ブラック企業を辞めたサラリーマンが暇つぶしにブラウン管弦楽団に入団する
ブラウン大学管弦楽団なら本当にあるようです。
ところで、タイトル内の『ブラウン管弦楽団』ですが、これは『ブラウン管』をタイトル内に入れたこととして認められるのでしょうか?
「先月分の残業だけど、三十時間は出し過ぎだ。せめて実働の三分の一にしてもらわないとね」
「しかし、それでも三分の一にも満たないんですけど?」
「じゃあ、十時間まで付けて、残りは来月回しにしてくれないか?」
「先月も先々月も、その前も、ずっとそう言われてますが?」
「はぁ? そんなこと、いちいち覚えてられっか!」
いつも、この展開で上司が逆ギレする。コイツの辞書には『三六協定』の文字は無いんだろう。
しかも、この上司は普段から高圧的だし、俺もイイカゲン頭に来ていた。それで、
「じゃあ、これを」
俺は辞表を叩き付けた。元々辞めるつもりでいて、あとはタイミングだけだなって思っていたんだ。
「いきなり辞めると言われてもねぇ。半年先まで仕事のスケジュールがびっしり詰まっているだろ? せめて半年前に出してもらわないと」
「しかし、社員規定には一か月前って書いてありますが?」
「そんなことは関係ない! とにかく半年は働け!」
結果的に、俺は辞表を提出したけど、退職は半年先ってことにされた。それも、一方的にだ。
その月の給料日のことだ。
何故か、俺には給与明細が渡されなかった。
それで上司に、
「俺の分の給与明細がありませんが?」
と聞いた。
すると、上司は、
「もぅ辞めると分かっているヤツに給料を出す必要は無いだろう」
と言い返して来た。
さすがに、これはヒドイ。
「ふざけるな!」
俺は、その上司に殴り掛かった。そして、そいつの顔の形が変わるまで、何発も殴り続けた。もう辞めるし、どうでもイイって思ったんだ。
その後、警官が駆けつけ、俺は逮捕された。ただ、企業側の問題が大きく、俺は大した罪には問われなかった。
上司は懲戒解雇。会社側が全ての責任を上司に擦り付けたって感じだ。
勿論、俺の退職も認められた。
俺は実家に戻ることにした。
実は、親がマンション経営をやっていて、いずれ俺はその後を継ぐ。しかも、その収入だけで充分生きて行けるんだ。
就職したのは単なる社会勉強だった。つまり、いつ辞めても良かったんだ。
久し振りの故郷の駅。そこで、俺の目に一枚のポスターが飛び込んで来た。
「楽団員募集! ブラウン管弦楽団か」
どうやら、隣町で趣味の楽団を立ち上げるらしい。
そう言えば、学生時代に吹奏楽部でクラリネットをやっていたっけ。
久し振りに演奏するのもイイか。
よし! 暇つぶしに入団しよう!