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完結しました!虐げられ義妹を庇ったら、私も断罪されました……  作者: 家具付
ヘンリエッタの場合

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10. 異文化

真珠に海宝石、と言った物達はヘンリエッタの故郷ではとてももてはやされている物だったし、それは他国の高価な物を求めたがる人々にとっても同じだった。

真珠は海辺でなければ手に入らないとされていたのだ。

本当は川辺でもまれにとれるのだが、粒がやや小さく、海の真珠よりも価値が一段低いとされており、そういった物を貴族は欲しがらないのだ。価値の低い物を手に入れたいと思わないのは、貴族の良くある考え方である。

そして海宝石というのは、陸で採掘される宝石とは性質がかなり違う物とされている。

宝石という物は、色々な条件に弱い物が多く、物によっては水に浸した事によって、一瞬でその姿が劣化する物も多い。

だが海宝石という、海でとれる鮮やかな色をした宝石は、陸で採掘される物よりも色々な物に耐性があり、扱いやすいものとされているのだ。

海から陸に入ってくる海宝石の数は少ないので、やはり希少価値の高い物として、貴族がこぞって欲しがる物として、筆頭に上がる物でもある。

豪華な、その家の権威を移すような雨具などに使用される事も多いのだ。

ヘンリエッタは仮にも元は王族であり、第一妃の元で暮らしていた時には、あまたの真珠と海宝石を目にする機会があった。

そして、父王の溺愛するマリーゴールドとヴィオレットには、第三妃になった途端に、あまたの貴族からご機嫌伺いとして、真珠も海宝石もたっぷりとあしらわれた装身具などが送り届けられていたので、それらを片付ける事を命じられた際にも、見る事が出来ていた。

そのため、この屋敷で作業している女性達が扱う、真珠も海宝石も、相当に品質の高い物だという事がわかったのだ。

……圧巻と言って良かった。これだけの数が集まる場所など見た事もなかったのだから。

しかし、魚の民の女性達はこれらの貴重な品物に対して、恐る恐ると言った手つきなどは一切無い。


「……皆さんはこれらの価値をご存じなのですか」


「知っているわよ。でもねえ、真珠は海ではあんまり良くないの」


「えっ……」


「魚の民は、しょっちゅう海に浸かるでしょう? それは知っている? まあ、そんな生活だから、真珠を身につけても、海水であっと言う間に輝きが曇るのよ。だから陸の人達がこぞって欲しがるようになるまでは、子供の宝探しのおもちゃみたいな扱いだったのよ」


「海宝石の方だって、やっぱり子供がきらきらした物を集めたがる時に使う、おもちゃだったのよね」


「陸の人達が欲しがる様な、特別な物って感じがしないってのは大きいわよね」


「……世界が違えば価値のある物も変わるのですね」


「そうよ。生活圏が違えば、必要な物は大違いでしょ」


魚の民の女性達は、ヘンリエッタに対して親切にそう言い、声を落としてこう言った。


「ほら、陸の人間が船に乗るかいぞくって言う職業あるでしょ? たまにそこの人達も、村に来て物々交換でこう言うのを欲しがるのよ。お得意様だし、こっちの欲しいものをよくわかっているから、あっちの欲しがる大きくて良さそうな物を、交換するのよね」


ヘンリエッタはその言葉により、この村が海を荒らす海賊の資金源だったのか……と衝撃を受けた。

ヘンリエッタの故郷でも、近隣諸国でも、海賊の暴れっぷりには頭を悩ませており、資金源を探し回っていたのだ。

……だが、魚の民は海賊という物がなんなのかを理解していないのだろう。

きっと商人のくくりの中の人達と思っていそうだった。


「それに、かいぞくは私達みたいな、海では敵無しの種族と喧嘩しないわよ。陸の人間は海に沈めれば死ぬんだから」


にっこにこと物騒な事を言う人達であった。

ヘンリエッタはその勘違いを正しておいた方がいいかもしれない、と口を開いた。


「かいぞくというのは、海の賊と書きます。そして陸の人間の乗る船を襲って、荷物を奪ったり人を殺したりして大暴れする人達なんです」


「え? それのどこがおかしいの? 陸の人達って大体そうじゃない」


「そうよね。陸の人間達が戦争する時に、海戦している時ってそれをするじゃ無い」


「かいぞくって、やってる事が陸の人間がする事よね-」


それはなかなか衝撃を受ける考え方だった。魚の民達は争いをしないのだろうか……と思ったヘンリエッタは問いかけた。


「あの、魚の民の皆さんは、争いになった時にどうするんですか……」


「え、そりゃ殴ったり蹴っ飛ばしたり取っ組み合いしたりはするわよ、噛みつく事だってあるし、ひっかく事だってあるけど、殺すような真似はしないわ」


「同族を殺す種って言うのはね、程度が低いのよ」


魚の民の女性達が一様に頷くので、それが魚の民の考え方なのだろうと思うと、彼等の穏やかな空気や、ハイザメのあの明るい感じの理由がわかったような気がしたヘンリエッタだった。


「さて、あんた達、そろそろ就業時間が終わるよ。ハイザメの料理が食べたい子は残ってちょうだい、あいつに人数言わなきゃならないんだから」


そんなやりとりをしていると、机から顔を上げたツカイがそう言ったので、そこにいた女性の半分がこう言った。


「私食べてく」


残りの半分はと言うと……


「私は持ち帰るから、包んでってハイザメに言って」


という事を言ったのである。つまり全員ハイザメの料理を食べる予定でいるらしい。

そんなに人気があるのだろうか、と思うと、ヘンリエッタに一人の若い魚の女性が言った。


「仕事上がりに疲れているのに、料理するの面倒でしょ。だからここで食べていくか、家に持ち帰って子供とか家族と食べるのよ。ハイザメが屋敷で一番料理上手で本当に幸運よ」


「そのような物なのですか」


「そうよ。ハイザメはそれでツカイさんから賃金もらってるんだからね」



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