開戦④
――――教国・ダンジョン【魔モノ達の塒】入口――――
「うふふ……!ふふっ、フフフフ……!!」
「……ねぇ……ゼオン」
「ん?どうしたのダグニー」
「……なんなの……あれ。……くるくるしてるけど」
「えっ?……あー……いや、あはは……」
「ゼオン君が何かしたんですよ多分。ウチ達が見てないとこで」
「…………ふーん」
悪魔アスタロトの奸計から逃れ、無事に全員揃ってダンジョンを脱出する事が出来たゼオン達。
彼等は今、ダンジョンの入口部分……六本の太く高い石柱に囲まれた魔法陣の横に居る。
ゼオン、ササラ、ダグニー。そして三人から少し離れた所でアリスが両手を胸に置いたまま、何かとても嬉しそうに……クルクルと回るように踊っている。
「……で?……具体的にはなにしたの」
「え。あ〜…………出来れば本人に聞いてもらえたら」
「ウチは?ねぇゼオン君?パーティメンバーに隠し事するのって良くないと思うけどな〜」
「いや、あの…………あっ!あーそういえばササラ!君に少し話したい事が有るんだった!」
「ほぇ?」
「ほらこっちこっち!」
ゼオンがササラの手を引く。
「……また仲間はずれ?……ねぇゼオン……」
「本当にごめん、ダグニー!ちょっと待ってて!」
二人は雪を被った大木の陰に消えていく。
「……なんなの、もう」
小さな溜息を吐くダグニー。
その白い息は何処か寂しげに……空気中へと霧散していった。
「ここら辺で大丈夫かな」
「それでどうしたの急に?アリスさんがああなってる理由でも教えてもらえるのかな」
「いやまぁ……そういう訳でも無いんだけど」
ゼオンは何やら懐に手を入れ……ちいさな包みを取り出した。
「?なにそれ」
「あの時……ダンジョンからケイブの街に戻った後、買っておいたんだ。中々タイミングが無くって渡せずじまいだったけれど」
そう言うと包みをササラへと差し出す。
「えっ」
「なんというか……記念というか。あの時もう既に、君とパーティを組むだろう事は分かっていた……様な気がしていたんだ。だから……」
「これ……ウチに?……ホント?ホントに貰っていいの?」
「勿論。大した物じゃないかも知れないけど……」
震える指で包みを開ける。まるで、大切な宝箱を扱うのと同じ様に。
「あっ……」
中から出てきたのは一対の飾り布。
「リボン……」
「うん。あの時、片方しかしてなかったから……二本。黒で縁取ってある白いのを選んだんだ。僕なりに、ササラの髪色に似合うと思って……どうかな?」
「…………どう……だろ?…………ね、ゼオン君。着けて欲しいかも。……良い?」
「え……うん、勿論良いよ。上手く出来ないかも知れないけれど」
「いいの。ゼオン君に着けて欲しい」
ササラが、後ろで纏めていた髪を解く。
その背後に回り、辿々しい手つきでササラの髪を纏めていくゼオン。
しかし……しっかりと結べずに、リボンは二つともスルスルと肩の上辺りの高さまで滑り落ちていってしまう。
「んっ……」
「あぁ〜……ごめんね、やっぱり下手で……おかしいな、リオンによくやってた筈なのに」
「うぅん……良いよ、良いの!むしろここで!」
位置をそのままに、ササラはリボンを結び直す。
「でも……前はもっと上のほうで結んでたよね?」
「ここが良いの!」
そう言って笑うササラ。
「すっごく嬉しい!ありがとう、ゼオン君!」
「そっか、そう言って貰えて良かった。その髪型も凄く似合ってると思う。……これからもよろしくね」
「うんっ!」
「じゃあ……そろそろ戻ろうか」
ゼオンとササラがダンジョン入口に戻ると、アリスは未だ回り続けており……ダグニーは実に不満そうな顔で二人を迎えた。
「……おかえり。……なんのはなしだったの?…………見れば大体わかるけど」
「えへへ……あのね、ダグニーさん。ゼオン君が……」
「……もらったの?……良かったね。ササラ」
その台詞に嫌味や妬みなど一切無く、ササラの髪に着いたリボンを見て微笑む。
そんなダグニーを見て、何故か分からないが……とてもバツが悪い様に感じたゼオン。
どうにも居た堪れなくなり、小声でダグニーに囁く。
「あのさ、ダグニー」
「……なに?」
「アレは別に君を除け者にした訳じゃないんだ。ただ前もって準備が有っただけで。だから……あの……」
「……わかってるよ」
「……でも。……そういう事ならきたいしてても良いんだよね?」
「えっ?」
「…………友達に渡したんでしょ?」
「え……あ……うん。勿論、そうさ」
「……まってるからね……ゼオン」
「あ……あぁ。……でも、その為にも……」
「……そう。……これからの話なんだけど」
ゼオンは、クルクルし続けているアリスを呼び寄せる。
「アリス!これからの事なんだけど――」
「うふふ……!」
アリスは気付かない。仕方無く、直接肩を叩きに行くゼオン。
「アリスってば」
「フフ…………は……ひゃい!な、なんでしょう!?」
「ひとまずの、行動指針の話をしよう?……良いかい?」
「も、勿論です!しましょう!えぇ!是非とも!」
「うん。二人もあっちで待ってるから」
「……やっともどったの?……すごくばかみたいだったよ」
「五月蝿いわね……!大体……」
「アリスさん!」
「……あら?貴女……いえ、ササラ。そのリボン」
「ゼオン君から贈って貰いました!」
「そうなのね。……良かったじゃない」
「……割といがい」
「は?何の事かしら」
「……べつに」
「良いのよ。私はもっと……」
パン、と手を鳴らすゼオン。その音に全員が注目を向ける。
「良いかい皆?先ずは王国とギルドの戦争の事だ」
「……さっきも言ったけどわたしは先にひとりでもどりたい。……連絡もつかないし、しんぱいなの」
「そうだね。王国騎士であり軍団長のダグニーはそうした方が良いと僕も思う。友達としてはね」
「ゼオン様、私達は……」
「うん、その話さ。ダグニーに待ったを掛けたのもそれが有るからだ」
三人の視線がササラへと注がれる。
「……正直僕としては、今回の戦争に関わる気は無い。表舞台に躍り出るには時期尚早も甚だしいし……不安要素も多いからね」
「私もそう考えます。ただ……」
「うん。アリスの話を聞くに、戦を仕掛けた側である筈の王国の狙いは今のところ不明だ。ギルド側からしてみれば突然に挑まれた理不尽な戦」
「はい……私が知っている限り、それ以前の両者の関係は非常に良好でした。間違い無く、戦など起こる訳は無かった様に思います」
「……ウチもそう思ってた。だけど……」
「……だけど今、現実に……戦争になろうとしてる。……うぅん。もう始まっちゃってるのかも知れない。……本当になんでだろって思ってる」
「そうだね。王国の狙いが不明という事はつまり、この戦の着地点すら不明という事だ。ギルドに対して戦を起こしたのだから、目的を考えるとギルドそのものの取り込みだと思うのが自然……というかそれ以外は思いつかないかな。……でもそれにしたって正直、方法から何からぐちゃぐちゃで稚拙に感じるけれど」
「もしも王国側の勝利で終結したとして、ギルドの頭をすげ替えれたとしても冒険者達がそれに大人しく従う事は有りません。他に新しい組織が出来るだけとは思いますね」
「……わたしとしてはまだ信じられないくらい。……なにかが拗れにこじれて、おうさまが怒ったけっかの私怨から……って言われたほうがまだ信じられるかも」
「僕はドルバード王を良く知らないからハッキリとした事は言えないけれど、流石にそこまで愚かでは無いと思うよ。……だから尚更理解出来ないのだけど」
「そうですね。ただ狙いが分からない以上……ギルド側も迎え撃つ他無いでしょうし、戦の終着に置くのは王の身柄だと思います。ギルドの力を以てすれば充分に可能ですから。……そんな事、王国側も承知の筈なのですが。それに……」
「それに?」
アリスはダグニーに視線を移す。
「……王国の最大戦力が此処に居るのですから正直、結果は火を見るよりも……。つまり王国側は最初から【風姫】を計算に入れていないという事にもなり得ます。もしかしたらタイミングが悪かった可能性も、まぁ……無きにしも非ずですけれど」
「…………」
「そもそも王国側に得が無さすぎます。勝ったとしてもそうですが、負けた時の損があまりにも大き過ぎます。ギルド側の勝利で終わった場合、冒険者ギルドはその全てを王国から引き揚げるでしょう。そして王国の行いは世界中から非難され、国としては……終焉を迎えるのかも知れません。……いえ……いずれ、間違い無くそうなります」
「……災害・天災きゅうモンスターの出現は国をゆるがす。……王国だけではたいおう出来ない、とは言わないけど……確実に兵達はひへいする。……王国がモンスター退治にかんしてギルドに一任してきたのはじじつ。……モンスター退治だけではなくいろいろと、だけど……まぁこの辺りは他のくにもおなじ」
「大戦から10年が経ち、世界的には平和な時代であっても……疲弊した国を襲う他の国が出たとしても何の不思議はありませんから。金銭と栄誉だけで動く安全を自ら手放す愚行の行き着く先は……滅亡でしょう」
「成程。つまり?」
「私には、王国側は初めから負け戦を仕掛けている様にしか見えません」
「……そうなるよね?僕もそう思うし」
「はい。……ゼオン様、この件はかなりきな臭いです。悍ましい何かが裏に蠢いているのはまず間違い無いかと。もし……関わるおつもりなら――」
「うん。分かってる」
ここで、ゼオンがササラに向き直る。
「ササラはどうしたいのか、改めて聞いておきたい。さっきは突然の話だったからね」
「ウチは……正直、分かんない。ギルドの皆は好きだけど、戦争なんてしたくない……!それにダグニーさんとだって折角、仲良くなれたのに!」
「例え……例え、嫌いな人だったとしても、大勢の人達が殺し合うなんて……嫌だよ」
唇をキュッと結び下を向くササラ。
「ウチ、そんなのの為に冒険者になった訳じゃ……ないもん」
「……わからなくはないけど。……でも」
「そうね。問題は護りたいモノが有るかどうか」
「……えっ?」
「私が言えた義理では無いけれど……戦いの原動なんて結局はそれだけよ。対象は人でも物でも想いでも、なんでもね。貴女に護りたいモノが有るのなら殺し合う事も必要になる……かも知れない」
「……何もしなければうばわれる一方になるのなら……わたしはまもるよ。……なにからも」
「…………ウチ……」
「二人とも待った」
「ゼオン君……」
「ササラ。君が望むなら僕とアリスは君と一緒に行くよ。それがパーティだ。ね、アリス」
「……えぇ。魔導船が置きっ放しになっているので、どちらにせよ王国には一度戻る事になりますし……大した違いは有りませんね」
「あの、えっと……」
「単刀直入に言うのなら、僕等は君の力になるって事さ。だから聞かせて欲しい。……ササラの護りたいモノはあの国に有るかい?」
「ウチは……」
「あのね、ウチ……正直に言うと、王国は好きじゃないの。アースランドって名乗ってるから……皆、理由は分かると思うんだけど。それに……ダグニーさんには申し訳無いけど……怖いの。……王国が」
「…………」
「だけど……やっぱり、ギルドの皆は護りたい。家族みたいなものだもん。ウチ、弱いし……何も出来ないかもだけど……それでも。ウチだって冒険者だから」
「それに王国には、おに……兄も居る。きっと皆の為に今も戦ってると思うの。だから……だったら、ウチだってやらなきゃ」
「……だからお願いします!ゼオン君、アリスさん!ウチと一緒に……戦って欲しいの!ダグニーさんに悪いのは分かってる……ホントにホントにごめんなさい!でも、でもっ……!」
「……だいじょうぶだよ、ササラ」
「ダグニーさん……」
「……わたしとササラはもうともだちだよ。……でもね、友達でもぶつかることはある。……互いに……譲れないものがあるのなら」
「でもっ……!」
「……その後に仲直りできるかは……今はわからないよ?……分からないけど……でもね。……上辺だけなんてそれこそ友達でもなんでもないよ」
「……………………」
アリスがジッとダグニーを見つめる。
「……こうなっちゃったのなら仕方がないもの。……王国にはわたしの護りたいモノがたくさんある。……だから……ね?」
「はい……」
「……終わったら……また、お話しよう?……だから気をつけて、ね?決して…………死なないで」
「ふん……ゼオン様と私が付いてるのよ?むざむざと死なせる訳が無いでしょう」
「アリスの言う通りさダグニー。僕達は仲間を失わせない。……僕一人では難しくとも、仲間とならきっと出来る」
「……ふふ。……おかしいの」
「僕は、いや僕達は君も友達だと思ってる。戦わない方向で行きたいよ……本音のところは」
「私は別に……」
「アリスってば」
「こればかりはゼオン様と言えども御勘弁を」
「ダグニーさん。ウチ、逃げません。今逃げたら、次にお話する時に胸を張れませんから」
「……うん」
「戦場で会うかは分かりませんけど……でももし会ったら、お手柔らかにお願いしますね!」
「……難しいこというね」
「だってウチまだ死にたくないですもん!まだまだやりたい事、いっぱいあるんですから!……ダグニーさんとも一緒に!」
「……そう、だね」
「ゼオン。……ササラをよろしくね。……お願い」
「言われずとも、さ」
「……うん」
「……アリスも……うん。……アリスも、また……ね」
「…………ふんっ。もう分かったから行きなさいよ。急ぐのでしょう」
「……ふふ」
緑の魔力でその身を包み、ダグニーが宙へと浮かぶ。
「……じゃあ行くね」
「はいっ!ダグニーさんに言う必要はないかもですけど、気を付けて!」
「うん。今回の騒動は底が見えない。どうなるか予想もつかない……十全に警戒して、ダグニー」
「うん、ありがとう。……じゃあまたね」
ダグニーはアリスの方をちらっと見た後、王国が在る方角に向き直る。
そして足下に魔法陣を展開すると、そこから羽根の様な形をした魔力の欠片がいくつも散る。
「……<颶諷疾空>」
魔力を纏った足裏で空気を蹴る。
大気に振動が響く。
広い範囲に積もった雪が一斉に舞い上がり、緑の羽根が空から舞い落ちる。それらが陽光に照らされ、キラキラと輝いている。
ゼオンとササラがその光景に見惚れている一瞬の間に、ダグニーの姿は影も形も消えていた。
「やっぱり……まだまだ本気は見せていなかったんだね」
「……すごーい!綺麗!」
見送る二人の後ろで、アリスが囁いた。
「……どうか……」
そう呟き瞼を強く閉じる彼女の心の内は、誰にも分からない。
――――――――
「一応、もう一回聞いておくけれどまだ時間的猶予は有るんだよね?」
「そうですね。サラ・ワンダー……ギルドマスターの魔法はご説明を差し上げた通りです。彼女の魔法は無差別では無いので問題無いかと。ここから直接、王都の転移魔法陣に跳べます」
「うん、分かった。じゃあ今の内に色々と済ませておこうか」
「最初は……そうだ。ここからはパーティとして動く訳だけど、先にちょっと確認したい事が有るんだ」
「どうかしたの?」
「いや……そもそも僕がこのパーティのリーダーって決定事項なの?冒険者としてのランクを考えれば、アリスがリーダーの方が良いと思うんだけれど……」
「ゼオン様は人の上に立つ御方ですので当然です。何も問題は有りません」
「いやあの、でもねアリス。それは……まぁ確かにそうなんだけど、僕の言いたい事はそうじゃなくって」
「いいえ。どちらでも同じです」
「ウチもゼオン君がリーダーでオッケーだよ!」
「そうは言っても、だって僕は最低ランクな訳だし世間知らずだし……」
「良いでしょうかゼオン様。私の何よりも優先されるべきはゼオン様です。それに依って起こる問題等、全てが些細な事なのです。……大丈夫です、御心配には及びません。もう二度と失敗は致しません」
「ウチは良く分かんないけど、でもゼオン君がリーダーなのが自然だとなんとなく思うよ!」
「わ……分かったよ。そうまで言うなら僕がやる。……じゃあ……これからもよろしくね、二人とも」
「うんっ!」
「当然ですゼオン様」
「えー……っと。次は情報共有をしておこうと思う」
「なんの?」
「取り敢えずは僕等の明確な敵を上げていこうと思う。たぶん……暫くは冒険者稼業と拠点作りの方が比重は大きくなるけれど、予め把握しておく事はとても大切だからね」
「ゼオン様……」
「ん?……あぁ、心配無いよアリス。ササラにはもう、ケイブの街で大体を話してある」
「……そうなのですか?いえ……でもそれはそれで少し問題が有るような気が……」
「そういえばどうして話してくれたの?ウチは嬉しかったけど」
「うーん。どうしてかな……。……直感、かな?なんとなくだけど……ササラには話しても大丈夫だと思えたんだ」
「そ、そうなんだ?」
「むぅ……ゼオン様のなさる事に口を挟む気など毛頭無いですけれど……なんだか腑に落ちないです」
「ごめんねアリス、勝手な事をして。でも結果良しだったし許してくれないかな?」
「と……とんでもないです!そもそも怒ってなんか無いですから!」
「そうなの?」
「そうです!大体、気に掛かったのは別の…………あ」
「「別の?」」
「な、なんでも無いですから!話を進めましょう!?ね!」
「じゃあまず……王国。これは説明要らないと思う。仲間の敵はパーティの敵だ。それに元々、僕の敵でもある」
「うん……」
「次に此処、教国。そして……帝国」
帝国の名を呼ぶ際、苦い顔を更に顰めるゼオン。
「ゼオン様」
「……大丈夫。ありがとう」
「国としてはこの三つ。他の国にも怨みが無いとは言わないが……二の次だ」
「それがゼオン君の敵なの?」
「そうだね。敵であり……敵だ。それに、この三国は今現在も魔国に居座り続けている国でもある」
「……そっか。……あれ?偶然なのかな」
「うん?」
「その3国って、支配者階級……って言うんだっけ。それがほぼ人間族じゃない?」
「その通り。特に帝国と教国は【人間絶対主義】を掲げている国なのは有名だよね」
「え……まさかとは思うけど……」
「そのまさかさ。大戦中、魔国・獣人国と同盟を組んでいた王国は大戦末期、突如として魔国を裏切り……帝国側と手を組んだ。その影響を受けた獣人国は大戦そのものからも手を引いた。王国が裏切った理由は種族差別に由来するものだと聞いている」
「元々、危ういバランスで拮抗を保っていた戦線は王国の裏切りが決定打となり瓦解した。手を離すだけならまだしも王国は帝国・教国と共に魔国へと攻め込み……1国のみでの奮戦の末に、魔国は敗北したの」
「そんなの……ひどいよ!!戦争は嫌いだけど……そんなのって無い!そんな、馬鹿みたいな……下らない理由で……!」
「ありがとう……ササラ。その気持ちだけでも、幾分僕等は救われる。ね、アリス」
「はい、とても。……優しい子」
「終わった事に何を言う資格も、僕には無い。だけど終わったままで居る気も無い」
「別に世界の滅亡を望んでる訳じゃない。でも……」
「少なくとも各国の頭は潰すつもりだ。そして魔国を取り戻し……僕達の国を創り直す。それが僕の戦う理由だ」
「そっか。そう……だよね」
ササラが涙を拭う。
「でも、他の国は?女国とか、エルフ王国とか……」
「その二つは正直、扱いに困ってるんだ。直接の被害は無かったけれど、それぞれの民で構成された自称盗賊団等は敗戦後の魔国へと入り込んで来たからね」
「私はそれも許すつもりは有りません」
「気持ちとしては僕もそうさ。だけど的が定まらないのでは戦いにすら持っていけない……後回しなのは仕方が無いよ」
「他にも敵はいるの?」
「個人だとアークボルトかな」
「それって、あの時の……」
「うん。でも彼も元々は――」
「……は!そうです!あの塵の取巻きから受けた状態異常はもう大丈夫ですか!?」
「え?うん、問題無いよ」
「今思い出しても腹が立ちます!あの女……っ、あんな女にゼオン様が……!」
「いやまぁ……うん。あの時は油断し過ぎたと反省してる。でも思い返すと変なんだよなー……竜人族にはああいうのの一切が効かない筈なのに……なんでだろ」
「あの……っ……塵……!!御心配には及びません、ゼオン様!あの程度の男、ゼオン様の御手を煩わせる迄もありませんから!!」
「わぷっ……!」
「落ち着いてアリス。魔力が漏れてるから……ね?」
「失礼を致しました……」
「いやまぁ……頼もしい限りだよ」
「寒い……」
「……一先ずはこんなところかな。ただ、これらと事を構えるのは……僕としてはまだまだ先の事だと考えてる」
「拠点を作るって話?」
「そうだね。それに仲間集めもしないといけない。当ては無いけれど、取り敢えずは各地を回ってみようと思うんだ。冒険者としてね」
「ゼオン様、先ずはどちらを?」
「いきなり平行して進めていくのは無理が有るから……それも今、決めようと思う。二人はどう思う?」
「ウチは仲間集めが良い!楽しそうだもん!」
「成程ね。アリスはどう?」
「私も仲間集めを優先させるべきかと。ただ、簡素なものでも良いので拠点は作っておく方が後々便利ではあると思います」
「そういえば……拠点を作る場所に心当たりがあるって言ってたよね。一体、何処に……?」
「はい。それは以前にクエストで立ち寄った事が有り、魔国に1番近く、最も大きな大陸に在る場所です」
「最も大きい……という事は」
「獣人国が在る大陸です」
「えっ!?それって……良いの?敵の本拠地なんじゃ……」
「大丈夫。さっきも言ったけれど、僕は全部が全部を憎んでる訳じゃない。それにあの大陸は広い……いや広すぎるからね」
「そこに関しての安全性は確認済みよ。ゼオン様の御顔を見知っている獣人国の王族共どころか、民に遭遇する可能性すら低いでしょうね」
「そ……そっかそっか。じゃあ安心なんだね」
「でも他の危険はあるわ」
「ほぇ」
「その場所が在るのは未開の地なの。だから未知の草木・動物・虫・病原菌……あとモンスターとかがいっぱいね」
「わ……わっくわくします!ね!ウチ、ぼぼぼぼ冒険者なので!ねっゼオン君!?」
「うん。楽しそうだよね」
「えっ!?……そ、そうだよね!ねー!……ね〜……」
「みんなで冒険するのは本当に楽しそうだ。でも、その為にも先ずは……」
「そうですね。では、そろそろ向かいましょうか」
「……あっ!ちょ、ちょっと待った!」
「どうしたのササラ」
「あのね、このパーティの名前を決めておいたほうが良いと思うの」
「……確かにそうです、ゼオン様。すっかり失念していました」
「パーティの名前?」
「うん。パーティ単位でクエストを受ける時とか必要になるし、ギルドにパーティ登録もしなきゃだし。あと……パーティメンバーに対する無駄な勧誘とかも減ると思う。……あ、後々の追加メンバーの話ね!アリスさんを勧誘する命知らずなんている訳無いし……ウチなんてこの通りアレだし!誰も要らないでしょ!」
「そんな事無いよ。誰かにあげるつもりなんて微塵も無いから助かるじゃないか」
「あ……ありがとう……」
「むむ……」
「成程、そう言われれば確かに必要なんだね。名前ってなんでも良いの?」
「あ……うん!よっぽど変な名前だったりしなければ、あと既存のパーティ名と被らなければ大丈夫だよ!」
「一般的にはリーダーに因んだ名前が多いです。ゼオン様ならば……そうですね、魔力の色等いかがでしょうか?」
「ん〜〜〜〜…………」
「良し……決めた」
「ホント!?聞かせて聞かせて!」
「お願いします、ゼオン様」
「ちょっと恥ずかしいけれど……僕等は今からこう名乗ろう」
「【黒の創世】……と」
開戦⑤へと続きます




