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完結しました!虐げられ義妹を庇ったら、私も断罪されました……  作者: 家具付
ヘンリエッタの場合

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13. 受け継がれたいもの

交易に使われるその島は、確かにヘンリエッタのような陸の人間達も行き交う、普通の島のように見える場所だった。人々の声があちこちから響き、時に怒鳴り声や騒ぐ声もして、なかなかに賑やかな場所である。

ハイザメはそんな場所で、ヘンリエッタを連れ回してあちこちに顔を出した。


「そう……それで?」


といった調子で知り合いから話を聞き、うんうんと頷いて、満足そうな顔をして、たくさんの情報を仕入れている様子だった。

本当に、彼はとてつもなく、相手に喋らせることが上手としか言い様がなかった。

彼の前では、きっと貝のように口を閉ざした人間ですら、するすると言葉を喋っていくのだろう、と思わせる何かが、ハイザメにはあったのだ。

それはハイザメの強みなのだろう。ツカイが自分の代わりに情報を仕入れてこい、というだけの強み。特技。そういった物に違いなかった。

そしてそんな男に連れ回されているヘンリエッタを見た、陸から来た人間の一定数はぎょっとした顔をする。

それはおそらく、ヘンリエッタの特徴的な髪の色からであろう。

周辺諸国といっていいのだろうか、まあヘンリエッタの故郷では、ヘンリエッタの一族以外にこの銀の髪の毛は存在しなかった。

母の血筋の結果だ、母は亡国の姫君であり、その国を長く統治していた王族の直系の血筋は、銀の髪を持つようになるとは、かなり知られた話だったのだ。

それだけ銀色の髪の毛は、数の少ない、見ただけでどこの生まれかがある程度推測できる身体的特徴であった。

当然ぎょっとした人々は、ヘンリエッタをどこからハイザメが連れてきたのだと聞くわけだが、ハイザメはヘンリエッタの見た目を、やせっぽち以外は気にしていないので、雑だった。

「島に置き去りにされてたのを拾った」


「痩せ細って明らかに虐待されてたから連れてきた」


と言う、まあ端的に言えば事実だが、詳しく知っていればそんな説明をするな、と周りに言われそうな言い方をしており、ヘンリエッタは騒ぎを起こしたくないこともあって、ハイザメの言葉を、否定しなかった。

そう言うやりとりをしながら、物々交換をしたり、情報交換をしていた、陸から海を渡ってきたという行商人がこんなことを言い出した。


「知っているか、ハイザメとお嬢さん」


「知っているか、だけじゃ何を知っているのか想像できねえって言ってんだろ、おっちゃん」


「わるいわるい。あの国で、とんでもない珍事が発生したって話だ」


「どこの国でも珍事なんて発生しまくってんだろ?」


「ところがどっこい、これがなかなか愉快なんだ、聞いてみろよ」


「愉快な気配ってのがしねえよ」


「お上の不祥事は、下々にとっちゃ愉快だろ」


「まあ」


「海風の国に、三人のお姫様がいるってのは知っているだろう」


「おう。第一妃と第二妃と第三妃のところに、一人ずつだろ」


「そうだ。だが第三妃が妃に格上げされる前に、病に倒れた第三妃がいたのは知っているか」


「このあたりの海で動くなら一般常識だろ」


「お前の一般常識は時々一般常識じゃない」


「おっちゃんの常識は海の常識じゃ無いのと一緒だろ」


「違いない。まあそんな感じで、前の第三妃の忘れ形見がいたわけなんだが、なんと彼女に第三妃が生家から受け継ぐことの出来る、国一つが百年遊び暮らせるほどの財産が与えられる遺言状が見つかった」


「誰からの遺言状だよ。第三妃の生家って滅んでんだろ」


「滅んでいるが、そこを新しく納めている人間達が、王家の財宝を自分達の物にしなかったんだ。正しい人間に相続させるべき、という風潮が強かったからな。そんなわけで、あっちこっちの法律だのなんだのを漁った結果、前の第三妃の一人娘が、滅んだ国の財産をまるごと相続することの出来る、ただ一人の生き残りってことになったんだ」


「へえへえ」


「その財産ってのはすごいもんで、どの国の王族も、第三妃の忘れ形見を探して大騒動。海風の国は海風の国で、彼女を罰としておいていった孤島に迎えに行ったのに、当の本人はどこにもいないってので発狂寸前」


「へー」


「ハイザメ、お前さっきから適当な返事ばかりしているが、そっちのお嬢さんは銀髪だろう」


「銀髪でもたいしたことねえだろ、だって罰として孤島に置き去りにされたお嬢さんと、このお嬢ちゃんに共通点見つけられねえし。だいたい、南の果ての果ての寒い地方では、銀髪なんていっぱいいるっておっちゃんも知ってるだろ」


「知っているなあ。なるほど、こちらのお嬢さんは南の果ての血筋を引いているわけか」


ハイザメがそう言うと、行商人の男性はそれ以上、ヘンリエッタの素性を疑うそぶりを見せなくなった。それだけ、ハイザメがやましくない声で、さも当然という口調で言うからだろう。

あまりにも自信たっぷりに言われれば、人間は疑いをいったん引っ込めるということなのだろう。それがよくわかるやりとりだった。


「今に、南の果ての女の子を使って、財産を狙う魑魅魍魎が、そっちに群れて押し寄せるぜ。そんなの巻き込まれたくねえよなーおちびちゃん」


「はい」


確かに財産うんぬんで、もうこれ以上何かに巻き込まれて、大変な目に遭いたくなかったヘンリエッタは、そう頷いたのだった。


「ま。自分から名乗り出るだろうしな、普通は。そうしたくないってことは、お嬢さんが賢明で平和が好きってことなだけだろうな」


行商人の男は納得した調子で言った後に、こう言った。


「ハイザメのつれている女の子は、南の果てのあたりで、ハイザメに運良く拾われたって、皆に話しておいてやるよ。その方がいいだろう、お二人さん」


「ありがとうな、おっちゃん!」


「ありがとうございます」


これで面倒から遠ざかることも出来る。ヘンリエッタはもう王家に戻りたくなかったので、ほっとして、笑顔のハイザメとともに、またあちこちの人々と話しに戻ったのだった。

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