさんにはウチが説明したげるね!」

 兎の獣人の耳を触らせてもらっていたササラ。

 名残惜しそうに耳を離したササラが語ったのはアリスが気を失っていた間の事。


 この集落の長、鹿獣人の『ニル』……彼が言うには、ゼオン達に対する敵意等は全く持っていないのだという。

 遥か昔の事、この集落は戦う力を持たない獣人達が自主的に集まって作ったもので、以来極力外と関わらずに皆で力を合わせ生きているのだと。

 しかし突然何処からか現れた、見たことも無い服装をした知らない種族のゼオン達に戸惑い、一先ずは意思疎通を図らぬ事には始まらない……と、森の奥深くで稀に採れる【虹の実】を差し出した。

 虹の実は、獣人が食べる分には何の影響も無く『言葉の力』を授けてくれるのだと言う。

 だから貴方達があれ程に苦しむとは考えもしなかった、故に謝罪したい……と、ゼオン達に何度も頭を下げた。

 そうして、気を失ったアリスをゼオンが()()()この家……集落の長ニルの家へと運んだ。


 「……そう」

 アリスはニルに、ある疑問を投げ掛ける。

 「少し聞きたいのだけれど。その話では遠い昔からこの集落が存在したみたいだけど……以前に私がこの場所へと赴いた時、間違い無く此処には()()()()()()筈なの」

 「……儂等に定住の地は無いのですじゃ。しかし確かに、儂がこの群れを預かってから初の引越しではありましたですじゃ」

 どうにも言い難そうに話すニル。

 「とある事情が有り……この場所に移り住んだのが数ヶ月前の事ですじゃ」

 「?……まぁそこら辺は詳しく聞かずとも問題は無いのだけど……」


 「では今度はこちらから聞きたいですじゃ。貴方達は何が目的で此処へ来なさったのですじゃな?見たところ……明らかに獣人では無いようですじゃ」

 自らの膝に置いたニルの手は震えている。

 「やはり……儂等の身柄が目的ですじゃな?」

 周りの獣人達も微かに震えている。

 「……?何の話だろう」

 「実を言うと『来訪者』は貴方達が初めてではないのですじゃ。来訪者は必ず、我等から何かを奪っていくのですじゃ」 

 「なんだって……」

 「うそ!?それってつまり、まさか……!」


 「獣人ならば住処ごと。外から来た者達ならば我等の身柄を。……力を持たぬ我等の定めですじゃ」

 「ひどい!」

 思わず立ち上がるササラ。

 「……ほ。なんと()()()言葉を……しかしありがとうですじゃ、娘さん。強者に喰われるのが常の我等だが、無論……悲しみを忘れる事は簡単では無いのですじゃ」

 「……っ、そんなのっ……!当たり前じゃない!!」

 ぶつける先の無い怒りは、ササラの足を外へと動かした。

 「ササラ!」

 ゼオンがその後を追う。


 「娘さん、我等は何か失礼を働いてしまったのですじゃ……?あの紅色のお嬢さん、泣いていたように見えたのですじゃ」

 ニルの表情には、明らかに動揺と焦りが見える。

 「貴方達に色々と事情が有るのと同じよ。……貴方の言葉が、あの子の何かを刺激したのでしょうね」

 「成程……。しかし、儂の言葉に嘘は無いですじゃ。奪われるのならば最小限で()()()()()。それ故の嘘偽り無い言葉を選んだつもりですじゃ」

 「断っておくけれど……こちら側に()()()()()そもそも無いわ。私達はただ、この地に住処を造りに来ただけなの」

 「それは……」

 「勘違いしないで。なにも貴方達に出ていけなんて言わないわ。当然、住処を寄越せなんて話でもない。ただ……この付近の誰も居ない場所へ造るだけよ。それ以外には何も無い。互いに不干渉としましょう」

 「……儂等にそれを断る権利など無いですじゃ。それに、森は元々誰の物でも無いですじゃ」

 「ふぅ……。……良い?別にこれは命令だとか、そんな意味じゃないの。そう、ただの……世間話よ」

 「…………」

 「それじゃ。虹色の実を()()()()()()ことにはお礼を言っておくわ」



――――――――



 ――さて。

 ゼオン様とササラは……何処かしら?


 ニルの家を出て後ろを振り返れば、立派な大木が生えていた。

 成程。木で出来た家……ではなくて、木の中に作った家だったのね。

 よくよく辺りを見渡すと、同じ様な木が何本もある。そういう文化なのだろう。

 畑などは全く無く、家畜なども少ない様だ。かろうじて、乳などが採れる動物が何匹か居るだけ。

 草食系の獣人の集落なら……当然と言えば、当然だけれど。


 見える範囲に2人の影も見えなかった為、常時展開している感知魔法の範囲を広げる。

 「あっちね」

 ゼオン様の魔力を感じる方向へ歩き出す。そうしながら、あの子……ササラの事を考える。

 アースランド出身の少女。

 以前に読んだ資料には、王国による侵略戦争……いわゆる【辺境西方の戦い】。その中でも最大の規模で行われた第43次の時、彼女は2歳だとあった。


 2歳……。

 やはり、覚えているのだろうか。その凄惨な光景を。

 魔国と同じく……何もかもを蹂躙され、大切な人達が次々と奪われていく様を。

 別に私は当時のアースランドの状況を知っている訳じゃない。……でも、きっと。

 ……()()()()()()……無いでしょうね。


 もし覚えていなくとも、記憶の奥底にこびりついていたものが不意に呼び覚まされてしまったのかも知れない。

 ニルの話を聞いて……何処かで、己と重ねてしまったのかも。


 ササラの気持ちは、痛い程に分かる。

 何も出来ずに奪われる事は……自分が死ぬ事よりも余程、苦しいから。


 大好きだった父や母、皆が次々に居なくなる。

 まるで虫でも潰す様にして……殺される。

 ゼオン様とリオン様は突然に奪われたまま、どこに居るのかも分からない。

 そんな中で1人生き残った私は、むしろ死にたかった。

 皆と一緒の所へ行こうと思った事も……あった。

 どうにか耐え忍ぶ事が出来たのは偏に御兄妹の存在があったからこそ。


 ササラにも……兄が居て良かったと、そう思う。

 1人で生き残れたのか、とか。そういう意味じゃなくて、ね。

 ともかく、憤ってしまったのだろう。

 ()()()()()()()()()()()、と……真正面からそう言われた事に。

 まぁ……真理だとは思う。


 ――でも。

 違うのよ……ササラ。

 貴方の家族や、魔国の皆はあの獣人達とは決して違う。

 皆が今を生きていないのは、私達が現在(いま)を生きていられるのは。

 貴女や私を生かす為に、護る為に。

 彼等が必死に戦ってくれた故の……結果なのだから。



――――――――



 ニルの家を飛び出したササラは感情に任せて走り続けた。

 走って、走って……気が付けば、大きな湖のほとりに居た。

 「ぐすっ……」


 「……ササラ!やっと追いついた……」

 「ゼオン……君」

 「一人じゃ危ないよ。こんなに広い森なんだから」

 「……ごべんね」



 「ねぇ……ゼオン君」

 「……ん?なんだい」

 落ち着いた二人は、その場で座り込む。

 「前も話したけどウチ、小さい頃の事ってうろ覚えなんだ。……でも、なんでかな。長さんが言ってた事……どうしても許せなかった。奪われるのが必然だって言われたみたいで」

 「……」

 「どんなに弱く生まれたって、()()()定めなんて事……無いと思う。だってウチらは動物じゃない。人なんだから」

 「そうだね」

 「でも長さんは諦めてた。……ていうか受け入れてるんだと思う。最初から……悲しむのを」

 「……うん」

 「……そんなのって、ないよ!それがあの人達の()()()()なんだって事は分かる。こんなのウチの我儘なんだって事も分かってる!でも、でも……!」

 「良く分かるよ。……僕もそう思うさ」


 と、ここでアリスが二人に追いついた。

 「ゼオン様、ササラ!」

 「アリスさん……」

 「……。……少しは落ち着いたかしら?」

 「ごめんなさい、ウチ……」

 「別に良いのよ。……感情が溢れる事なんて、誰にでもあるわ」

 「…………兄から……」

 「うん?」

 「兄から聞いた、お父さんの名前。……さっきの人と似ていたから……」

 「……そっか」

 「でも丁度良かったかも知れないわ」

 「えっ……?」


 「この湖の周囲に建てようと思っていたの。――私達の家を、ね」



 「――まずは何から始めようか、アリス」

 「はい、ゼオン様。最初にやるのは土地を拓く事です」


 三人が立つ湖のほとり。

 湖の周りをぐるっと囲うのは、鬱蒼とした熱帯雨林である。

 気温も湿度もかなり高く、空気を吸えば青々とした森の匂いが鼻腔を通っていく。

 森にはそこかしこから得体の知れない鳴き声が響き……まさに、未開の地といった様相だ。


 「成程。木や草を取り払っていくんだね。平らな土地を広げていくイメージだ」

 「その通りです、後に畑など色々な所を整備したいので。そしてこの仕事を……ササラ。貴女に任せても良いかしら。材料は他から調達するから、いくらでも焼いてしまって大丈夫」

 「あっ……えっ?う、ウチが?」

 「えぇ、これをする事で貴女の魔力コントロールの向上や効率化に繋がると思うの。つまり1種の鍛錬ね」

 「で、でもウチ出来るかどうか」

 「『力』は必ずしも必要になるとは限らない。…………だけど、後悔してからでは遅いの。良く……知っているでしょう?」

 「っ……わ、分かりました!やってみます」

 「えぇ……お願いね。分からない事が有ればなんでも聞いて。私への通信魔法はゼオン様にお頼みして使ってもらいなさい。ゼオン様、よろしくお願いいたします」

 「通信魔法……覚えたてだけど。まぁ問題無いか」

 「よろしくね、ゼオン君」

 「うん。アリスは何をするの?」

 「私は各地から材料などを集めてきます。本当は……片時もお側を離れたくはないのですが」

 「転移魔法で各地を回れるのはアリスだけだし、仕方無いさ。こっちは心配無いから行っておいでよ」

 「はい。どうか十分にお気をつけて下さい、ゼオン様……直ぐに終わらせて戻って来ます」

 「うん」

 「ではアリスは行ってまいります」

 「いってらっしゃい」

 「ウチも頑張ります!」

 アリスは転移魔法を起動し、何処かへと跳んでいった。



 「じゃあ始めちゃうよー!」

 果てしない森を前に、ササラが気合を入れる。

 「そうだね」

 「……ところでゼオン君は何するの?」

 「僕?アリスからは特に無かったし、危険な動物とか植物とかモンスターが出たらその相手をしようかなって」

 「…………すっっっっ……ごく大切な役目だね、うん」

 「でしょ?つまり今の僕は君の為だけの騎士さ。困った事が有ればすぐ言ってね」

 「騎士……!ゼオン君が……」


 「僕、後ろの方から見てるから。頑張ってササラ。……ササラ?」

 「ふぇっ!?あ、うんっ!」

 斯くして。

 【黒の創世】による開拓が始まった。



――――――――



 難しい……!


 アリスさんに言われた様に、炎魔法で森を拓いていく。

 あらかじめ決めた範囲を燃やそうとしてみても、どうしても外側に膨らんでしまう。

 延焼を抑えようとすると、今度は全体の威力が弱くなって……木が()()()になっちゃう。


 「ササラ、何枚か障壁を作ってそれで壁を作ってみたらどう?」


 焼いた森から飛び出してきた虎を、魔法で抑え込んでいるゼオン君から助言が来た。

 あ、そっか……2つの魔法を同時に……?

 「むむむむむ……!」

 大きな障壁を4枚作って、次は……えーっと。

 ほ、炎を……。

 「……あっ!?」

 ボシュっと音を立てて障壁が消える。

 ……えー?

 「これ難しいよゼオン君!いつもどうやってるの?」

 「え?そうだなぁ……まずは頭の真ん中に線を引くかな」

 「ふむふむ」

 「で、線で割った右と左で別々に考える。ゆっくりでも良いよ。まず右で練った魔力で魔法を構築、そして手とか足とかから魔力を放出。……こう」

 ゼオン君の右手の上に黒い魔力玉が浮かぶ。

 「発動したら、右……頭の中のね。右はそのまま停止させて左に集中する。分解させないで、右は留めたまま今度は左でさっきと同じ事をするんだ。そうしたら左も発動する」

 左手から水色の魔力玉が出てきた。


 「これを、最初はゆっくりでも良いからやってみて。慣れればどんどん速くなって、戦闘にも使えるようになるよ」

 「……出来る気がしないよ?」

 「大丈夫、君なら出来るさ。僕が保証する」


 顔が熱くなってるのが分かる。

 そんな事言われたら、頑張らない訳にはいかないじゃない。

 「ウチやってみるね!」

 「頑張って。ちなみにアリスやダグニーは()()()()()()()()()するんだって。凄いよね」


 …………ほぇ?

 もしかしたら……人間じゃないのかも?


 「……うぅん!!ウチ負けないもん!!」

 気合を入れ直す。

 そう、負けない。容姿なんかじゃ勝てるわけない……実力でも。

 だけど気持ちじゃ絶対、負けない!



――――――――



 やっぱり、ササラの()()()()()は計り知れないと、改めて思う。

 鍛えれば鍛えるほどに、まだまだ伸びるだろうな。


 近接戦闘なんかは流石にまだ厳しいだろうけれど……魔法戦闘なら、あと一息でAランク冒険者の域に達すると思う。

 というか魔力量は既に相当のモノだ。

 アリスの見立ては正しいって事か……なんだか嬉しいな。


 「……ん」

 魔力反応?

 「きゃあ!!ゼオンくーん!!」

 ここまでにもう、何匹かの猛獣を魔法で()()()放してきた。

 でもここにきて遂に、モンスターの登場だ。

 「魔力に当てられて出てきたのかな」

 このモンスターは知っている。

 確か……

 「……スライム」


 小さな熊ほどの大きさの不定形の体と粘性、そして強力な酸を持つモンスターだ。

 物理攻撃は効き難く、再生能力も兼ね備えた凶悪な上級モンスター……初めて見たけどなんか気持ち悪いな。


 「こっち来てる!」

 「大丈夫、任せて。ササラは僕の後ろに」

 「う、うん……!」


 さて、確かスライムの属性は【水】だったかな。

 なら問題無いか……僕の魔力は二つとも通るし、なんなら黒だけでいける。


 「君を脅しても、何回でも来そうだし……潰すよ。ゴメンね」

 黒の魔力を練り、状態異常付与の魔法を発動する。

 多分、効くよね?

 「――――!」

 毒で体の色が変わったかと思いきや、スライムはその体を大きく地面に広げる。

 じわじわと変わっていくのはスライムの体の色……ではなく、透過して見える地面の色。

 「……毒を地面へと逃がしている?」

 どうやらそうみたいだ。

 暫くするとスライムは元の大きさに戻る。体の色も元通りだ。

 「なんだか全然へっちゃらみたい。どうするの、ゼオン君?」

 「そうだね……あ、そうだ。丁度良いからさっきのおさらいをしようか」

 「さっきのって……あ」

 「うん。二つの魔法の同時行使」


 右手に黒を、左手に水色を。

 頭の中に引いた線で魔力を堰き止めながら、留めた魔力を魔法へと構築していく。

 「良し。いくよ……まずは黒!」

 影魔法を発動。スライムの真下から素早く這い出た無数の影の手は、そのままスライムの周りに固定。

 スライムを覆うように……玉の様に。隙間の無い檻へと閉じ込める。

 そうして作った黒い玉を、宙へと浮かす。

 「……次に水色だ」

 竜の魔力を左手に纏う。

 更に魔力を注ぎ込み、形を整える。命を奪う、竜の爪へと。

 「潰れろ……!!」

 黒の玉を中心に向かって圧縮する。

 極限まで圧縮した玉は、今や拳ほどの大きさだ。

 それを、竜の爪で貫いた。


 玉は大きな高音と共に割れ、弾け飛んだ。

 「うん、魔力反応無し。……今のが同時行使だね。参考になったかな」

 「う……うーん?たぶん……?」

 あれ、いまいちだったかな。

 「ていうか凄すぎて殆ど分かんなかったかも」

 「あはは……うん。順序よくやれば良いよね」

 本当に、僕なんて凄くもないんだけどな……。

 魔力融合とかやってる人達はもう別次元だし。



 開拓を再開したササラを見ながらふと思う。

 「そういえば、ササラの着ている服とお兄さんの服って似てるよね」

 「あ、うん!これアースランドの民族衣装なの!」

 「成程、そういう事か」

 「そうだよ?…………あっ!もしかしてお揃とかだと思ってたの!?違うから!!」

 「え?いやそんな事……」

 「もー最悪!この際ガラッと変えちゃおうかな……!」

 「似合ってるし可愛いと思うよ?変える必要無いんじゃないかな」

 「かわっ……!?」

 「うん、可愛いよ。僕なんてこの魔王の鎧が普段着だし変えられないし……あれ?どうかしたの?」

 「……なんでもないよ」

 「そう……?」

 服か……家の中でなら、たまには鎧を脱いでも良いのかな。

 後で街に行ったら見てみよう。



 「……ゼオン君っ!」

 っと。また猛獣かモンスターかな。

 「これ、これ!どうしよう!?」

 ササラが抱えて運んできたのは……


 「……子猫?」

 どうやら気を失っているらしい、小さな子猫だった。


家づくり②へと続きます

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