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完結しました!虐げられ義妹を庇ったら、私も断罪されました……  作者: 家具付
サマンサの場合

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18/48

18 ある一幕。

宝石の国には、傾国の姫がいる。それは数年前に、大国剣の国の王子に見いだされた少女であり、その立ち振る舞いや知性から、なんと破格の待遇である、宝石の国の王籍に連なる家として広く知られている、公爵家の養女となった美少女である。

男爵家の愛人の、町で絶大な人気を誇った美貌の女優、ビアンカの一人娘だ。

ビアンカはあまたのパトロンを持っている女優だったが、その中でももっとも愛した相手が、ルイン男爵家の当主であった。

それ故に、自分が病に倒れはかなくなる時に、娘を頼むという手紙を送り、娘にもそれを言って聞かせた程である。

エリーゼはビアンカに非常によく似た姿形をした少女であるが、耳の形がルイン男爵家の当主と同じなのだと、ビアンカは娘にいつも優しい声で言っていたと言う。

事実のように、ルイン男爵家当主と、エリーゼの耳の形は、とてもよく似ていると言われているのであった。

生まれこそ、あまり貴族にとって褒められた物ではないエリーゼであるが、その重ねた努力に加え、生来の美貌や愛らしさは隠しようがなく、たとえルイン男爵家の女性達が虐げていたとしても、衰えるどころか輝きを増すほどのものだった。

それ故に、彼女は女学校のパーティに招待されていた、剣の国の王子、ジョゼフィンに見初められたのだ。

彼女の経歴は、市民に大変評判がよく、己の力で自分の道を切り開き、最終的には玉の輿に乗るという、庶民の夢がすべて叶ったような、語り映えのする物だった。

そして、剣の国の王子という、大変に身分の高い人間と結婚するのだから、と宝石の国の王家は、平均的な男爵家の財力では、彼女の花嫁道具が見劣りし、それだけで何かの傷になる、とルイン男爵家当主を説得し、彼女を王族に最も近しい血筋の公爵家の養女にする事を決定したのだった。

そのため、エリーゼはジョゼフィン王子との婚約が決まってからは、より上位の作法を学び、洗練するべく、公爵家で暮らしているのである。

少女の評判は、公爵家の人間からも、使用人からも非常に良く、皆一様に


「あれだけ素晴らしく美しく、心清らかな女性が嫁ぐ、ジョゼフィン王子は素晴らしい幸運をお持ちだ」


と言うほどなのである。これには宝石の国の王家も非常に満足し、娘の評判が良い事で、ルイン男爵家もまた、爵位が上がるだろうと噂されていた。生家により箔をつけるためである。彼女が養女になる前に、どこで暮らしていたのかは調べる気が無くてもわかる事であり、庶民的なところもあった男爵家では、格好がつかない、と言うわけだった。





「やあ、エリーゼ。今日も君が幸せそうに輝いていて、僕はとてもうれしいよ」


ジョゼフィン王子はそう言って、整った顔に愛情をいっぱいに浮かべた微笑みを浮かべた。ここは公爵家の屋敷の中の庭園の一角であり、優美な東屋があり、そこにお茶会の道具を一式用意した、優雅なお茶会という状況だった。


「ありがとうございます。私も、ジョゼフィン殿下が微笑んでくださると、心からうれしく思いますわ」


エリーゼは、貴族的な教育の結果身につけたのだろう、優雅で美しい言葉遣いで、ジョゼフィンに微笑んだ。

どちらも愛情深い微笑みとしか見えず、二人の間の愛情が間違いない事を感じさせる一場面である。


「何か不自由はないかい。公爵家の方々は、優しい君の事を歓迎してくれているかい」


「はい。皆様とても優しくしてくださいます。これもすべて、ジョゼフィン殿下のおかげでございます」


「君にそこまで堅苦しく言われると、むずむずしてしまうよ。僕たちは夫婦になるのだから、堅苦しいままだと、疲れてしまうよ。……君がもっと、僕に心を許してくれればいいのだけれど」


「まだ夫婦ではありませんから。婚約者という立場で、殿下にぶしつけな言葉は言えませんわ」


「そうか、なら夫婦になった後に、君にもっと親しみを込めて呼ばれる日を楽しみにしよう」


ジョゼフィンはそう言って朗らかに笑い、エリーゼが手ずから淹れたお茶を口にする。

もちろん、宝石の国での貴族的な所作として、砂糖壺に入っている砂糖を、一つ二つ入れて、軽くかき混ぜて、である。

砂糖を入れたお茶という物は、貴族的かつ優雅で、大変な贅沢というのが、砂糖を輸入品で頼るしかない宝石の国での常識なのだ。

剣の国ではそこまでではないが、ジョゼフィン王子は他国の所作にも精通しているので、婚約者であるエリーゼが馬鹿にされないためにも、そういった事は惜しまないのである。

角砂糖は、芸術品のように美しく着色され、宝石の国の象徴的な色である、金色をしている。それを二つ入れた彼は、優美な動きでお茶を飲み、微笑む。

ここで毒味はいないのか、という事も言われるだろうが、愛し合う婚約者と二人だけのお茶会で、何かあれば、それは婚約者も招いた公爵家も大変に疑われて、ただではすまない国と国の問題になる。

それゆえ、こんな所で馬鹿な真似をする輩はそうそういない、と言うのがジョゼフィンの判断であり、出回っている毒のほとんどは、銀の食器を変色させるので、銀のティーポットに淹れられたお茶が、変色していない事も、ジョゼフィンが安全だと判断する理由だった。

まして、愛するエリーゼが自分に毒を仕込むわけがない。

それくらいに、ジョゼフィンはエリーゼを愛して信用していた。


「君の所で飲むお茶は、何よりも格別な味がするよ。君と飲むからだな。心が落ち着いて、君への愛を一層確認してしまう」


「ありがとうございます。わたくしも、殿下と過ごすこのような時間が、本当に夢のようです」


そう言って、エリーゼは用意されていたクッキーを一つ、優雅につまむ。焼き加減まで絶妙なクッキーだ。彼女のつまんだクッキー以外にも種類があり、中央に飴やジャムを乗せて焼いた、宝石の国では一番贅沢とされているクッキーもある。

ここで、エリーゼが婚約者であり、目上の立場であるジョゼフィンを差し置いて、一番贅沢なお茶菓子をつまむのは非常識だ。

それゆえエリーゼは、何も飾りのないクッキーを口にするほか出来ない。

誰に何を見られるかわからないので、エリーゼは非常識と思える事を避けているのだ。

それは非常に、見事な令嬢としての判断でしかない。

ジョゼフィンも、贅沢な物ではなく、質素なクッキーを自分が積極的に口にすると、それはマナー違反になるとわかっているので、あえて飴やジャムののったクッキーを口にし、二人で和やかに、楽しく会話をするのだった。


「そうだ、エリーゼの角砂糖は白いな。剣の国の美意識を、考えてくれていてうれしいよ」


「剣の国の女性は、白い色の物を使った方が、美しいと言われると聞きましたので……ジョゼフィン殿下のお好みの女性に近付きたくて」


「ああ、君はそんなささやかな所まで、僕の事を思ってくれてうれしいよ」


「ありがとうございます。……あの、その……男爵夫人達と、いつわたくしは会えるのでしょう。皆様が罪を認めてくださったら、わたくしはもう、彼女達を罰したくないと思うのです。……わたくしは、謝ってくださればそれで良かったのです……」


「エリーゼ、あの女達は驚くべき性悪だったんだ。その罰を受けているだけだから、何も君が気に病む必要は無い。……宝石の国の陛下に、ルイン家の女性達を恩赦により解放して欲しいと頼んであるんだ。君が安全な状態で、会えるように手配をしている所だよ」


ジョゼフィンはそう言って微笑み、エリーゼの手を取った。


「君のためなら、僕は彼女達への焼けるような憎しみも怒りも、押さえ込もう。君のためならなんだって」


「ジョゼフィン殿下……」


その東屋は、愛する婚約者同士の、愛を再確認する甘い場所になっていた。

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