ファッションヤンキー、再び破りに行く
ムラカゲ……忘れようもないその名前。いや、割とさっきまで忘れてました。だってプレゼントボックスイベントにワールドクエストとか、ここ最近忙しかったから普通に忘れてました。
でも苦い思い出があるってのは間違いない。まず特に何もできずに敗北したこと。一発は踏ん張り所で耐えることが出来たけれど、追撃されて敢え無く敗北。そしてウーノの街に強制送還され、面倒なことになった。後者は完全に私のミスなんだけれども。
しかし、今回の私は一味違う。あの時には無かった不動噛行や新しいスキル!これさえあれば絶対に勝てる――とまでは言わないけど食らいつけるだろう。……まぁ踏ん張り所弱体化はきつい事ではあるけれども。
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という訳でやってきました、バディウス流剣術道場。そう言えばバディウスって人よく知らないな。ここではムラカゲが師範って言ったけど、ムラカゲはあくまでバディウス流剣術道場のドヴァータウン支部の師範ってことなのかな?実はムラカゲがバディウスでしたーってオチは無さそうだし。勝てたら聞いてみるかな?
"特殊クエスト 道場破りが発生しました。受注しますか?"
おっ、ちゃんと特殊クエストのウィンドウが出てきたね。安心した……これで一回こっきりのクエストだったら意気込んできたのが恥ずかしくなるところだった。もちろん受注だよ、ここにきて引き下がれるかってんだ。
"受注を確認。バディウス道場に足を踏み入れた瞬間にクエストが始動致します。"
ということで道場に足を踏み入れよう。と、引き戸に手を掛けたところで私はある事を思いつく。先程手に入れたスキル……破壊道。生物以外の物体を破壊しやすくなるだったよね?であればよ。こんな扉も容易く蹴破れるってことだよねぇ!?なんてヤンキーっぽい!開けようとした手を引っ込めて無造作に蹴る!
私の放った蹴りは扉を容易く打ち破られ、残骸が道場内へと飛び散る。おおぅ、思った以上に簡単に壊せちゃったよ……そして中は騒然としている。当たり前か。いきなり扉ぶち破られたんだもん。平常心である方がおかしい。だから平然と正座しているムラカゲはやっぱりおかしいんだよ。
「ほう?いつか見た顔だな。」
「よう、ムラカゲさんよぉ。久しぶりじゃのぉ。看板くれや」
「やれやれ、またそれか……だが、以前とはまるで違うな。死線でも超えて力を付けたか?」
死線?いや、そもそも私アンタにキルされてるんだけど。死線の先行っちゃってるんですけど。
でもあの時よりも強くなっているというのは察されたみたいだ。フンッ……ちょっと嬉しい。
「ま、最近でっかいサイを相手取ったけぇのぉ。腕っぷしは強くなったかもしれんのぉ。」
「そうか、お前もあの戦場にいたのか。……ならば礼を言わねばならぬな。この街を救ってくれて感謝する。」
何でこの人、道場破りしてきた人に頭下げてんの?確かにワールドクエストでこことウーノの街は救ったけれどもよ。私、あなたから見て敵なはずだよ?何?敵として認識されてない的な?感謝されて悪い気はしないけれども!
「やめんさいや、こっちはヤンキーじゃ。感謝される謂れはないわ。……そもそも、お前が出ればよかったんじゃないんか?」
「そうもいかんのだ。……さて、この話はここまで。ではこの道場を荒らしに来たならず者でも退治しようか。」
少しだけ上がっていた口角を下げ、ムラカゲは正座を解き、立ち上がった。やっぱり竹刀は持たないか。まずは竹刀を持たせてみろってことかな?挑発的だなぁ。乗ってやるけれど!
私は木刀――不動噛行ではなく、初期から持っていた木刀を手に駆け出す……前にゴブリン棍棒投擲!そうだよあの時の再現だよ!
案の定と言いますか、棍棒は片手で払われる。まぁ、ここは予想してた。そんでもって威圧眼!前回は硬直しなかったみたいだけど今回は……っ!?
「ぬっ?」
私の目を直に見たムラカゲはまるで金縛りにあったかのように筋肉を硬直させた。よし、通った!
今度こそ、その禿げあがった脳天に木刀の一撃を――!
「なるほど、凄味は増した。だが、儂を抑えるにはまだ可愛い。」
木刀はムラカゲの左腕に阻まれてしまった。それでも痛いはずなのに、奴は涼しい表情のままだ。そして私は気づく。ムラカゲの右腕が少し下がっていることに。これはこれまた前回同様に!
「"掌打"。」
腹部に強い衝撃が走る。これは、私の命を刈り取ってくれやがったムラカゲのスキル!あの時はそもそもHPが僅かだったからダメージ量分からなかったけど、相当な威力だったはず。それを私は――
「おう、アンタのその技……そんなに軽かったかぃのぉ?」
「ほう?」
そのままお腹で受け止めてやりましたとも。そして余裕で耐えきってやりましたとも!いや、ダメージはそれなりにあるけどHPはまだ半分以上はある。ムラカゲも少しばかり目を見開いて驚いてくれている。そうだ!その顔が見たかった!
勿論攻撃を食らって終わりではない。私は腹に打ち込まれたままのその腕をがっしりと掴む。ふふふ、逃がさんよ!今度こそ脳天に一撃を喰らえってのはフェイントでガラ空きのお腹に喧嘩キックじゃい!頭を狙ってくると読んでいたんだろう、左腕を頭上に構えていたムラカゲのお腹にクリーンヒットした。
……あのさ、こういう攻撃したら吹っ飛ぶはずじゃん?もしくは苦悶の表情浮かべるはずじゃん?
「なるほど。少しはやるようになったな?」
平然とし過ぎでは?




