2.先輩の言葉。
先輩の意味深な言葉?
「あの方は、いったい何者なのですか?」
「えーっと……」
トール先輩をどうにか撒いてから。
ボクは中庭で一人、弁当を食べながらグングニルと話していた。
「あの人は、この魔法学園の最高学年のトール先輩。とにかく魔法に関して歴史の長い家系の人で、成績優秀かつ運動神経も良くて、先生よりも優秀だって言われている人だよ」
「ふむふむ……?」
トール先輩は、魔法の名門家系出身。
天は二物も三物も与えたと、そう言わんばかりのパーフェクト超人だった。女子人気も高く、彼の行く先には必ずといって良いほどに取り巻きが存在する。
つまるところ、ボクとは真逆な人物だ。
使用人が作ってくれた弁当を口に運びながら、ボクはため息を一つ。
「でも、まさか決闘を申し込まれるなんて……」
そこで、トール先輩の提案を思い出す。
悪目立ちしたくないと、そう話していた直後でタイミングが悪すぎた。ボクが全力で断っても、あちらは頑として諦めることがない。
結果として逃亡を図り、中庭にやってきた。
「しかし、マスター。逃げる必要はなかったのでは?」
「えぇ……なんで?」
そうしていると、グングニルがそう言う。
ボクが少しだけ怪訝に訊き返すと、相方は不思議そうに続けた。
「私の見立てでは、マスターは――」
「やあ! ディンくん、ここにいたのだね!!」
「げ……」
だが、それを遮るようにして。
トール先輩が中庭に現れ、大袈裟に両腕を広げてみせたのだった。
周囲には何事かと、興味津々の取り巻き。さらには、野次馬たちが揃っている。
「『げ……』とは、ずいぶんな挨拶だな。――まぁ、気にしないが」
彼はそう言うと、顎に手を当てながら少し考え込んだ。
そして、一言こう口にする。
「ところで、気持ちに変化はあったかい?」
ボクは苦笑しつつ答える。
「変わりませんよ。まだ、断ってから三十分も経ってないでしょう?」
「おやおや、それは残念だ……」
すると、そんな反応すら楽しむようにして。
トール先輩は額に手を当てて、心の底から残念そうに振舞った。
こちらの気持ちなど気にしていないのだろうか。とかく、この人はかなり面倒くさい人物に違いない。そう思わされた。
「まぁ、良いだろう。しかし、すぐに気変わりするよ」
「はぁ……? そうなんですか」
「あぁ! そうだとも!!」
ボクの生返事に、先輩はまた両腕を広げて。
そして、自信満々にこう言うのだった。
「キミはきっと、私の存在から無視できない! 何故なら――!!」
――ズビシィ!! と、ボクのことを指さして。
「私との勝負には、それだけの価値があるからね!!」
「その自信は、どこからくるんですか」
思わずツッコミを入れてしまった。
「おっと、これはまた面白い返しだな」
「いや。そうでもないでしょう?」
ボクの態度が珍しいのか、先輩はまた嬉しそうに笑う。
なんなのだろう、この人は……。
「いや、しかし。冗談はこのくらいにしておこう」
「え……?」
そう思っていると、不意にトール先輩はボクのもとへと歩み寄り。
「キミの努力、私は良く知っているよ」
「………………!」
ボク以外には聞こえないようにして。
そんな言葉をそっと、耳打ちしてくるのだった。
「え、あの!? それって、どういう――」
「おやおや、もうこんな時間か! それでは、色よい返事を待っているよ!」
「ちょ、待って……!!」
思わず追いかけようとするが、人の波に阻まれてしまう。
ボクは結局、中庭に残されて立ち尽くしていた。
そして、思い出すのだ。
「ボクの努力を知っている、だって……?」
彼が残した言葉。
それは、ボクしか知り得ない事実の一つだった。
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