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完結しました!虐げられ義妹を庇ったら、私も断罪されました……  作者: 家具付
サマンサの場合

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27/48

27 逆転(2)

見覚えのない女を見たエリーゼは、先ほどの弱々しさなどかなぐり捨てた表情をとっている。

「被害者って何よ!! あなたなんか知らないわよ! 私はただ、一生懸命に生きているだけ!! この世界はっ……!!」


エリーゼは強い視線でサミュアを睨み付けている。何が何なのか状況がわからないジョゼフィンの方を見て、サミュアは口を開いた。


「殿下。彼女がサマンサさんが鉱山に行く時に渡した餞別が、何かご存じでしょうか?」


「ああ、もう鉱山に行ったら、甘い物など食べられない過酷な生活だから、と彼女の行きつけの菓子店の飴を渡している事は、報告に上がっているが……? それが何か……?」


「その飴が、その菓子店の物ではなく、菓子店に潜り込んでいる裏社会の人間が用意した物と言う話は、ジョゼフィン様の方には伝わっていない様子ですね」


サミュアが冷静に言う中で、エリーゼが怒鳴った。

傾国の美姫という作っていた姿は、もうそこには見当たらない。

気性の激しい、自分の思うとおりに物事が進まないと気が済まない、少女がそこにいる。


「どういう事を言いたいのかしら! 私は普通に、スイーティ菓子店で、いつもの店員さんに飴を量り売りしてもらっただけよ!」


「……とっておきの飴を。ですよね」


「それがなんだって言うの!」


「……それが、あなたのお母様が、意中の男性や、パトロンになって欲しい男性に贈っているお決まりの飴だという事は、覚えていらっしゃいますか」


「お母様が、特別な人には特別な物を、といつも言っていたから、それを義理とはいえ姉に選別として渡して何がいけないの!」


「……スピカ様、やはりエリーゼ様は何も知らないまま、特別に行動して欲しい相手に、飴を配り歩いていたようですね。私の推測の方が正しそうです」


「もっと込み入っていると思っていたんだがな」


「あなた達、先ほどから訳のわからない事ばかり言って……!」


「あなたのお母様が、特別な人にと用意していた、あなたも良く人に贈っている飴は……南国で自生している、とある植物を着色料としています」


「飴に色をつける事なんて、どこのお店でも行っている加工ではないかしら?」


いらだった声をもう隠さなくなったエリーゼに、サミュアは言った。


「その着色料が、裏社会の人間達が、人を操りたい時に使用する、一種の薬と同じ材料を使用しているのですよ」


「……は?」


ここで言葉を完全に失い、何も言えなくなったのはジョゼフィンだった。


「その飴だけに使用されていた着色料は……星草と、南国の野草が交雑した結果生まれた物です。星草の近くに生えていた野草が、自然な流れで交雑し……星草の特徴を引き継いでしまったのです。そう、摂取した人間が、操り人形のようになると言う特徴を」


「……うそ……」


まさか、大陸で封印された植物の特徴を持った植物が、そんな形で世代を変え、使われている事に、エリーゼは絶句していた。

思いもしない事だったに違いない。


「だって……スイーティ菓子店の飴は……課金アイテムで……そんな……」


エリーゼはぶつぶつと何かを呟き始めたのだが、そんな彼女にサミュアは続けた。


「ここにサマンサさんが来ないのは、あなたに一度操られている事を踏まえてです。その飴を口にしなくなっても、どれくらいの期間、あなたに操られてしまうかが読めない事からです。……あなたはサマンサさんを、操った。どんな時も自分の味方になるように」


「だって、好感度レベルが上がって……」


エリーゼは未だに、サミュアにはわからない単語を呟いている。

だが、エリーゼが何らかの意図をもって、飴を人に渡していた事は、明らかだった。


「あなたは、飴に使用されている物の事は知らなくても、飴が何らかの作用をもたらすとは知っていたようですね」


「知らない!! だって、お母様のとっておきの飴は課金アイテムで、それを使えば好感度ステータスが三倍に上昇するってだけで」


「……よくわからない事を言っているが、要は自分に都合のいいように動かせるようになると知っていた、と言っているに等しいな」


スピカがそう言った時である。蒼白な顔になったジョゼフィン王子が問いかけてきたのは。


「その着色料を使うと、何色になるのだろうか」


「きれいな金色ですよ」


「!!」


それを聞き、完全にジョゼフィン王子の顔色は変わり、エリーゼを見て叫んだ。


「エリーゼ!! 金色とは、僕にもその飴を手ずから食べさせてくれている!! 僕の側近にも、護衛騎士にも! 君は僕達に、そんな危険な物を食べさせていたのか!?? そして僕達全員を、自分の都合のいいように操っていたのか!?」


「違います!! 知らなかった、そんな力があの飴にあるなんて知らなかった!! だってお母様が、特別な人に、仲良くしたい人には、このお店でこういう合い言葉を使って用意してもらう、とっておきの飴だって、飴だって!!」


エリーゼの母親は……おそらく飴を食べた人間がどうなるのかを、ある程度は知っていたが、娘にあからさまに言う危険を冒さなかっただけなのだろう。

混乱し、おびえ、恐れ、叫ぶエリーゼは、飴の正体は知らずに、それらを親しくなりたい相手や、都合良く動かしたい相手に食べさせていたのだろう。

星草は使用すれば極刑になる植物だ。

それと交雑した南国の植物を使用して、極刑になるかはわからないが、エリーゼの今までの生活が失われる事だけはおそらく、間違いなかった。

そして、自分の愛や思いが、植え付けられて洗脳された結果だと言われたジョゼフィン王子は、ふらりとよろめいて座り込み、呟いた。


「僕の愛は、……まやかしだったと? 信じられない、信じるわけには……」


「とにかく」


そこでスピカが、口を開く。


「これで、こちらの言いたい事や伝えたい事は全てそちらに伝え終わった。……サマンサ嬢からエリーゼ嬢への伝言だ」


「……」


「私はあなたをちゃんと見て、あなたと姉妹になれれば良かったのに、こんな形にされてとても残念でした。さようなら、エリーゼ様」


スピカはその伝言をエリーゼに投げかけ、座り込み話にならないジョゼフィンと、蒼白な顔で震えたり、顔を真っ赤にしたりと忙しいエリーゼを残して、その場を後にしようとし……見守っていた宝石の国の王族にこう言った。


「金色の飴について、あなた方は色々と調べた方がいいだろうな。……堅物できまじめと評判だったルイン男爵が、愛人の娘以外目に入らなくなったような事例が、いくつも実は起きているかも知れない」


「!!」


話を見守る以外に、何も出来ないでいた彼等は真っ青になり、スピカとサミュアが退室すると程なく、腹心の部下などを呼び寄せ始めたのだった。




「これで気が晴れたか」


スピカの言葉に、サミュアは言った。


「気が晴れる云々じゃ、ないかな。エリーゼさんのお母さんのパトロンだった、裏社会の首魁が自分の孫に当たるかもしれないエリーゼさんが、剣の国の王子と一緒になれば、都合がいいのと孫が幸せになるのとで、生きた証人になるサマンサちゃんを殺そうってしなかったら、こんな形でやり返す事もなかっただろうけど。……そうしたら、あたしの体の中の星草みたいな成分も、上手く抜けなくて、今ちゃんと生きていたか怪しいし。こんなの言っても、スピカ様にはどうだっていいか」


「……サマンサ嬢が、お嬢さんに代わりに行って欲しいと頼んだのは正解だ。医者が調べた所、まだサマンサ嬢は微弱だがエリーゼ嬢の支配を受ける可能性があったからな。サマンサ嬢の汚名を晴らす事にならなかったかもしれん」


「お願いされた時は、自分で決着つけないのかって思ったけどね。あの場面でエリーゼさんの操り人形に戻ってたら、サマンサちゃんは本当に処刑されちゃう可能性あったし。あたしで良かった。……この顔で向こうもびびったし」


にしし、とサミュアが笑った顔を見て、スピカはぐしゃぐしゃと彼女の頭をなでたのだった。

「よく頑張ったと思うぞ。お嬢さん」


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