1.諦めなかったから、認められた。
応援よろしくでっす!
「神槍【グングニル】……?」
ボクはそう名乗った美しい槍のもとへ、ゆっくりと歩み寄った。
近くで見るとなおさらに綺麗だ。しっかりと研磨された表面は真紅に輝き、先端は鋭い二又となっている。そこには先ほど解読した文字が刻まれており、しかしすぐには読み解くことができなかった。
一言で表すなら、荘厳。
自らに『神』という名を冠しただけはあると、そう感じた。
「……あ、いや。それよりも、ここは?」
「ふふふ。あまり緊張されなくてもよろしいですよ、客人」
だけど、そこに至ってボクは周囲に状況に改めて意識が行く。
同時に相手をまじまじと観察してしまったことを申し訳なく思うのだが、グングニルは気にした様子もなく、静かにこう言った。
「簡単に言えば、ここは神々の武器庫です」
「神々の、武器庫……?」
首を傾げると、グングニルは続ける。
「えぇ、そうです。ここにあるのは、かつて神々の戦争で用いられた武具の数々。もっとも、人々に忘れ去られて久しいですが、ね」――と。
その口調はどことなく寂しげで。
ボクはふと、こう考えた。
「キミはもしかして、ずっと独りだったの……?」
そして、思わず口にする。
この美しい槍は、誰に認められることなくここにあった。
きっと、それは自分が魔法学園で感じている孤独などとは比べ物にならない。神々の戦争については詳しくない。けれど、途方もないことは理解できた。
誰にも忘れ去られ、たった一人。
意思を持つグングニルにとってそれは、どれほどの苦痛だっただろうか。
「……あぁ、客人。泣かないでください」
「え? 泣いてなんて……あれ……?」
そこでふと、グングニルに指摘されて気付いた。
ボクの頬には大粒の涙が伝っている。そんなつもりもないのに、拭っても拭っても、ちっとも止まる様子がなかった。
「あ、あはは、変だな……」
「………………」
誤魔化そうとするが、止まらない。
そんなボクの様子を黙って眺めていたグングニルは、ふとこう言った。
「貴方は、心優しいのですね」
そして、何故だろうか。
視線を持ち上げると、誰かが槍の傍らで微笑んだように思えた。
それについ呆然としてしまうが、ボクはすぐに首を左右に振って笑う。
「そんなこと、ないよ。ボクは自分に自信がなくて、ただ弱いだけ。騎士の家系に生まれながら剣術は下手くそで、逃げるように魔法学園にやってきたけど、そこでも駄目で――」
「それでも、貴方は諦めていない」
「え……?」
自嘲気味に今までを語ると、そこでグングニルがそう遮った。
ボクが呆気に取られて見上げると、槍は静かにこう告げてくるのだ。
「貴方はそれでも、前に進もうとしている。諦めず、ただ真っすぐに自分にできることを探そうと頑張っている。膝にできた数多の傷は、間違いなく勲章でしょう」
そして、最後に。
「そうやって、貴方は私のもとへとたどり着いたのですから」
グングニルは、優しい口調でそう言うのだった。
ボクは、決して逃げていたわけではない。諦めずに続けてきたことに、無駄なことは一つもなかったのだ、と。
それは間違いなく、神なる槍からの『肯定』だった。
結果にならず、努力と認められなかったボクのすべてを認めてくれたのだ。
その上で、グングニルはこう訊いてくる。
「貴方は、どうしたいですか?」――と。
その言葉に、ボクの心は自然と動いていた。
もう駄目だと思っていた。
それでもまだ、ボクは――。
「ボクは、諦めたくない……!」
その気持ちを口にした瞬間。
グングニルを中心として、まばゆい光が放たれる。
目が眩むような強さ。しかし不思議と、優しさに溢れた光だった。
「それなら、私を手に取りなさい。そして――」
ボクは、グングニルを手にする。
「名乗りなさい。私の新たな【マスター】よ!」
「ボクの名前は――」
そして、ハッキリと口にしたのだった。
「ディン・アルケイオスだ……!」――と。