始まりの出合い
イリス襲撃事件
昼下がりの午後3時、公園に 逸見 と 氷月 は、立っていた。
「すごいね・・・。」
と氷月はため息交じりに呟いた。
逸見もその言葉しか浮かばないのか黙ったままその大きな建物を眺めていた。
「では、入りましょうか」
と、二人に協会へと促したのは還暦近くの白髪が目立つ 皆 藤 という男だ。
今、この二人が向かおうとしている先は、アザリア協会の総本部である スミソニア博物館
なぜ、この二人なのかは知らないが、 上総魔術協会 の意向で派遣された。
任務は、皆藤と呼 ばれる男の護衛とだけ聞いている。
二人は、皆藤の後ろからただ追いかけるように赤れんがを基調とした博物館へと入っていった。
表向き は美術館らしく、通路を隔てた両サイドに美術品が置かれてあった。
皆藤はその美術品には一切の説明をすることなくまっすぐ進んでいく。
すると、どこから現れたのか通路右わきに地下へと沈むらせん階段が表れ皆藤は当然のように潜っていった。
二人もその薄暗い階段を下りていく。数分程度は経っただろうか、目の前には大聖堂が広がっていた。
白を基調とした神々しくも落ち着いた装飾が部屋全体に施されており、二人の目はその装飾の数々に奪われていた。
「お久しぶりです皆藤さん。後ろのお二人もこちらの部屋へどうぞ」
と紳士服に身を包んだ 男、 オーディオ・スクエア・アルマース が立っていた。
オーディオは、アザリア協会の中でも高いポジションにいるらしくここスミソニア博物館の支配人をしているらしい。
皆藤とは、古くからの付き合いで皆藤がアザリア協会で働い ていた頃に知り合ったいわゆる同級生だ。
3 人は、聖堂の奥にある部屋へと案内された。
部屋自体はそこまでの広さはないが大聖堂 と同じく白を基調とした部屋で、彫刻の数々が目立った。
「では、早速ですが本題としますか」
と切り出したのは、皆藤の方だった。
オーディオもにこやかにうなずき、テーブルの両サイドにあるソファーに深々と腰かけ た両者の会議が始まった。
逸見と氷月の二人は、部屋の隅に立ったままその話をただ聞いていた。
内容は、スミソニア博物館の展示品を一定期間貸してもらうというものだ。
展示品一つ一つに保証金を支払わないといけないため上総魔術協会は少しでもお金を支払いたく ない。
しかし、アザリア協会としては大切な展示品を一定期間貸し出すためあまり保証金を下げられたくない。
二人の交渉は、夜の7時ころまで続き、いまだに終わらない。
そんな交渉に飽きたのか逸見は少し眠気を感じた。
「藍輝、外の空気でも吸いに行ったらどう?」
と氷月は眠そうな逸見に外へ行くよう促した。
「そうします」
と逸見はどことなく素直な生返事で部屋を出て行った。
らせん階段を登り、先の見えないまっすぐ伸びた通路を歩いていく。
もう、閉館時間前という こともあって、人は誰もいない。
スミソニア博物館を出ると目の前に広い広場が広がっていた。
その広場を迂回し、ちょうどスミソニア博物館の裏路地に近い通りをふらついていた。
そこは、人通りが少ない 並木通り となっていた。
「綺麗だな」
と呟きながら逸見はライトアップされた博物館をぼんやりと眺めた。