内面組み換え
神様の子供である万物創の日常生活において、生物の性質を組み立てる『神ブロック』は欠かせない品だ。
創は常にショルダーバッグに、『神ブロック』入りの小箱を入れて持ち歩いている。
『神ブロック』の仕組みとは、一つ一つのブロックを組み換える事でターゲットにした相手の『内面的な部分』を組み換える事が出来る……考えただけで恐ろしいアイテムなのだ。
その為、扱いに難しい品となる。
創が暮らしているアパートの前には、大きな公園がある。
アスレチックを思わせる木で造られた遊具が在り、休日には家族連れや学生達で賑わう場所となる。
創も時間があれば公園へ赴き、好きなように楽しんでいる。
遊ぶときは、普段から友人である野々木淳豊と主に行動していた。
彼らにとってこの公園の遊び具合は、ジャングルのようなもの。
「森の中にアスレチック公園があるって、最高だね!」
「創ん家は良いな。
近くにこんな公園あってさ!」
「今度の休み、泊まりに来なよ」
「いいねえ、それ!
夜はゲームしようぜ!」
「楽しそう、リズムゲームでオールナイトだ!」
「ピイイイイイ……!」
「「?」」
突然上空から高い音色が響き、遊んでいた人々の視線はそちらへ向けられる。
「ピイイイイイ!」
「ひゃあっ!」
鳶の声だ。
鳶は急下降し、小柄で弱そうな女性が持つサンドイッチを素早く奪った。
周りは一瞬にして、静まり返る。
楽しい空気が一変して、緊張感に包まれた。
「コワ……今の鷲?鷹?
猛禽類って、似てるよな」
「多分、鳶……かな?
森に公園が出来てから、人を襲うようになってる。
人間の食べ物、美味しいから……味をしめたのかも」
サンドイッチを奪った後も、鳶は遥か彼方上空から、何度も迂回して人々を見ている。
小さな子供を連れた家族は身を守るため、そそくさと帰っていく。
「皆帰り始めたよ。
猛禽類って、顔を覚えるの早いんだよね。
創、俺たちも帰ろうぜ……怖い……」
創はショルダーバッグから小箱を取り出して『神ブロック』を使おうとしている。
「ちょっと試してみる。
これで、鳶の性質を差し支えのない程度に組み換えてみるよ」
「良いの?
生態系変わると、自然にとって大問題だぜ?」
『神ブロック』を軽い気持ちで使ってはいけない事は、神様ではない淳豊でさえ理解している。
『神ブロック』の種類には色々あって、大きさ、形、色のバリエーションがかなり豊富だ。
ベンチに『神ブロック』をばらして、鳶の性質を組み換え始めた。
「警戒心、獲物を捕らえる速度はそのままにして、人間を襲わないようほんの少しだけ臆病にして、それでいて小鳥には怯えないように……うっし、完成した!」
『神ブロック』が完成した形は鳶の姿をしており、中心に組み立てられたハートは水色のブロックが組み込まれている。
「ブルーハートはビビりの印だ!
人間を恐れるようになって鳥の世界を保つように、小鳥は勿論他の鳥をも怖がることはない!」
「なるほど、これなら人間も鳥も平穏にバランスを保ちながら上手く共存出来るな!」
「んじゃ早速、追い払うぞ」
創の表情に得意気な感情が現れ、彼独特の身構え方を鳶に見せつける。
「ピュルイイイイイ……!」
鳶と瓜二つの声が、創の唇から上空へと響いた。
「創、ウマイ!」
創のボイスコピーを聴いた鳶は奇妙な事をする人間を警戒して飛び去っていった。
「流石、神の子!
あの獰猛な鳶が尻尾を巻いて逃げ出したぜ!」
「鳶はやっぱり自然の鳥らしく自然の獲物を捕らえる方が相応しいよ」
鳶の声が遠ざかり、森は再び平穏を取り戻した。