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GHOST  作者: 十月 十陽
開式(調整中)
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開式(3)


 中央公園から出て駅を目指す。その間、港の集団自殺について質問した。本当になにもわかっていないらしい。一週間前から目立った進展はなく、ニュースだけで手に入る情報だけじゃ限界がある。現場に置かれていた装置について、いくつかの言及はあったものの、それも全国的に知られている情報だ。

「二十人も自殺したのに」

「喜葉くんが何か拾ってきてくれればいいんだけど」

 探偵は手をひらひらと動かす。木漏れ日が揺れた。

「港のほうにはいかないから」

「冗談だって」それに。「行けば警察と鉢合わせすることになるでしょ。喜葉くんはあの人たち嫌いだもんね」

「……」戸惑った。「嫌いじゃない。どうでもいいだけで……」

「そうなんだ」

「そっちのほうはどうなったの?」

「お手上げ。だから、港の事件に関しては終わりにしようと思って。もっと面白いもの見つけたし」探偵はいう。「私にはヒントがないものを追いかけることはできない。そんな贅沢な時間は許されてないからね」

 確かに、探偵とは土日しか会えない。それは探偵の主人である、岡本光希が決めたことであり、他の人も同じルールを守っている。

 駅に着くと、神社村への切符を二つ買う。一枚を探偵に渡した。「さんきゅー」

 電車に揺られ、目的の駅に着く。

そこから案内に従って、石畳で出来た道を進み、人が増えてくれば、もう道に迷うことはない。あとは人の流れに乗っていくだけだ。

 神社村は美鏡市で有名な観光スポットになっている。周りには国内外問わず、観光客で溢れかえっていた。

 周囲には古民家を使った宿がいくつもあり、着物の貸し出しや、夜にライトアップされた神社村を見ることができる。

 歩いてきた本道はゆるやかな下り坂になって、脇道から入ってきた人たちと合流する。枝分かれした道は、最後に、大きな一本道になった。

 その向こうには巨大な鳥居と複数の神社が重なり、ひとつの村のようになった場所が見えてくる。

「キレイだね」探偵は桜を見ていった。「デートにはもってこいだ」

「───……」

 店を区切るようにして続いている桜道。探偵は気持ちよさそうに歩いた。

 神社村の桜はチヨリザクラという品種で、別名、ダマし桜と言われている。

 その理由は四月の終わりに咲き始め、五月になったあたりで満開になり、日本人の季節感覚を狂わせてしまうからだ。

「ちょうど満開の時期にこられたね」

 そうだね、と探偵は答えた。

「だけど……。この桜の一番の見どころは散ったあとの葉っぱだと、私は思ってる」

微かな笑い声が聞こえた。

 チヨリザクラは花を散らせると、秋の風物詩といわれる赤い紅葉に変わる。それを六、七月に見ることができ、名前通り、季節を錯覚させる桜だ。それがどうしてなのか、どこかの大学で研究がされているらしい。

 しかし、いくら研究してもチヨリザクラは普通の桜と何ひとつ違うところはなかった。

「今日も賑やかね」

 鳥居をくぐって中に入っていくと外から見たものとは全く別の空間が広がっていた。名物の団子屋があり、奥に進むにつれたくさんの人に囲まれ、身動きができなくなる。

 探偵はその中を縫うようにして進んでいく。しばらく進んだあと人気のない道に出た。遠くに酒蔵がドンと構えており、途中には編み笠や藁ぞうりを売っている。

 酒蔵の前では、作った甘酒を巫女さんたちが配っていた。

 巫女さんたちを通り過ぎたあとの道にはほとんど人はいない。先ほどまで溢れかえっていた観光客は消えてしまった。

「この場所に死体があるの?」

「それを確かめに来たんだから。ある、なしはまだ分からない」

 キレイに整備された道に血の一滴でも落ちていれば、それを追いかけていくのに。

「ふふっ。……計画的に殺人をする人っていうのは潔癖症だからね。どこを探してもそういう分かりやすいものは見つからないと思う」

 探偵はスキップするみたいに歩く。ちらほら、草のにおいが体に入ってきた。

 また、人通りの多い道にもどってくると探偵は人混みのなかに消えてしまう。離れないように後を追った。さっきとは違い、たくさんの人がごった返す。その中に日記と関係のある場所なんてどこにもないような気がした。それに、これだけたくさんの人が神社村にいて、見つからない死体があることのほうが信じられない。

「私もそう思うよ。だけど、神社村には誰も立ちよらない場所ある。そういう場所を知っていたら、みんなそこに隠すんだよ」

「神社村のどこかに死体の山があるとか」

「確かに。死体を隠すらなら死体のなかだね……。だけど、日記を拾った私たちはかくれんぼの鬼役だから……そうだなー」探偵はきょろきょろと辺りを見回す。「どこかに立ち寄らない場所があると思うんだけど」

「立ち寄らない場所? 神社村にそんな場所なんて───」

「見つけた」

 探偵に手を引かれ、人混みを抜ける。その先には確かに誰も立ちよらない───というか立ち寄れないように禁止の看板が立てられた道があった。

「たぶん、ここが入り口。キミが拾ってきた日記に書いてあることが本当ならね」

 立ち入り禁止の看板は探偵の好奇心に虚しく敗北する。さっきまでの白塗りにされていた道とは違い、雑草にまみれている。獣になった気分で土を踏みならす。

 奥に進んでいくにつれ、探偵の足も速くなる。

 小さなトンネルが見えてきた頃には、もうほとんど走っているのと変わらなかった。

「早く行こう」

 探偵に手を引かれてトンネルに飛び込む。トンネルの中には冬の空気が残ったまま───幸いなことにここまで熱を冷ませた───時間が止まり、季節を遡っていく。

明かりと呼べるものはなく、探偵の気が向くように道を進む。

 少し離れた場所から、かまぼこ型の光が見える。出口だろう。このトンネルは思っているほど長くないらしい。

しかしそこで、探偵は動かなくなる。

「ヘンな音がしない?」

「……───」耳を澄ませば、トンネルのどこかで水の落ちる音が反響している。

 ぴちゃぴちゃ、と遊ぶような……。

「それじゃないよ。もっと大きい……足音みたいな感じ……」

「気のせいじゃない?」

「……かもしれない」

 そう呟くと一緒にトンネルを出る。最初は鳥の声が聞こえた、続けて探偵の空笑いが聞こえてくる。

「ははは……見て」

 神社村に隠されていたのは、人のいなくなった村だった。

確かに出口から差し込んでくる明かりしか、頼るものはなく、いつもその途中で音が聞こえた。

進んでいけば、このトンネルはさほど長くなく、離れた場所にはかまぼこ型の出口が見えている。もうすぐだ。もうすぐ。

 そこは鳥の声が聞こえた、森のにおいが強く残っている───トンネルから抜け出した先には人のいなくなった村があった。



     △△△



「この場所は三年ぐらい前から誰も入れないようになってたみたい」

 近くにあったぼろぼろのベンチに座って探偵と話す。

「……三年前から」

「死体を隠すならあの道を進んだ先にある」

「じゃあ、あの先に」

「それは行ってみてからのお楽しみだと思うなー」探偵は買っておいた団子を食べた。「みたらし団子、美味しい」

 探偵が指差したほうに視線を向ける。村に秋を感じて、竹林には夏が居座っている。日記のこともあるが、神社村に来てからいくつもの季節が乱れているように感じる。時間が存在していないような、季節の騒がしさが心地いい。

 隣からは焦げた蜜のにおいが漂ってきて、この村に奇妙な哀愁の色を浮かべた。

 団子を食べ終わった探偵の後ろについて歩き、人肌色の道を進んでいく。すぐに竹林に入り、先ほどまでの賑やかさは不自然なほど遠くに行ってしまう。

「人がいない神社村なんて信じられない」

「時間が変われば、どんな場所でも人はいなくなるよ」

 竹林を抜けて屋根付き橋を渡る。手すりには苔が生え、いくつものツタがヘビみたいに絡まっていた。本当に誰もここには立ち入っていないらしい。整備されていない橋がところどころで、ギシギシと音を立てる。

「橋を渡ってしばらくすると捨てられた神社がある」

「そこが目的地なわけ?」

 探偵はにっと笑った。

「楽しみだね。私たちの探しているHERAの手掛かりが見つかるかもしれない」

「……。確かにHERAの名前が書かれてた。でも、それでHERAを見つけらるとは思えない」

「キミが読んだのはひとりだけだろ?」

「うん」

「でもその日記には、全員がHERAのことについて書いていたんだ」またまた、嬉しそうにする探偵。「おめでとう……っていうのは違うか。まだ見つけてないしね。それでも、ヒントにはなるんじゃないかな」

「もう諦めてるよ」

 砂利道を歩いた。足音が鳴るたびに砂に埋まる。ミミズの上を歩かされてるみたいで、足の裏に吸いついてくるような感覚だ。

「いやらしいこと考えてる?」

「どうしてそう思うの……」

「変な顔してたから」

 変な顔をしていた理由を説明する。探偵は斜め上の返事に戸惑ったようすで、

「じゃあ、私たちはいつかミミズに食べられてしまうってこと?」

「そういうことかな」

 探偵は楽しそうだった。

「楽しいよ」探偵はいった。「喜葉くんとの会話はいつだって楽しい」

 また話をしながら砂利道を進んでいく。周りに誰もいないせいか、鳥の声がやけにうるさく聞こえる。竹林に踏み込んでからの探偵は鼻歌を繋いでご機嫌だ。日記のことを確かめることがそんなに面白いのだろうか。

「謎があればどんなものも面白い」

「範囲が広いね」

 どんなものでも楽しめる、というのは探偵として生きていくうえで必須の才能なのだろう。不思議なことに近づいてしまったらそのことを忘れられない。

 もし諦めることがあるとしたら、それは謎が離れていった場合に限る。

「うーん……才能は関係ないかも。私はただ欲深いだけだから。その辺に捨てられたゴミを誰が捨てたのか、そんなことでも暴きたいと思う」

「でも、それがいつまでも続くわけじゃない。危ない場所ではいつだって人が死んでる。自殺だったり、事故だったり、殺されていたり」

「謎でも何でもないことを難しく考えすぎてるって言いたいの?」

「心配してる。いつかそういうことが起こるんじゃないかって」

「喜葉くんが悩むことじゃない」探偵は一呼吸おいて、それに、と続けた。「喜葉くんを残して、勝手にいなくなったりしないから。安心していいよ」

 微笑む探偵はキレイだった。

 それから目的地に着くまで会話をしなかった。無言の時間に少しの緊張感もない。ただのんびりと歩いた。

 竹林を抜けるとひらけた場所にでる。

「ほら、あった」

探偵が顔を上げる。

「日記に書かれていたのはこの場所。見てみなよ」

石造りの鳥居に、岩で作られた階段。神社村の整備されたものとは違い、もっと昔から放置されているような───誰もこの場所のことを覚えていないのだろう。忘れられた、苔のような匂いがする。

「早く行こう」

 探偵に釣られて、石造りの階段をのぼる。

「滑りやすくなってるから。気をつけて」と探偵が言った。

 階段をあがって神社の前で立ち止まる。日記に書いてあることが確かなら扉を開ければ死体がある。もう誰も来なくて、一人寂しそうにしていた神社にやって来た参拝客。死んで、苔に食われてしまうのを、じっと待っているだけのモノ。

 扉に指を近づける。

「ここにあるのは氷室清司っていう人の死体らしい。まだ残ってるか分からないけど」

「……───氷室清司」

 死体があっても、なくても明日は変わらない───変わらない、そのはずだ。

 探偵が戸を開ける。ガタガタという音をならし、ほこりが舞った。

 下を向く。

見たくなかった。

「あったよ」と探偵がいう。それから躊躇うように。「キミは見ないほうがいい」

 忠告は遅かった。

 もう顔を上げていた。

 首を吊った死体がぶら下がっている。

 顔が潰れていた。

 ああ、イヤな気持ちだ。

 背中に走ってくる悪寒は目の前のモノから離れないよう、手を叩いて楽しんでいた。目をそらしたくなるのをぐっと堪えて足元を見る。そこには小さなナニかが落ちているように見えた。遠くから探偵の声が聞こえて、身体が左右に揺れる。

 誰かのことを思い出しそうになった。誰だったかな。でも、気持ち悪くてのどが痛い。思い出そうとしていることは、きっと楽しい事じゃないんだろう。あの人は誰だったかな? 呼吸は荒くなり、心臓の音がハッキリと聞こえはじめる。

 同じように首を吊っていた誰か。あれは───。

「落ち着いて」と探偵が抱きしめてきた。「外で待ってて。死体は私が調べておくから」

「……───」



     △△△



 探偵が出てくるまでざわついた気持ちを落ち着かせようと、ひたすら呼吸を繰り返す。吐き気に似た酸っぱさと、必死に飲み込んだ唾はドロついた血液みたいだった。また、思い出しそうになった。手足のしびれといっしょに寒気がやってくる。

 もう立っていられない。

 すぐそばの石階段に座ろうと近づいたとき、手首を掴まれた。

「おまたせ、終わったよ」探偵だった。「気分がすぐれないときは、階段に近づかないほうがいい。そのまま落ちちゃうから」

「……───」

「今はなにも話そうとしなくていい。のんびりしよう」

 探偵に言われるがまま、砂利のうえに寝転がる。砂利からは優しい冷たさみたいなものを感じた。二十分ほど横になっていると、ようやく呼吸が落ち着いて、手足のしびれもなくなった。もう誰かのことを思い出せそうにない。

「落ち着いた?」と調べ終わった探偵が声をかけてきた。

 うなづいて、起き上がる。探偵はそれを心配そうに見ていた。

「死体はどうだったの」

「……キミが拾ってきた日記は正しいと思う」

「どういう意味?」

「日記に書かれていた通りだった、てこと」探偵は続けた。「あの死体は氷室清司っていう男の死体。日記にはそう書かれてる。これが足元に落ちてた」

 探偵に見せられたものは、氷室清司と書かれた名札だった。

端っこに、血がついている。

「氷室清司のことを書いていたのは暮屋玲子って名前の人だった。氷室と別れたのが神社村のこの場所だった」

 まだ読んだことのない人の名前だった。

「じゃあ、その暮屋さんに殺された、とか」

「うーん……。正直、まだ分からない。暮屋玲子の日記には氷室清二のことを殺したとは、書かれてないんだ」

 それならどうしてこの場所と死体のことが書かれていないんだろう。

「別れた……ってこと? それは違うと思う。ちゃんと生きたまま別れて、氷室清司はここに死体を残していった」

 HERAのことを意識してこの場所に首吊り死体を残したんだろうか。氷室清司という男が何をしたのか知らないが、それでもこんな風に死んで良かったのだろうか。

「キミの言いたいこともわかる。けど、氷室清司は間違いなくHERAと同じように人を殺してる」探偵はいった。「その名札についてる血痕も、暮屋玲子といっしょに殺害した人のものだ」

「二人で人を殺した……。そのことも日記に書いてあるの?」

「書いてない。だけど、一緒に行動していたなら、殺人も共犯なんじゃないかな。日記では協力関係にあったみたいだしね」

「……───」

「信じてないって顔してる」

 信じるも何も。読んだことない人の日記だ。考えるにしたって今は材料がない。

「とりあえず、ここでの収穫はこれ以上ないんだから、あとは帰るだけだね」

 そうれだけ言うと、探偵も同じように砂利のうえに寝転がった。立てるようになるまでゆっくりと森の空気を堪能し、すぐそばにある死体を忘れようと必死になった。



     △△△



 立ち入り禁止の看板を抜けて、人通りの多い神社村に戻ってくると、探偵といっしょに神社村を歩き回った。着物の試着をして、いくつかのお土産を買う。帰りの電車に乗ったのは十六時頃だった。

 その頃にはもう、探偵はうとうとして、意識を手放しかけていた。

「神社村に残されていた氷室清司はどういう理由で殺されたのかな。暮屋玲子が殺したんじゃないとして。二人で殺したはずの死体は処理されている。その人のわがまま───最後の願いだったんだろうね」

「誰かを殺すことが目標になる人生か」

「意味がない?」

 頷く。「意味はないと思う」

「生きることに残された希望は死ぬこと……。そういう風に言われてきたし、これからもずっと言われ続ける。自由って、意外と少ないんだよ」

 探偵の言うこともわかる。だからこそ、何もせず生きられたらって思う。

 少し考えてから、探偵は答えた。

「……無理だね、それは」

「どうして?」

 何もないなら、それだけで楽だと思うんだけど。

「楽すぎると狂ってしまうんだよ。だから、刺激のあるものに依存したり、価値のあるものに感動したりする。そういったモノについて行ったりしてしまうと簡単には抜け出せなくなるんだ」

 めんどくささの塊、みたいなものが人間で、日記も同じように誰かを求めた結果なのかもしれない。

「それが私たちに刺激をくれて、今日みたいな行動をさせたわけだしね」

 探偵は眠そうに頭をゆらして、

「少し休むよ。駅についたら起こして」

 肩にもたれかかってきた。呼吸は雪みたいに薄い。

 探偵の話を聞いても意味のある刺激とは思えなかった。

 書かれていることは一方的な人殺し。

 命に価値がありませんようにと願われて───暮屋玲子の日記を読んでみようか───寝ている探偵を起こさないよう慎重に鞄から日記を取り出す。

「こんな日記が……───」

 にらめっこしているとき、隣で寝ている探偵は聞き取れない、小さな寝言をつぶやいた。

起こしてしまったかもしれない、と謝りそうになる。探偵は、一瞬だけまぶたを上げて、またすぐに眠ってしまった。

 今度は全体重をかけてくる。

 電車が進んでいくにつれ、美鏡市のビル群が見えてきた。街の上の空は少しだけオレンジ色に染まって、青と混ざり、柔らかい猫を撫でたような気分になる。

 ふと、家のある場所が見えただけで人は安心するのか?

 疑問が浮かんだ。

 帰る場所に向かっていろんな足が動いている。

 殺人をした人間もそこは変わらない。彼らは死体を隠して家に帰るのだろう。見つからない場所に埋めるか、沈める。

 見えてきた街並みの柔らかさは消えた。

 これから帰ろうとしている場所は殺人鬼の巣窟。

 心がざわついた。

 飲み込まれそうになる。

 それは子どもの作った落とし穴みたいだった。気にしないようにすれば、手足がバタバタ、騒がしくなる。

「気にしなくていい」探偵の言葉を思い出した。

日記を鞄のなかにもどす、そして、鞄のなかに氷室清司の名札が入っていることに気づいた。

「いつのまに」

 もうすぐ美鏡駅というアナウンスがあって、横で寝ている探偵の頬を引っ張る。

 探偵は起きなかった。

 また、細い声で寝言をいう。

 美鏡駅に着いたのは、夕方の五時を回ったところ。人通りは少なく、猫背の人たちがいない時間。

「それじゃあ、私はここで。また明日」

 探偵は左の頬をさすりながら、バスに乗った。

 また時計を見る。この時間ならギリギリ病院の面会に間に合うかもしれない。




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