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黒の創世  作者: uyu
四章 開戦

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15/24

開戦③


――――王国北方都市【スノ】――――



 王国北方、年間を通して降雪が多い地域。

 そこに作られた小さな町を元に発展し、今では都市にまで成長したのがスノだ。

 この都市の特徴は家などの建物。

 一見、()()()()の様にも見える大小様々な住居が居並んでいる。

 雪に魔力を混ぜ込み作られる材料で建てられたこの住居は、ドーム状の建物が三つか四つ繋がって一つの家を形成している。住居以外の建物も同様の作りだ。

 それが都市全体に広がっている景色は他に類を見ない。

 その見た目から、別名『白の都市』とも呼ばれている。


 一帯は魔石を含む希少鉱石の採掘量が非常に豊かである。魔石はこの世界に暮らす人々にとって必要不可欠な物であり、生活に関わる数多くの設備や品物に使用される。

 そして同時に、スノ周辺は世界有数の高純度魔石産出地としても広く知られている。


 従って王国内におけるこの土地の重要度はかなり高く、王国軍の守りも相当なものである。

 この地の守護を任されているのは王国第三軍団長『イルセン・ラグフォード』。

 彼は王国貴族ラグフォード侯爵家の当主で、彼には五人の息子がいる。

 第三軍には王国騎士が十名在籍しているが、なんとその半分が彼の息子達だ。

 ラグフォード家は王国に広く知られたエリート一家であり、まさしく武闘派一族なのだ。

 そんな彼が……言い換えればラグフォード家が率いる第三軍は、スノ……そして過去に王国がアースランドから奪い取った大地の上に作られた王国中央新興都市【ハイランド】を一括で守護している。



――――【スノ】領主館――――



 「ギルド側の動きはどうか?」

 「はい、父上。【深水(しんすい)】……あの()()()()から上がって来た情報に依れば王都内で動きが確認されたのみ、だそうです。他都市では目立った動きは無いと」

 「……確かか?」

 「正直な事を言えば疑わしいですがね。父上も知っての通り今は諜報部が機能していないので信じるしか無い、といった所でしょうか」

 「王都からの命は?」

 「今のところはまだ。父上、陛下は一体何をお考えなのでしょうか?未だギルドへ仕掛ける素振りもありません。まさかとは思いますが……」

 「止めろ。我等はただ……王命を待つのみだ」

 「……まぁ……構いませんが。蟻如きがどれ程群れを成そうとも獅子には届きもしないでしょうし。ただ、我が軍の準備は全て完了済みです。いつでも進軍可能の旨、エアリウム城の温室共には強く伝えておきましたので」


 大きな椅子に座り、腕置きに肘をついて……大きな溜息をついた後、痛む頭を抑えるようにイルセンはこめかみに親指を当てる。


 「そうか。ところで……カルセン」

 「はい?なんでしょう」

 「お前。……幾つになった」

 「?……19ですが?」

 「以前にも言ったな。そろそろ分別を覚えろ……と」

 「必要を感じませんね」

 「はぁ…………お前は……長男だろう。人の上に立つ者がいつまでもその様では……」


 「父上。私は父上を尊敬しております。騎士を多く排出してきたこのラグフォード家で初の軍団長に迄、登り詰めた父上を」


 「ですが間違いは間違いと言わせていただきます。平民は何処まで行っても平民ですよ。力が有っても芯が無い、管理される側の存在です。父上も……()()()()()()()()()()()()

 「…………それとこれとは」

 「違いませんね。我が弟達もそう言うでしょう。……話はもう終わりですか?では、私はこれで失礼します」

 「待て、カルセン!話はまだ……」


 引き止めるイルセンを一瞥もせず、彼の長男カルセンは部屋を出て行く。


 「……ふー……」

 イルセンは椅子に深く沈み込む。

 「俺は……やはり人を育てるのが下手なのだな」


 「君が居てくれたらな。……リア」


 目を閉じ、此処に居ない誰かに想いを馳せる。

 暫くの間そうしていると……突如、外から響く爆音が静寂を切り裂いた。


 「!?」

 立ち上がり、窓から外を確認する。

 すると、都市の外縁部分から大きな煙が上がっているのが見えた。

 「来たか……!!」



――――――――



 外に駆け出たイルセンの耳に先ず飛び込んできたのは襲撃の第一報。


 「相手はギルドで間違い無いな!?」

 「はっ!望遠で確認したところ、何名かのAランク冒険者が見えました!照合も取れています、間違いは有りません!」

 「外縁にはケルセンの遊撃部隊を向かわせろ!急げ!……カルセンは居るか!?」

 「ここに」

 「状況の把握を急がせろ!俺は急ぎ王都に連絡を取る!!準備せよ!」

 「父上……それが」

 「どうした!?」

 「先んじて私が連絡を確保しようとしたところ……繋がらないのです。通信魔法、通信魔法具・魔道具の類……全てです」

 「な、ん……!?」


 「くそっ…………ならば俺が直接飛ぶ!カルセン、領地はお前に任せるぞ!!」

 「……了解しました。ご武運を」

 「良し!では後は任せ……、…………!!?」

 「…………父上?」


 「王都の転移魔法陣が……潰されている……!!馬鹿な、予備も全てか!?」

 この異常事態に、だが歴戦の騎士であるイルセンは考えを素早く切り替える。

 「……カルセン!敵の数は把握できているか!?大体で良い!!」

 「高台からの報告ではどう見ても万は居ない……と」

 「!?……確かか!?」

 「父上。間違い無く、これは……」

 「……くそっ!!先手を取られただけでなく……!!」


 「魔導船の用意をせよ!!大急ぎでだ!!」

 「「「はっ!!」」」


 「急がなくては……!!陛下、どうかご無事で……!」



――――――――



 スノがギルドによる先制攻撃を受けているこの時。

 王都サンクチュアリを除く王国の主要都市全てが、同時に襲撃を受けていた。


 ――王国第二・三・四軍の守護する五つの都市が。

 どの都市でも電撃的に行われた奇襲攻撃を察知出来た軍は皆無であり、各軍は事態の対応に追われた。

 しかし。

 未だ開戦に至っていなかったとはいえ……既にほぼ戦時中で有り、尚かつ王国軍全体が開戦間近の厳戒態勢に有ったにも関わらず、ギルドの攻撃を察知出来なかった事実。


 これは決して王国軍の練度が低いとか、腑抜けていたとか……そういう話では無い。

 単純にギルド側の一連の動きが王国軍……いや、一般的に軍と呼ばれる集団にとって理外のモノだったのだ。

 サラ・ワンダー……【魔女】が王国に掛けた魔法が、である。

 そして戦略も。


 王国の地図を真上から見ると、ギルド支部があるケイブは四方を王国側の都市に囲まれている。

 王国からすると、そもそも既に包囲を完了している様なものである。

 つまり、ギルドからすると最初から防衛戦はあり得なかった。

 勝ち筋は当然、自らが打って出るところにしか無い事も分かりきっていた。……王国からしても。


 血気に逸る王国の若い将校や騎士達は先手を取る事を望んでいたが、経験豊富な者達は分かっていた。

 王国側から仕掛ける必要すら無い……有利過ぎる状況だということを。

 だから、待っていた。

 痺れを切らしたギルド側から仕掛けてくるのを。……獲物が巣から飛び出してくるのを。

 事実、そうなった。……そうなった、が……しかし。

 ギルド側の戦略はなんとも大胆不敵なものだった。


 王国上層部は、ギルドは先ず北と東……つまりスノとハイランドを攻めるものだと大筋の予想を立てていた。

 後顧の憂いを断つ為に後方を固め、そこから王都に向かい徐々に攻め上がる……そういう戦略を採るだろうと。

 だが実際にギルドが採ったのは短期決戦。

 先ず……少数、だが実力者を多く配置した部隊で各都市を奇襲。

 その陽動を以て、ギルドマスター……サラ・ワンダーが自ら率いる本隊で王都に直接攻め込む……と、そういう戦略で超短期決戦を狙ったのだ。


 当然、王国側もギルドがこの様な戦略を採る可能性を完全に排除していた訳では無い。

 あらゆる想定をし、そのケース毎に対応策を講じるのは当然の事だ。……少し前まで大戦の中に在ったこの世界では尚の事。


 しかし……魔女はその上を軽々と飛び越えていった。

 彼女の魔法は歴戦の勇士達を以てしても……予想などまるで出来なかったのだ。


 この時点で王国の失着が有るとすればここ。

 これ程の規模の戦において【個の力】が大勢に多大な影響を及ぼす筈は無いと思い込んだ……大国故の油断である。



――――王都【エアリウム城】最上階・王の間――――



 時は少し巻き戻る。

 ギルドが奇襲を開始する少し前の事。


 「失礼します……御父様」

 ノックの後、一人の女性が王の居る部屋に入って来る。


 裾が広く長いドレスに身を包み、頭には金のティアラを着けたこの女性は『ミーティア・マルタ・ドルバード』。十六歳。

 金というよりも黄色に近い髪色で、長い髪には少しカールがかかっている。

 此処、ドルバード王国の王位第一継承者であり王の一人娘だ。


 「御父様、ミーティアが参りました。お話とはいったいなんでしょう……?」

 「おぉ……ミーティア。……話の前に、先ずは顔を良く見せてくれないか」

 「えっ?え……えぇ。勿論です」


 窓際に立ち街々を眺めていたドルバード王……ドニは、ミーティアが見たことも無いような神妙な面持ちでそう言った。

 暫しの間、一人娘の顔を頭の中に焼き付ける様にしていたドニ。

 流石に……何か、いつもの様子では無い父を訝しんだミーティアが父に問いかける。


 「……御父様?……あの……どうされたのでしょう?ミーティアの顔に何か……?」

 「ん?……おぉ。話をするのだったな…………いや……もう大丈夫だ」

 「いえ……お気になさらず。ミーティアは何も問題ございませんわ」


 部屋の真ん中に設置された四つの大きな一人用ソファ。

 その中の一つを指差しミーティアを座らせたドニは、自らも対面のソファに腰を下ろす。


 「うむ。それで……話というのはだな」

 「はい」

 「あー……その……だな」


 なんとも歯切れの悪いドニ。

 ミーティアの心中で、どんどんと不安が膨らんでいく。

 彼女の知っているいつもの父は、もっと堂々としていて……泰然とした王であるからだ。


 「いや……うむ。……ミーティアよ、現在我が国はギルドと戦争状態なのは知っているな?」

 「勿論です。……お話とはそれについて……ですか?」

 「あぁ……いや。そうではあるが……」

 「なら御安心下さい、御父様。御父様がなさる事にミーティアは異議も疑いも有りません」


 娘の信頼を聞いてドニは、その表情に影を落とす。


 「違うのだミーティアよ。……良いか、今から言う事を良く聞いてくれ」

 「…………?はい」



 「この戦の結果。余は……命を落とすだろう。……いや……()()()()()()()()()()



 父の口をついて出た台詞の巨大な衝撃にミーティアは目を大きく見開いた。


 「な、にを……?何を言っているのです……!?御父様……!」

 未だ衝撃から抜け出せぬミーティアを置き、ドニは言葉を続ける。

 「余の狙い通りならばこの戦に於いて被害はそう出ぬだろう。しかしその先は見通せぬのだ」


 「……何の話を……!?」

 「だが、余の命を使っての()()()()()。それを以て王国はこの先の――」


 「――御父様っ!!」


 「いったい……!どうされたのですか!?……そうです!医師!医師を……」

 「ミーティア……!!」


 父のあまりの変貌振りにソファから立ち上がり、医師を呼ぼうとしていたミーティアをドニが威厳に満ちた声で制する。


 「この話は……そして今からする話はお前にしか話さん。そして……未来永劫、口外を禁ずる」

 「……どういう事なのですか!?それが御父様の本心だったとしても、では何故……何故、私に話すのです!」

 「…………。……余の死は……王国(おまえたち)が生き延びる為に必要なのだ。決定された運命から()()()()()

 ミーティアの疑問に答えているようでズレているドニの言葉。

 「つまり……ミーティアよ。話というのは他でもない……王位継承の事だ。戦時中の為、公に行う訳にもいくまいが……問題は無い。お前は余のたった一人の子なのだからな」

 「冗談ではありません!御父様、ミーティアは……!」

 「そして……」


 「……そしてどうか、この先の王国を頼む……と。そういう話だ。……ミーティア」


 その時。

 突如、王都を暗闇が覆い尽くした。

 先程まで窓から差し込んでいた陽光も消えている。


 「御父様、外が……!」

 「……漸くか。【魔女】よ」



――――王都【サンクチュアリ】――――



 王都外周、王都を囲む様にそびえ立つ外壁の上に多くの人影が見える。

 その先頭に立つのは、王都の上空に超巨大な一つの魔法陣を描き出したサラ・ワンダー。

 約二百万人が暮らすこの都市をすっぽりと覆う程の魔法陣と、そこから発生させた固有魔法を手に持った小さな杖でタクトを振るように制御しながら……しかし彼女は悠々と独り言を零す。


 「流石に……嫌な記憶が蘇るものよな」

 「なんのことです?」

 サラの独り言に反応したのは隣に居るミレイア。

 「…………さてなぁ?なんのことじゃろな」

 「えー?なんですかそれ」


 「ところでマスター?もう行っちゃっても良いんです?これ」

 「まぁもう少し待て。被害は最小に、じゃ。私が居る此処では特にのう」

 「はーい。……でも初めて見ましたけど凄いですね!これがマスターの固有魔法!」

 「うむ……<デッドエンド>じゃな」


 サラ・ワンダーの固有魔法・超広範囲空間魔法<デッドエンド>。

 その効果は『空間の中に存在する物の選別と衰弱』。

 魔法の対象は人に限らず、有機物・無機物を問わない。

 衰弱は徐々に対象を蝕むもので、例えば瞬時に死へと至らしめる事等は不可能である。

 しかし彼女が意思を持って衰弱を掛け続ければ、空間内に在るどの様なモノでも最終的には絶える。

 そこまでに掛かる時間は対象により異なり、魔力が強い者や魔力量が多い者程、効きは鈍くなる。

 だが……無機物に対してはその条件は適用されない。

 今回、彼女が優先して選別し衰弱を掛けたのは王都内に存在する無数の【転移魔法陣】であった。


 彼女は外壁の上に転移した後、瞬時に王都上空へと魔法陣を構築した。そしてものの十秒程で王都内の転移魔法陣を選別し、そこから二分と経たぬ内にその全てを消し去ったのである。

 つまり……王都には、外からの転移が不可能になった。

 他の都市からも、同盟を組む国からでも。援軍が来るには陸海空の路を使うしか無い。

 しかし<デッドエンド>は、王国側にとって理不尽にすら感じられる副次的な効果を持っていた。


 「あっ。マスター、他の部隊から報告の()()()()()()()()!」

 「んむ。どうやら3人の団長はみな気付いた様じゃな。当然と言えば当然じゃが」

 「……あれ?でもなんで通信が?さっき聞いた説明だと、マスターの空間内は……」

 「そうじゃな。言った通り、この暗い空間の中では微弱な魔力はその働きを阻害される。……簡素な生活魔法等はその最たるものじゃ」

 「えー。でも通信来てますよ?」

 「()()()魔力じゃ。ギルドの皆には通信魔法具を持たせてあるからの。事前に私が魔力を込めた特別製のな」

 なるほどー、とミレイアは頷きを返す。

 「それに案外簡単なカラクリ程気付かぬものよ。通信魔法の起動に強い魔力を込める者など居らんしの。お利口さんな騎士達には尚更……受信側に何の問題も無い事も拍車をかけてな。……かっかっ!」


 「……今、この都市は陸の孤島。さっさと頭を取ってこの馬鹿騒ぎを終わらせる為にも……そろそろ行くかの」

 「あっ……て事は!準備オッケーですか!?」

 もう待ち切れないといった様子でミレイアが相棒である武器を構える。

 彼女の身長よりも長い、鉄で出来た錨。この武器に名は無く、鎖は付いていない。

 「うむ!衰弱も充分に効いた……もう良かろ」


 サラが大きく息を吸い込み、本隊……三百人に号令を掛ける。

 「良いか皆の衆!ここからが肝じゃ!他の皆が踏ん張っている内に王を取る!!それで終いじゃ……!!」


 「良いか!王国の民やその他は一切、無視じゃ!狙うは……」

 杖の先を上方【エアリウム城】に向ける。

 「……アレのみよ!!そして……」

 そのまま、杖先を僅かに下ろす。

 「先ずはあの城門じゃ!……行くぞ!!」


 おォォっ……!と気勢を上げる冒険者達。


 その勢いを削ぐように突如、暗闇を金色が切り裂いた。


 これに咄嗟に反応しサラの前に躍り出たのはミレイア。

 この()()が彼女を狙ってのモノだと判断し、武器を構え守りに出たのだ。


 「かかっ。確かに()()()じゃったの……ミレイア」

 「こういう意味じゃ無かったんですけど!」

 「此処はお主に任せるぞ」

 「まー……しょうがないですね」

 ミレイアを残し、続々と地上に降りていく冒険者達。

 そうして……外壁の上に残ったのは二人だけとなった。



 「行かせてもらって良かったの?」

 「奇襲が失敗した時点で……あの化け物の命を取るのはもう無理。そもそも成功するとも考え難かったけど……それにどうせ貴女が邪魔するでしょ」

 「それはそう!」

 ミレイアが錨を構え直す。

 「でも……まさか私の相手が()()だなんて思わなかったなぁ」

 「こっちだって同じだよ。……なんで団長を……裏切ったの?」


 「裏切ってないよ!ただどっちにも恩が有るってだけ、今回はこっちに付く!……それに【風姫】……うぅん、()()は今居ないし!」

 「それ以前に王国民でしょ?今回の戦、王国籍の冒険者は殆ど参加しないって聞いてたのに……。どっちにも付かず、大人しく家に居れば良かったじゃないって言ってるの」

 「む!……そんな事言うんなら、そっちだって大人しくしてなよ!お見舞い行ったのつい最近だよ!?さっきだってスキル使ったでしょ、まだ使っちゃダメだよ!」

 「いつまでも寝ていられないの。ミレイアと違って責任が有るんだから」

 「むー!……言っとくけど似合ってないからね!副団長なんて、全っ然!」

 「別に構わないしー。肩書で騎士やってる訳じゃないもん」


 「……もー怒ったから!遠慮なくやっちゃうからね!――エルネア!」

 「だから……こっちだって怒ってるんだってば」



――――――――



 王都サンクチュアリ・市中。

 時刻は昼間、しかし突如として暗闇に包まれた街。

 慌てふためく民の避難誘導を指示していた中で、指揮している兵士達が次々と倒れ込み……報告の通信魔法すら繋がらない状況にリエット・リーフセイムは焦り戸惑っていた。


 「こんな事が……これが個人の魔法だって言うの」


 リエットは明らかに変調を来している己の身体を確認する様にさすりながら次に取るべき行動を考える。



 兵士達が倒れ、騎士の自分が一応は立てている事を考えると……ぼんやりと、この魔法の効果が理解出来た。

 今は止んでいるが、先程までは何か……力が()()()()()()()感覚が有った。

 吸い取られるのでは無く、その場に抜け落ちる様な。

 恐らくは空間魔法の類であろう事は、この暗闇を見れば一目瞭然だ。

 しかし……私と、この部隊だけが狙われたとは……思わない。


 ……なら?

 まさか対象は……


 ぞわっっ……と、冷たい何かが頭の天辺から足の爪先にかけて通り抜けていく。

 そんな規模と精度の魔法を……個人が?

 あり得ない。あり得て欲しくない。

 まさかとは思いつつも、王城への転移魔法を発動してみるが……全く反応が無い。

 ……改める他、無いのかも知れない。

 Sランク冒険者という存在の……認識を、更に上方へと。



 リエットが戦慄していると、目の前に影が落ちて来る。

 影の正体は同じ第五軍所属の騎士。


 「リエット!大丈夫!?」

 「リタ……」


 王国騎士『リタ』。十二歳。

 灰色の髪をした少女。


 「これ、ギルドからの攻撃だよね!?あたしの部隊の兵士達もみんなやられちゃったの!通信も全然繋がらないし……転移も使えないし!ね、何が起きてるのかな!?」

 「やっぱり……そう……なのね」

 「どういう事?」

 「騎士クラスの実力を持った者で無ければ耐えられない……何かの……デバフ効果を受けた。王都全体に……きっとそういう事よ」

 「……嘘!?だって兵士だけで5万人だよ!?」

 「私だって信じたくない。でも……多分、事実よ」


 「だけど……良かった。リタ、貴女が来てくれて」

 「えっ?」

 「私達の取るべき行動は見えたわ。ファナは最初から王城に居る筈だし……後は合流するだけよ」

 「でもリエット、街を守らないと!」

 「……そこは信じるしか無いわね。……ギルドを」

 半分、諦めたような表情でリエットが言う。

 「でも……っ!」

 「どちらにしろ街全体を私達だけでカバーするなんて無理なの。だから……ね?」

 「…………うん」


 街に背を向けたリエットは目を閉じた後、胸に手を置く。……唇を強く噛みながら。

 数秒間そうした後、踵を返し……リタと共に王城へと走り出した。



――――【エアリウム城】城門――――



 高台の上に建つエアリウム城に唯一繋がる道を塞ぐ堅固な門。

 転移魔法を使わない限り、此処を突破する以外に城へと到達する手段は皆無であり……それはサラ・ワンダーであろうとも例外では無い。


 「……ちっ、やはり硬いのう」

 城門の前に着くなり、サラは攻撃魔法を城へとぶっ放した。

 結果は火を見るよりも明らかだったが、挨拶代わりに。

 「全面が魔法を弾く鉱石(レッドベリル)を混ぜ込んだ資材……か。かーっ、金掛かっとるの」

 「マスター!城門を!」

 冒険者の一人が叫ぶ。

 「やっぱりの。ここには効いておらんだか」


 城門から続々と出て来る王国軍。

 その中には騎士も居る。

 王国の騎士団が着用する一般的な鎧よりも、鋼部分で覆われた箇所が多い鎧を着込む彼等は【ロイヤルガード】。

 王族の守護を担う騎士。

 侯爵位以上の貴族か、その家の子息のみで構成されるロイヤルガードはエリート中のエリート集団だ。


 「騎士共は私がやる。残りの兵士……200くらいか。そっちは皆に任せる。一般の兵士とて決して油断はするなや」



 「よっしゃ!みんな聞いたな!?」

 「了解ですマスター!」


 「冒険者風情が……!軍を舐めるな!!」

 「王国軍!戦闘開始だ!」



 城門の前を舞台として……どちらからともなく、二つの勢力は激しくぶつかり合う。

 それを横目に、五人のロイヤルガードは動けない。

 目の前に立つ一人の……どう見ても、外見は少女にしか見えない()()が睨みを効かせているから。


 「サラ・ワンダー……」

 「主達も災難じゃなぁ。()()()王を護らねばならんとはの」

 「貴様……王を侮辱するか!」

 「おっと。すまんすまん……問答をするつもりも時間も無いでの。さっさと決めさせてもらう」


 「舐められたものだ……!!」

 五人の騎士、それぞれが得意とする攻撃を最大威力でサラへと繰り出す。


 旋風を纏った弓矢を瞬時に引き絞り放つ者、白い輝きを放つ片手剣を斜めに切り下ろす者、口から勢い良く水を噴く者、足場を崩そうと地面を揺らす者、他の騎士へバフ魔法を掛ける者。


 五人が五人、その行動は通ったと思った。

 だが次の瞬間……騎士達の姿が僅かに()()()

 残像が残っている様にハッキリと見える。

 しかしその残像は、実像よりも()()()()()()()


 「……!?!?…………ッがは!」

 「ぅ……!ぐゥ……おえェ……!!」


 「気持ちが悪かろ?()()()()()()()()()


 「ゲ、ボォ……!が……あぁア!!」


 騎士達が転げ回り、鎧の上から身体を掻き毟ろうとしている。


 「おーおー……可哀想に。しかしやはり効きが良いのぅ、整った動きというのは」


 サラはそう言い残し、未だ戦う者達へと目線を移す。

 騎士達は今や気絶寸前といった様子だ。

 「急ぎじゃ。こちらもさっさと終わらせる」

 既に展開し続けている空間の中に、更にもう一つの空間を作る。

 「<デッドエンド>」

 またも発動するサラの魔法。

 数秒もせず、王国の兵達はバタバタと倒れていった。


 城門前の戦いは……Sランク冒険者サラ・ワンダーの活躍により、数刻も経たずに終結した。

 王国側、ギルド側を合わせて総勢五百人を超える戦いであるにも関わらず、だ。


 しかもこの戦闘での死者数は……『零』である。


 「流石……マスター」

 「ん?ま……これくらいはの。それより急ぐぞ皆。勝負は時間で決まる」

 「いや思ったよりも余裕じゃねーの!そんな急がなくたって、ギルドマスターがいりゃ楽勝だぜ!」

 この場での勝利に盛り上がる冒険者達。

 サラはそれを見て、いかんな……と零す。


 「急がねば負けの目が出るぞ」

 「えっ、だってマスター。後は騎士が少し城に居るだけだろ?負ける訳無いって!なんならマスター1人でも余裕だろ!」

 勝利から来る高揚感で軽口を叩く冒険者。

 それを諌めるようにサラが冒険者全員に対して言う。

 「王国はそれ程甘く無い……城には未だロイヤルガードの隊長が居る。……軍団長と同レベルに在る強者がな」

 「だから……マスターなら倒せるだろ?取り巻きの騎士達も纏めてよ!」

 「……敵の残りがそれだけならの」

 「?……だけって、そりゃ」


 「勘付いた軍団長達は恐らく、今も此処に向かっておるぞ。騎士団長ライアンも健在じゃ。此処に来るかは()()()()()の。それに……」

 「……それに?なんだよマスター。ビビらせなくても」

 「――【風姫】がいつ何時戻るか分からんのじゃ。のんびりと出来ようか?」

 その名に空気が張り詰める。

 「あ奴には私とて敵わん……今一度言うぞ皆の衆!急ぐぞ!!勝ったこの時にこそ……気を引き締めよ!」


開戦④へと続きます

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