ファッションヤンキー、出張販売を利用する
「そう言えばリヒカルド!俺ぁパーティ戦初めてなんじゃけどどうすりゃいいんなら!」
今の今まで――それこそ、このゲーム始める前もオンラインゲームはソロプレイだったからね。パーティでの戦い方なんてぶっちゃけ分からない。というか、そういう役割を考えて動くってのが苦手で……人を気にせずやりたいようにやりたいタイプなんだよね。でも今はパーティ組んじゃってるし文句も言ってられない。だからこそ、慣れていそうなリヒカルドに聞いたんだよ。
「貴女との殴り合いを見たところ、そのモグラは物理耐性を持っているみたいです。ですが、奴の攻撃を受け止められるのもオウカさん、貴女だけなのでヘイトを稼いでピンキーに目を向けさせないでください。多重の意味で!」
「それなら簡単じゃのお!」
リヒカルドの指示を聞き、私は早速ゴブリン棍棒をグランドドラグンに投げつける。小さいモンスターや人間相手であれば多少はダメージを与えられるゴブリン棍棒だけど、相手は奴らの2倍も3倍も大きいモグラだ。当然ダメージが通るわけではないが……当たったという感覚は分かっているようで、先ほどの一撃でピンキーちゃんに向いていた意識が私の方へと向いた。私はこれ幸いと口角を上げて告げる。
「よぉ、引きこもり野郎。俺を差し置いてよォ、ガキに目をくれるたぁ……タマ付いてんのか?」
「グモモァ!?」
あ、怒った。怒らせてヘイトをこちらに向けるつもりではあったんだけど、思った以上に喰いついたよこのモグラ。もしかしてメスだったとかそういうオチではないよね?もしメスだったのなら……うん、ゴメンね。
しかし、作戦は成功。奴の意識は完全に私を捉えている。もはやピンキーちゃんたちの事は忘れているかもしれない。よし、そのまま攻撃してこい!私はそれを見事受け止めてみせるぞ!
振り上げられた奴の腕。私はそれに対し億すことなく、むしろかかってこいと指をクイクイと動かしさらに挑発する。それが琴線に触れたのか、グランドドラグンは戦闘開始してから一番の雄叫びを上げ――私にその鋭利な爪を振り下ろした。
その瞬間、私の目の前に突然、ウィンドウが浮かび上がった。
「へぁっ!?」
"プレイヤー リヒカルドのスキル、出張緊急販売の対象となりました。2500G支払うことで中級プロテクトポーションの効果を発動できます。支払いますか?"
何これリヒカルドの仕業!?このタイミングでやめてくれないかなぁ、しかも高いし!とりあえずマイナスにはならなさそうだから支払う!
支払うことを選択すると、ウィンドウに"支払い完了。プロテクトポーションの効果を得ます"と表示され、ウィンドウは閉じられた。待ってそんな事にかまけている間にグランドドラグンの爪が……うん?
結果から言うと、ウィンドウが閉じた時、既に爪は私の体に直撃していた。でも全く衝撃を感じられなかった。さも、そっと私のお腹あたりに爪が置かれたのだと錯覚するくらい、痛くも痒くもなかった。
「リヒカルドぉ!これお前よなぁ!?」
「はいー!あ、料金の方は後で報酬に上乗せという形でお返しするんで、ジャンジャン使ってください!ほら、ピンキー。オウカさんが喰いとめている間に!」
「うん!オウカお姉ちゃんお願いね?"アクアスプラッシュ"!」
背後に立つリヒカルドから回答が返り、私の頭上を水弾がビュンビュンと飛びモグラに命中している。水弾を喰らい、よろめくモグラ。そして私の眼前に現れるメッセージ。今度はプロテクトポーションなるものではなくて、初級ポーションと書かれている。値段は800Gか……さっきよりかは安いけど、お財布的に厳しい物ではある。でもまぁ後で返してくれるって言うし、使ってやる!
おぉ、初心者用ポーション3つで全快する私の体力が8割がたまで回復した!心者用という文字が級に変わっただけでここまで違うとは。
こんなことだったら馬車の中でくれるの初心者用ポーションじゃなくて初級ポーションで良かったのでは?節約?
と、そんなことよりもグランドドラグンだよ!さっきから苛立たし気に攻撃してるけどすまんな!痛くも痒くもない。初級プロテクトポーション使ったことないから比較のしようがないけど、これが中級の力とでもいうのか!?
「どうしたんなら、ほら俺には全然効いてないんじゃけどのぉ?」
さっきまでの防御力だったら数発食らえばアウトだったが、今の私は超硬い存在。モグラ如きの爪ではビクともしないわ!
――なんて思っていた時期が私にもありました。余裕綽々で攻撃を受け続けていたんだけど、何かダメージ喰らい始めてない?
勿論、やられっぱなしじゃなく、こっちも木刀で殴るメリケンパンチするで攻撃するんだけど攻撃力あがってるわけでも無いから、ダメージの通りは悪い。そしてノーガード戦法故に攻撃も喰らう。けど、気づけば体力が減り始めていた。
「ううん!?ちょ、リヒカルドこれ制限時間あるんか!?」
「あるにきまってます!そしてその中級プロテクトポーション、1つしかないですから!」
マジか、そんな貴重なものをどうもありがとう……って言ってる状況じゃない。このまま体力が減れば私死ぬ。事前に受け取った初心者用ポーションも使わなければ!
そろそろ、そろそろ倒れてくれませんかね!?水弾も滅茶苦茶当たってるでしょ!?
なんと言っても……そろそろお昼なんだよ!ボス戦みたいな感じだから抜けられないし、はよ死ね!
そんな私の切なる願いが届いたのか、モグラは私から視線を外し天を仰いだ。
これは……ついに……倒したか!?やったか!?
「グモ、グモモモ!モググググゥ!」
「へ?」
「はい?」
「え?」
「何?」
急にモグラが鳴き声変えたかと思えば、その爪を地面に突き立て……掘り始めた!




