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6話 : 利用規約の罠

 コウは今、街のはずれの一角で正座をしている。彼の頭にはいつも通りタマがのっかっており、構ってくれない主の頭をテシテシ叩いていた。

 彼の正面には、手頃な岩に足を組んで腰掛けるヨミの姿が。腕も胸の前で組んでおり、その視線はやや冷ややかである。隣では、先ほどコウがフィールドで出会った女性プレイヤーがポップアップで何か情報を見ているようだった。


「さて、コウ?妾がなぜこうしているか、理解しておるかの?」

「はっきり言って全く分からない…。冷蔵庫のプリンの件か?」

 ちがぁう!と吠えるヨミ。なぜこのような状況になっているか、それはコウとリィナが雪原フィールドでの戦闘を終えた頃までさかのぼる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「すごい、すごいですね!」

 周囲に敵モンスターがいないことを確認すると、コウは【王の器】スキルを解除する。それと同時に、白熊に追われていた女性プレイヤーが駆け寄ってくる。


「そんなことないですよ。俺こそ、急な頼みを聞いてくれてありがとう。…ちなみにドロップアイテムは、君が連れてきたモンスターの分は君ので、マンモスのやつは俺のってことでいいのかな?」

 このゲームにおいて、ドロップアイテムは全プレイヤー共通となってしまう。それゆえに、アイテム分配で争いになることも多い。コウは今までソロでの戦闘か、ヨミとパーティーを組むばかりだったため、知らないプレイヤーとの分配は初めてのことだった。


「私は助けてもらった方なので、アイテムはいいですよ?…えっと、コウさんですよね?」

 コウは怪訝な顔をする。先ほどは姉のヨミと似ている、とカイトに言われたが、今度は自分のプレイヤーネームを呼ばれたのだ。目の前の女性プレイヤーとはパーティーを組んでいる訳でもないので、なぜ自分の名前がわかるのかコウには理解できなかった。


「確かに俺はコウですが、どこかで会ったことあったかな?」

「いえ。ですがヨミちゃんから話は聞いています。私、ヨミちゃんと同じギルド『円卓の聖騎士』のメンバーで、リィナって言います。顔が似ていたので、そうかなって思いました。」

 なるほど、とコウは納得した。ヨミがどのような話をしていたかは分からないが、目の前の女性、リィナが自分の名前を知っていた理由ははっきりした。


「でもびっくりしました。まさかヨミちゃんの弟さんが、【魔物ノ王】だったなんて。さっきのスキルはやっぱりジョブ専用スキルなんですか?」

「まぁ、そんなところかな。」

 ヨミとの約束があるため、あまり詳しいことは言わないコウ。

「リィナさんこそ、『円卓の聖騎士』ということは、このモンスターは聖獣ですよね?聖獣って自動攻撃でも結構強いと思ったんですが…。」

「リィナでいいですよ。私も、コウ君って呼びますね。私のラファエルは確かに聖獣なのですが、ヨミちゃんのユニコーンみたいに攻撃特化ではなくて、支援系なんです。」

 それで恥ずかしながら、レベリング中に対処できなくなっちゃって…。と続けるリィナ。


「コウ君、よかったら私とパーティー組んでくれませんか?あと、フレンドもお願いします。」

 ドロップアイテムを拾い終わるのを待って、リィナが街に戻るまで一緒に組まないかと誘ってくる。コウとしても、支援スキルを持つプレイヤーがいるならば、ポーションの残りを気にせず帰ることができるため、それを了承した。


「【プロテクション】」

 リィナが効果時間が切れるのと同時に、支援魔法をかけ直す。この魔法により、吹雪の発生によって受けていたフィールドダメージが無効化される。

「支援魔法って便利だな。」

「テイマーの時は、支援特化でやってたんですよ。でも、ラファエルを手に入れたから、せっかくならって聖騎士もやってたんです。あ、私メインは【ヒーラー】なんですよ。」

 リィナは2次職のうち、グレートテイマーを含めて3職の転職条件を満たすプレイヤーだった。昨日は以前からののプレイスタイルに合わせて、【ヒーラー】のレベリングをしていたが、今日は一度転職前のレベルに戻った上で、聖騎士のレベリングもしていたそうだ。


「でもやっぱり、慣れないプレイスタイルは難しいですね。」

「わかるわかる。俺もタマ以外とうまく戦える気がしない。」

 そう言ってコウは、頭の上のタマをポンポンと優しく叩く。タマも肯定するかのように、一声ないた。

「でも初期モンスターでずっとやってきたんですよね?私も可愛いなぁって思ってたんですけど、やっぱり戦闘となると厳しくて。」

「わかるわかる。俺もヨミがいなかったら、ここまでレベル上がってなかったよ。」

 そんな雑談をしながら雪原を抜け、草原フィールドに入る2人。ここを抜ければ、拠点である街が見えてくる。しかし、街より先に見えてきたのは、草原の向こうから駆けて来る狼型モンスターだった。


「コウ、ここは任せてね。【背水の陣】」

 リィナが発動したのは、ヨミと同じスキル。先程パーティーを組んだ時に分かったことだが、リィナのレベルはコウよりも数レベル高い。しかも、彼女がメインジョブだと言うヒーラーは、さらに高いレベルであるというのだから驚きである。


「【バインド】【ホーリーランス】!」

 続け様にリィナは2つのスキルを発動する。次の瞬間、狼型モンスターたちは光の帯で拘束され、光の槍が体を貫く。1度の攻撃ではHPを全て削ることはできなかったが、スキルを何度も発動し、とうとう敵モンスターを仕留めるのであった。

 ヨミと同じ職ながら、遠距離から確実にモンスターを仕留める様を見て、コウはプレイスタイルの幅広さを実感する。しかも、実装直後のジョブでありながら、リィナはその力を使いこなしている様子に見てとれた。


「ヨミと同じジョブでも、戦い方は結構ちがうんだなぁ。」

「ヨミちゃんは近接戦闘がメインで物理と魔法のバランス型なんですよ。私はモンスターに近づくの怖いので、さっきみたいな方法が多いんです。だから1度崩されちゃうと、持ち直すの結構大変なんですよ。」

 と言ったところで、リィナはあっと口に手を当てる。


「…いけない。ギルマスからこう言うの言っちゃだめ。って言われてたんでした。」

 テヘっとばかりに小さく舌を出すリィナ。出会ってから結構おしゃべりだとは思っていたが、喋りすぎてしまう自覚はあるようだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 2人が街の入り口に戻ってくると、何やらいつもと雰囲気が違う。街を囲う壁に、出入り口となる門があるのだが、そこを通る人々が皆々片側を歩いている。

 見れば、人が避けて通る側には、ヨミが壁に背を預けて立っていた。スキルか何かわからないが、彼女から怒気を含んだオーラが感じられ、人々はそれを避けていたのだろうと容易に想像できる。そして、彼女はコウとリィナ姿を見とめると、若干怖い笑顔に顔を歪ませた。


「あそこにいるの、ヨミちゃん、ですよね?なんか怒ってませんか…?」

「あれは、『まじおこ』くらいだな…。」

 双子ゆえ、姉の怒りがどれほどなのか瞬時に見抜くコウ。2人は警戒して立ち止まるが、逆にヨミの方が歩き迫ってくる。リィナは思わずコウの後ろに隠れてしまった。


女子(おなご)を連れて帰還とはいいご身分じゃのう?コウ、ちょっと面を貸すのじゃ?」

 そう言うが早いか、ヨミはコウの襟首を掴み、彼を人気のない場所へ連れていくのだった。リィナも待ってくださ~いと言いながら二人の後を追いかける。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さてコウ。お主、カイトというプレイヤーと会っておろう?」

 岩に腰掛けたヨミが問う。

「会った。お近づきの印にって、限定公開情報へのアクセス権もくれた。いいやつだったよ。」

 コウが正直に答えると、ヨミはやはりか…。と項垂れる。


「お主、その限定公開情報にアクセスする時、利用規約はきっちり読んだかの?」

 彼は思い出す。長い長い利用規約は飛ばしてしまい、同意ボタンを押したことを。ヨミに促され、コウは利用規約の1番最後の項目を読む。

 そこには、『利用規約に同意された場合、テイマーズワールドの規約及び、法律に抵触しないレベルで、同意したプレイヤーが持つ情報の公開を了承したとみなす。』と書かれていた。


「お主が何も読まず同意した結果がこれじゃ。」

 ヨミが見せたページ、カイトが管理している攻略サイトのものだった。表示されている項目は『魔物ノ王』、そこには、先ほどコウが確認した時点でも載っていた情報の他にも、【王の器】や【猫缶】スキルの情報が載っていた。


「え?なにこれ?俺、スキルの情報誰にも喋ってないんだけど?」

 しかし、ページにはしっかりと『【王の器】: 大量のモンスターを一時的にテイムできるスキル。MP連続消費型。*注釈:テイムできる条件は確認中』 『【猫缶】: 初期モンスターの見た目と性能を大きく向上させるスキル。発動時にノックバックあり。爪斬撃は物理通常攻撃、尻尾から飛ばす火炎弾は魔法通常攻撃。現在確認できるスキルは、初期モンスターと同じく【猫パンチ】だが、高レベルオークを一撃で倒す威力を確認。*注釈:効果時間とクールタイムは確認中。』と、現在コウ持っているスキルのほぼ全ての情報が網羅されていた。しかも、巨大化したタマがオークを屠る画像と、ワイバーンに向かって甲虫種を差し向けているコウの画像まで貼られている。コウの顔の部分はモザイクかけているが、紛れもなく昨晩の戦闘風景のものだった。


「お主が喋っていないことは信じておる。じゃがの、カイトは1を聞いて10を知るような情報収集能力を持っておる。」

「ヨミちゃんも、以前カイトくんにユニコーンの能力をばらされたもんね。」

「リィナ、それを言うでない!」

 慌ててヨミはリィナの言葉を遮る。結局のところ、実は彼女も貴重な情報を奪われていたのだった。

 

 そんな締まらない雰囲気に、コウは思わず吹き出してしまう。

「コウも笑うでない!」

 顔を少し赤らめたヨミは、気持ちを落ち着かせるように、コホンと小さく咳払いをした。


「と、とにかく。妾もあらかじめお主にカイトのことを話しておくべきじゃった。こんなにも早く接触してくるとは思ってもみなかったのじゃ。まぁしかし、このサイトの限定情報にアクセスできるようになったのなら、最大限に活用するがよいぞ。」

『ここは、テイマーズワールドの2次職【魔物ノ王】に関するコメント欄です。プレイヤー名は入れても入れなくてもOK!でも、あまり関係のないことは書かないようにしましょう。また、重大な個人情報に関わるようなコメントは見つけ次第削除するのでよろしくね!』


1 : いくつか情報を仕入れたから、ページを更新とコメント欄の解禁をしたよ。(by カイト)


2 : 1get


3 : >>1乙


4 : 情報早すぎ定期


5 : 一通り読んだけど、これチートじゃね?大量のモンスター使うとか、グレートテイマーの上位互換すぎんだろ


6 : 転職条件まだはっきりしないのかよ、使えねーな


7 : そもそも初期モンスターが条件の時点で古参プレイヤー殺し


8 : だよな。コスト制導入前は1体までしか持てなかったし


9 : >>7 サービス開始6か月で古参は草


10 : このゲームってサブ垢不可能だっけ?


11 : >>10 結論から言うと無理。というかVRMMO自体複垢できない仕組みになってる。


12 : >>11 サンクス。「隠しパラメータ」の検証しようと思ったんだがなぁ…


13 : アップデート後に始めたプレイヤーならワンチャンあるのか。


14 : 新規プレイヤー見つけたら、フレンドなって検証頼んでみるわ。

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