ファッションヤンキー、知り合いの知り合いに戦慄する
おはよう世界ということでログインしましたよ。
昨日は散々だったなぁ……大蜘蛛倒したら助けたはずの龍に勘違いされてキルされちゃうし、そのおかげで大蜘蛛からのドロップアイテム取得できなかったし。
不幸中の幸いとしては、経験値はそのまま入ってくれたことかな。ただレベルが上がってもあの龍、トルネイアとはデスペナルティかからない程に差があるんだけどね。
さて、その際に手に入ったスキルなんだけど思いっ切り名前そのまんまだったよ。"轢き上手"は、騎乗時の突進ダメージ増加。"蜘蛛キラー"は蜘蛛系モンスターへのダメージ増加。蜘蛛限定じゃなくて虫系だったらなぁ……蟻系モンスター倒したら蟻キラーとかつくのかしら。もはや殺虫剤だね。
「今日はどうするかのぉ」
「あら?オウカじゃない」
おん?私を呼ぶ声……その声の聞こえた方へ視線を向けると大槌を肩に担いだパックンさんがいた。凄い……ドワーフだからこれが普通なんだろうけど武器と体のアンバランスさが凄すぎる……そういやパックンさんが武器持ってるの初めて見たなぁ。売ってるのはよく見るけど。
「おう、パックン。ドヴァータウンで会うのは初めてじゃのぉ」
「商売するのは基本ウーノだからね。かと言ってレベル上げをウーノ周辺で出来るかってなると出来ないからこうして別の街に行ったりしてるのよ。これでもアンタよりも強いのよ?」
ヤンキーとしては一回り小さな女の子に「自分よりもお前は弱い」と言われると否定したくもなるんだけど……反論してもそれはそれで恥ずかしいので受け入れよう。
っとそうだ。私よりも強いパックンさんならばトルネイアの事を何か知っているんじゃないかな。
「龍?アンタも会ったの?」
「へ?『も』って?」
「いやね、一昨日ムラムラマッサンからメッセージが来たのよ。ほら、『火竜サラマーダに会えた』だなんてね。」
そう言ってパックンさんはメッセージウィンドウを表示させ、私に見せてくれる。しかし、まーたあなたですか、ムラムラマッサン。私あなたと一度も会ったことないんですけど色々と私の何歩も先にいますよね?ムラカゲ然り龍然りさぁ!あ、よく見ると火『竜』なのね。火『龍』じゃないのね。
あ、画像もあるんですね。ホントだ、赤い鱗を纏ったトカゲ型のドラゴンがピースして写ってる。ポーズもそうだけど穏やかな表情から見るに友好そうだよね。私の出会った蛇型ドラゴンのトルネイアは問答無用で水浴びせてやがりましたよ?
「ってかこの撮っとる場所どこなん?明らかに溶岩とか写っとるんじゃけど」
「ギラディア火山ってとこらしいわ。私もついていくのはちょっと厳しいところね」
ちょっとなんですね、パックンさん。その発言だけであなたの実力の高さを窺えるってもんですよ。
「で、アンタは水龍ね。意外と運いいんじゃない?ドラゴンってこの世界だと珍しい存在に当たるらしいわよ。場所によっては信仰されたりね。」
「そんなモンスターが大蜘蛛につかまるんか?」
「蜘蛛?何よそれ、聞かせなさいよ。」
聞かせなさいよと言われたので昨日の洞窟での出来事を教えてあげることに。勿論、トルネイアがぐるぐるされたこともね。
「アンタの言うことだから嘘じゃないんだろうけど、信じがたい状況ね。」
証拠画像も無いのに信用してくれるなんてあたしゃ嬉しいよ。ってのは置いておいて、パックンさんの見解はこうだ。
マザーファンキースパイダーはパックンさん自身も討伐したことはあったが、その時にはトルネイアはいなかったし、いるという話は聞いたことも無かった。冒険者ギルドの職員も私の証言を笑って流していたから本来だったらいないんだろう。
次にマザーファンキースパイダーに龍の動きを封じられることのできる力は無いはずだということだ。パックンさんはAFWを進めていく上でドラゴンの情報を得ているらしいけど、そこらのボスモンスターでは足元にも及ばない程強大な力を秘めているらしい。よくよく考えれば龍をぐるぐる巻きにできるほど強靭な糸を不動噛行であっさり斬れるかってなったら難しいかもしれない。じゃあ何でぐるぐる巻きにできたかとなると――
「だれかがトルネイアの動きを封じた?」
「そうなるわよね。住人かプレイヤーかは分からないけど。」
「えぇ……?でもメリットとかあるん?」
「あるわよ、龍の素材とか。マザーファンキースパイダーってその水龍を吸っていたんでしょう?強化させようって腹だったのかも。」
チューチューしてたけど言うほど強くは無かったよね。物理攻撃も弾き返せるほどだったし。まだ吸い始めて間もない頃だったのかな。
だとすると、少しきな臭い話になっちゃうよね。それはパックンさんも感じたようで
「面白そうね、私こういう陰謀的なの調べるの好きなのよね。任せてもらってもいい?」
「お?おお。でも当てがあるんか?」
「さっき見せたじゃない。大きな当て。」
大きな当て……さっき見せた……ああ
「火竜サラマーダか。会うんか?」
「直接は無理よ。ムラムラマッサンに頼むのよ、メッセージ見る限りサラマーダと友達になったみたいだから。」
「本当に何者なん、ムラムラマッサンって……」
「あいつ、良くも悪くも目を離したら何しでかすかわかんないのよねーフレンドしててたまに疲れるのよ。」
パックンさんは遠い目をしてフッと薄く笑う。その表情だけでどれだけ苦労しているのかよく分かると言うものだ。そんな彼女に私の掛けられる言葉はただ1つだけだ。
「大変じゃのぉ」
「言っとくけどアンタも負けず劣らずよ?ゴーレムの件とか!」
そんな事言われても。




