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GHOST  作者: 十月 十陽
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筆記者 神芝幽

 私は人と同じ感覚を持っていない。けれど、私は人と同じ感覚を持っている。私は世界が見えている。私は世界を聴くことができる。私は世界を味わうことができる。私は世界の匂いを知ることができる。世界は私に触れることができる。

 他の人が持っている五感ではないことを知っていた。

 しかし、そのことを気にしてたことは一度もない。私が持っているすべての感覚は私が他人を知るうえでとても重要なことだ。例え、他人から否定されたとしても、自分の感覚をどうしようもなく愛し、想い、信頼する。

 見えている者は見えていない者を知ることができないように。私は私と同じ人間を世界のどこかで見つけるだろう。

 もしも私が他の人と同じ感覚を持っていたら、と考えたこともある。人と同じ五感を持って生まれ、同じ時間を誰かと暮らす。

 そのことを想像すると自然と涙を流すことがあった。手をつなぎ、光が与えた試練を愛する誰かと乗り越える。独りじゃないという感覚は天使の詩のように聞こえる。

 だが、現実はそうならなかったことを告げていた。どれだけ詩の妄想をしたのか分からない。どれだけ偽物の温かさを知ったのか分からない。

 始まりに誓い、終わりに安らぐ。

 ありえないことは世界の中心で現実になっている意思とも言えるだろう。

 それは神の孤独だ。美しく、ラッパの音色が雲を揺らす。白い羽の優しさに肌を撫でられ、思い出す故郷の香りを味わう。

 自分よりずっと辛く苦しい誰かを見たとしても、そこに希望を持ってはならない。そこにあなたはいないのだから。

 生きているからこそ救世主の存在を見つる必要があると思う。

 その姿こそわたしは、メシアス・メサイアと呼ぶことにしている。

 ただ殺しているだけの俗世の知性では表現する言葉を持たない存在。思想と誓い。両方の矛盾を抱え、救世主は世界の善悪と知性を持たないものにまで裁きを下す。

 もとより感情や知性のないモノに対して、なぜ善悪を振り分けないのか疑問だった。

 必要だからという理由で納得するよう洗脳されたことで見失ってしまったのだろうか。

 メシアス・メサイアはそんな夢のような存在に異議を唱える。

 しかし、救世主という完全な善として作るためには悪の存在が必要不可欠だ。

 わたしはそこでひとつの薬を作った。薬名を≪ニンヘル≫という。おもに精神薬として服用するものだが、ある特定の薬と混ぜれば初期の癌細胞を完全に無力化することができる。問題は薬の離脱症状にある。強力な依存性があるのにくわえて、精神の乖離が起こる。この症状から逃げるためには毎日決められた量の≪ニンヘル≫を服用し続けなければならない。

 私の実験結果としては、≪ニンヘル≫から逃げられたものは誰もいない。私はこれを新しい悪として、世界中にばら撒くつもりだ。そしていつか裁く者が現れることを神に願い、この日記を終わらせよう。

 最後に、メシアス・メサイアが人格なのか生き様なのか、という問いにわたしは答えることが出来なかった。だがそれもこの実験が証明してくれるだろう。

 舞台の幕を開けるのはいつだって、楽に生きようとした人間たちなのだから。


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