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第一話 領主の娘⑫

他者視点が入ります。


俺は急いで領兵隊長に事態の急変を告げる。少々焦ったせいで早口になってしまったが、必要な事項は伝えることが出来た。


「隊長!デルタスにこちらの存在がバレた!移動し始めるぞ!」


「なんだって?!まずいぞ、まだ目的地まで少しかかる!今に出られたら探すのが難しくなる!」


領兵隊長が言うのは、奴らが夜の間に移動するとその行動範囲を推測するのが難しくなるということだ。闇に紛れて移動されると、探す俺たちもそうだが奴らも自分たちがいる場所が分からなくなり、想定のしようもない動きをする可能性が高まるのである。


「隊長、少し無理させることになりますが、速度を上げます!急げばまだ間に合うかもしれません。」


「頼む!呪術師殿、奴らはもう移動を開始していますか?」


俺はデルタスたちの様子を窺う。どうもデルタスの呪術師としての実力が足りなくてこちらとのつながりを切れないらしい。苛立った挙句、諦めたようだ。


『クソがっ!!どうして切れんのだ!俺の呪術具だぞ!?もういい!今はこの場を離れなくては!おい!起きろ!寝ている場合ではないんだ!』


『うるせぇなぁ・・・。何だってんだよ。動くのは明日の朝だと言ってたじゃないか。』


『状況が変わったんだ!早く皆を起こせ!』


傭兵の一人が起きてきてのんきなことを言っている。デルタスとしては状況が最悪なことに気が付いているので悠長なことはしていられない。口調が強くなるのは仕方がないだろう。

傭兵は渋々指示に従うと、周りで寝こけている他の傭兵を起こし始めた。


俺はその様子を確認しながら領兵隊長に伝える。まだ間に合うかもしれない、と。


「まだ間に合うかもしれない。幸いにもデルタスの指示に傭兵たちは従うが渋々といった様子だ。もたもた準備しているところに追いつけるだろう。」


「本当ですか・・・。デルタスに人望がなくて幸いでしたね。良し!希望はまだある!ブラウン!飛ばせ!」


「ハッ!ハイヤー!!」


領兵隊長が他の隊員を鼓舞する。それだけで士気が上がり、一気に空気も明るくなる。これだけで領兵隊長が優れていることが分かる。

手綱を握る領兵が魔馬に鞭を入れると、ヒヒィーンと嘶いて魔馬が速度を上げる。その速度は先ほどの比ではなく、さすがの俺も足元が揺れて立っていられない。マリィは変わらず楽し気に周囲を見ている。

俺たち一行は一路、目的のボロ小屋を目指し爆走する。


***


「見えたぞ!」


見張りに立っていた領兵の一人が声を上げる。その声に従って進行方向に目をやると確かにボロ小屋が見えた。


「間違いない!あのボロ小屋だ!俺が見たのと同程度の材質の壁に違いない。」


「そうか。感謝するぞ、呪術師殿!皆の者!これから戦闘になる可能性が極めて高い!気を引き締めろ!相手は呪術師と傭兵だ!」


領兵隊長が隊員たちを鼓舞する。領兵たちは各々の武器を取り出して担いだ。俺も武器を持っていれば同じようにしても良かったのだが、生憎今は手ぶらである。そこは領兵たちとマリィに任せよう。


「先生は呪術師に集中してくださいね。傭兵は私たちがどうにかしますので。」


マリィは両手に持った大振りのナイフを煌めかせて不敵に笑う。その姿にスッと背筋が冷えたような気がするが、気力で奮い立たせて自分の役割をこなす。


『な、なんだこの音は!?おい、急げ!』


『うるさい!俺に命令すんな!』


『これは・・・馬車の音じゃないか?!まずい!敵襲!急いで武器を取れ!』


デルタスの声では一切動かなかった傭兵が馬車の音に気が付いて起き上がる。すでにデルタスはあきらめていたのか、すでに脱出する用意を終えて、馬車とは別の方向、つまりボロ小屋が背負った森に向かい始めている。


『もう付き合ってられん!クソっ!俺だけでも生き延びてやる!!』


傭兵たちの声を背に走るデルタスはどんどんと馬車の音から遠ざかっている。このままでは逃げられてしまうと思った俺は領兵隊長に伝えて一人で先行するつもりだと伝える。


「隊長!デルタスが傭兵を置いて逃げた!俺はそちらを追う!領兵とマリィで傭兵を頼んだ!そいつらも黒幕を知っていそうだから逃がすなよ!!」


「しかし!呪術師殿だけでは危———」


「舐めるなよ!俺はこれでも戦闘は得意だ!幸いデルタスは実戦経験がないらしいからな!問題ない!マリィ、頼む!」


俺は言いたいだけ言い切ると到着した馬車を下りて一目散にデルタスを追いかけて森に入った。



***

(領兵隊長視点)


まったく、困ったことになった。セルバス様に頼まれた呪術師殿が私の静止を遮って森の奥へと消えて行った。

暗闇の中に紛れ込むローブを靡かせて進む背中は確かに戦闘が不得手には見えない。


今すぐにでも追いかけたいところだが、その呪術師殿の情報によると相手側の傭兵の人数は五人でこちらと同数だ。マリィ殿という女性を数に含めるのは自分でもどうかと思うが、仕方がないだろう。

先ほど馬車の中で見せた不敵な笑みは、一対の大振りのナイフ、むしろ小剣というべきそれも相まって非常に頼もしい。私までも背筋に冷たいものが流れた気分だった。


「呪術師は彼に任せて私たちの相手は傭兵だ!皆の者、気合を入れろ!」


「「「おぉー!!!」」」


「私も行きますよぉ~!」


俺たちが雄たけびを上げるとボロ小屋の中から傭兵共が続々と出てきた。その様子は様々で、しっかりと装備を整えて槍や剣を構えている者、なぜか胸当てだけして剣を構えている者、剣を二振り携えてそれ以外何も無い者などいた。

それぞれ2、1、1で合計四人だったので私は首をかしげる。呪術師殿が言ったのは五人だったはずだ。


「一人足りないぞ!気をつけろ!」


私の補足はこの距離にいれば、傭兵たちにも当然聞こえる。傭兵共は悪態を吐きだした。


「くっそ、なんでこっちの人数がバレてんだ?あの呪術師、何かミスりやがったか?」


「ここを片付けたらお仕置きしなきゃなぁ!」


「おい!そんなことより女がいるぞ!しかも飛び切りの美人じゃねぇか!!よし、あれは俺がやる!!」


「いや、待て!あの女は俺が先に目を付けた!お前は別を当たれ!」


傭兵共がマリィ殿に下卑た視線を向ける。


マリィ殿には手は出させんぞ!呪術師殿がいない今、彼女は我らに守る義務がある!


私の思いは隊員たちと通じ合ったようで、皆が奮起して傭兵共に突撃した。なぜかは分からぬがボロ小屋に一人待機しているようであるし、今のうちに敵勢力を削る!


「はぁああ!」


私がフル装備で剣を装備した傭兵を、馬車の手綱を握っていた副隊長がフル装備で槍を装備した傭兵を、見張り役の隊員がそれぞれ胸当てと剣だけを二振り持った傭兵に対処する。


これでマリィ殿に対する傭兵はいないはずだ。しかし、手を煩わせまいと我らが奮起する横でマリィ殿が鼻歌交じりに通り過ぎる。

その姿はまるで散歩に出ているかのように軽やかで、我らの剣戟の音など聞こえないかのようだ。


「邪魔するんじゃねぇ!領兵風情が俺の道をよぉ!」


「黙れ!貴様らを通しはしない!彼女は呪術師殿から預かった大事な存在なんだからな!」


私を筆頭に隊員が奮起する。今回の任務はトルネ商会の会長を捕縛することではあるが、呪術師殿が言うには、この傭兵共はさらに上を知っている可能性があるようだ。捕縛を推奨されたからには全力を尽くす。


私はこの時、気が付いてはいなかった。いや、私だけではない。この場にいる誰も、領兵も傭兵も、誰一人マリィ殿がどこにいたのかすでに見失っていた。


***










拙作を読んでいただきありがとうございます.


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