10 語られる事実
口ぶりや状況からすると、サマンサがそうであるかのようだ。
だが身に覚えは全くない。だがその言葉の意味するところの、とんでもなさは十分に伝わってきたのだ。
自分ではなくても、翼の国のお姫様という、相当に重要で大切に扱ってしかるべき人が、あんな過酷な鉱山で働かされていた?
サマンサは言葉の続きを待つ以外に出来なかった。
ロイは一呼吸置いてから、サマンサに情報を教えていく。
ここが翼の国の中だから言えるのだろう。サマンサの故国では、とても言える話ではない。
「翼の国と、どうしても国交を復活させたかった君の国に、翼の国はある条件を出した。それが、翼の国の国王の妾の娘を、養育する事だった。……お互いに王族にぎりぎり該当する姫を、交換して育て、それによりその姫が国交を主導する。他界の国の風習などにも精通すれば、この上ない頼もしい存在になるだろうと。だが、いざ姫君と王が対面する日、そちらの国から伝えられたのは、姫君が病に臥せっているということで、それ以降はどれだけ日を改めても、姫君に会うことは叶わなかった。」
ゆえに。
「翼の国は秘密裏に、姫君の現在を調べた。そして分かったのが、そちらの国の、権力争いに姫君が巻き込まれて、とある男爵家に預けられたという事実だった。ならば姫君を迎えに行こうという話にもなったが、その男爵家に、姫君はいなかった。いたのは、男爵の愛人の娘という少女だけ。当時の事を知っているであろう使用人は軒並み解雇され、当時の女主人さえ不在」
サマンサはそこで、姉はエリーゼが現れる前までは、母にも父にも、溺愛されていたことを思い出した。
そして姉は、両親に似ていない、きらきらとした金色の髪の、灰色の瞳の女の子だったことを。
まさか。
サマンサは恐ろしい想像に、血の気が引く思いだった。
「手がかりがあまりにも少ない中でわかったのは、姫君が冤罪を着せられ、過酷な鉱山に連れて行かれた事だった。急ぎ姫君の確認に向かったのだが……そこで出会えたのが君だった」
私は姫君ではないというのに、どうしてそんなことを言うのだろう。まるで出会えた事が幸運だと言わんばかりの口調だった。
そんな事をサマンサが思った時だ。
「一目見ただけで分かった。君は我が国の姫だと。なぜならば、君は王の祖母にそっくりなんだ」
サマンサは、ロイの言葉に、何も言うことが出来なかった。
混乱する彼女に、ロイは優しい声で言う。
「……あまりにも情報量が多すぎたようだ。君も混乱しているだろう。ただ、今はゆっくりと体を回復させておくれ。君の両親も、兄弟も、君に会うことを待ち望んでいたのだから」
ロイはそう言って、サマンサの横になっている部屋を出た。
「そんな馬鹿な話が、あるわけがない」
サマンサは心の中で判断した。
それほどの重要な人間だったなら、どうして、父は自分を庇わなかったのだ。
国交回復を悲願としていた人達を、大量に敵に回すような判断を、さすがの父でも、いくらエリーゼが可愛かったとしても、下すはずがなかったからだ。
何か、何かがおかしいし、歪んでいる。
サマンサには、悪夢のかけらのようにしか、感じられなかったのだった。




