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黒の創世  作者: uyu
四章 開戦

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17/24

開戦⑤


――――王都【サンクチュアリ】――――



 街中、建物の屋根を伝いながら疾走する二つの影。

 サラ・ワンダーが作り出した闇の中を、二人の騎士が城を目指し駆け抜ける。


 

 「リエット、もっと急いで急いで!」

 「ちょ……ちょっと待ってリタ……!力も出にくいっていうのに、更に障害物競走なんて!……ひょっとしてあんた、いつもこんな事してるの!?」

 「いつもじゃないよー!急ぎの時だけ!……寝坊しそうな時とか」

 「……いつもじゃないの!!」

 「そんな事無いよー。それより早く!ほら、手。貸したげるから!」

 「うぅ……そもそもなんでこんな道!というか道ですら無い!」

 「だってこのほうが早いもん」


 リタの手を掴みながら、リエットはふと下を見る。

 五階建ての建物から見る地上は、不意に吸い込まれそうになるくらい恐ろしい。


 「急がないとヤバいかもなんだから!ほら!」

 「分かってる、分かってるから!引っ張らないで!落ちちゃう!私、浮遊魔法は苦手なんだから!」

 「まったくもー……ん?」

 「ひぃぃ……」

 「ね、リエット。あっち」

 「え!?なに!?ちょっと今いっぱいいっぱいなんだけど!」

 「仕方ないなぁ。んーー、しょっと」


 リタが強引にリエットの手を引き、屋根の平坦になっている場所へと立たせる。


 「きゃっ……!?」

 「これで大丈夫でしょ?ほら、あっち」


 リタが指差す先に在るのは遥か遠く、王都を護る外壁。

 その上で時折、火花の様な光が散っている。


 「……ぁ……ありがと。こほん……ん?何アレ、戦いの光……?あんな所で一体誰が」

 「あれ副団長(エルネア)だよ」

 「――は!?」

 「もう1人はミレイア。……なんで?リエット。どうしてあの2人が戦ってるの?」

 「私にだって分からないわよ!?大体、エルネアはまだ動けない筈じゃ……」

 「ねぇリエット。どうする?」


 リエットは瞳を閉じて思案を巡らす。

 『何故』と『焦り』を心の中から追い出して『騎士の使命』と『友達』を天秤に掛ける。

 時間にすれば一分足らず。リエットが目を開き、決断を下す。


 「――あの場は副団長に任せましょう。戦力が足りな過ぎる現状を考えれば、王城に残る騎士達と合流するのが最善よ」

 「後悔、しない?」


 リタは、リエットの決断に疑問を呈した訳では無い。

 ただただ……純粋な心配から出た言葉だった。


 「問題無いわ。これが戦争だと()()()しているし、リタの()()を信じてるから」

 「……」

 「それに、あの子達よりも心配な子が城で待ってるわよ?早く行ってあげないと」

 「そうだね。……うん!分かった!いこっ」


 騎士達は再び走り出す。

 先程迄、高所に震えていたリエットも……地面を駆けるのと変わらない様な速さで暗闇の中を走る。


 「ねー、リエットー!」

 「……どうしたの!」

 「リエットもあたしの家族だからね!分かってると思うけど!」


 「――!……っ、はいはい!無駄口叩いてないで急ぐわよ!」

 「えーっ!ひどい!じゃあ良いもん、さっきプルプルしてたのファナにバラすから!」

 「どうせどっちにしろバラすでしょあんたは!」



――――――――



 「ぃー……よっと!」


 ギャリリ……!と、鉄の上を鋼が滑る。

 それと同時に大きな火花が連続して散り、薄暗闇の中に二人の女性を浮かび上がらせる。


 「しっかし……相変わらず変な武器だよ……ね!」


 エルネアの操る二本の小剣が、ミレイアが構える鉄の錨と衝突する度に火花が散る。


 「えー?そうかなぁ」

 「いやそうでしょ。ていうかそもそも武器じゃないし。普通そんなの使えないから」

 「うーん?私にとっては手足みたいなものだからな〜」

 「今更だけど……ほんっとーに変わってるよ。アンタは」

 「褒め言葉!?」

 「違うから」



 ――Aランク冒険者『ミレイア』。

 歳はエルネアと同じ十八歳であり、王国騎士リタ、ファナと同じく元戦争孤児。

 瞳の色は茶色、髪は鈍い銀色、緩い癖っ毛のミディアムヘアに特徴的なカチューシャを着けている。

 身に着けている物は丈の短いシャツとスパッツ、それと靴のみで、かなり身軽な印象の女性冒険者。



 「大体さ。混血っても半獣人の私と、なんで力で渡り合えてるの?」

 「力持ちだから?」

 「あのね。それがなんでって聞いてるの。力持ちなのは知ってるよ」

 「さぁ……なんでだろね?考えた事も無いや。……あ、私も混血だからかな!?」

 「馬鹿。アンタは獣人との混血じゃないでしょうが」

 「あー、馬鹿って言った!」

 「言ったがどうしたっての。一応……ていうか普通に戦闘中なんだから」


 話している間も、二人が武器を振るう度に光が散る。

 二本の小剣がミレイアの戦闘能力を奪うべく、番の燕の様に素早く奔る。

 その連撃を、地面に突き刺した錨を軸に器用に跳ね回り()()()。時折、魔法の放つ光も見える。


 「ミレイア。アンタ……勝手した罰、後で与えたげるからね。絶対」

 「急になになになに!?勝手なんてしてないよ!」

 「相談も無しに参戦なんてするのは勝手じゃないの?」

 「だって楽しそうだったし」

 「……アンタまさかそれだけで」

 「へ?うん。お祭りみたいなものじゃん?」

 「このっ、大馬鹿……!もう二度と耳と尻尾、触らせてあげないから!」

 「…………えっ!!?なんで!?なんでー!」

 「騎士(わたし)の気持ちも知らないで勝手した罰よ!」


 小剣が更に速度を上げる。


 「さっさと決める……!足の1本や2本は覚悟しなさいよ!後で治して貰えるから!」

 「足は2本しか無いよ!?」

 「別に斬り落としたりはしないわよ!」


 暗闇に煌めく剣筋はどんどんと増える。

 一度剣を振る度にヒュン、と聞こえていた音はヒュ、という音に変わっている。


 「わっ、わっ!ちょっとエルネア!?本当に切れちゃうから!」

 「そうしようとしてるのよ!動かなければ()()()()()かもね!」

 「本気じゃん!?やばっ……!!」


 ギャリリ……と聞こえていた、武器同士がぶつかり合う音も今ではチュイン、と短い音が連続して鳴る。

 いつの間にかエルネアの目は、猫のそれに変わっていた。

 「防げるものなら防いでみなさい、ミレイア!四肢強化を持つ半猫獣人の剣技……!!」


 「――<金ノ風>ッ!!」


 右で振る剣の反動を活かし、全身をバネに続く左の剣の速度を上げる。

 それを交互に繰り返し、遂には目にも止まらぬ剣撃の暴風となり……彼女の髪色も相まって、傍目には正に小さな金色の嵐が吹き荒れる。


 「……ッ!!」


 ミレイアは嵐に錨を差し込み、その()()()()止めようとするものの……嵐は上手く身体を滑らせ、すり抜ける。

 本物の風の様に。

 しかも嵐は錨を使い飛び上がる。空から降ってくるそれを、地を蹴った勢いで辛うじて避けたが、嵐は頑丈な素材から出来ている地面を大きく抉り尚もこちらへ迫ってくる。

 堪らず錨から手を離し、一先ずは距離を取るのが精一杯だった。


 「逃げ場は無いわ……!武器も手放したなら観念しなさいッ!謝って家に帰るなら止めてあげるよ!ミレイア!!」

 「っ……!」


 神速の刃がミレイアの足に迫る。

 遂に当たったかというその時、魔法陣が現れた。


 「あっ……ぶなー!!」

 「……<鉄鋼錬成>!……間に合わないと思ったんだけどな」

 「ふふん!私だって成長するの!」


 ミレイアが持つ赤と茶の魔力。

 その火と土の魔力を融合させて自在に鉄鋼を作り出す彼女の得意魔法、それが鉄鋼魔法だ。

 切られる寸前に鉄鋼で足を覆い、間一髪で攻撃を防いだ。


 「分かったよ、エルネア!そっちがその気なら私も本気、出しちゃうからね!」


 魔法陣から出現する幾つもの平面。

 平面……長方形の鉄鋼がミレイアの全身に組み合わさっていく。

 関節部分には凹凸がついた鉄鋼を何枚も使い、可動域が狭まるのを防ぎながら。


 「御目見えっ!<鉄鋼の処女(アイアン・メイデン)>!!」


 その言葉に呼応する様に、頭から足の先までを覆い尽くした鉄鋼から一斉に無数の鉄の棘が突き出る。


 「私はエルネアを怪我させたくないけどー、もし攻撃するなら覚悟してね!」

 「……!……ね、そんなの卑怯じゃない?」

 「そんな事ないもん!それに魔法なら通るかもだよ?」

 「っ……あれあれー?私の魔法……アンタ知ってるわよね」

 「うん!四肢強化と風魔法でしょ!」

 「()()()風よ。分かってて言うなんて……ひょっとしなくても馬鹿にしてるでしょ」

 「だってエルネア、先に馬鹿って言ったもん!」

 「そんなの!馬鹿に馬鹿って言っただけだから!」

 「むー!……もう怒った!」


 ミレイアの右の掌に魔法陣が現れる。

 そこから、ジャララ……!と鎖が伸びる。

 鎖の向かう先にあるのは先程手放した錨。


 「<(いん)>!」


 掛け声と共に、グイッと鎖で錨を引き寄せる。

 己と錨の対角線上のエルネアに狙いを付けて。


 「そっちこそ怪我くらいは覚悟してよー!?またお見舞い行くからね!」

 「こんなの!当たる訳が……、……!?」


 エルネアから見て、目線と同じ位の高さにあった鎖がパッと消えた。

 ――かと思いきや、再度出現する。


 「<(しょう)>・<強引(きょういん)>!」

 「ッ、()()!!?……くぅ、あぁぁああ!!」


 攻撃のリズムをズラし、高速で避けようとしたエルネアの軌道を予測した上でそこに上手く錨を誘導させたミレイア。

 エルネアは咄嗟の事に二本の小剣を重ね合わせ錨を防ごうとするも、勢いを削ぐ事すらもほぼ出来ず……そのまま錨に弾き飛ばされ、壁に激突する。


 「……!!かハッ……」


 襲い来る痛みの渦の中、エルネアは自身の状態を素早く確認する。

 動かない箇所は無い。幸運な事に、どうやら手足の骨には異常が無い様だった。

 しかし打撲等の痛みはハッキリと感じる。それに、激突の衝撃からか体内へ取り込む酸素が足りず、頭がフラついていた。


 そこへガシャガシャと音を立てて、鉄鋼を纏ったミレイアがゆっくりと歩いて来る。 


 「……ねーエルネア。もう良いよ。良いでしょ?もう十分だよ、止めようよ」

 「な、にを……」

 「戦う前から分かってたでしょ?私とエルネアじゃあ、相性が()()()()もん」

 「……!」

 「ほんとはヤダもん。戦いはそりゃ……好きだけど。友達と戦うなんて嫌。痛そうなエルネアを見るのも嫌」

 「……っ!!馬鹿っ!今更……!!だから言ったでしょ!?……ゲホッ……家に……帰りなさいって……!」

 「だって……!ギルドのみんなが危ないんだよ!?それに……それに、みんなが戦うって言うから私も――」


 「っ!――ふざけんなっ!!そんなんで戦うならッ!本当に絶交するからね!!?……ミレイア!!」


 この場の二人の姿勢・怪我の有無だけを見るならば、優勢なのは誰が見てもミレイアだ。

 しかし、エルネアの一喝で心境的な優劣は決定した。

 そして二人の戦いの行方も……それに従う結果となる。


 「私は……っ!例えアンタが相手でも!足が折れても!何が有っても戦いを止めないからッ!それが嫌なら今直ぐ帰りなさい!!」

 「エルネア……」

 「誰が好き好んでこんな事すると思うの!?本当にこの……馬鹿っ!!()()()()()()()()()()()!!帰って良いの!!」

 「でもっ……ならエルネアも一緒に……」

 「……私は騎士よ。護るモノを護らずになんて帰れない」


 エルネアが立ち上がる。

 手にした小剣を、腰に交差した鞘に納めながら。


 「こんなの()()()()()()()……ぜーんぶ、許すから。その代わり、アンタは家に帰るの」

 「……う……ん」

 「大丈夫、アンタの家も家族も私が護る。その為に王国騎士(わたし)が居るんだから」


 そう言い残し、子供の様に座り込むミレイアを置いてエルネアは闇に消えていく。

 親友同士……望まぬ者達の戦いはこうして決着した。



――――――――



 一方その頃、サラ・ワンダー率いる一団は遂に城の一階部分へと到達していた。


 城へと至る坂道と城の門前に、何名かのロイヤルガードと兵士が冒険者達の侵入を阻もうと立ち塞がりはしたが焼け石に水。

 短期決戦に勝機を見出す一団の勢いを削ぐ事は叶わなかった。


 「王は恐らく最上階!謁見の間におる!上を目指すのじゃ!」

 「「「おっしゃあ!!!!」」」


 サラを先頭に階段を駆け上る一団。


 事態はサラが想定していたよりも迅速に、かつ順調()()()程に進んでいる。

 ドニ・ドルバードという王は、サラが知る限り狡猾で在りながらも思慮深い男だ。

 何の勝算も無くギルドに戦を起こしたとは考え難く、こちらの攻めもある程度の予測を立てて守りの策を張り巡らせている……と予想していた。

 しかし実際には殆ど抵抗らしい抵抗もせずに、腹の中へと敵の侵入を許している。

 ギルド側も十分に策を練った。

 策というモノは十の内、一・二が通れば上出来。

 巡らせた手が一つでも目標へと届けば、他が通らなくてもそれで良いのだから。


 だが今、サラの策はその全てがほぼ上手くハマっている。

 戦を仕掛けられた側にもかかわらず。

 ()()()()()、サラの胸中をざわつかせていた。


 「ふー……。……後は……」

 「そこで止まって貰いましょうか」


 二階へと続く大きな階段の上に立ち塞がる騎士。

 男は、見るからに気難しそうな顔を更に顰め、眉間には深い皺が寄っている。


 「お主は……」

 「えぇ、えぇ。言わなくても分かるでしょう?……ですがまぁ言ってあげましょう。あぁ、感謝は要りませんよ。私がロイヤルガード副隊長『カノ・ライザード』です」


 大仰な仕草で話すカノ。


 「あぁ全く……!何故こんな所まで侵入を許しているのか。栄えあるロイヤルガードともあろう者達が」

 「かかっ。お主も大して変わらんと思うがの」

 「ッ!!……フ、随分と安い挑発です。連綿と続くこの偉大な国、その根幹の血を受け継ぐこの私が有象無象と変わらないと?」

 「はん、たかが400か500年くらいで大袈裟なんじゃよ。そんなもん、所詮はこの私の2倍程度。まー、その歴史と同じく考えの方も浅い浅い」

 「……!!ほ……ほぅ?言ってくれますね……」

 「言ったがどうした。小僧っ子が粋がっても滑稽なだけじゃぞ……おっと。もしやこの国自体がそうなのかもな?先も見通せない未成熟……」

 「……まれ」

 「大体、偉大じゃと?……かか!ただ他から()()()()()だけの事じゃろが」


 カノが腰の剣を抜き、地面に思い切り突き立てる。


 「黙れっ!!いい加減にしろ……!」

 「ん?……どうした?何が悪い」

 「……何が!?何がだと!?侮辱もそこまでいけばいっそ清々しい……!礼に首など刎ねてやりましょうか!!」


 辛抱堪らずといったカノが階段を駆け下り、鬼の形相でサラへと斬り掛かる。

 ギィン!!と剣と杖とがぶつかり合う音が階段に響く。

 仮にもロイヤルガードの副隊長である、確かな実力者カノの振るう剣を小さな杖で難なく受けながら、サラがニヤリと笑った。


 「かかっ。ロイヤルガード副隊長……ライザード公爵家の嫡男カノ・ライザード。見知っておるよ。確かお主の魔力は水……粘液じゃったな」

 「それがなんだ!?このッ、魔女が……!」

 「おーおー、身に合わぬ立場を纏ったひよっこが吠えよるな。なぁ、ところでこの場所にお主が1人で居たのは上の指示か?それともまさか自発的にか?」

 「そんな事は……!貴様に関係無いッ!!」

 「ふん、まぁそうじゃろなぁ。この()()()()守りを作ったのはわざわざ自分から優位を捨てる考え無しの馬鹿者では無い、か」

 「平民が貴族を愚弄するか!?黙れ、黙れ黙れ黙れッ!!」

 「だがま、いくらなんでも気付いておるのじゃろ?こんな所に1人配置された意味を。上手くいけば儲けもの、悪かろうが切り捨て含みの()()()。それが……」

 「黙れえぇぇぇぇ!!!」


 十分に練ったサラの魔法が、カノの目前で炸裂する。


 「カッ!?ち、力が、抜ける……!?」

 「あらゆる魔法の威力を弱める【護りの石(オパール)】の欠片……やはり持っておったな」


 カノの首元に光る石を掴み上げたサラ。そのまま、石を二本の指で砕く。


 「きっ……貴様!気付いていたのか!?ならば最初から時間稼ぎが目的の……」

 「な、訳なかろ。そんなもんも分からぬからひよっこなのじゃよ」


 指先で一団に合図を送る。


 「ではの。お主はここでリタイアじゃ」

 進軍を再開した一団と共にサラが階段を上りきる。

 「ま……待て……!魔力が使えずとも、万全で無くとも私にはまだ剣があるぞ……!」


 落とした剣を拾い上げ、尚も意地を見せようとするカノ。

 しかし彼が立ち上がろうとしたその時、彼の身体に異変が起こる。

 ブチブチ、と。

 カノの腕や足から、嫌な音が鳴る。


 「ぎっ……!!いぃああァァァァ!!!」


 崩れ落ちる。

 階段を転げ落ちる。

 糸の切れた、操り人形の如く。


 「……っ、………っ」

 ビクン、ビクン、と蠢いた後……カノは一切の動きを止めた。



――――――――



 「……あれ、もう着いたの?」


 王都の一角、一際高い建物の屋上に転移してきた三つの影。


 「はい、ゼオン様。王都サンクチュアリです」

 「へぇ。此処が……なんか暗くない?」


 「もう戦いは始まってるんだ……!」

 ササラが縁から身を乗り出し、王都を見渡す。

 「……ゼオン君!どうしよう!?」


 「落ち着いてササラ。一先ずは決めた通り、ギルドの誰かと接触しよう。状況が分からないと動けない」

 「そうですね。……では、ゼオン様……ササラも。この場でお待ち下さい、私が行ってきます」

 「そうだね。僕もそのほうが良いと思う」

 「お願いします、アリスさん!……ん?あれ……?」

 「はい。では……」


 浮遊魔法を起動するアリス。

 少し浮いたその足の下から、不意に影が伸びてきた。


 「アリスさん!下、下!」

 「えっ?――きゃっ!?」

 ゼオンもアリスも気付かない存在にいち早く気付いたササラが、咄嗟に影へと炎を撃ち込む。

 遅れて二人も戦闘態勢を取るが……煙が晴れた時そこに居たのは、アリスが見知ったAランク冒険者だった。


 「……ザイン!」


 「某に気付くとは。まぐれでは無かった、という事か」

 「君は……」


 「簡潔に自己紹介をしておく。某はザイン。通称【影】と呼ばれている冒険者だ……ここには情報共有が目的で参った」

 「味方!?ご、ごめんなさーい!ウチ……!」

 ザインがササラを手で制する。

 「気にするな。それよりも情報を伝えるのが肝要。……では銀氷殿」

 「待って。私達【黒の創世】のリーダーはこちら……ゼオン様よ」

 「む?黒の……?」

 「アリスってば……。まだ正式じゃないよそれ」

 「いいえ。ゼオン様がお決めになったのなら絶対です」

 「??……まぁ……では、ゼオン殿。今の状況をかいつまんで説明する。良いか?」

 「うん。お願いするよ」


 「まず、既に戦いは佳境に差し掛かっている。ギルドマスター率いる一団は城に突入し、今も王に向かい進撃を続けている」


 「王国各地の都市では各軍団と冒険者との()()()()()が続く。但し、各軍団長達は此処、王都に急ぎ向かっている最中だ」

 そこで、ザインはササラをチラリと見る。

 「ギルド側の人数に問題は無いが、正直に言えば実力者……特にSランクの数がちと心許ない。現時点で参戦しているのはギルドマスター、そして現在1人でケイブを守護している【護鉱】の2人だけだ……銀氷殿、出来れば貴殿の力も貸して欲しい。某はそれを言いに来た」


 「ちょっと……ちょっと待って!ねぇ、兄は……カイルは!?」

 「灰燼……兄上殿は参戦していない」

 「はぁ!!??」

 「これはあくまで聞いただけの話だが……妹君、つまりはササラ殿の事が心配で体調を崩したと聞いた」

 「……………………っ!!!」


 それを聞き、屋上から飛び降りるササラ。

 途中で浮遊魔法を起動し地面に降りた後、全速力で家の方角へと走り出す。


 「ササラ!!」

 「……()()()鹿()()一体何してるのかしら。全く……。どうしましょう、ゼオン様」

 「流石に一人では心配だ。後を追おう」

 「承知致しました。ザイン、そういう事よ」

 「ふむ、仲間が最優先か。当然だな。では続きは後で」


 ゼオンとアリスもササラの後を追い飛び降りる。

 二人が闇の中を走り去るのを見届けた後、ザインも何処かへと消えていく。


 そうして誰も居なくなったかと思われた屋上に、水がそこかしこから染み出し……水人形に成る。


 「うーん。下手したらSランク冒険者が2人追加?流石に上へ報告しとかないとヤバいかも」

 人形が発している様にも、何処かから響いてくる様にも聞こえる声を残し、水人形はパシャっと崩れ消えた。



――――――――



 王都へと飛ぶ三隻の魔導船。

 三名の軍団長を乗せ、別方向から向かっていたそれぞれの船はいつしか並走し、既に視界へと王都を捉える距離まで来ていた。


 〘おいもっと急げねーのか!?〙

 〘落ち着けライオット〙

 〘相も変わらず喧しい……通信を切ってやろうか〙

 〘落ち着けるか!陛下が、王都が危ねーんだぞ!〙

 〘だからといって焦ってもどうにもならん。それより今は牙を研いでおけ〙

 〘おいイルセン!俺の武器は槍だっつーの!〙

 〘いや、そういう意味では無くてだな〙

 〘莫迦が……〙


 それぞれの船同士を通信で結び、作戦を練りながらようやく王都へと辿り着く……そんなタイミングだった。

 高空を飛ぶ三隻の前に、何処から現れたのか……魔法で飛びながらウィンクをする一人の女性が居た。


 〘あん?……おい、前!誰だあいつ!?〙

 〘アレは……!!〙

 〘この筋肉莫迦が!この状況なら十中八九、敵に決まっているだろうが!〙

 〘あぁ!?……いや、つまりあいつは……〙


 〘冒険者!!Sランク冒険者【爆嬢】だ!!〙

 〘サイクス!ライオット!!急ぎ退避だ!!船を捨てろォ!!!〙

 〘くっ……!総員退避!!急げ!!〙


 「あーりゃりゃ?もーなにさ!こ〜んなに可愛いあーしからぁ、そ〜んなに必死で逃げなくても良いじゃないっ」



 ・序列九位

 【爆嬢】『ソフィア』。二十四歳。

 踊り子の様なヒラヒラした薄めの服装の女性。

 手にはかなり長い棍を持っている。

 桃色がベースの色に白が入った髪色、少し長めのストレートボブ、前髪を真ん中できっちり分けた髪型をしている。

 紫の瞳には星々の様なキラメキが散っている。

 身長は女性にしては高めで、何よりも特徴的なのは彼女の異名、その理由の一端を担っているであろう魅惑の体つき。

 一言で表すならば、世の女性が羨む程の『ダイナマイトボディ』だ。



 「まっ!逃さないけ……どっ」


 ソフィアが宙に巨大な魔法陣を描き出す。

 そこから、桃色の煙と共にこれまた巨大なハート型の()()()コロンと転がり出てきた。

 「ほ〜らっ、その高鳴りで弾け飛んじゃえ!<桃色吐息(ピーチボム)>っ★」


 ()()()()()()()棍を使い、まるでポールダンサーの様に妖艶に踊りながらも高速で横方向に回転する。

 その勢いのままソフィアが蹴り出したハート型の何かが、三隻の魔導船が作り出している三角の丁度中央付近へと真っ直ぐに飛んでいく。

 既にそれぞれの魔導船からは乗組員達や護衛の兵士達、それに軍団長三人が宙へと船を乗り捨てて脱出している様子だ。彼等は、パラパラとゆっくり地上へと降下していく。


 「でも残念!そこ圏内なの!」


 棍に絡みつき片手でポーズを決めながらハートへと魔力を注ぐ。

 ドクン、と脈を打ったハートはパン、と弾け……その中から幾つもの細かい、無数のピンク色の星が降り注ぐ。

 星々は、その直下に浮かんでいた王国の兵士達に直撃した。


 「なんだこれ!?攻撃なのか……!?」

 「いや落ち着け!どうやら触れても大丈夫みたいだ!」

 「あぁ、そうらしいな!俺の方も特に異常は……ん?」

 「おいどうした!?」

 「いや……あれ?なんか胸が熱いような……?」

 「はぁ?お前、何言って……」

 「いやほんとに。なんだこれ、まるで初めて恋をしたあの時みたいな高鳴りが……!!」

 「なんだお前!?何言ってやがる!こっち見て気持ち悪い事言うなよ!」

 「べ……別にお前に言ってる訳じゃねーよ!」

 「いや当たり前だろーが!!……あ、あれ?ちょっと待て、なんか俺も……!?」


 星が落ちた兵士達は、口々にそんな事を言い出す。

 これこそが【爆嬢】の固有魔法、その効果であった。


 「あはっ。み〜んな楽しそうだね!うんうん、恋は素敵だよね〜!」


 「『強制催淫』……だったか?これ程広範囲に……」

 「ゾッとせんな。あんなもの喰らった日には生きていられん」

 「おい爆嬢!兵達を元に戻しやがれ!!どうすんだよ、これよ!!」


 「あれま。軍団長さん達が3人もお揃いでよ〜こそ!歓迎、したげよっか?」

 「我等は王都へと急いでいる。こんな所で躓いている訳にはいかんのだがな」

 「つうかおい呑気に喋ってんじゃねーよイルセン!こんな女、とっとと片付けて……」

 「莫迦が……そんな簡単にいくなら苦労はしない」

 「なんだよサイクス!いつに無く弱気じゃんかよ!?ならそこで見とけ、俺が……!」


 槍を構え前に出ようとするライオットを、サイクスが強引に引き戻す。


 「痛ってぇ!?なんだよ!!?」

 「貴様……本当に莫迦者だな。彼我の差も測れんのか」

 「は?いや、いくらなんでも……」

 「ライオット。魔力感知を最大で張ってみろ」

 「んだよ、イルセンまで……分かった分かった。よっ……と」


 ライオットが魔力感知の魔法を発動する。

 そこでライオットが感じた眼前の冒険者の魔力は、軍団長である彼を以ってしても信じられない程に巨大だった。


 「ん、ぐ!?な……なんだよこれ……!!」

 「分かったか?我等が束にならんと勝てんぞ、こいつには」

 「全く以って不本意極まりないがな……!」


 「ねー。もう良い?ていうかいつまで待てば良いのこれ〜……くあぁ……にゃむ」

 臨戦態勢の軍団長を前にして、なんとソフィアは欠伸をしている。

 「あっ。ゴメンね!クエスト終わりで寝てないの〜」


 「おい。舐められてんぞ俺達」

 「貴様と組むのは御免だが……あの愚弄に比べれば安い、な」

 「いくぞ2人とも。さっさと切り抜けて王都へ急ぐ為にも」


 「お?やっとかな!?じゃあ始めちゃう〜?た・た・か・い!」


 「言われずともだ……!我が名は第3軍団長、イルセン・ラグフォード!」

 「第2軍団長サイクス・イルベルグ」

 「そんで俺が第4軍団長!ライオット・ランサーだぁ!!てめぇ覚悟しやがれよ!爆嬢!!」


 「な……なんかご丁寧にどうも??えっとぉ、じゃ……カッコ良いからあーしもやっちゃう!」


 「Sランク冒険者序列9位!【爆嬢】ことソフィア……とと。……ソフィアだよ!よろしくね!」




開戦⑥へと続きます

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