音楽の雑談
余りにもニッチな内容故に短編として投稿しなかったエッセイです。
皆様は流行、トレンドについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか。
流行の最先端に対していつもアンテナを張っている方もいれば、全く関心が無い方もいるでしょう。
私はと言えばたぶん真ん中。
積極的に追いかけたりしませんが、どこからか流れてきて耳に入ったトレンドに関しては一応確認してみます。自分に合っていれば追いかけるし、興味が無かったら知らん顔。多くの方がそうではないでしょうか。
これは、私たちがトレンドの消費者であるからこそのスタンス。
しかし、この流れを作ったり乗ったりした人は、必死に追いかけるのではないでしょうか。なぜならそこに大きなビジネスチャンスがあるからです。
音楽業界はまさにそのトレンドを作ったり乗ったりすることが求められるマーケットだと思います。
それ自体はビジネスとして全うで健全な事なのですが、弊害として同じようなアーティストや曲が氾濫することになったりします。そのトレンドが好きな消費者にとっては極楽。そうでもない人にとっては煉獄。
これは、良い悪いの話しではなく、マーケットとしてこれが健全な証だと考えます。
この、トレンドを作った者は、先頭を走ることにより大きな名誉と利益を得ることができます。それに続く二番手の者にもおこぼれがあります。
先行者が創った需要によりマーケットが形成されているので、ビジネスチャンスが沢山転がっています。それをせっせと拾い集めればよいのです。金貨は落ちていませんが銀貨は何枚か手に入れられるでしょう。
金貨が名誉と多くの報酬なら、銀貨はそこそこの知名度と報酬でしょうか。
多かれ少なかれ、どこの業界も同じでしょう。
ホンダがミニバンをヒットさせれば各社、右に倣えでミニバンの開発をしたのと同じです。
小説家になろうにおいて、先行し成功した小説と似たような話や設定が氾濫するのも納得です。
需要があるから供給がある。
さて、正常な皆様におかれましては、流行に乗った者はビジネス的に成功し、乗り損ねたり、見向きもしなかった者は、その後塵を拝することになると、容易に理解できると思います。
ですが、流行に乗ったにもかかわらず、自分で降りる人がいることをどう思われるでしょうか。
転げ落ちたのではありません。
流行に乗りました。本人も自覚あります。皆さまならどうしますか。続けようと思われませんか。少なくともその努力をすると思います。ですが、世の中にはそれをあえてしていないように見える人物もおられるのです。
流行の先頭に立ちながら、そのポジションに何の未練も無いように活動されているアーティスト。
今回はそんなお話。
さて、前置きが長くなり過ぎましたが、皆さまは『KAN』というシンガーソングライターをご存じてしょうか。
1980年代からか活動を始め、2020年現在も活動をしている人物なのですが、お若い方の99%の方がご存じないのではないのかな。
ピアノを弾きながらラブソングを歌うと言う、言ってみればなんてことのないプレースタイルで、大ヒットしたと言える曲は僅かに一曲だけ。世間一般で言えば『一発屋』と呼ばれても仕方のないキャリアの歌手です。
私はこの方のファンの一翼を、もう何年も務めております。
この、KANがヒットさせたのが1990年に発表した「愛は勝つ」というラブソングです。
累計200万枚のCDを販売し、その年のレコード大賞を受賞するほどのヒットをしました。
CDの売れない今では大して価値のないかもしれないレコード大賞も、この頃はCD販売の黄金時代。今よりも権威のある賞でした。言ってしまえば1990年最高のJポップだったのです。
この曲の内容に関して多くを述べるつもりはありません。
恥ずかしながら、私はこの曲を最初に聞いたのは、音楽の授業です。
今を思うと不思議ですが、何故か私の音楽の授業で歌う曲は、ほぼJポップだったのです。音楽の教科書に載っている曲を歌った記憶が無い。
先生の趣味なのか文部省の方針だったのかは知りませんが、そこで初めて私は「愛は勝つ」を聞きました。
まさに衝撃的の一言。
原曲もそうなのですが、先生がグランドピアノでこの曲のイントロを弾いたと、全身に電流が走ったことを今でも覚えています。
それは、私だけではないからこその200万枚だったのでしょう。当然我が家にもCDがありました。
私はすっかり、KANのファンになり友人からアルバムを譲ってもらい、一度は遠くの親戚の家に遊びに行く車内でおよそ6時間以上にわたって、一枚のアルバムを延々とリピートしていました。
家族にはいい迷惑だったでしょう。
そして、ある時気が付いたのです。
「あれ、愛は勝つみたいな曲が一曲も無い」と。
一枚しかアルバムを持っていなかった頃は、気にも留めていませんでしたが、二枚三枚と増えていくにつれて、嫌でも気が付きますよね。
「愛は勝つ」以前に似たような曲が無くても不思議ではありませんが、大ヒットした後に、なぜ同じような曲が無いのでしょう。
本人に能力が無いから。あり得ますね。ただのまぐれ当たりの一発。どうして出来たのか自分でも分からない。そんなこともあるでしょう。
ただ、その場合は、世間に受け入れられなかったとしても、何かしら似たような曲が存在するはずです。しかし、それが無い。本当に一曲も無いのです。
これは、わざと作っていないような気がしてきました。
KANはどうして需要があるのに供給しなかったのか、そのことは本人にしかわかりませんが、一ファンの考察としては、ただ一つ。
「必要ないから」
この一言に尽きると思います。
何と申しますか、必要ないのですよ。「愛は勝つ」の二番煎じなぞ。
それほどまでに他の曲が素晴らしい。
丁寧に作った曲もあれば、酒飲んだ勢いで作ったような曲まで色々ですが、どれも、噛み応えのある良い曲たちなのです。
同じようにピアノの弾き語りを得意とするビリー・ジョエルの影響を強く受けていますが、その音色は別物。これが、真のカバーだと言えると感じます。
KANに比べれば他のアーティストが行っているのはカバーではなくコピー。それも大体、劣化している。何か一つでもいいからオリジナルに勝てよ。全部負けてんならオリジナルだけでいいでしょ。若さや、顔や、ダンスで誤魔化すな。楽曲で勝負してこい。こちとら、年の割にラジオっ子だったから姿なんぞ見えねぇし、見る気もないんだよ。(*´Д`)ハアハア。
すみません。話がそれました。
あれ、何の話してましたっけ。
そうそう、恐らくですが、意図的に同じ曲を作られていないのだと思います。
これは、ご自分の自信と誇りによるところもあるとは思いますが、それ以上に、ファンを信用なさっているのではないかと感じます。
「大衆に迎合しなくても分かってくれる人はいる。それを大事にしよう」
そう、考えておられるなら、「愛は勝つ」二番煎じが無いのも納得できます。
事実。KANのファンというのは数こそ少ないものの鉄の結束を誇っております。新規はほとんどいませんが古参は死亡でもしない限り減りません。
そうでなければ、21世紀に入ってまでアーティストとして活動できるわけがありません。聞いてくれる人あっての歌手なのですから。
当時、彼よりヒット曲を連発し華やかな活躍をしたアーティストは沢山いましたが、多くは風の前の塵に同じになりました。
しかし、彼は生き残っている。
多くの人が「誰?」「KAN? 知らない子ですね」「ああ、愛は勝つの人ね」という中、我らKANファンは「わかってねぇな」と、意味不明なほどに無駄な優越感を持って応援しております。
私は、音楽がそこそこ好きなので、いろいろなアーテイストのファンをしておりますが、ファンだと言うことに誇りを持っているのはKAN、唯一人だけです。
時流乗りながら流されず、自分を貫き通す姿に、真のロックンロールを感じるからであります。
時流に乗れずに自分を貫き通す人とは格が違います。ちょっと真似できない生き方ですね。
ここまで一ファンの勝手な妄想と願望でありましたが、私はかっこいいなと思っております。
見た目じゃない、立場じゃない、生き様なんだよ。
小説家になろうにもこんな人が現れたらいいのにな。
ご清聴ありがとうございました。
余談ですが、女性シンガーのAikoはKANのファンなのですが、それを強く印象付けるエピソードを一つ。
あるラジオ番組に出演していた時、話が好きなアーテイストは誰かとなりました。
AikoがKANだと答えるとDJさんが「ああ、愛は勝つの」と答えました。
その時、それまで滔々と話していたAikoが0.5秒だけ黙りました。ほんのわずかな沈黙でしたが、我々KANファンにはわかったのです。
彼女の言葉を代弁いたしましょう。
「こいつ、何にもわかってねぇな」
私は、彼女が間違いなくKANのファンであることを確信いたしました。
だって、私が同じ質問をされたら同じ反応を返すでしょうから。
「愛は勝つなんてな。KANの数ある名曲の中のたった一つにしか過ぎないんだよ。そんなことも知らないで、何が愛は勝つだよ。顔洗ってこい」
ここまで、思って真のKANファンだと勝手に思っている次第でございます。
終わり
ここまでKANを褒めてきましたが、皆様にKANの曲を聞いてくれとは申しません。ただ、どんな曲か一例を挙げさせてください。
デビュー当時、Mr.Childrenの桜井君は敏腕プロデューサ小林武史に言われます。
「優しいだけのつまんねぇ歌うたってんじゃねぇ」
桜井君は知る人ぞ知る熱烈なKANのファン。勝手な想像ですが、これはKANの事だと思われます。
この一言が無ければ彼は第二のKANだったかもしれません。
そして、どちらがヒットしたかは言うまでもありません。
私はこのエピソードを苦笑いと共に納得してしまった。




