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6 強い少女

サマンサの覚えているサミュアは、自分と同じような茶色の髪の毛をしていて、同じよう薄茶色の瞳をしている、だが青白い顔の女の子だった。

サミュアはサマンサが、まだ意識がはっきりしている時に、後から鉱山に連れてこられた女の子で、見た目は弱々しいのに、性格は負けん気の強い子だった。

だが体はあまり強くなかったのだ。そして日の光に当たらない事は、サミュアの体や心を著しく痛めつけて、サミュアは三週間で労働中に倒れ、指一本動かせないほど衰弱して、鉱山の相部屋の中で息を引き取った。

そのサミュアは、サマンサと相部屋で、サマンサはこんな所に連れてこられたかわいそうな女の子に、何かと手助けをしていたのだ。

サマンサは自分が考えていた以上に体が頑丈だったので、サミュアが何か、監視人達の機嫌を損ねそうな時に、意識をそらす事をしたり、倒れないようにちょっとだけ助けたりしていた。

それっぱかりの事しか、サマンサに出来る事はなかったのだが、サミュアはいつも感謝していて、そして、死に際に、サマンサに二つのお願いをしてきた。

それを、頭がはっきりし始めたサマンサは、くっきりと思い出す事が出来た。


死に際に、サミュアはこういった。


「お願い、私とあなたの番号札を、交換して」


「どうして?」


「私は、もう、きっと死ぬわ。監視人達が前に、女の人を脅かす時に、ここで死んだら病気だろうがなんだろうが、持っていた物とか身につけていた物とか、皆燃やして灰にして、適当に埋めてすませるっていっていたの。……そうしたら、私はお父さんとお母さんに、何も渡せないでこの世からいなくなってしまう」


「そんな事言わないでください。あなたは無実の罪を着せられていたのでしょう? 冤罪が晴れますよ、それまで生き延びて」


「自分の体の事は、自分がよくわかるの。サマンサさん、お願い、これから、サミュアとして生きて、お父さんとお母さんに、私の手紙を、届けて欲しいの」


「サミュアさん」


サマンサは励ましの言葉を言えなかった。サミュアの意思の堅さが伝わってきたからだ。


「これを、隠し持っていて。……靴の中とかなら、監視人達だって検めない。そして、サミュアとして解放された後、必ずお父さんとお母さんに、この手紙を渡して。……お父さんとお母さんは、絶対に私を無実だと証明してくれる。でも、私には時間が無い。……何も残せないで死んでいってしまう。だから、私の最後に残した物として、手紙を届けて」


「……あなたは、サマンサとして死んでいくのですよ? そうしてまで、ご両親に手紙を届けて欲しいのですか」


「そうよ。……サマンサさん、これはあなたへの恩返しでもあるの。いつも優しくしてくれて、庇ってくれたあなたを、私は自由にしたい。あなたが何か悪い事をしたなんて、どうしたって信じられない。だから、だから、絶対に無実になってここから出られる私になりきって、外に出て。手紙を渡せば、私のお父さんとお母さんは、あなたを悪いようにしない」


サミュアの決意は固かった。自分の命が短い事と、無実だと証明されるまでの時間がまだかかる事を考えて、サマンサに手紙を託し、サマンサに自由をあげようとしていた。


「……監視人達が、入れ替わりに気付かないわけがないですよ」


サマンサが慎重にそう言った時、サミュアはにやりと笑った。青白く病人の顔でも、そう笑ったのだ。


「監視人達は、百人単位の罪人を監視しているのよ。髪の色と目の色と、それから番号札で識別している人がほとんど。……番号札を入れ替えれば、あなたと私の色はほとんど同じで、ここは薄暗いから、どうにだってなる」


それだけ言った後に、サミュアは疲れ果てて目を閉じた。

そして言う。


「お願い、サマンサさん、私の最後のお願いを、叶えて」


「……わかりました。……でも、あなたが生きている間に、あなたの無実が証明されたら、あなたが出て行くんですよ」


「……」


「頷いてくれなかったら、お願いを聞きませんからね」


「わかった。でもそうしたら、あなたの無実を証明するために、私、いろんな人を巻き込んで頑張るから。その時は、あなたは、生き延びてね」


「うん」


そうして、サマンサとサミュアは、素早く番号札を入れ替え、靴の中に両親への手紙を隠して、秘密を共有したのだった。





「……そんな事が」


サミュアの父親は力なく呟いた。必死に娘の冤罪を晴らしたのに、手遅れだったと聞かされたのだから、その衝撃は計り知れなかった。


「……君がこうして、出てきた事と、サミュアの手紙を持っている事が、それを証明してしまうな……サミュアから、手紙を奪って、サミュアの代わりにここに来たなんて事は、君を見ていると考えにくい」


「サミュアの了承無しに、入れ替わったりしていたら、鉱山の中ですでに騒ぎになっているはずだものね……」


サミュアの母親が涙をこぼしながら言った。彼女達の手元にある手紙には、涙が落ちてすこし、インクがにじんでいた。


「サミュアは……この町の秘宝を盗んで売り払ったという罪を着せられて、鉱山に連れて行かれました。もちろん冤罪で……証拠もねつ造されていたのです。だから私達は、その証拠がねつ造されていると言う事実を証明するのに、とても手間取って……」


「町中を駆けずり回って、秘宝が売り払われておらず、とある豪商の所有する納屋の中で発見できたから、サミュアが盗んで売り払ったという証言に矛盾がでて……そこを集中的に洗い出して……やっと、サミュアを取り返せると思っていたのに」


「あの子は性格は強気な子だったが、体は弱かった……鉱山での生活で……間に合ったのだと思ったのに……」


両親はそう言って顔を覆った。

サマンサは彼等の絶望を想像すると、胸が痛くてたまらなかった。

必死に娘の無実を証明したのに、手遅れになっていた二人が、とても痛ましかった。


「……ありがとう。と君には言うべきだ。サミュアの物が何も残らないという、最悪の事態からは逃れられたのだから」


「……」


「……そうね……サミュアの最後の手紙を、届けてくれたのですから」


二人が一気に疲れ果てたという声でそう言って、サマンサは下を見る以外に、何も出来なくなってしまったのだった。

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