ファッションヤンキー、人の開封を見守る
"シザースバサミ 6/6"依頼達成しました。冒険ギルドにて達成報告を行ってください。"
突然姿を消すぱっと見冴えなさそうなおじさん、玄道さんとの変な出会いはあったものの、順調にシザースクラブと遭遇した私はそのドロップアイテムであるシザースバサミを回収。無事依頼達成に必要な数を集めることが出来た。
ちなみに道中ただのゴブリンだったり今さっき戦ったシザースクラブがプレゼントボックスを持っていたのだが、持っていた奴が奴なのでスルー。強い人だったらゴブリンチーフでさえスルー対象なのかもしれないけど。
さて、依頼報告のためにドヴァータウンの冒険ギルドに戻っているんだけれど、本当に街中にもプレゼントボックスが配置されていた。
屋根の上にあれば……無断で屋根の上にあがったプレイヤーが住民に怒られていた。他には屋台でプレゼントボックス売ってるってのもあった。100000Gって値段には思わず二度見しちゃったけどね。中身が判明してない物なのに100000Gって買う人いるの?少なくとも私は無理だね。お財布の中身的な意味でもね、少しは貯まったんだけど。
「あっれー?オウカじゃーん!」
「お?シャドルおったんか。」
ケモ耳ぴこぴこ尻尾ぶんぶんさせてついでに手もぶんぶん振るってシャドルがやってきた。冒険ギルドが一気にざわめき始めた気がするけど、たぶん気のせいじゃないなこれ。シャドルは第一線級だもんね。
「そっか、オウカもドヴァータウンに来れるように……って順当にレベル上げれば普通に来れるから感動することでもないか。」
「ちょっとは友人のレベルアップを喜びんさいや。」
「じゃあバトる?」
「それはアカン。」
喜んで?→じゃあ殴り合おう!ってどうしてそうなるんじゃい!確かにここに来るまで強くはなったしスキルも習得してきたけど、そのどれを使ってもシャドルに勝てるイメージが湧かない。ただでさえシャドル強いんだし1回戦った経験から私の戦法を真っ向から攻略しそうなんだよなぁ……だから今はダメ。決定的に強くなれたと思ったらその時に。
「で?シャドルはどうしたんなら。」
「ドヴァータウンにプレゼントボックスが高額な値段で売られてるって聞いて来た!買ってきた!」
「うん?買った?」
「買った!ほら!」
聞き間違えかと思いたかったけど、聞き間違えなんかじゃなかった。シャドルがインベントリから取り出したそれは私が道中に屋台で見たプレゼントボックスそのままだった。ご丁寧に100000Gと書かれた値札までついて。
シャドルもとい美影はガチャだったり、くじが好きなのは知っていたけどまさかそこまでとは。リアルマネーでの支払いじゃなくてよかったよ本当に。100000GをPONと払えるのはそれこそ第一線で稼いでいるからこそ出来ることなんだろうね。羨ましい限りだよ。
「オウカ、折角だし一緒に中身見よ?」
「いいんか?」
「いいんよー」
100000Gの中身は気にはなっていたし見せてくれるというのであれば見せてもらおう。後はほら……人のガチャってある意味エンターテインメントだし……
勿論のことであるが、ここは冒険ギルドで多数のプレイヤーが滞在しシャドルは結構な声量で話している。それが他の人の耳に届かないわけがなく。この場にいたすべてのプレイヤーの目がこちらに集中した。これが殺到してシャドルを取り囲むだなんて事態に陥ってないのは、自分で言うのもなんだけど私がいるからだろう。丁度こちらに駆け寄ろうとした名も知らぬ輩をさり気に見ると奴は退いてくれた。
そんなことに気付いてないのか、シャドルは気にせずプレゼントボックスを開けるための操作をし――
「レッツオープン!」
その箱が開かれた。私の時とは異なり箱からは虹色の閃光が放たれた。ナニコレ、SSR確定演出?
眩い光にこの場プレイヤー全員の驚きの声が上がる。少し異質なのは、住人である冒険ギルドの職員たちは、光に一切目もくれず仕事に没頭している。……仕事人間とかじゃなくてシステム的なあれなのかな?
おっと、そんなことよりも中身!視線を戻すと既にシャドルが、未だに光を放ち続けている箱に両手を突っ込んでいる。怖いものなしかこいつ。
「おぉ!これはぁ!?」
シャドルの驚嘆に自然と周りのプレイヤーが乗り出すように体を傾ける。
そしてついに、シャドルが箱の中から何かを取り出しそれを天高く掲げる。それは――!
「何なんそれ。卵?」
「卵だねぇ。」
それは卵と呼ぶにふさわしい形をしていた。強いて言うのなら普通の卵より大きい。あれは……そう、ダチョウ並みの大きさだね。それに卵の殻に色とりどりのひし形の模様が描かれている。
凄い武器が入っているか、もしくはあれだけ過剰な演出しておいて薬草一枚でしたーなんてオチかと思っていたけど、明らかに普通じゃないものが出てきたね。
「残念、食用じゃないってさ。」
「お前は何を言うとるんなら!?」
「やー冗談だよー?」
シャドルが言うと冗談に聞こえないから恐ろしいんだけどなぁ……?
周りは周りで思い描いたものと違ったのか、目に見えてがっかりとするプレイヤーと食い入るように卵を注視し、観察するプレイヤーで別れているね。
これをシャドルはどうするんだろう。孵そうとするのか、もしくは売るか……
「うん、保留!インベントリ入れとこ!」
あ、そこまで悩まないのね。一瞬で卵を片付けたシャドルは私の背後に回り込みおんぶさせるかのように私の背中に飛び込んだ。いや、重くないからいいけどビックリするから。
そんな文句を言いそうになったところ、それを耳元で囁かれたシャドルの小さな声に遮られた。
「んじゃ私はドロンするよー。その前にオウカに耳より情報。この街には情報屋さんがいるんだって。会ってみれば面白いこと聞けるんじゃない?場所は知らないけど?」
はい?情報屋?何を言って……あ、本当に消えた。いや、まだログインしてるわ。闘技場行ったなこれ。




