ファッションヤンキー、プチプチする
どうやら私の考えは正しかったようで、大蜘蛛がいくら糸を出す動きをしてもちょろっとした……もはや糸とは呼べない糸しか出せなくなっていた。糸が出せないとなれば奴は前脚での攻撃しかなくなる。そうなれば私の攻撃も届くと言うものだ。……投擲してもいいけど犀繰の燃料で投げる物少なくなってるからね。可能であれば節約したいんだよね。
「じゃあ蜘蛛よぉ、そろそろこっち来んさいや。殴り合おうや?」
離れた場所でわなわなと震える大蜘蛛にニッコリと笑いかける。なお、私の言うニッコリ笑顔は美影曰くオリジナル笑顔らしい。勿論その後小突きましたが。
しっかし大蜘蛛震えるだけで動かないなぁ。私の挑発にも乗っかってくれないし……ってところで私はある事に気付いた。いつの間にか大蜘蛛の胴体におびただしい数の何か丸い物が付着していることに。じぃっとそれをよく見るとそれ自身も細かく振るえているような……?あ、ひび入った。あ、出てきた……子蜘蛛が……大量にいいい!?
「うっわ、きもい!」
いくら蜘蛛が平気だとは言え、それはあくまでも単体+人と比べて小さいからでの話であってね?生憎女の子のように「きゃああ~」とはならないけどそれでも嫌悪感は覚えちゃうのよね。そっかぁ、大蜘蛛お前メスだったのかぁ……でも産まれたばかりの子供に戦わせるってどうなのよ。モンスターだからそういうの無いか。
子蜘蛛は統率の採れた動きで大蜘蛛の足元に集まったかと思うと、まるで軍隊のように私に向けて全速前進しだした。調べてみると"ベビーファンキースパイダー"との表記。ベビーが付いている以上、道中のファンキースパイダーよりかは弱いよね。なら1体1体のダメージは低かろうけど――1×100以上のダメージを受け続けるのはごめん被るよ!?んでもってベビーを仕掛けた以上、タイマンではなくなった!ということで
「犀繰、来んさい!」
『了解だ、姉貴』
私の声に応じ、後方にて待機していた犀繰はバイク形態となり発進し、すぐさま私の横へと停車した。本当は停車させずこう、横切るバイクのハンドル掴んで颯爽と乗り込みたいんだけど今そんな思いつきなことをしたら失敗するのが関の山だ。大人しく安全に乗りまーす。
さて、潰そう。古来より小さい虫は潰すに限ると言うてな……?
「突っ込めぇ!!」
『ウス』
荒々しいエンジン音を立て、発進させベビーファンキースパイダーの大群へと突っ込む。犀繰はそもそもゴツイのでそれに合わせてタイヤも相応にゴツイ。大蜘蛛はそもそもの体躯が違うので無理だが――ベビー程であればひき潰すのも容易い!……血のエフェクト無くて良かったぁ。犀繰に返り血付けたくないからね。
何匹かは轢かれまいと跳んで回避しようとしたり攻撃を仕掛けたりしているが、残念君たちの跳躍力では私に届かないのだよ。タイヤには潰されないけど犀繰のボディに跳ね飛ばされてくれ。
にしてもこれ正しい攻略法なのだろうか。そもそも自由度の高いAFWなのだから正しいも何もないのかもしれないけど。ま、いいか!別にチート使ってるわけじゃないしね。
「オラオラオラ!逃げんなやぁ!」
『姉貴、悪党のようだ』
「……ヤンキーっておおよそ95%くらい悪党じゃけぇのぉ……」
私のはあくまでフィクションに出てくるような善良ヤンキーだからね!5%の方だからね!
っと、まだ敵陣の真っただ中なんだから気を抜いてちゃダメだよね。ってか大蜘蛛は子供たちに仕掛けさせておいてプルプル震えたまま何もしないのね。その方がありがたいけど。
ただその休息はそう長くは続かないよ?だってもう……そろそろ終わるし。
『姉貴、残り20……いや、5匹だ』
「おう、潰したれ」
『ウス』
子蜘蛛の処理は恙なく終わった。犀繰のお陰で全くの無傷で切り抜けることが出来た。逆に言うと犀繰がいなかったら……恐ろしや。
さてと、大蜘蛛はっと……んん?子供全滅されたってのにアイツ動こうとしないね?それどころか体勢を崩している。逃げようとは思わないのかな?
『姉貴、奴は弱っている。』
「えぇ?じゃけど俺大した攻撃しとらんけど?」
不意打ちの堅泥団子投擲と大蜘蛛の前脚振り下ろし攻撃に対して対抗した一撃しかやってないよね?
『ダメージではなく、疲労だ。糸を出し尽くした上に無理に子を作ったからだ。』
あぁあの出産、代償ありきのものだったのね。ってかそういう体力の減り方もあるんだなぁ。うーん、正直消化不良なところはあるけれど……ま、こんなこともあるよね。
犀繰から降り、大蜘蛛へ近づく。やはり奴は逃げようとはしない。その代わりに震える足で踏ん張り、体勢を取り直した。最後の一撃を繰り出すためだろう。
「面白いのぉ。やってみぃ。」
ぶっちゃけ、奴を待たずに顔に不動噛行をぶちかますのは簡単だ。でも、それはしてはいけない気がした。
大蜘蛛は初撃同様前脚を……いや、今度は両前脚か。じゃあ私も拳じゃなくて不動噛行で応じよう。
「キシァ!!」
「オラアアア!!!」
黒い木刀と鎌のような2つの前脚が交差する。鉄拳でのぶつかり合いは引き分けだったが、今回は――ガラスが割れるような音を立て、大蜘蛛の前脚が砕け、その勢いのまま不動噛行が大蜘蛛の顔を貫いた。
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「――れ、おのれ――たる我を――のような――さぬ――ぬぞ!蜘蛛よ、――よ!!!」




