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3話 : 猫缶

「参る!【背水の陣】!」

 ヨミが音声コマンドでスキルを発動する。ヨミがいつもコウと組む時に使うスキルだ。自分の背後にいるパーティーメンバーのヘイトを奪い、発動者の攻撃力を上げる効果を持つ。しかし、攻撃力が上がるのは、背後のプレイヤーレベルが発動者より低い場合である。これは、以前、背水の陣をパーティーメンバー全員が発動し、背中合わせで戦うことで、常に攻撃上昇のバフがかかる抜け穴が拡散されたためだ。その対策として、過去のアップデートでレベル差の条件が付与されてしまった。

 現在、コウとヨミのレベルは同じなので、攻撃上昇の効果は見込めない。だが、ヨミの目的通りコウからヘイトを奪うことには成功した。


「せぃっ、やぁっ!」

 剣を振り回し、手近なモンスターから順に切り倒していくヨミ。相棒のユニコーンも負けじと突進や踏み付けの攻撃で応戦している。


「話には聞いてたけど、ヨミがユニコーンをテイムしてからかなり強くなってるな…。」

 自身に襲い掛かる敵はいないため、コウは胡坐をかいてタマを乗せ、その艶やかな毛並みを撫でながら戦闘を見ていた。ヨミは物理攻撃と魔法攻撃を両立させており、剣で切るだけでなく、魔法を放ち、時には魔法を付与した斬撃も繰り出す。

 ユニコーンも、周囲のモンスターの攻撃を躱しながら、敵には確実にダメージを与えている。このゲームでは、使役するモンスターの行動パターンもAIによって制御される。主の攻撃パターンを解析し、必要な時と場所に対して自動攻撃が行われる。プレイヤーの役目は、一部の必殺技や・バフ・防御系のスキルを使う際に指示をする程度だ。

 そんな優秀な相棒のサポートや、高いレアリティの装備もあり、対多数の戦闘とは言え、ヨミは危なげなく敵の数を減らしていく。


「【光刃】!」

 おそらく、聖騎士のスキルだろう。光が剣を覆い、その刀身を延長する。その巨大な剣を構え、ヨミは目の前の狼型の魔物に切りかかった。HPを減らされていたところに、とどめの追撃とばかりに振りかぶられた光の剣は、確実にその魔物のHPを0にする。

「これで最後じゃっ!」

 最後の一体を倒しきったところで、ヨミのレベルも1つ上がった。減ったHPやMPをポーションで補うと、背水の陣を解除する。


「終わったのじゃ。」

「お疲れ。さて、今度は俺の番か。」

 剣を鞘に戻しながら、ヨミがコウに話しかける。コウもタマを抱き上げると、頭の上に乗せて立ち上がった。彼にとっては数ヶ月ぶりの戦闘である。新しいジョブでの戦闘ということもあり、実は少しだけ緊張していた。そんな感じを払拭するかのように、コウは伸びをして座っていた体をほぐす。頭上のタマも、コウの頭の上で前足を伸ばすような動きをしていた。


「お主、武器は装備せんのか?」

「それがさ、このジョブって武器装備不可能なんだよな。しかも例のテイムできるモンスターのコスト、たったの1。」

「えぇ…、モンスター相手に徒手挌闘戦するのかえ?」

 あまりのびっくりな情報に、一瞬素を出しかけたヨミだが、すぐにキャラを持ち直した。ちなみに、コスト1といえば、タマのような初期モンスターか低級モンスターしかいない。更に武器が装備不可能となれば、実質的な彼の攻撃力はテイマーの時を下回るのだ。だが、コウはそんなことは問題ないとでも言いたげに、新しい『寄せの香』を作り出す。


「妾の手助けは必要かの?」

「多分大丈夫だと思うが、いざという時は頼んだ。」

 いまだに心配そうなヨミがサポートを申し出る。コウは念のための保険として彼女の提案を受け入れた。そして、先ほど作った香を使用する。すると、アイテムは効果を発揮し、周囲にモンスターが現れ始めた。


「数ヶ月ぶりの戦闘だな、タマ。お前の真の力見せてやろうぜ。【猫缶】」

 隣のヨミが「は?」と言った顔をする。コウがスキルを発動したかと思えば、手にしていたのは猫の餌の缶詰。それを開封しタマに食べさせているのだから。

 缶詰の中身を食べ始めるタマ。その動作に見合わず、中身は一瞬でなくなってしまう。しかし、そんな隙を見逃すはずもなく、再び集まった狼型のモンスターはコウ達にむかって飛び込んでくる。ヨミは既に剣を構え、迎撃行動に移ろうとした。


 突然、タマを中心に魔方陣が広がる。その魔方陣は、突っ込んできた狼型の魔物を弾き飛ばす。ヨミが振り返れば、タマは発光しており、徐々にその姿を大きく変えていく。

 長く伸びる爪と牙、体格も猫のそれではなく、ヨミの相棒、ユニコーン並みの巨体となった。そして尻尾は二股に分かれており、青白い炎が先端に灯っている。

「それじゃ、頼むよ。」

 ニャァと一声なくと、タマは風のように敵モンスターの集団へと駆け出して行った。


「あれは一体全体なんなのじゃ…?」

「あれがタマの本来の姿らしい。ほら、これ。」

 自分の見ていたスキル画面をヨミに見せる。そこには『【猫缶】: 一定時間、真の姿を開放する。基礎ステータスを大幅に向上させる。各種スキルはプレイヤーの指示にてのみ行う。』と書かれていた。

 爪で薙ぎ払い、尻尾の炎を飛ばして遠距離戦と牽制を行うタマ。その攻撃力はすさまじく、先ほどまで戦っていたヨミにも見劣りしない。一連の攻撃はAIによる自動攻撃のため、コウは後ろで応援しているだけである。それでも、しっかりと経験値は入ってくるため、レベリングはうまくいっていた。


 森の木がガサガサと揺れ、体長5mはあろうかというオークが出てくる。森林フィールドの中ボスが珍しく香に誘われやってきたのだ。

「タマ、やっちゃえ!」

 コウの指示を聞いたのか、狼型のモンスターの最後の1体を吹き飛ばすと、次はオークに向かって飛び込んだ。爪を構え、オークの肩に深々と突き立てる。だが、HPはあまり減らず、逆にオークが持つこん棒が、タマを大きく吹き飛ばした。


「タマっ!」

「コウ、オークは通常の物理攻撃ではダメージがあまり通らぬ。魔法かスキルを使うのじゃ。」

 ヨミの言っていることは正しく、吹き飛ばされたタマはすぐに態勢を立て直し、尻尾からの炎をオークにバシバシ当てている。HPゲージも先ほどより減りが早かった。


「タマ、【猫パンチ】!」

 コウもタマにスキルの発動を指示する。タマもすぐに構えを取った。炎の攻撃が止み、オークはタマに突進を仕掛け、こん棒で殴りかかろうと迫る。しかし、タマの右手が目にも止まらぬ速さでオークを腹に一撃を入れた。腹の中心に肉球マークを付けたオークは、走ってきた方角へ吹き飛ばされていった。最初の衝撃で大きく削られたHPは、地面と衝突するたびに更に削られる。オークの巨体が止まるころには、その全てが削り取られ、いくつかの素材を残して消えていった。


「タマ、凄かったな!でも痛かっただろ?」

 【猫缶】スキルの効果時間が終了し、もともとの小さい体に戻るタマ。コウもタマに駆け寄ると、ポーションを取り出し、タマに飲ませた。HPが全回復すると、よしよしとばかりにタマの頭を撫でる。タマもニャァと嬉しそうになくのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ある程度のレベリングを済ませると、二人は森林の奥にあるフィールドボスの出現エリアに来ていた。ここに出てくるのはボスはワイバーンで、森林フィールドの中では比較的挑戦者が多く、攻略に有効な情報が多い。コウが装備を作るための素材が欲しいと言っていたこともあり、コウのジョブの力試しも兼ねて、この場所を訪れていた。


「ま、先ほど教えた通り、ここのボスは比較的倒しやすい部類じゃ。妾も単独討伐できておる。ただし、周囲にモンスターが多くいるから、ヘイトを集める行動は禁物じゃ。」

 ボスフィールドと通常のフィールドは地続きのため、ボスのヘイトを取った瞬間に、周囲からモンスターのヘイトも同時に取ることは、このゲームではよくあることだった。しかし、その周囲にいるモンスターが『甲虫種』であることが、攻略を難しくしていた。1体1体はそこまで強くないものの、集団で襲ってくるため、パーティーの壁役が真っ先にやられて失敗に終わるパターンが多いのだ。それゆえ、攻撃に特化したソロの方が、攻略難易度が下がるという現象が起きていた。


「わかった。周囲にモンスターがたくさんいるんだな?ちなみにコストと襲ってくる数は?」

 頭の上にタマを乗せたコウは、ヨミの情報を復唱する。しかし、なぜかボスの情報ではなく、周囲のモンスターの方を気にしているようだった。

「ん?そうじゃの、以前妾が攻略するときに調べた時はコストがないから確定ではないが、おそらく1か2というところかの。数は50匹程度とされておる。倒しても次から次へと新しく出現する。とのことじゃ。」

「なるほど。それなら都合がいいかな。」

 何が都合がいいのじゃ?とヨミは聞くが、コウはまぁ見てろと言って、ボスエリアへと単独で入っていった。


「これがワイバーンか…」

 『竜種』の一体であるワイバーンは、いまだテイムできないモンスターの1つだ。今のところ、中ボスより格上のモンスターを使役することはできないが、それを望むプレイヤーは多かった。


「さて、使ってみるか。【王の器】」

 コウがスキルを発動すると、彼の中に沸々と高揚感が湧き上がってくる。目の前のボスに感じていた威圧のような感覚さえ、これからの戦闘を盛り上げる要素の1つに感じてしまう。仮想現実の体に、アドレナリンが駆けめぐるような感覚を味わいながら、コウは高らかに宣言した。


「さぁて、トカゲ野郎。我が贄となるがいい。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「なんじゃ…、あれは???」

 ボスの前に立つ弟の雰囲気が一気に変わったことに、驚きを隠せないヨミ。ボスエリアの端っこから彼の戦闘を見学していたが、【王の器】というスキルを使った瞬間、彼の周りにオーラのようなエフェクトが現れた。しかもその口から発せられる言葉は、いつもの口調や言動とは異なる。


「ん、むぅ…。【魔物ノ王】というくらいじゃから、妾と同じくロールプレイの役作りかの?それはそれで面白いのじゃが…」

 そんなことを考えていると、コウはアイテムを取り出していた。ヨミはそれを見て驚く。それは、先ほどのレベリングで使っていた『寄せの香』に間違いなかった。ヘイトスキルとは違うが、モンスターを呼び寄せる効果は変わらない。ただの自殺行為にしか見えなかった。


「さぁ集まりやがれ、我が下僕たちよ!」

 コウがアイテムを使用する。香の効果が発動し、周囲の木々がざわめく。次の瞬間、大量の『甲虫種』が飛び出し、コウ目掛けて飛んできた。これでは、ボスにダメージを与える間もなく虫にやられてしまう。一方のワイバーンも、甲虫種などお構いなしに、口に炎を溢れさせ、火球で攻撃する準備をしていた。

 ワイバーンの攻撃が放たれる直前、甲虫種はコウが纏うオーラに直撃した。すると、あれだけ攻撃の意思表示をしていた甲虫種たちは、揃って動きを止め、その場に滞空する。


「我を守れ。」

 ワイバーンの火球をじっと見つめたまま、コウは呟く。すると、滞空していた甲虫種のモンスターは、コウの前に盾となるように整列した。

 ぶつかる火球と虫。さすがは竜種の攻撃だけあり、甲虫種は一瞬のうちにHPを失い、燃え尽きた。しかし、香につられて飛んできた虫たちが、次々と盾を形成し、火球からコウを守ろうとする。

 数秒の間、虫と火球のせめぎあいが続いていたが、やがて火球は威力を失い消滅した。


「さぁ我が下僕たちよ、反撃の時間だ!」

 高らかにコウが宣言すると、生き残った甲虫種、新たに追加された甲虫種がまるで軍隊のごとく整列した。その様子を見やり、コウは右手を前に突き出し、静かに呟いた。


「蹂躙」

1話の冒頭に続きます。


スキル補足

【背水の陣】

・テイマーの支援系スキル

・発動者の背後のプレイヤーへのヘイトを奪うスキル

・背後のプレイヤーレベルが低い場合のみ、発動者の攻撃力上昇


【光刃】

・聖騎士の攻撃スキル

・通常攻撃力の範囲と威力が上昇


【猫缶】

・魔物ノ王の支援スキル

・一定時間、初期モンスターの強化を行う

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