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1.ぼろぼろのサマンサ

よろしくお願いします!最初過酷描写あります!

もう何日も、いいや、何ヶ月も、お日様の光を見ていない。

サマンサはそんな事をふと思ったが、それが一体どれくらいの月日が経過した結果なのかという事は、全く思い出せなかった。

とにかく、つるはしを握る鉱夫達の合間を縫って、彼等が作り上げる石ころも本物も雑多に混じった重い鉱石を、運び続けなければならなかったのだ。

少しでも休みを取ろうとすれば、容赦なく、監督者の鞭と怒鳴り声が、サマンサに降りかかるだろう。

鉱山の中は、つるはしの音でとてもうるさいのに、人間達の熱気よりも、みょうな不気味さの方が漂っている。

それは、この鉱山で働く人間達の多くが、罪人だからだろう。

この鉱山は、罪人がひたすらに働かされる場所なのだ。

男も女も関係なく、重い罪を犯した人間が、ここで情け容赦なく働かされて、使い潰されて死んでいく。サマンサはただ、とにかく、転ばないようにと言う事だけを頭に入れて、手押し車を動かした。

これをひっくり返してしまったら、それだけで、もう、鞭は普通の罰よりも容赦なく襲ってくるだろうし、怒鳴り声は耳を潰そうとするように、迫ってくるに違いなかった。


「……」


お日様の光が見たかった。もうずっと見ていなくて、サマンサは手押し車を動かして、石塊の中に貴重な鉱物が入っていないかを調べる専門の担当の所に、運んでいった。


彼女の脇を、汚れた布をかぶせられた何かの塊が通り過ぎていく。

また、誰かが倒れて死んだのだ。

サマンサはそんな事実を、恐れたりする事もできないほど頭が麻痺した状態で、その死人とすれ違った。

鉱山の中で働き続けると、多くの罪人達が体を壊し、しかし休む事など許されずに動き続け、こうして倒れて死んでいく。

母も、姉も、そうやって死んだと、ふとサマンサは思い出したのだが、それが怖いとか悲しいとか思う、心の余裕はどこにも生まれてこなかったために、彼女はまた運搬の作業に戻っていった。

ちゃりちゃりと、サマンサの首からぶら下がる、罪人を識別する番号札が音を立てる。これを首から下げる事は罪人にとって絶対で、十分も外すと、番号札が音を鳴らし、監視人達に罪人の脱走を知らせるのだ。

入り組んだ鉱山の中で、罪人に逃げ場はない。監督者の方が通路に詳しいので、逃げた事が知られたならば、あっという間に見つかり、捕まり、拷問の後にまた仕事に戻らされる。

それでも希望を捨てずに、逃げた罪人もいるらしいが、その結果をサマンサは聞いた事がない。

最も、今のサマンサには、誰かの声などまともには聞こえないので、どちらにしろサマンサが、知る事は無いのであるが。


サマンサの頭がろくに働く気配が無いのは、何も外の光を浴びていないからだけではない。罪人の労働環境は、最悪と言っていいほど過酷なのだ。

サマンサは、通路のどこかから怒鳴り声が聞こえてくるのをかすかに、聞いた。

きっと誰か罪人が、監督者の誰かの怒りを買ったのだろう。わずかに鞭の、空気を切り裂く音と、人の痛みによる悲鳴が聞こえたような気がした。

そちらに行くのは、よくないだろう。鞭が当たればさすがに痛い。

サマンサはそれだけを考えて、通路の別の方に行き、運搬の仕事に戻ったのであった。




一体どれくらいの間、動き続けていたのかわからない。だが、サマンサはほかの罪人達と同じように、かんかんとけたたましく打ち鳴らされる鐘の音から、今日の仕事が終わった事を知った。

罪人の中でも、比較的見目の整った人間達は、この音を聞き、顔を青ざめさせている。

この過酷な労働環境以上に、見目のいい罪人にとっては苦痛な時間が、これから迫ってきているのだ。

それは、監督者の目に留まれば、彼等の思うままに扱われるという事で、この鉱山に連れてこられた人間は、よほどの事が無い限りは、重罪人である事から、監督者達の横暴な行動は、黙認されているというのが、現実だった。

「いや……」


小さな声で言ったのは、この鉱山に来て、まだ日の浅い女性だった。鉱山に来て日が浅いと言う事は、まだ見た目がきれいで、痩せ細っておらず、そういった監督者達に捕まる可能性が跳ね上がると言う事だった。

サマンサは、その女性の声を聞いていたが、雲のかかったような頭では、彼女を助けるという道も思いつくことなど無く、ただのろのろと、ほかの見目の悪い罪人達と同じように、どんよりとした動きで、鉱山の中にある食事が運ばれてくる場所に向かったのだった。




食事は暖かいものなど、鉱山の中では用意される事が無い。この鉱山の中が労働環境であり、牢屋でもあり、罪人達はここに入れられたら最後、死ぬまで外の光を見る事はなかった。

サマンサも、ほかの誰もを気遣うこともなく、無言で冷えて白く固まった、質の悪い脂の塗られた、乾ききった黒いパンを頬張った。味などを考える時間は無く、ただ胃の中を膨らませるための作業となって久しいのが、食事というものだった。

食事の量も満足な量とは言えないだろう。ここでは、鉱山で働く罪人達が反抗できないように、あまり力が十分に出ない程度の量でしか、食事を与えられなかった。

サマンサはそれでも、急いで自分の取り分を飲み込み、なんとか泥の味がする気がする水で流し込んだ。


「返して!」


誰かの悲鳴がする。大方、食べるのが遅く、脇で隙を狙っていた人間に横から奪われたのだろう。

そんな事はここでは日常茶飯事で、乱闘になったら監督者達が出てきて、どちらも鞭で思い切り打つので、派手な争いになる事さえできなかった。

のんびりと食事をする時間も無く、鐘が鳴らされて、罪人達は相部屋に戻っていく。

サマンサは、ぼんやりと部屋に戻って、鉱山内の穴である相部屋の中に敷いてある、一枚の布の上に横になった。

目を閉じれば、すぐに意識が薄れていく。




けたたましい音とともに、監督者達の罵声が聞こえてきたら、もう朝で、また休む時間の無い、労働の時間がやってくる。


翌日も、サマンサはその罵声を聞いて目を開け、よろよろと立ち上がったのだった。

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