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5話 : 出会い

 大型アップデートの翌日も、コウはテイマーズワールドにログインしていた。日課であるタマの餌やりやブラッシングなどを済ませると、タマを頭に乗せプライベートルームを後にする。きたるイベントに向けて、レベリングととある目的を達成しに行くつもりだった。

 やってきたのは、昨日の神殿がある街の中。フィールドに行く前に、ここで店売りのポーションなどを調達する。コウは生産スキルを多数所持しており、店売りポーションよりも性能のよい物を作ることができる。だが、彼の【王の器】スキルは、MPを連続消費するためポーションの消費も多い。そのため、素材を消費せず、ゲーム内通貨だけで買える店売りポーションの方が理にかなっていると判断したのだ。。

 現在のレベルで買える中で、最も性能のよいポーションを上限まで購入し、いざフィールドへ向かおうとした時だった。


「へぇ、ほんとにヨミ姫と似てるねぇ。」

「えっと、どちら様?」

 コウの目の前にいたのは、目深にハンチング帽を被った、ルポ記者のような人物。声色からして、コウより年下の少年だろう。彼の肩にはムササビ型のモンスターが乗っており、首からはカメラを提げている。そして、彼の頭上には【隠密】というジョブ名が表示されていた。


「僕はカイト。ジョブはご覧の通り、【隠密】だよ。テイマーズワールドの攻略サイトとか管理してます。君のことはヨミ姫から聞いてね、是非話を聞いてみたいと思ったんだ。」

 そういうが早いか、カイトは1枚名刺を取り出し、コウに渡す。そして、メモ帳とペンを取り出した。コウが手元の名刺を見ると、VRの機能で読み込める二次元コードが描かれている。


「えっと、ヨミの知り合い…?」

 先ほどから、彼の言う『ヨミ姫』とは、ヨミのことで間違いないだろう。カイトも、コウの質問に肯定した。彼の説明では、ヨミを含めプレイヤーの多くは、彼が公開している攻略サイトから情報を集めるのが定石らしい。また、一部プレイヤーは情報を提供する代わりに、カイトが集めた限定情報を得ているのだとか。テイマーズワールドの一番の情報屋です、とカイトは胸を張る。


「今一番ホットな情報は、2次職に関する情報なんだ。特に、君の【魔物ノ王】みたいな転職条件が曖昧なジョブはね。もちろん、タダで教えてとは言わないよ。」

 限定公開情報へのアクセス権をプレゼントするよ、と付け加えるカイト。確かにイベントに向けて情報は欲しい。だが、事前にヨミからジョブに関する情報を教えのは禁物だと言われたのを思い出し、カイトの提案を断った。


「あはは…、多分ヨミ姫に止められてるんだよね?まぁでもいいや。君は結構目立つプレイヤーになりそうだし、お近づきの印にサービスするよ。はいこれ。」

 カイトがもう1枚、数字や記号が羅列されたカードを取り出した。

「限定公開情報へのアクセスコードだよ。是非使ってね。それじゃ、また会おうね!」

 そういうと、カイトは手を振り去っていった。残されたコウは、名刺に書かれた攻略サイトにアクセスする。VR空間のみで使用可能なブラウザ上で公開されており、キャプチャや動画撮影が不可能な仕様になっているなど、個人が管理している割には手の込んだ仕様となっていた。


「確かにこれは便利だな…。」

 ジョブの項目では、各職ごとのスキル特性がまとめられている。フィールドの項目には、出現するモンスターやボスエリアの場所が示されていた。モンスターの項目を開けば、攻撃パターンや、テイムできるか否か、コスト、ドロップ品の情報が満載である。2次職の情報などは歯抜けな個所も多いが、まだ実装されてから2日目であることを考えれば、かなりの情報量である。ちなみに、【魔物ノ王】の項目も確認してみたが、転職条件以外は記載されていなかった。


 ちょうど欲しいアイテムがどこで入手できるか知りたかったコウは、攻略サイトの逆引き検索機能を使った。しかし、突然、デフォルメされたカイトが腕でバッテンを作る絵が現れた。『ここから先は、限定公開情報だよ。』というメッセージを添えて。


「なるほど、レア度が高い情報は限定公開なわけか。」

 コウはさっそく渡されたアクセスコードを入力する。すると、『登録を確定する場合は、利用規約をお読みいただき、同意ボタンを押してください。』というメッセージとともに、長い長い利用規約の文書が現れた。さっさとフィールドに行きたかったコウは、利用規約を読むのもそこそこに同意ボタンを押す。そして、ようやく彼は目的の情報にたどり着くことができたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おっ、コウ君もう登録してくれたんだ。ラッキー。」

 攻略サイトの管理者、カイトのところにコウの登録完了の通知が来る。その知らせにカイトはニヤッと笑うのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「タマ、【猫パンチ】!」

 コウの指示で、タマは雪原フィールドの中ボス、マンモス型のモンスターに打撃を炸裂させる。だが、分厚い毛皮のせいか、怯む様子を見せるものの、それほどダメージを与えられているようには思えない。続いて、タマは尻尾の火炎弾を連射する。しかし、それも効果はいま一つのように見えた。

 今、コウは【王の器】スキルを使用していない。『寄せの香』は焚いたものの、時折襲い掛かる吹雪が香の効果を打ち消しているようで、思ったように敵モンスターが集まらないのだ。

 しかも、吹雪に巻き込まれるたびに『体温低下』の状態異常にかかり、HPを削られる。MPポーションこそ多めに買っていたものの、HPを回復させるポーションはそこまで買っていなかったため、コウはジリ貧状態に陥っていた。


「こいつ倒したら一度撤退するか…」

 フィールド上でHP0となった場合、例の神殿で復活できる。だが、インベントリ内のアイテムや、『ウェン』という単位のゲーム内通貨をランダムで喪失するほか、一定時間の弱体化などペナルティが発生する。死に戻りは避けたいコウも安全牌をとり、回復アイテムに余裕があるうちに撤退することを考えた。

 タマが健闘したため、マンモス型モンスターのHPは2割削ることができた。敵の動きは鈍重で、タマは危なげなく攻撃捌いている。尻尾の火炎弾は魔法の通常攻撃のため、MP消費はほぼない。ただ、このペースでは【猫缶】スキルの効果時間が先に切れてしまうことは明白だった。クールタイムの関係上、タマは一時的に戦力外となってしまう。また、オークの時と同じく【王の器】のオーラを当てに行くには、敵の攻撃をかいくぐる必要がある。特に、鞭のようにしなる長い鼻の攻撃は、オーラが当たっても慣性でコウの体を吹き飛ばすリスクがあった。


「タマの背に乗って、敵の背中に飛び乗るっていうのもなぁ…」

 コウには、そんなアクロバティックな芸当をする度胸はない。

 【猫缶】の効果時間が切れたら、攻略サイトのマップで見つけた洞穴に退避しようと考えるコウ。情報によれば、中には特にモンスターはいないようで、セーフティエリアになっているとのことだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「どいてくださーい!!!」

 突然、遠くから声が聞こえてくる。【猫缶】スキルの効果時間も後わずか。コウが脱出のタイミングを見計らっていた時だった。見れば、雪原の向こうに雪煙が上がっている。目を凝らすと、白熊型のモンスターが大量に走っており、その先には、羽の生えた人型のモンスターに抱えられたプレイヤーがいた。どうやら、多数のモンスターに囲まれ、命からがら逃げているようだった。プレイヤーの逃げ足の方が早く、徐々に白熊たちとの距離は離れているが、追いかけるのを一向にやめない。モンスタートレインがコウの方へとやってくる。このままでは、彼も巻き込まれてしまうだろう。【王の器】を使ったとしても、あの突進状態ではマンモスの鼻と同じく、吹き飛ばされる危険があった。

 だが、コウは咄嗟に別な作戦を立てる。彼は、モンスタートレインをしているプレイヤーの進行方向に進入し、止まれとばかりに腕を横に広げた。


「わわわ、ごめんなさいっ!戦闘のお邪魔してしまいました。」

「それは問題ない。悪いが、俺をあのマンモスの上に連れて行ってくれないか?そうすれば後ろのモンスターごと倒せる。」

 コウの指さす方向には、いまだ自動攻撃の戦闘を繰り広げるタマとマンモスがいた。

「えっと…、わかりました。ラファエル、【この人をあのモンスターの上へ】。すいませんが、どこかに掴まってください。」

 コウがラファエルと呼ばれたモンスターに掴まると、再びタマに【猫パンチ】を指示する。タマが構えを取り、高速の打撃を与えた。それと同時に、タマの周囲に魔方陣が発生し、その体躯を小さく変えてゆく。【猫缶】スキルの効果時間が終了したのだ。

 タマの最後の攻撃によって怯んだマンモス型モンスター。その隙をついて、ラファエルが接近し、背中にコウを降ろした。


「さて、恥ずかしいとか言ってられないよな…。【王の器】!」

 強制テイムのスキルを発動するコウ。オーラが発動し、彼の直下にいるマンモスは、支配下に置かれた。

「さぁ行くがよい、我が新たな下僕よ!【蹂躙】」

 マンモスの背から地面へとジャンプし飛び降りるコウ。タマが駆け寄ってきて、ピョンとジャンプし、コウの頭に飛び乗る。

「よく戦ってくれた。我が親愛なる相棒よ。」

 んなぁ、と答えるタマ。コウの支配を受けたマンモスは雄たけびを上げ、白熊の集団に突っ込んでいく。鼻と牙で白熊を薙ぎ払い、嚙り付かれても気にも留めず、ただひたすらに敵を倒すべく奮戦していた。


「あの…」

 コウの後ろから、先ほどのプレイヤーが声をかけてきた。振り返ってみると、純白のローブを着た女性プレイヤーがいた。年はヨミと同じくらいだろうか、金髪のセミロングとどこかふんわりとした雰囲気が、どこか聖女のような感じを醸し出していた。

「巻き込んでしまってごめんなさい。あと、助けてもらってありがとうございます。」

「気にすることはない。我も手間が省けたというものだ。…どうした?我の顔に何かついているか?」

 じぃっとコウの顔と頭上を交互に見ていた彼女に疑問をぶつけるコウ。だが、後ろから獣の雄たけびが聞こえたため、注意はそちらに向けられた。見れば、最後の白熊がマンモスに踏みつぶされ、光となって消えたところだった。勝利の雄たけびを上げるマンモス。だが、その勝者もかなり戦闘で消耗したと見え、残り1割程度となったHPゲージが、接戦であったことを物語っていた。


「後は我の為、贄となれ。【自壊】」

 右掌を前に構え、ぐっと握るコウ。すると、マンモス型モンスターは最期の雄たけびを上げながら消えていった。コウが放ったスキル【自壊】は、【王の器】で使役したモンスターが、その効果中にHPを5割以上削られた場合、強制的にHPを0にするスキルである。アイテムドロップに制限がかかるものの、使役したモンスター以外がいなくなった後に一括処理できるメリットがあった。コウが最初このスキル説明を読んだ際は残虐性を感じてしまったが、【王の器】を発動していると、特に呵責なく発動することができてしまうのだった。

スキル解説

【自壊】

・【王の器】で使役したモンスターがHP5割を効果中に削られたとき発動可能

・強制的にHPを0にする

・アイテムドロップ量が減る

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