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完結しました!虐げられ義妹を庇ったら、私も断罪されました……  作者: 家具付
デボラの場合

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5.終幕

第三部これにて結末です!

長い間お付き合いいただきありがとうございます!

「人生って何が起きるかわかった物じゃないのね」


「デボラさん、何か言いましたか?」


「いいえ、南の魔女様。たんなる数奇な運命に対しての独り言です」


「……後悔していらっしゃるかしら。ここにやってきた事について」


そう言われたデボラは、慌てて首を横に振った。それを南の魔女はやんわりと止める。


「せっかくの髪型が崩れますわよ。髪飾りも傾いてしまいますわ」


「すみません」


そういうやりとりをしたデボラは、今自分が立っている場所を眺めて、心の中だけで思う。

これが、貴族の社交界の世界なのだ、と。





デボラが故郷の片隅から、熊男の協力の下逃げだし、彼の縁のある娼館という名前の療養所で、熱を出した後。

そこでせっせと下働きなどをしていたデボラだったのだが、洗濯物を洗いながら歌っていた鼻歌を聞いた人が、デボラを娼館の舞台に立たせたのだ。

最初は何が起きたのかわかっていなかったデボラであるが、歌を歌うようにと言われて、素直に歌うと、人々はその歌の見事さに熱狂し、娼館だったはずのそこは、一種の劇団の様な物に変わったのだ。

デボラは辺境随一の歌姫と呼ばれるようになり、その噂を聞きつけた隣の国の王族達が彼女を王宮に呼び、歌を披露させたりした。

その結果、彼女は国一番の歌姫と形容されるようになり、母とともに暮らしていた頃とは比べられないほどの生活を送る事になったのである。

だがデボラには、助けてくれた恩のある辺境の土地に思い入れがあり、王宮のある都に長く暮らす事は性に合わなかった。

そのため、適度に劇場に出た後は、辺境の土地に戻ったわけである。

国一番の歌姫が辺境にいるとあって、そこを目指す観光客も大変に増え、旅行客が増えたためにあちこちの土地が観光業で潤い、デボラはいまや女神に匹敵する尊敬を集めている少女となったのだ。

そして辺境の娼館で、歌を歌い人々を熱狂させていたデボラが知ったのは、そこを管理している女性が、熊男に毛皮をかぶせた張本人の、善なる魔女として名高い南の魔女だという事である。

最初はとても驚いたのだが、南の魔女は微笑んで


「善なる魔女だから、何もかもを許すわけではなくってよ。盗みを働いた不届き者にはきちんと罰を与えるのも、魔女らしさという物」


と言った事から、善の魔女でも悪い事に目をつぶる事はないのだと知ったわけである。


そして、月日は流れていき、南の魔女と稀代の歌姫デボラの双方に、隣の国の国交回復の盛大なお祝いへの招待状が届いたために、デボラは戻る事など考えもつかなかった、故郷の国に戻ったわけである。

デボラの事情を考えれば、招待を断る事も視野に入っていたが、歌姫とあろうものがこう言った招待を断れば、あれこれといらぬ事を言われるのは自明の理、デボラに断る選択肢はないに等しくなったのだ。

そのため、デボラは隣の国のデザイナー達がこぞって趣向を凝らした、それはそれは見事な夜会服に身を包み、髪の毛を整えて、化粧を施し、誰がどう見ても絶世の美女であり歌姫として、この夜会にやってきたのである。


「緊張していらっしゃる?」


「はい、とても」


「あなたは普段通りの歌姫でいればよろしいのですわ。あなたが非道な人であるなんて、私の目には映らないのですから」


善なる魔女にそう断言してもらうと心強く、デボラはこくりとかすかに頷いた。

そして夜会を見回して、ある事に気付いたのだ。


「マリアがいる……」


夜会には、王子妃となったのだろうマリアが参加している様子だが、何やら顔色が悪く、そして少し下品な胸のあいたドレスを身にまとっていた。

これならデボラの方が、品のある姿だろうと思うほど、娼婦のように見える格好である。


「侯爵家の正しい出自の女の子が、どうしてあんな格好を」


「どうなさったのかしら」


「あ、あちらにいる女性はどなたなのでしょうか」


デボラが小さく呟くと、視線に気付いたのか、近くにいた婦人が問いかけてきた。

そのため素直に答えると、ああ、と婦人が扇で顔を隠しながらもあざ笑ったのだ。


「あの女性は、王子の妾ですよ」


「妃ではないのですか」


「ええ。彼女のお父様を王子が斬り殺したために、王家に嫁ぐには醜聞がひどいとの事で、妾になるほかなかった女性です」


「……」


「王子も王子で、立場が危うくなったために、別のお方と婚約し結婚なさったのですよ。そのため妾であるあの方は、新しい相手を探さなければならないわけです」


「血筋はきちんとしていらっしゃるのでは?」


「そうは言っても、あの方のおうちは、常識的な前侯爵が、あの方を守ろうとした愛人の娘を庇った際に、切り捨てられた事で、前侯爵の弟が家を継ぐと言う事になり、あの方にうまみなどなくなりましたので」


まさかマリアが、そんな事になっていたとは考えもしなかった。

だが、王国の法によるとそうである。

確かに、貴族の長女は継承権を持つわけだが、当主が不慮の事態により、長女の成人前に亡くなった場合は、当主の兄弟が家を継ぎ、長女の継承権は序列的に非常に下がるのだ。

うまみがないというのも事実になる。


「そして……あの方を酷く扱っていたと噂の、前侯爵夫人とその連れ子に至っては、当主の死亡により、片田舎の別宅で、お小遣いをもらう貧しい暮らしを行っているそうですよ」


当主が死亡した場合の、ありふれた末路だ。……まして夫人と連れ子なので、当主と血縁関係にもないのだから、そういう扱いになるのはめずらしくもなんともなかった。


「因果応報というわけですわね」


デボラの脇でそれを聞いていた魔女が小さく言う。

デボラは反応に困ったわけだが、自分が歌を披露する番となったため、背筋を伸ばして中央に向かい、楽曲に合わせての見事な歌を披露したのである。


隣の国随一の歌姫の歌とあって、歌が終わるとデボラは男女関係なく人に群がられて賞賛を受けていた。

そんな時だ。


「疫病神! 獣に食われて死んだと聞いていたのに!」


「マリアさん……」


デボラが栄光を手に入れた事を認められないのか、人々を押しのけて、マリアが血走った瞳でにらみつけて怒鳴ったのだ。


「おまえなんて、おまえなんて! 何でお前がそんな美しいドレスを着て! 皆からちやほやされるの!」


そういってマリアはデボラにつかみかかる。いきなりの事で、周囲はあっけにとられて動けない。

つかみかかったマリアの手をひねり、デボラは静かに問いかけた。


「ねえ、マリアさん。私は助けを求めたあなたを、母と一緒に守ったし庇ったの。なのにあなたは、王子様に、ない事ばかり吹き込んで、父様を王子様に切り捨てさせたね」


「お前達が、私に使用人の服を着せたからだわ!」


「あなたが目立たないようにするためには、それが必要だったの。あなたが外出したいと言うから、噂にならないように、そうするって、あの時もきちんと話したのに」


「うるさい! 私にはふさわしいドレスもアクセサリーも馬車も必要だった!」


「それで、私の母様を殺したの?」


マリアは頭に血が上っているから、今ならべらべらと答えるかもしれないと、デボラは核心を突いた。

それに、マリアがせせら笑う。


「そうよ! お人好しのお前の母である愛人は、疑いもしないで私の出したお茶を飲んだ! 一度服用してしまったら、一週間以内に解毒しなければ、体が弱って死ぬ毒を入れたのに!」


「どうしてそんな事をしたの。母様はあなたをとても心配していたのに」


「あんな貧乏なアクセサリーを、施しのように渡してくるのが憎たらしかった! あの女はもっと豪華なアクセサリーだって持っていたのに!」


「あなたが気軽に外に出るのに、豪華な物は悪目立ちだったの。……あなたは母様の渡したアクセサリーを、自分で壊して、私が壊したと王子様に言ったね」


「周りの見えない王子様なんて、だますのは簡単だった! 壊されたアクセサリーと、空涙の一つで面白いくらいに、お前を罰してくれた!」


マリアはすでに追い詰められていたのだろう。そのためか、べらべらとどんどん、自分の行った事を話していく。

近くに騒ぎを聞きつけてやってきた王子が、真っ青な顔で立っている事にも気付かずに。


「マリア……そんな……私は君を信じていたのに……。私は罪のない侯爵を切って捨てたのか……?」


彼がそう言って近付いてくる。はっとしたマリアが空涙を見せるが、もうそれは通用しない。


「……君を詐欺師として連れて行かなければならない……。そしてデボラ殿、あなたにも後ほど、謝罪が必要だ……」


マリアの自白により、王子はもうマリアを愛せないのだろう。そして自分が行った事が、冤罪を着せる行為であった事もあってか、血の気の引いた顔で、衛兵にマリアを捕まえさせて、自分もその後を追ったのであった。




夜会はそれなりに騒ぎになったが、醜聞はもう遠慮したい侯爵家は、マリアを勘当し、そのマリアいじめを行っていた前侯爵夫人と連れ子のユリアを、適当な爵位を持った家の後妻としてあてがって追い払った。

そして、デボラに侯爵家の人間との縁組みを申し入れたわけだが、デボラはそれを断った。

もう、貴族社会の血筋のあれこれに巻き込まれるのは、勘弁したかったので。





「ねえ、熊さん。また冬眠するの?」


「冬が来たらな」


「だったら、また私の所でぐうたらしてもいいわよ」


「お嬢さんの、でっかいベッドで? そりゃあ贅沢だ」


「だって、あなたは私の人生を変えてくれた恩人だもの」


熊の毛皮の男に、デボラは笑い、男はデボラに、一輪の真っ赤な薔薇を手渡したのだった。


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