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梅毒と貞淑さ ~恋をしたら、意外に一途だったかもしれない話

 ――応用AI研究室という名の、とある大学の専攻教室。明るい声で、女生徒数名が研究も進めずに楽しそうにお喋りをしている。

 

 「九条君達とエッチしたんだけどさ、ふざけているのよ、あの人達。女の子を何人落とせるかってゲームをしていたみたいなの。どうしてもって頼んでくるからさせてあげたのに。わたし、攻略キャラ扱いだよ?」

 「えー なにそれー?」

 「あー、私の知り合いの子もエッチしたって言っていたわ、多分それね」

 

 同じ教室内。少し離れた場所、隅の方にある自分の机で真面目に研究を進めていた深田信司君はその会話にとても苛立っていた。別に聞こうと思って聞いていたわけじゃない。聞きたくなくても声が届いてしまうのだ。

 ただし、それは決して、乱れた性に対する憤りといかいった類のいわゆる義憤ではなかったのだが。

 

 ……一般的に、女性は性行為に対して慎重であるとされている。そしてそれは“貞淑さ”という言葉で美点として称揚される場合も多い。その理由は男性側の視点からも女性側の視点からも説明できる。

 男性は生まれて来た子供が誰か自分以外の子供であるという訳にはいかない。“自らの遺伝子を残す”という目的を果たせなくなってしまうからだ。処女に高い価値を持っている男性もいるが、それも同様の理由で説明できる。一方、女性にとって出産は非常にコストがかかる上に危険だ。だから、軽々しく性行為を行って子供を産む訳にはいかない。自分の遺伝子を残し易くする為には、相手は慎重に選ばなくてはならない。より優秀な遺伝子を持った相手、または子供を産み育てるのに適した相手でなくては。

 だから、いかに快楽を得られたとしても、それに溺れるような社会体制は好ましくない……と、する文化が生まれるのは充分に納得ができる。

 がしかし、それが絶対不変で普遍的な性道徳なのかといえば、それも違う。

 地球上の広範囲に広がった多種多様、かつ長大な人間社会の歴史において、性行為に対して寛容な文化は大して珍しくもない。ヨーロッパにも、アフリカにも、この日本にだってあった。

 江戸時代、江戸では男女比が非常に偏っていて、女性の割合が非常に低かったらしい。裕福な者は遊郭の類に通えただろうが、それができない者達の一部は、なんと複数人の男性の共同体で一人の女性をシェアしていた事もあったのだという。フェミニストが聞いたら憤慨しそうな話だが、果たして全否定できるのだろうか?

 当時、性風俗で働く女性の平均寿命はとても低かったらしい。性病に罹ればそれで人生が終わるというケースも少なくなかったのだとか。そんな女性達に比べれば、男性の共同体で暮らす女性はまだマシだったのかもしれない。もちろんどのような生活だったのかは想像するしかないのだが、貴重な女性は大切にされていた可能性もあるし、一妻多夫性に近い家族体制だった可能性もある。現代の価値観で一方的にそれを批判したなら、或いは彼らは怒るかもしれない。

 「――では、どうすれば良いのだ?」

 と。

 そのような体制になるのには、そのような体制になるだけの理由があり、表面だけを否定したところでどうにもならない。社会の根本の仕組みを改善しなくては。否、そのように思ってしまうという時点で既に、現代の価値観に縛られた基準で物事を捉えてしてしまっている事になるのかもしれない。

 あらゆる文化は等価だとする、文化相対主義。その観点からも、貞淑さの欠片もないような女性の行動を、ただそれだけで批判するのは間違っているだろう。

 

 深田信司君はそのような考えを持っていた。そんな彼が、女性達の“ふしだらな”会話を耳にして苛立ちを覚えていたのは、だから決して性道徳に反した行いをしている彼女達に憤っていたのではなく、ただただ嫉妬と劣等感を覚えていたからだった。

 本人もそれは自覚していた。自分は醜い、と。そしてだからこそ苦しんでもいた。

 彼にとっては、その会話の中心になっていたのが、渡部葵という女生徒だったのが特にきつかったのかもしれない。彼女は同年代の他の女性に比べてあどけない外見を残していて、複数人の男性と関係を持つようなタイプには思えない。彼は彼女を密かに可愛いと思っていたのだ。

 

 ――しかし、なんでこの専攻教室が、あんな奴らの溜まり場になっているんだよ?

 

 苛立ちながら彼はそう思う。

 応用AI研究室では、そのまんま、つまりはAIを応用する方法を研究していて、AI自体を作ってはいない。ただ、だからと言ってプログラミング等の技術や知識が必要ないかと言えばそうではなく、場合によってはAIとAPI連携させたりもするから、確り専門的な技術や知識が必要だ。

 なのに、真っ当にそういった知識や技術を持っているのは彼くらいで、他のメンバーはほぼ何も知らなかった。多少マシなのが数人いるくらいだ。そして、ほとんどのメンバーは勉強や研究よりも遊び中心に学生生活を送っていたのだ。当然というか、なんと言うか、かなりノリが軽い。男女の肉体関係も含めて。

 深田君は彼らの輪にいまいち入れていなかったから、漠然とした予想に過ぎなかったのだが、どうやら元々SNSで交友のあったメンバー同士が話し合い、大して詳しく調べもしないで名前の響きだけで、応用AI研究を行うこの専攻教室を選んだらしかった。つまり、彼以外のメンバーは、ほとんどが元からの“軽いノリ”の知り合いという事になる。

 今、AIは世間から熱い注目を集めているから、選んでおけば就職に有利になりそうだとでも思ったのかもしれない。“応用”なら、そこまで難しくないと考えて。

 “浅慮なんだよ! ったく”

 結果、真っ当に研究を行っているのはほとんど彼一人で、しかもそんな彼一人に他のメンバーは頼りまくってもいたのだった。だから彼も全くコミュニケーションがないという訳ではないのだが、それは飽くまで研究の話であって、プライベートで一緒に遊んだりは一切していない。

 “タイプが根本から違う”と、彼は半ば諦めていた。ただ、それでいて多少は彼らに憧憬に近い感情も覚えていたのだが。

 

 「じゃ、私らはこれで帰るねー」

 結局、ほとんど研究を進めないまま、女生徒達は帰ろうとしている。が、全員が帰る訳ではないらしく、

 「わたしは、もう少し残っていく。少しは課題を進めておかないと。夜にバイトもあるからついでに行けるし」

 そう渡部葵の喋る声が聞こえて来た。どうやら彼女一人だけ残るらしい。つまり、これからこの教室内は深田君と彼女の二人きり……

 彼はそれに淡い期待を抱き、そして同時に切なさも感じていた。どうせ何も起きないと思っていたからだ。彼女は他の男生徒複数人とエッチをした話をしていたが、それら男生徒と彼は全く違うタイプだった。彼らは背が高くて、顔も良くて、性格が明るくて、金も持っていて、スポーツもしている。それに対して自分は、背が小さくて、顔も地味で、性格も暗くて、貧乏で、取り柄と言えば、プログラミング技術があるくらい。女生徒達が…… いや、渡部さんが相手にするはずがない。

 

 「――ね、深田君。ちょっと教えてほしいところがあるんだけど」

 

 不意にそう話しかけられて、深田君は目を大きくした。見ると、渡部葵が直ぐ傍に来ていた。パソコンで作業をしている彼に話しかける為に前屈みの姿勢になっている。その所為で少しばかり胸が強調されていた。彼女は幼い印象よりは胸が大きかった。ちょっとだけ露出の多い服装をしているから余計にそう感じるのかもしれない。

 話しかけられるはずがないと思っていた彼は、その不意打ちに大いに慌てた。

 「わああ! なに?」

 その反応に彼女は可笑しそうに笑う。

 「ん。だから、教えて欲しいのだけど」

 少しの間。何を思ったのか、彼女は「ごめんね、突然話しかけちゃって」と謝って来た。

 「いや、いいよ別に」

 彼女に話しかけられると、先ほどまで苛立っていた事も忘れて彼は上機嫌になっていた。あまりにチョロい自分自身に彼はちょっと呆れていたが、彼女はそもそも彼が苛立っていた事も知らないだろうから特に気にする必要もない。

 それから何を教えて欲しいのか話を聞いてみると、プログラムのエラーが解決できなくて彼女は困っているようだったので、彼は何が問題なのかを解決方法とセットで教えてあげた。もちろん、少なからず何かを期待して。どうせ何もないとも思いつつ。

 一通り教え終わると、「ありがとう。お陰で予定よりも早く終わっちゃった」と彼女はお礼を言って来た。それから軽く時計を見ると、彼女は彼に

 「ね、今日、みんなで飲み会をやるみたいだよ。わたしはバイトがあって行けないけど、深田君も行ってみたら?」

 などと話しかけて来た。

 彼はその提案にたじろぐ。

 「いいよ、別に、そーいうのは」

 「どうして?」

 「どうせ輪に入れないし。浮いているのは自覚しているんだ」

 「浮いてるからこそ、積極的にコミュニケーションするべきなんじゃないの? みんな、深田君にはお世話になっているし、無下には扱わないと思うよ?」

 「だって、君らの集まりって、その、どう言ったら良いか分からないけど、肉体的なパートナーを探すみたいな目的もあるだろう? 僕はそういうのの対象外だろうし」

 それを見せつけられたら、きっと惨めな思いをする。彼はそう思っていた。

 「あー……」と、それを聞くと渡部さんは声を上げ、少し考えるようなしぐさをした後で、

 「確かにそういうのもあるけど……」

 と、言って言葉を止め、それから、

 「深田君なら、そういうのも大丈夫だと思うけどなー」

 などと続けた。

 深田君はその言葉に一瞬カッとなってしまった。

 「無責任な事、言わないでよ!」

 思わず声を荒げてしまう。彼女の言葉は彼の劣等感を強く刺激してしまったのだ。だが彼は直ぐに冷静になった。

 「ごめん。大きな声を出して。でも、そーいうのって相手がいないとどーにもならないことだから……」

 そんな彼の様子に、渡部さんは目を少しだけ大きくした。そしてそれから彼女はこんな信じられない発言をしたのだった。

 「じゃ、責任取ろうか?」

 「へ?」と彼。

 「わたしとしてみる? って話」

 それを聞いて、彼は思わず「ぶっ!」と吹いてしまった。激しく動揺する。

 「ど、どうして?」

 「どうしてって…… そりゃ、いつもお世話になっているし、なんか傷つけちゃったみたいだから……」

 まるで何でもない事のように語る彼女に、深田君の頭は混乱しまくっていた。

 ――渡部さんが、僕とエッチしてくれる?

 「……深田君のお陰で早く作業が終わって、バイトまでの時間、暇になったし」

 しかも、ここでこれから直ぐにらしい。まだ現実を受け止め切れていないでいる彼に、彼女は軽く首を傾げて、「どうする?」と訊いて来る。

 男の本能なのか何なのか、エッチができると思っただけで、深田君にはいつもよりも5割増しくらいに渡部さんが可愛く見えていた。ただし、だからといって彼は素直に喜べていたわけではない。

 ――これって、同情だよな?

 自分に対する憐みで、彼女は自分とエッチしてくれるのだと彼は思っていたのだ。プライドが少しだけ傷ついていた。ただその一方で、“もし断ったら、彼女を傷つけてしまうかも”とも思い、軽く葛藤していた。

 ただし、そんな葛藤は5秒も続かなかった。何故なら、そんな事などどうでもいいと思えるくらいに、性欲の方が勝っていたからだ。それも、圧倒的に。

 それで、まぁ、結局は、“した”のだった。

 

 「あの…… ありがとう」

 

 行為が終わった後、深田君は渡部さんにお礼を言った。専攻室の中には、棚などをパーティション代わりにしている休憩スペースがあって、そこにはソファが置かれてあるのだが、二人はそこで行為に及んだ。そして今そのままそこで休憩している。

 「“ありがとう”って、させてあげたこと?」

 そう訊いて来た彼女は、先ほどのまでの淫らな行為が嘘に思えるほどの無垢な表情をしていた。

 「そうじゃなくて…… いや、それもあるんだけど、それだけじゃなくって…… その、演技をしてくれていたみたいだったから」

 行為の最中、自分に気を遣って、彼女が感じている振りをしてくれていたと彼は思っていたのだ。

 その言葉に渡部さんは目を丸くした。

 「へー、気づいていたんだ」

 と、感心したような声を上げる。どことこなく嬉しそうな感じ。だけど、その後でこう続けた。

 「でも、安心して。演技していたのは、最初の方だけだよ。途中からはちゃんと気持ち良かったから」

 「気持ち良かったの?」

 「うん。九条君達よりも良かったよ」

 その言葉に思わず彼は顔を明るくしてしまう。

 「本当に?!」

 その彼の顔を彼女はじっと見つめた。そして何を思ったのか無言で彼の頭を撫で始めた。

 「あの…… なんで、頭を撫でてるの?」

 「なんか、可愛いなーって思って」

 彼女は“抱いてやった”みたいな態度の他のイケメン男達と彼を無意識に比べていたのかもしれない。

 

 その日、家に帰っても、深田君は渡部さんのことばかりをずっと考えていた。彼女にとって性行為はお礼やお詫びの代わりにするくらいの軽いものであるのかもしれない。だから自分に対して特別な感情を抱いてはいないだろう可能性がかなり高い事を、彼は分かっているつもりでいた。

 が、感情と理屈はまったく別である。

 頭では分かっていても、どうにもならなかった。行為が終わった後、それまでの30割り増しくらいに彼には彼女が可愛く見えてしまっていたのだ。

 “もし天使が地上に降りてきたら、彼女と区別がつかないかもしれない”

 とか、もし他人に聞かれたら、ドン引きされるような事まで考えしまっていた。

 そしてだから、彼女が自分以外の誰か他の男に抱かれると想像をするだけで、胸が焼かれるように苦しかったのだった。

 ――この気持ちはダメだ。

 ――きっと、不健康なものだ。

 そう思っても、彼にはそれをどうする事もできなかった。

 

 大学の講義前、渡部さんが席に座ると、それを見計らったようなタイミングで深田君が近付いてきた。緊張した面持ちで「あの……」と話しかけて来る。「あ、深田君、おはよ」と彼女は言った。一目見て、彼女は彼の様子が少しおかしい事に気が付いていたが、それを口には出さなかった。

 「少し、その、いいかな?」と、彼。

 「なに?」と彼女。

 辺りを軽く見回してから彼は口を開いた。

 「その…… 簡単に誰かとエッチするのって、やっぱり控えた方が良いと思うんだ。色々と危ないから」

 彼が専攻室ではなく、講義室で彼女に話しかけたのは、周りに専攻教室のメンバーが一人もいなかったからだった。知り合いに聞かれたらまずいだろうと彼なりに気を遣ったのだ。

 「色々とって?」

 「ちょっと調べたんだ。今でも、クスリ漬けにして、風俗で女性に無理矢理働かせるとかあるらしいんだよ」

 もちろん、彼は彼女に他の男と寝て欲しくなくて、性行為にリスクがあるだろう情報を必死に調べたのだ。キョトンした顔で彼女は応える。

 「うん。そういう仕事をする気はないよ?」

 あっさりと返されて彼は少し怯んだが、直ぐにまた口を開いた。

 「それ以外にも危険はあってね、実はここ最近で、梅毒の感染が急速に広まっているらしいんだよ」

 「梅毒?」

 「そう。性病」

 「それは知っているけど……」

 渡部さんはやや戸惑っている様子だったが、深田君は構わずに話し続けた。

 「2022年は約1万3千人。前年は約8千人だから、なんと1.6倍にも増えている。

 これは梅毒の特殊性とも関係しているのかもしれない。しこりができたり、腫瘍ができたり、小さな発疹ができたり。風邪みたいな症状が出る場合もあるらしいんだけど、怖いのは症状が勝手に消えること。だから、当人は気にしないで放置してしまったりもするらしいのだけど、菌は静かに全身に広がり続けていて、そのまま重症化する場合なんかもあるらしいんだ。後遺症は一生治らない場合もあるんだって」

 そう言って、彼はスマートフォンで写真まで見せて来た。グロテスクな腫瘍が映っている。

 「へー」と渡部さんは返す。確かにちょっと怖いかもしれない。

 「ありがと。気を付けるよ」

 深田君はまだ何か言いたげだったけど、彼女のお礼の言葉を受けると、「うん」とだけ言って頷き自分の席に戻っていった。彼が離れると、隣に座っている女生徒が「なにあれ?」と彼女に話しかけて来る。

 渡部さんには専攻教室以外にも交友関係があるのだ。深田君は知らなかったようだけど。彼女の名前は立石さんといった。

 「あー…… 昨日、彼とエッチした」

 と、なんでもない事のように彼女が応えると、立石さんは頭を抱えた。

 「ちょっとマジー?」

 それから叱るような目を彼女に向けると、「あんたねー、誰でも構わずやるもんじゃないわよ。彼、多分、本気になっているわよ?」と忠告をする。

 「それは大丈夫じゃない?」

 「大丈夫じゃないわよ。さっきのあの態度で分からなかったの? 変な忠告までして来ちゃって」

 「心配をしてくれていただけだと思うけど」

 渡部さんは、ちょっと深田君のようなタイプを分かっていないかもしれない。

 「どこがよ? 独占欲剥き出しだったじゃない!」

 「そーかなー?」

 「そうよ。

 いい? とにかく、余計な期待を持たせない為にも、きっぱりと厳しい態度を見せてやりなさい」

 「えー、嫌だよー 同じ専攻教室でお世話になってもいるのに。空気悪くなるじゃん」

 「あんたねー…… ああいうタイプは、こじらせるとストーカー化して犯罪に走るわよ?」

 渡部さんにも問題はあるが、立石さんは立石さんで深田君のようなタイプに少しばかり偏見を持ちすぎてもいるようだ。

 「深田君はそういうタイプじゃないと思うよ? それに、わたし、別に彼の事を嫌ってないもん。してみたらそれなりに気持ち良かったし」

 「え? 巧かったの?」

 “意外!”という表情で立石さんは尋ねる。

 「ううん。なんかがんばってわたしを感じさせようとしていてさ、“感じてあげないと悪いなー”って思っていたら、いつの間にか本当に気持ち良くなってた。少なくとも九条君達よりは良かったよ」

 「あー、あいつら、女は自分達が腰を振ってればそれだけで気持ち良くなるって勘違いをしているからね」

 この口調からして、立石さんも既に“九条君達”の誰かとやっているようだ。軽くため息を漏らすと彼女は続けた。

 「でも、どうするのよ? そのうち、さっきの彼、絶対に“もう一度やらせてくれ”って言って来るわよ?」

 少しの間の後で、渡部さんは答える。あっさりと。

 「別にやらせてあげれば良いのじゃない?」

 それを聞いて、また立石さんは「あんたねー」と頭を抱えた。

 「軽過ぎよ、いくら何でも。まさか、エッチさせてって言われたら、誰でもやらせるんじゃないでしょーね?」

 彼女が視線で示した先には、太った男生徒がいた。“例えば、あいつはどう?”みたいな意味だろう。

 「え? 嫌だよ。よく知らないもん」

 それを聞いて、「ん?」と疑問符を伴ったような表情を立石さんは見せる。

 「じゃ、また九条君達からやらせてって言われたら?」

 「だから嫌だよ。言ったでしょう? ゲームの攻略キャラ扱いされたって」

 「じゃ、サッカーやってる野戸君は? 彼とは飲み会で楽しそうに話していたじゃない」

 野戸君は健康的で女生徒達から人気のある男生徒だ。

 「断るよ。だって、絶対に彼女いるよね、彼」

 「でも、深田君とかいうさっきの彼なら別に良いの?」

 「別に良いよ」

 即答。

 少しの間。立石さんは再び口を開いた。

 「さっきから、あんた、なんか変な事を言ってない?」

 それを聞くと、謎の訛りの入ったおどけた口調で渡部さんは返した。

 「なんぞ、変な事なんて言おうもんかね」

 その態度に立石さんは何かを言おうとしたようだったが、“こいつは分からん”とでも思ったのか、やがて諦めたようだった。

 

 それから数日間は何事もなかった。深田君の渡部さんへの態度は明らかに以前と違っていたのだが、彼はそれを必死に隠そうとしているようだったので彼女は気が付かない振りをした。“深田君は気を回し過ぎる嫌いがあるなー”と、ちょっと心配はしていたけれど。

 基本的には平和な日常が続いていたが、そんなある日、ちょっとした事件が起こった。妙な男生徒が専攻室にいる渡部さんを訪ねて来て、「いいアルバイトがあるんだけど、やってみない?」などと誘って来たのだ。

 「アルバイトはもうしていますけど?」と彼女が返すと彼は、「そーいうんじゃなくてさ」とにやついた気持ちの悪い笑顔で言った。

 「君みたいなタイプには最適のアルバイトがあるんだよ。楽してたくさん稼ぎたいと思わない?」

 「楽して?」

 「そ。気持ち良くなれて、お金も貰えるの」

 それを聞いて彼女は察した。つまりは、性的サービスをしろと言っているのだろう。

 「すいませんけど、知らない人とのエッチは遠慮したいので」

 一瞬迷ったが、こういう手合いはきっぱりと断らないとしつこいと考えそう言った。するとその男生徒は意外そうな顔を見せる。「あんた、誰でも寝るんだろう?」と、文句でも言うような口調で説得しようとして来たが、そこで同じ専攻教室の仲間達が心配してやって来てくれたので、大人しく去っていった。

 その男生徒が消えた後で、“別に誰とでもって訳じゃないもん”と彼女は不満に思う。どうして、そんな事になっているのだろう? 少し考えて気が付いた。深田君とエッチした事が広まっているのかもしれない。

 “まさか、彼が言いふらして……”と、少し疑いかけたが、深田君はそんなタイプではない。そして、講義室で自分が大声で彼とエッチした話をしてしまった事を思い出した。

 “あー…… ちょっと迂闊だったかなぁ?”と彼女は思う。今の高度情報化社会を舐めていた。きっと近くで話を聞いていた誰かが、SNSか何かで噂を拡散せたのだろう。しかもさっきのあの男生徒の口振りからいって、かなり脚色されていると考えた方が良い。

 “んー…… 面倒なことにならなければいいけどなぁ”とまるで他人事のように彼女は心の中で呟いたが、“面倒なこと”はやはり起こってしまったのだった。

 

 「あの…… 用事ってなんですか?」

 

 城之内という一年上の先輩の男生徒から渡部さんは呼び出された。彼は大学の近くにアパートを借りているのだが、大学の帰り際に寄るようにとメッセージが入ったのだ。彼と会うのは久しぶりだった。彼は風邪で数日大学を休んでいたのだ。

 「いやあ、実はちょっと気になる話を耳にしてさ」

 彼の寝室に通された彼女が何の用事か尋ねると、彼は爽やか風にそう答えた。二人きり。すぐ後ろにはベッドがあった。ちょっと警戒心が薄すぎたかと彼女は反省する。顔は笑っているが、城之内先輩からはなんだか怒っているような気配が仄かに感じ取れた。嫌な予感を彼女は覚える。慇懃な口調で彼が口を開く。

 「なんか、君、深田君と寝たらしいじゃん」

 かなりデリカシーがない発言。ますます嫌な予感を覚えた彼女は、「風邪はもう良いんですか?」と話を逸らして誤魔化そうとしたが無駄だった。

 「うん。もう大丈夫だよ。治った。で、寝たの?」

 「はあ。一応」

 笑いながら彼は言う。

 「駄目だなぁ…… 童貞君をからかって遊んじゃ。多分、彼、本気になっているよ。それにああいう男と簡単に寝ると君自身の価値も下がっちゃうよ?」

 いかにも彼女の事を慮っているかのような言い方が鼻についた。そんなつもりは微塵もないくせに。

 「別にからかった訳じゃないですよ。それに、わたしが誰と寝ようがわたしの自由じゃないですか」

 「うん。まあ、それはそうだ。子供じゃないんだしね」

 彼はそう続けてから、目を剥いて怒りの表情を露わにするとこう言った。

 「でも、オレよりも、あいつとの方が気持ち良かったってのは言わなくても良かったんじゃないかな?」

 城之内先輩は、彼女が寝た“上条君達”の内の一人だったのだ。少し顔が老けているが、健康的に陽に焼けていて充分にイケメンの部類に入る。女生徒達にはモテる。だからこそ、こういう事にはプライドを持っているのだ。彼女が深田君と寝てしまったので、そのプライドが傷つけられたのだろう。

 「なんか、オレがあいつに君を寝取られたみたいな事を言っている連中もいるんだよ。オレは大いに傷ついたし、君の事も心配になった。簡単に誰とでも寝るもんじゃないと思うんだよ。少なくとも男のレベルは選ぶべきだ」

 「“簡単に誰とでも寝るな”なんてセリフを、簡単にわたしを抱いたあなたがよく言えますね」という文句を、それを聞いて彼女は思わず言いかけたがなんとか我慢した。意図的ではなかったにしろ、結果的に彼の悪い噂を広めてしまったのは自分だという負い目があったからだ。

 彼女が何も言わないでいると、彼は迫って来た。彼女はベッドを背もたれ代わりに使っていたものだから、反射的に避けようとすると自然と彼に押し倒されるような態勢になった。

 「ね、もし深田と付き合っているのなら別れなよ。オレと本格的に付き合おうよ」

 城之内先輩の口調は、嘘なのか本当なのか分かり難かった。

 「はあ……」と、渡部さんは返す。もし仮に今この場では本心でも、後になって気が変わるかもしれない。彼はそういうタイプだ。恐らくは、とにかく今は自分の力で深田君と彼女を別れさせたいのだろう。それで傷ついたプライドを回復したいのだ。

 「ね、オレより、あいつとの方が気持ち良かったって本当?」

 「まあ、そうですかね」

 どう返すのが正解か分からなくて彼女がそう返すと、彼はにやりと笑って言った。

 「なら、リベンジさせてよ。今度はあいつよりも気持ち良くさせてみせるからさ」

 つまり、抱かせてくれと言っている。彼女は本当はあまり気乗りしなかった。ただ、城之内先輩の悪い噂を広めてしまったという負い目があったので強くは拒絶できなかった。元より彼女は押しに弱いのだ。何も答えないのをオーケーの意思表示と捉えたのか、彼は彼女の肩を抱いた。その瞬間、彼女は初めて味わう妙な嫌悪感を覚えた。

 “あれ? なんで、こんなに嫌なんだろう?”

 以前に彼とエッチをした時は、特に何も感じなかったのだ。それから彼が口づけをしようとして来たので思わず「やめてください」と手で顔を押し返してしまった。イケメンのはずなのに、何故か醜く見えたのだ。“しまった”と思ったので慌てて、「先輩、風邪引いていたじゃないですか。伝染されたくないです」と言い訳をした。本当はキスだけはされたくなかったのだけど。

 「もう風邪は治っているよ。それに、これからそれ以上のことをやるんだから、どうせ同じだって」

 とそれを聞いて彼は言った。

 そんな彼の態度を受けて“深田君なら、わたしが嫌がっているって察して直ぐにやめてくれるんだろうなぁ”と彼女は思う。そしてそれから、“あれ? どうしてわたし、彼の事を思い出すんだろう?”と不思議に思った。

 分からないけど、妙な罪悪感があるような。

 “深田君と言えば、わたしのことを心配してくれていたっけ”と思い出す。変な性風俗のアルバイトに勧誘されてしまったし、今にして思えば彼の忠告は的を得ていたのだ。そしてそこから連想して、彼女はその時に彼の見せてくれた梅毒の画像を思い出したのだった。独特のグロテスクな腫瘍。

 ――え?

 その瞬間だった。その記憶の中の画像とほぼ重なる腫瘍が彼女の視界に飛び込んで来たのだ。城之内先輩が彼女を抱こうと服を脱いだのだが、その鍛えられた健康的な肉体に、明らかに場違いな腫瘍ができている。まだ小さいし、数も少なかったが、それでもそれは梅毒の症状だと見せられた腫瘍の画像に酷似していた。それで彼女は深田君が梅毒について話していた内容を思い出す。梅毒は風邪のような症状が出る場合もあり、症状が勝手に消えるが、治った訳ではなく、菌が全身に広がり続け、放置すれば重症化してしまうこともあるのだと確か言っていた。城之内先輩は先日まで風邪を引いていて、本人は治ったと言っているが、まさか……

 「先輩! それ、梅毒です!」

 と、彼女は思わず叫んでいた。今にも彼女を抱こうとしていた城之内先輩は、「へ?」とその姿勢のままで固まった。少々、間抜けに思える。

 「早く病院に行ってください! 大変! 女の子たちに連絡しないと! 伝染されているかもしれない!」

 渡部さんはスマートフォンを取り出すと、知り合いの女の子達に一斉にメールを送ろうとする。青い顔になった城之内先輩はそれを止めようとした。

 「女の子達って…… ちょっと待って。止めてくれない?」

 「駄目です! 梅毒って放っておいたら、一生、後遺症が残るかもしれないんですよ? 先輩もそれは同じです。早く病院に行ってください!」

 それからその渡部さんの訴えを聞いても、まだ事態を受け止め切れないでいるのか、彼は変な顔で「その前に、一度抱かせてくれない?」などとお願いをして来た。

 「ふざけるな!」

 と、それを聞いて、流石に彼女は怒ったのだけど。

 

 ……生物が何か目的があってデザインされている。そのような表現をよく見かける。例えば、「寒い地方に適応する為に、豊富な毛を生やした」といったような。が、実はそれは正確な言い方ではない。「寒い地方では豊富な毛が生存の役に立ったので、その特性が残り、より強化された」と表現するべきだろう。

 これでは持って回った言い方になってしまうので致し方ない面もあるのだろうが、この生物のデザインに目的があるかのような言い回しは、多くの誤解を人々に与えてしまっている。まるで生物のデザインには決まった生き方しかないように思えてしまうのではないだろうか? そしてその誤解は、人間にも適応され、或いは人々の生き方を縛ってしまっているのかもしれない。

 人間の女性には、周囲にいる女性と月経周期を同期させるという特性がある。人類がある時期に一夫多妻制を執っていた事はほぼ疑いようのない事実であるようなのだが、その特性はそのような社会体制では役に立ったのではないかと思われる。月経周期が一致すれば子供が同時にたくさん生まれ易くなり、協同育児を行う上でスケールメリットを活かし易くなるからだ。乳の出が悪い母親や、逆に乳の出が良すぎる母親がいるが、子供が同時に生まれれば乳の出が良い母親が子供に乳を与えて助けてやれるというメリットもある。もちろん、乳の出が悪い母親は、代わりに何か他の仕事を手伝うのだ。

 しかし、女性達が月経周期を同期させるという特性は何も一夫多妻制だけで役に立つ訳ではない。一夫一妻性でも役に立つ。同じ様に協同育児が行い易くなるからだ。

 つまり、“女性達が月経周期を同期させる”事自体に目的はないのである。

 女性には(女性だけに限らないが)、好きな男性が現れたなら、その男性以外は目に入らなくなるという特性もある。つまり、“一途になる”という事だが、これも、一夫多妻性という社会で役に立ったのではないかと思われる。一人の男性しか目に入らなくならなければ、一夫多妻性など成立しないだろう。他の男性が現れ、その男性に女性達が惹かれたなら、それだけで一夫多妻性は崩壊してしまう。

 そして、やはりこの“一途になる”という特性も、同じ様に一夫一妻制でも役に立つ。いつまでも他の男性に目移りしていては、いつまで経っても相手を見つけられないからだ。が、この“一途になる”という特性にはデメリットもある。一途になってしまったが為に、その女性にとって、より良い相手を逃してしまうという事も起こり得るからだ。

 だから仮に多くの男性と関係を持つという女性がいたとしても、その女性にとってマイナスになるとは限らない。それにより、その女性は“より良い相手”を見つけられるかもしれないからだ。もっとも、それ相応のリスクもある訳だが。

 このような話を聞いた事がある。

 ある女性は複数人の男性と関係を持っていたのだが、ある時に妊娠すると、きっぱりと性欲がなくなり、それ以降は熱心な子育てママになったのだという。

 しかも、母子家庭で逞しく暮らしているのだとか。

 少なくとも、話を聞く限りでは、これも生物としての健康的な生き方の一つであるように思える。

 男性に育児を頼る気はなく、ただただ優良な遺伝子の提供相手として考え、その遺伝子を見つけたなら、それ以降は自分の遺伝子を残すために子育てに注力する……

 初めから、“女性の生き方はこうだ”といったような刷り込みが必ずしも正しくない事を示す一例かもしれない。

 

 「……なんて事があったんだよ、深田君」

 

 大学の帰り道、深田君は渡部さんから突然に呼び止められた。そして彼女は“梅毒騒動”の顛末を彼に話してくれたのだった。

 病院で検査を受けると、城之内先輩はやはり梅毒の陽性反応が出た。しかもそればかりでなく、彼の仲間の“九条君達イケメングループ”も何人も感染していたらしい。それで危機感を覚えた彼らと寝た経験のある女生徒達は、直ぐに病院に行ったのだそうだ。渡部さんも検査したが、幸い感染してはいなかった。当然、女生徒達の間に“九条君達とエッチしないように”という注意喚起を促すメールが広まった。

 専攻室でいつもは女性陣からちやほやされている九条君達が、白い目で見られていたのを彼は不思議に思っていたのだが、それで合点がいった。我ながら性根が歪んでいると思ったが、それを聞いて彼の彼らに対する劣等感は少し和らいだ。

 「検査してみたら、何人かの女の子たちが梅毒に感染していたって分かってさ。危ないところだったよ」

 そう渡部さんが言った。彼は頷く。

 流石に妊娠している女生徒はいないだろうが、妊婦が梅毒に感染してしまった場合は特に危険で、生まれて来る子供に深刻な後遺症が出てしまうケースもあるらしい。

 「城之内先輩から迫られた時、なんか物凄く嫌だったんだけど、きっと深田君がしてくれた梅毒の感染が広まっているって話を覚えていたのだと思う。正直、深田君から教えてもらった時は、あまり本気にしていなかったんだけど、お陰で助かっちゃった。

 これからはもっと気を付けようと思うよ。もうちょっとエッチする前に考える」

 性行為に寛容な時代から、やがて性道徳は強化され、みだりに性行為を行うことはタブーとされるようになっていったのだが、その決定的な原因になったのは、梅毒に代表される性病だったらしい。昔は梅毒は不治の病で、感染すれば醜い姿になる上に精神すら病み、死を覚悟しなくてはならなかったのだからそれも当然。その彼女の反省の弁を聞いて、そんな話を彼は思い出していた。

 彼女の反省の弁を聞いて「それが良いよ」と彼は答えたのだが、自分でも驚くほど声が沈んでいた。

 彼女がエッチするのを控えると言うのは、つまりは自分とのエッチも控えるという事になるはずだからだ。“分かり易いなー 僕は”と、彼は自分自身に呆れた。幸い、渡部さんにはそんな彼の心中に気が付いているような素振りはなかった。ところがそう思ったところで、「ね」と、不意に渡部さんは彼の手に触れて来たのだ。彼は驚いてしまう。

 「な、なに?」

 「これから暇? 家に帰るだけで他に用事がないのなら一緒に遊ばない?」

 そう言った渡部さんの表情は、どこか艶っぽかった。以前に彼と寝た時とは明らかに違っていて、誘惑しているような雰囲気がある。

 深田君は直ぐに意図を察すると、「どうして?」と思わず言ってしまう。

 「だって、深田君のお陰でわたしも他の女の子たちも助かったのだし、何かお礼をしなくちゃでしょう?」

 「でも、これからは慎重にエッチをするって……」

 そう彼が言うと彼女は不思議そうな顔を見せた。

 「深田君は梅毒に感染している心配はないでしょう?」

 彼はそれを聞いて目を丸くした。

 

 ――城之内先輩は拒絶したのに、深田君はオーケーなのが、果たして本当に梅毒の所為なのかどうかは、彼女ともう少し付き合ってみないと分からないかもしれない。

近年、梅毒が感染を拡大し続けているという話を聞いて書いてみました。

別に「モテる男どもなんて全員、梅毒に感染すればいい。一人残らずだ!」なんて思っていません。

本当です。

本当ですよ?



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