ファッションヤンキー、役割を遂行する
「初撃は俺とオウカで食い止める!テメェらは後から抑えに掛かれ!」
「「「「了解!」です!」ッス!」よ!」
私と鉄心を残して、フルアーマーズは後退する。どうしても後退しちゃうからね、最初から下がっていてくれた方が都合は良いだろう。
そうこうしているうちに、サイ型ゴーレムが地面を鳴らしながらやってきた。3度目とはいえ、中々に来るものがあるなぁ。緊張を和らげるために、ゲーム的にあまり意味がないのかもしれない伸びをする。隣を見ると、鉄心も鉄心でストレッチをしている。
「どうなら。巨大な物体が迫ってくる様子は。」
「怖ぇな。リアルだったら絶対逃げ出してるぜ?」
「俺もじゃのお。」
2人で軽口をたたき、顔を見合わせ笑い合う。……何だこの戦場に赴く戦士感。別に私たちこれから死にに行くわけじゃないんだけどな。
あ、ゴーレム来たわ。腰を落として不動噛行を構えて――衝撃に備える!
「ぃよし!"アンカー"!」
おっ、私の横に並び立った鉄心が事前に言っていたスキルを発動させたね。見た目的に変化はないけれど、スキル名を言った瞬間、彼の足元から地響きのような音が聞こえた。
これでお互いがゴーレムを迎える準備万端となり、ぶつかり合う。
「ぬおおおおおおっ!?こいつはやべぇな!今までに味わったことの無い衝撃だぁ!」
「気張りんさいよぉ!」
鉄心はこう言っているが、これまで2回ぶつかり合った私からしたら今までと全然違う。衝撃が軽減されてるよこれ!押されて後退しているのは変わらないんだけど、そのスピードも落ちている気がする。
「テメェら出番だ!」
「「「「押忍!」」」」
おおっ鉄心の号令でフルアーマーズが……いや、私今ゴーレム抑えてるから見えないんだけど。それでも何かしらやってくれたのか突進の威力は段々と抑えられ、遂には――前に進もうとしていたサイ型ゴーレムの動きが止まった。
「止まったぞぉぉぉぉぉ!!」
「攻撃班ぶち込めええええええええ!!」
周囲から歓声が響き、それに合わせてゴーレムの体の方から爆発音だったり斬撃のような音が聞こえる。私達?いや、止まってはいるけど、こいつ今にも動こうとしてるんだよ?私らの誰かが気を抜いた瞬間走り出すことでしょう。だから攻撃には回れないんだよね。うん、地味。
「おい!サイから何か出たぞ!?」
「待ってあれドローンでは?……アカン、格好の的が足元にいっぱいいるじゃねぇか!」
「遠距離組はあれ落とせー!」
周りの声から察するにドローン……所謂小型の飛行ゴーレムがサイ型ゴーレムの体から現れて動きを阻害している私達を攻撃しようとしているって感じ?この世界のゴーレム近代的では?
あ、何か肩に当たった。見る余裕ないから分からないけどHPは減っているから攻撃は受けているんだろう。そしてその原因が、例のドローンゴーレムね。
「鉄心!何か飛んできてるけど耐えられるんか!?」
「もう数発は喰らってるが、今のところは大丈夫だ!」
「すんません鉄心さん!アンタらよくても俺達はヤバいんですぅ!?」
「誰か回復しちぇー!」
「回復班行きまーす!」
回復できる人いたんだ!今までポーションでの回復しかしたことないし見たことなかったからもしかしたら回復魔法とかそういう存在ないのかと思ったけどいるんだなぁ……はい、また攻撃食らいました。ドローンゴーレムの攻撃自体はあまり衝撃がないのは救いだね。
「うぉっ!?ドローンどんどん墜ちてってる!?」
「たーまやー」
「冗談言ってる場合じゃないから働いて?」
「今のうちだ、攻めろ!」
その後も幾度となくドローンからの攻撃を受け、フルアーマーズのうちの1人が戦闘不能になった時もあった。しかし、瞬時に攻撃班の中から比較的防御型のプレイヤーが代わりにゴーレムを抑え込んでくれた。
そして――
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ついに今まで一切の声を発さずに黙々と突進を繰り出していたサイ型ゴーレムが悲鳴のような雄叫びを上げた。声帯がどこにあるのかとかはツッコんじゃいけない。
そこで私達が必死になって抑え込んでいたサイ型ゴーレムの突進の力が、糸が切れたように消え去った。
「終わったんか……?」
「みてぇだなぁ……だがオウカよ。」
「あん?」
「何かよぉ、フラストレーション貯まってねぇか?」
鉄心の言葉を察した私は口角を上げる。何か周りから「ヒッ」って聞こえる気がするんだけど気のせいだよね。気のせいだよね、そこのフルアーマー?
「そうじゃのぉ、こいつが現れてから攻撃らしい攻撃できんかったけぇのぉ。」
「奴さんは虫の息だ。俺らが我慢する必要はねぇってことだ。」
「一丁やるかぁ?」
笑い合い、私は不動噛行を、鉄心は大盾を構え――
「どぉらぁっ!!」
「"シールドバッシュ"!!」
黒木刀の横薙ぎがサイ型ゴーレムの角を折り、大盾が正面からサイの顔を容易くつぶした。
角を折られ、顔面をつぶされたサイ型ゴーレムは、一切声を上げることが出来ず――まるで積み木のように数多のブロックとなって崩れ去った。




