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ルースの森のクリスマス

作者: ぶんぶん

おやおや梨菜ちゃんは随分と楽しく、彼と過ごしたのね。私はテーブルに3人分の朝食を準備しながら、洗面所に向かう梨菜ちゃんの背中を見つめて、ほうっと息を吐きました。いつもと変わり無い様に見えるけれど、少しだけいつもより早起きで、少しだけいつもより目がちゃんと開いてて、いつもと明らかに違って鼻唄を歌っている梨菜ちゃんが、ダイニングテーブルの上を不思議そうに眺めています。

「おばあちゃんおはよう。 ……って、あれ?1人分多くない?」

「あら梨菜ちゃんの小さなお客様はもう帰っちゃったの?」

「えー!お婆ちゃん大人なのにルースのこと見えたの?」

「そう彼はルースっていうのね。 私はまた彼に会えなかったのね。」


びっくりしたり不思議そうな表情をしながら瞬きをしている孫娘に、ひとまず座って朝食を食べるように伝えます。今日はクリスマスですからそれっぽくサラダやトマトスープで朝食をクリスマスカラーに彩っておきました。

小さなお客様に会うことを期待して少し豪華にしたのですけれどクリスマスだからということにしておきましょう。梨菜ちゃんも嬉しそうに何度も美味しいと言ってくれているのですからそれで良いのです。

「ねえ、梨菜ちゃん。昨日のお話しおばあちゃんに教えてちょうだい? きっとね、ずっと前におじいちゃんと遊んでくれた妖精さんだったと思うの。本当は会っておじいちゃんの話を聞いてみたかったのだけれどねえ。」

「えっ?ルースが言ってた力持ちの少年っておじいちゃんのことだったの?」


妖精に出会えたら見せようと思って用意していた、夫が書き残した絵本を梨菜ちゃんに渡して食卓を片付けます。梨菜ちゃんのココアと私の緑茶を用意してダイニングへ戻ると梨菜ちゃんは夫に似た垂れ目を一層下げてニコニコと絵本を見つめていました。

「おばあちゃんおじいちゃんはとても凄い人だったのね。ルースとおじいちゃんは間違いなくお友達だったのよ。 おじいちゃんのおかげで梨菜もお友達になれたの素敵でしょう?」

「梨菜ちゃんそんな素敵なお友達の話をおばあちゃんに教えてちょうだい。」

ココアを一口飲んで、ニッコリと笑った梨菜ちゃんは、本を閉じて私に昨夜がどんなに素敵な夜だったのかを語り始めました。










ルースは突然私の目の前に現れたわ。クリスマスイブのお昼に、おばあちゃんとクリスマスケーキを作っていた時のことよ。去年はかまくらケーキだったから今年は違うのが良いと言って、お婆ちゃんに教えて貰いながらブッシュ・ド・ノエルを作ったの。

私がやっと出来上がったブッシュ・ド・ノエルをじっと見つめていたら、ブッシュ・ド・ノエルの前に男の子が現れたの。本当に突然テーブルの上に現れて、ブッシュ・ド・ノエルを見上げている10センチくらいの小さな男の子は、どこからどう見ても妖精だったわ。確認したら精霊だって言われたけどね。

出会った時は、大切なケーキを悪戯されたり、食べられたら大変って事しか思わなかった私は、透明な羽の生えた背中に、必死に話しかけたの。

「ねえそれ明日の夜に、 パパやママ、それからお兄ちゃんが来てからみんなで食べるケーキなんだけど? いたずらしないでくれる?」


「えっ君僕が見えるの?」

振り向いた精霊さんは白い肌で金髪でまるで映画で見る外国人の男の子みたいなカッコいい顔だった。エメラルドグリーンのキラキラした瞳が落ちそうなほど目を見開いて驚いていたわ。私もビックリしたけれど、彼の方が私よりビックリした顔をしていたから、冷静になって、話しかけなきゃって思ったわ。

「えっと お名前は?」

「あ僕はルース! 精霊だよ。やっぱりこの森はすごいなあ 久しぶりに来てまた人とお喋りできるなんて!!」

冷静になりきれていない私は、どうしようもない質問をして、彼は本当に嬉しそうに答えてこちらに駆け寄って来たの。テーブルの上をカタカタと音を立てて走る背中からは不思議な光る粉が出て、気がついた時には辺り一面がキラキラしていたわ。

「ねぇ!君の名前は?何となくオサムに似ている気がするのだけど?僕とお友達になってくれる?」


オサムっていう名前をどこかで聞いたことがある気もしたけれど、それを考える間もなくルースが私の目の前をふわふわ飛びながら友達になろうって何度も言うから、頷いて名前を教えてしまったの。

「わぁ!久しぶりの人間のお友達だぁ!ねぇ梨菜!僕の家に遊びに来て!すぐ近くだから!ほら、行くよ!」

ルースは私の返事も聞かないうちに、光る粉を振り撒きながら私の回りをグルリと飛んで、魔法でルースのお家に移動したみたい。


キラキラが消えて見えた景色は、ルースのお家かと思ったら、私の知ってる場所だった。お婆ちゃんの家の前の川を渡った森の中。ずーっと前にお爺ちゃんが教えてくれた美味しいキノコが沢山生える場所だった。どこに家があるのだろうと思って、ぐるりと見回すと、私の後ろには同い年くらいの男の子が立っている。金髪でキラキラの緑の目の男の子は、どう見てもルースだ。急に大きくなってびっくりしたけど、魔法を使える精霊さんだし、と思ったら納得した。

「えぇっとルースかな?ここがお家なの?もしかして、あのキノコはルースの物なの?」

お爺ちゃんに教えてもらった秘密のキノコを指しながら、ルースに話しかけたら、すごく不思議そうな顔で何回も瞬きをした。

「え?梨菜、もしかして来たことあるの?えっと、もしかしてあのキノコを食べたことがあるの?」


「うん。パパもママも、お兄ちゃんも好きじゃないみたいだけど、私はあのキノコ好きだよ。」

ルースの物を勝手に採って食べていたことを、怒られるかと思ったのだけど、ルースは怒るんじゃなくてとってもビックリした顔をしていた。それからまるで大人が考え事をするみたいに、顎に手を当てて私の方をじっと見た。

「梨菜はあのキノコどうやって食べるの?その、良かったら今からあのキノコで何か料理でも作ろうか?」

「え?料理を作るってどこで?台所も、お鍋もフライパンも見当たらないのだけれど?」


「あーっと、僕が料理を作るときは魔法だから、、、他にもここにある草や木の実なら魔法で料理して食べれるようにできるよ?お皿やカップを作るのは少し手間だけれど、、、。」

そう言いながら、ルースは近くに有った何かの蔓を千切って手のひらに収まるくらいのカップを編んで、魔法をかけた。魔法は隙間を無くして固める魔法で、スープが溢れなくなるんだって。私もルースの真似をして蔦を編んでみたけれど、上手くいかなくて、結局ルースがもう一つ同じようにカップを作ってくれた。

「ねぇ、ルースあの草も美味しいよね?あと季節が違うけど、あの木になってる木の実は酸っぱいけれど甘くて好き!」

小さい頃お爺ちゃんとこの場所で拾った木の実や、摘んだ葉っぱをルースに話すと、その度にルースが嬉しそうに笑ってくれる。ルースの友達の男の子も同じ葉っぱや木の実が好きなんだって。その友達は力持ちで、木登りが上手で、高いところに成ってる実も沢山採って食べるんだって話してくれた。私は女の子だからって、ルースが魔法で木の実や葉っぱを集めてくれてる。


「そう言えば、本当は明日ここに来る予定だったのよ。毎年ねクリスマスのごちそうはそのキノコのスープと、あの葉っぱのサラダと、チキンにはあの木の実のソースをかけるの。その材料を集めに来るのが梨菜のお仕事なんだ。」

「梨菜はいつからそのお仕事をしてるの?」

「五歳の時から!去年まではお爺ちゃんと一緒に来ていたのだけど、春におじいちゃんはお星様になったから、今年は一人で来ないといけなかったの。でもルースと一緒に来れて嬉しい!」

ルースはずっとニコニコしていたけれど、お爺ちゃんがお星様になったって言ったときだけ、本当に一瞬だけ寂しそうな顔をした。お爺ちゃんは子供の頃からずっとこの山でキノコや木の実を集めて食べていたっていってたけれど、もしかしてルースとも知り合いだったのかなぁ?


お日様で温かくなった草の上に座って、ルースが魔法で作ってくれたスープを飲んだらとっても美味しかった。スープは夕焼け色のお日様を映したキラキラのオレンジ色で、中に入ってるキノコもつやつやだ。おうちでいつも飲むスープよりも、苦くなくて、でも森の匂いがして、おじいちゃんが作ってくれたスープよりも、ずっと美味しかった。お爺ちゃんが毎年本当はもっと美味しいんだって言ってた事が本当だったってよく分る味。


「梨菜、今日はとっても楽しかったよ。最後に僕のとっておきを見せてあげる!付いてきて。」

スープを飲み終わったら、ルースが立ち上がって、私に向かって手を差し出してきてくれる。手を掴むとぐいっと引っ張られて、立ち上がらせてくれた。ルースはここに来たときのような魔法じゃなくて、私の手を引いて、ぐんぐんと木の間を進んで歩いて行った

「梨菜、今から行くところは、オサムにも見せなかった秘密の場所なんだ。これからは、いつでも、一人でこの森の中は迷う事はなくなるよ。」

「ここに来たら、ルースにまた会えるの?さっきの美味しいスープは私が同じような味に作ることはできる?」

全然道がない様に見えるところ、木の間を歩きながら、ルースは森の精霊っていう存在で世界中を旅しているのだと教えてくれた。日本の森はここと、いくつかを見回りするんだって。外国の森は、日本にはない木が生えていたり、日本には居ない動物が住んでるんだって教えてくれた。

しばらく歩いたら、急に明るくなって、目の前に大きな池が有った。池の周りをぐるりと赤いお花が取り囲んでいる。そのお花はよく見たら、今朝お婆ちゃんが窓際に飾ってたポインセチアだった。


「ねぇ、梨菜、一緒に歌ってくれるかな?」

夕日に照らされてオレンジ色になった池と、池の周りのポインセチアの赤が足元に広がって、見上げると池を取り囲む森の木の葉の緑が頭の上一面に広がって、とってもクリスマスらしい雰囲気だなって思った。隣でルースが歌うのは、短いメロディの繰り返しで歌詞は聴いたことのない言葉なんだけど、不思議と三回くらい繰り返した所で私にも歌えるようになった。

お日様が森の向こうに落ちて、池の水がキラキラ光らなくなってきたけれど、一緒に歌っていたら、池の回りのポインセチアがろうそくみたいに光だした。

「梨菜、今日はありがとう。この森をヨロシクね。どこの森だとしても、今の歌を歌ってくれれば、近くにいれば会えるからね。ずっと、その歌を忘れないでね。」

気がつくとルースは最初に会ったときと同じ小さな姿になって、キラキラ光る粉を撒きながらグルリと私の周りを一周飛んだ。

目の前が急に眩しくなって、次に目を開けた時には、お婆ちゃん家のお爺ちゃんのお仏壇の前に布団を強いて寝ていた。








「梨菜ちゃん、これは梨菜ちゃんが集めてくれたのかしら?それともルースからの贈り物?」

梨菜ちゃんの話を聞きながら、昨夜の事を考えていたのだけれど、実は私もケーキを作った後の記憶がないのです。ケーキを作って、切れ端をお爺さんにお供えして、それで、気がついたら、今朝だったのです。

朝目が覚めて、テーブルの上に一杯に置かれていたキノコや木の実、香草なんかに驚いたものです。ひとまず台所に隠していたそれら森の恵みを、話終えた梨菜ちゃんに見せると、目を丸くした後に本当に嬉しそうに笑ってくれたのです。

「きっとルースからの贈り物よ!私、教えてもらった訳じゃないのに、美味しいスープを作れそうな気がする!」

梨菜ちゃんは50年前にお爺さんが作ったのと同じように、不思議な歌を歌いながら、キノコのスープを作ってくれました。梨菜ちゃんもおじいさんと同じように、毎年毎年クリスマスに旅行に行くようになるのかしら?どうか、梨菜ちゃんがこの歌を忘れませんように。


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